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化け猫は笑う ~チェシャ~
2013/08/21(水)01:04:16(11年前) 更新
とある街の一角にある小さな事務所"FMO"。そこは謂わば僕の居城だ。
マジシャンでもあり、また殺し屋でもある僕は安易に大手事務所に入ることも出来ない。
だから、こうやって狭苦しい事務所に少数のスタッフのみを雇って日々仕事をこなしている。
テレビや雑誌の仕事の管理、イベントの設営、そしてアウトローな依頼・・・これだけの仕事を僕一人でこなすのは不可能だからね。
さて、今日の僕の仕事は面接だ。
自分で言うと自慢にしかならないだろうけど、今の僕は結構大物だ。
だから意外と求人を出すと応募が殺到する。
その中から今最も欲しいであろう人材を探し出す。これも僕の仕事の一つ。僕はいつから人事部に異動になったのやら。
しかし幾枚もの履歴書にはどれもこれも似たようなことしか書いてなかった。読むことすら嫌になるぐらいつまらない。
でもそんな紙屑の山の中にたった一枚、僕の目に止まった履歴書があった。
別に超有名大学の名前が書いていたとかそういうわけではない。その履歴書に書いてある文字が読めなかったんだ。
その文字は恐らく日本語であることまでは分かったんだけど、生憎僕は日本語を専攻していなかった。
それにいまどき珍しい手書きの履歴書。字は確かに綺麗だと思うが、パソコンで打ったほうが絶対楽だろう。
そして、一番惹かれたのは顔写真だ。黒髪ショートの女性で、最大の特徴は目が死んでいること。
今まで、僕は嫌というほどこの目を見てきた。命がとても軽い・・・僕等と同じ雰囲気を醸し出している。
僕はこの履歴書を見た瞬間こう思った。まるで最初から受かる気がないような履歴書を送る馬鹿を実際に見てみたいとね。
「・・・さて、それじゃあ早速面接を始めよう」
今、僕の前には履歴書の写真と同じ顔の女性が椅子に座っている。やはり目が死んでいて、物凄く不満そうな表情を浮かべている。
「はい、よろしくお願いします」
何だ、英語ペラペラじゃないか。なら尚更履歴書が日本語な訳が分からない。
「まず、志望動機を答えてもらおうか」
「テレビでフロッドさんのマジックを見て、心が惹かれたからです」
お世辞か。もっと面白い答えを期待してたんだけど、まあいいや。
「それはどうも。じゃあ次に、自己アピールをしてもらおうか」
「サバイバルには自信が。それに手先が器用で、魚を捌くのとか得意です」
それを聴いた瞬間僕は少しニヤリとしてしまった。手先が器用という点は確かにマジックの腕に関係するかもしれない。
でも、この事務所じゃあ山篭りをする仕事は生憎取り扱ってない。なのに何故サバイバルなのだろうか。
僕は此処で一つの仮定を作った。まさか彼女は僕の裏の顔を知ってるんじゃないかと。
つまり、アウトローな職ならサバイバル知識が役立つかもしれない。こいつ、どこかのエージェントか。
「なるほど・・・次の質問だ。君は僕のことをどう思っている?正直に答えて欲しい」
本当に正直に答えることなんてまずないだろう。でも彼女なら答えそうだ。
僕の監視、殺害、保護。そんな対象として僕を見ている可能性だってあるかもしれない。
「・・・」
どうやら言葉に詰まっているようだ。さっきみたいなお世辞を言えない理由・・・やはり黒か。
面白い。彼女が僕と接触した理由、なんとしてでも明かしてやろう。
まぁ、どうせ誰かが送り込んだヒットマンなんだろうけど、それにしては仕事が雑だ。
「答えられない、か。まぁいいよ。これで決まりだ。明日から君は僕の元で働いてもらう」
「本当ですか、ありがとうございます」
彼女はそう言うと、死んだ目のまま口角をグイッとあげて微笑んだ。
不気味だ、不気味すぎる。幾らなんでも邪悪な成分が漏れ過ぎだ。
「住居はこちらで用意するが、生憎制服がすぐには準備できなくてね。自分で揃えて欲しいんだ」
「分かりました」
「それと後は・・・そうだ、君のこれからの名前について少し」
「名前?」
「いやぁ、日本名はどうしても呼びにくくてね。どうせならこの事務所で働く際のニックネームを決めておきたいと思うんだ。何か希望とかあるかい?」
実際、僕は未だに彼女の名前が呼べずにいて困っていた。
「いえ、特には。どうぞご自由に御呼びを」
名前が分からないのにニックネームか。難しい。どうせだから少しからかってやろう。
「うーん、そうだねぇ・・・チェシャ、何てどうだい?」
チェシャ。御伽話に出てくる常にニヤニヤとした気持ち悪い猫の名前だ。
彼女は別に常に笑ってないけど、さっきの笑みはチェシャ猫のようだった。
もし彼女がこの名の由来を知っているならどんな反応をするか見物だし、知らなければもっと面白い。
「チェシャ・・・由来は?」
よしきた、一体どんな嘘を吹き込んでやろうか。
「チェシャっていうのは、ある童話に出てくる笑顔のとても可愛い猫の名前さ。君のさっきの微笑み、とても可愛かったからね」
「それはどうも」
チェシャはそう言ってまた不気味に微笑んだ。そのまま食われそうなぐらい怖い。
「じゃあ、明日の朝またこの事務所に来てくれ。チェシャ」
明日から、彼女にどんな仕事を教えようか。久しぶりに僕は楽しくなった。
昼下がり、私は心底ルンルン気分で道を歩いていった。すれ違う人たちは皆私をチラ見してくるが、それだけ私から幸せオーラが溢れ出ていたのだろう。
フロッドさんのマジックに惹かれて衝動的に履歴書を書いたのに、まさか本当に受かっちゃうとは。正直微妙な学歴しか書いてなかったから落とされるものだと思っていた。
実物のフロッドさんはテレビで見たときよりもずっとギラギラしていた。割とタイプ。でもマジックを目の前で見れなかったのはすっごい残念。
後、フロッドさんのことをどう思っているかなんて質問されちゃあ取っても困っちゃうし。ほんとのこと言ったら、まるで愛の告白みたいになりそうだし。
にしても、これからの私はチェシャ、かぁ。もっと笑顔を作れるように練習しないと。
さて、私は早速服を買いに行こうと思い、財布を取り出した。
中身はパット見二万円。こんだけあれば十分だろう。
ふと、喉が渇いた私は近くの自販機でジュースを買うことにした。
何故かコーラしか入っていない自販機。値段は・・・$1.50と書かれている。
これは恐らく百五十円という意味だろう。私は百円玉と五十円玉を自販機に投入した。
しかしボタンを押そうとコーラは出てこない。故障中なのだろうか。ならそう書いておいて欲しいものだ。
少しテンションの下がった私は、結局ジュースをあきらめて服屋に向かった。
服屋に着き、早速私は店内で服を見始める。すると直に店員がやって来た。
「お客さん、今日はどんな洋服を探してるんですか?」
「FMOに合う服を」
「FMO・・・何すかそれ?」
FMOを知らないなんて何と失礼な。あのフロッドさんの会社だっていうのに。
「事務所、みたいな」
「なるほど・・・それってOLってことっすよね?」
「恐らく」
「だったら・・・悪いんすけど、もっと別の服屋に行ったほうがいいと思いますよ。ここ、カジュアル系の服がメインですし」
何と、服屋の癖に目当ての服を置いてないときた。客をなめてるとしか思えない。
でも、置いてないものを欲しいといっても手に入れることは出来ない。仕方なく私は別の店に行くことにした。
「分かりました」
「いや、すみませんねぇ」
店を出る前にふと横を見ると、其処には信じられないものが置かれていたのだ。
「・・・これは?」
「え、そ、それっすか?いや、カチューシャっすけど、なんというかちょっと媚び過ぎな感じで中々売れてないんすよねぇ」
それはまさに運命の出会いパート2だった。ちなみにパート1はテレビでフロッドさんを見た時。
今の私に最も似合うであろう一品。今買わずして何時買うのか。
「これ一つ」
「ウ、ウェ!?あ、はいありがとうございます・・・えっと、セール品なんで8ドルっすね」
ドル・・・そんな単位あっただろうか。それにたったの8とは幾らセール品とは言え安すぎる気もするが。
「とりあえずこれで」
私はそう言って、財布から一万円札を取り出した。
「あ、お客さん、それは・・・」
「もしかして、小さい札がありませんでしたか」
「いや、それ日本紙幣っすよ・・・ここ、アメリカなんで両替を・・・」
何と、ここはアメリカだったのだ。通りで英語しか通じないはずだ。
次の日、僕が事務所に来ると、既にチェシャの姿はあった。他の社員はまだ来ておらず、チェシャはオフィスでぽつんと立っていた。
チェシャはまだ着替えはしておらず、昨日と同じ服を着ていた。昨日と違う点は、大きな袋を持っていた点くらいだ。
「おはよう、チェシャ。ロッカールームなら廊下に出て突き当たりの部屋だ。君の名前が書かれている場所を使うといい」
「はい、分かりました」
チェシャはそう言って、そそくさと廊下のほうへ歩いていった。
僕が自分の机に座ると、まるでそれを待っていたかのように電話が鳴り響いた。
「もしもし、フロッドだけど」
「ようフロッド、例の件についてだ」
「ああ、これはこれは情報屋の」
僕は情報屋に、チェシャについてのありとあらゆる情報を調べるように依頼しておいた。
将来僕を殺そうとするかもしれない相手だ。情報を知っておいて損はない。
「それで悪いんだが、まだ少ししか調べ切れてないんだ。それだけでいいなら教えるが」
「ああ、いいよ。値段は?」
「この程度で金を取るようじゃあ情報屋失格だ。タダでいい」
「それは助かる」
「彼女・・・チェシャとか言ったな。彼女の経歴を見る限りでは生粋の日本人だ。学校も普通に卒業している」
「へぇ」
「で、最終職歴は陸上自衛隊2士。つまり軍隊の下っ端だ」
「自衛隊か・・・その自衛隊ってのは、人殺しを良くするのかい?」
「そりゃあ、自衛隊とは言え軍隊だから、やる時はやるだろう。でも少なくとも彼女の勤めていた期間に自衛隊がどこか戦地に派遣されたという情報は存在してない」
「つまり、彼女が自衛隊で人殺しはしたことないと」
「恐らく。前科も付いてないし、言っちゃ悪いが金払って調べる価値のある女じゃねぇ」
あの目をもってながらにして殺しはおろか、犯罪すらしたことがない・・・それはありえない。経験上あの目は確実に"プロ"の目だ。
「いや、とにかく徹底的に調べ上げてくれ」
「あいあい。にしても、あんたみたいなのが人間の情報に興味を持つなんて、びっくりだよ」
「悪かったね。じゃあ今度はまた秘境に存在する魔術のことでも調べてもらおうかな」
「それだけは勘弁してくれよー。んじゃ、切るぜ」
電話はそこで切れ、それと同時にチェシャが事務所に現われた。
「フロッドさん、このような格好でよろしいでしょうか」
チェシャの姿を見た瞬間、僕は愕然とした。
服装はまだいい。普通のOLっぽい。首元に付いた蝶ネクタイもまぁギリギリ許せる。
でも、頭のカチューシャだけはどう考えてもおかしい。
これは、昨日からかい過ぎた僕に対する復讐か?それにしては体を張りすぎだろう。
「チェシャ・・・悪いけど、そのネコミミは一体・・・?」
「これですか。チェシャという名前を付けて下さった以上、やはり見た目も猫らしいほうがいいかと思いまして」
ホンモノだ。モノホンの馬鹿だ。面白すぎる。
思いっきり笑ってやりたかったが、あまりにチェシャが真面目な顔で答えるので、僕はぐっと笑いをこらえた。
「ま、まぁあまり規則で縛るのは僕も好きじゃない。自由にしてくれ」
「ありがとうございます」
「それで、これから社員が集まるだろうから、皆の前で挨拶を・・・」
そこまで続けた時、再び電話が鳴った。
僕は少しイラっとした後、受話器を手に取った。
「もしもし、フロッドだが」
「あらフロッド、おはよう。素敵なお姉さんのモーニングコールよ」
この声は、あの痴女か。一体何度事務所の電話にかけるなと言えば分かるんだ。
「ジェロシア、この電話にはかけるなってあれほど・・・」
「そんなこと言われても、あんた携帯出ないじゃない」
「・・・そうかい、それは悪かった。で、用件は?」
「いい仕事の紹介。凄く楽で金もそこそこ、どう?」
やはりだ。彼女が電話を掛けてくるのは大抵面倒な仕事を押し付けてくる時だ。
いつもなら即座に断るが・・・今回は違った、チェシャがいるじゃないか。
「いいだろう。ただ、もう一人連れて行く。それでもいいかい?」
「ボディーガード?珍しい」
「いや、少し違うかな。あ、そうだ。適当な"店"も後で紹介してくれ」
「了解。じゃ、私の家で」
「また後で」
僕は受話器を置くと、チェシャのほうを向いた。
「チェシャ、急用が出来た。僕と一緒に来てくれ」
「外用ですか」
「まぁね」
チェシャ、果たしてどれだけ仕事の出来る女だろうか・・・
予想外だった。まさかあのフロッドが私からの仕事を引き受けるなんて。
いつも通り茶化すだけの予定だった私は客人を迎える準備など全くしていなかった。
とりあえず上着を着よう。ベッドから起き上がった私は適当にチェックのシャツを羽織り、すそを簡単に結んだ。
眼帯は正直つけるのが面倒、サングラスでいいだろう。いかなる時も、右目は人に見せたくない。
後はジーンズを履いて、オフの私は完成。早速姿見で衣装チェックだ。
イケてる。ラフな格好でいて、わき腹のタトゥーも見せれる。何と合理的。
部屋の掃除は別にいいだろう。後はフロッドたちを待つだけだ。
私はベッドに腰掛け、セッタのソフトからタバコを一本取り出し口に銜え、ジッポで火をつけた。
タバコはいい、心が落ち着く。酒が興奮剤ならタバコは鎮静剤。同じオトナの愉しみでも、この二つは大きく違う。
しばらくの間ゆっくりと堪能していると、玄関の扉のノック音が聞こえてきた。
私はタバコの火を消し、玄関まで歩いていき、扉を開けた。
そこにはフロッドと・・・例の人物がいた。
「ゲホッ、タバコの匂いが酷いね全く。あんな煙のどこがいいんだ」
会って早々文句とは相変わらず。何か言葉を返してやりたかったけれど、今の私は隣のアジア系の女の子に興味津々。
黒髪のショートに黒のネコミミとは、これが萌え文化というものだろうか。
顔もイイ。全てを諦めているかの如きどんよりとした黒い目。口はしっかり閉ざされ、感情が一切読め取れない。
これぞ私にとって理想の"殺し屋"像。見た目のインパクトと顔から溢れ出すプロの雰囲気。フロッドも逸材を見つけ出したものだ。
「フロッド、その子の名前は?」
「彼女はチェシャだ。昨日入社したばっかりでね」
チェシャ、これはまたネーミングセンスも完璧。あの顔から放たれる笑顔はさぞかしインパクトがありそうだ。
「チェシャ、どうぞよろしく」
「よろしくお願いします、ジェロシアさん」
フロッドから教えてもらっていたのかしら。あの男、変な嘘をこの子に吹き込んでなければいいけど。
「さ、入って」
私はそう言って奥の部屋へと向かった。二人も私の後に続く。
「飲み物とかいる?」
「どうせ酒しかないんだろう?僕は遠慮しておく」
「では、私は緑茶を」
「あらごめんなさい、チェシャ。生憎グリーンティーは嫌いなのよ」
「そうですか」
アメリカの家で緑茶をセレクトするとは、ギャグのつもりなのだろうか。それにしてはトーンがマジメだけれど。
とりあえず私は近くにあった紙切れを拾い、フロッドに渡した。
「それじゃあ早速仕事の話。まず今回のターゲットはギャング一グループ。名称とホームはその資料の通り」
「ジェロシア、それより先に確認しておきたいんだけど、依頼主は誰だい?」
「イニシャル名P、過去に仕事を引き受けたことがあるから信頼は出来るわ」
「なるほど、じゃあ次は報酬金だ」
「金はトータル五十万ドル。分け方はあんたが私と組むかどうかで変わってくるでしょうね」
「うーん、今回は僕とチェシャだけで引き受けたい」
予想はしていたが、やはり今回は仕事を紹介して終わりになりそうだ。
まぁ、たまにはそんな日があってもいいだろう。
「そう。なら紹介料として二割引かせてもらって四十万でいいかしら」
「ああ、それでいい」
「交渉成立。で、あんたのことだから今回もマジックショーを仕掛けるんでしょ?相手の連絡先とか調べてあげてもいいわよ」
「いや、あくまで今回はチェシャの身体テストだ。直接ホームに乗り込む」
「え、ホントに?まぁいいわ。今日は会合で夜八時からホームに全メンバーが集結するらしい。やるならそこよ」
「情報どうも。じゃあ早速準備に取り掛かりたい。例の店の紹介を」
「このアパートの一階、階段を降りて廊下の突き当たり。私の名前を出せばいいわ」
「ありがとう。よしチェシャ、行こうか」
フロッドはそう言って、そそくさと部屋を後にした。
チェシャも彼を追って歩こうとしたが、私は彼女の腕を掴んだ。
突然の行動にも関わらず、チェシャは顔色一つ変えずに私の顔をじっと見た。
「あんた、今度暇なときに私と一緒に遊ばない?あんたがどんな子かとっても気になるの」
「いいですよ。休みの日にでもまた来ます」
あら、あっさりナンパ成功。意外と尻軽女だったみたいね。
「楽しみにして待ってるわ。またね」
私はチェシャの腕から手を離すと、彼女に向かって微笑みかけた。
すると彼女もそれにつられて、チェシャ猫のように笑った。
夜、私とフロッドさんはとあるクラブハウスの近くに停めた車の中にいた。
ジェロシアさんの言ってた遊びとはなんだろうか。スポーツなら自信あるけど、ボードゲームみたいに頭の使う遊びは勘弁して欲しいところ。
それにしても、まさかフロッドさんのおごりで色んな物を買ってもらえるとは。
ショットガン、大型ナイフ、そしてハンドガン。とりあえず手に馴染みそうな物を選んではみたものの、これでマジックでもするのだろうか。
見せる相手は多分ギャングだろう。マジックなんてやったことないのに、道具の力だけでなんとかなるんだろうか。
「チェシャ、そろそろ時間だ。最後の確認といこう」
「はい、分かりました」
「とは言っても、目に入った相手全員を仕留めるだけだけどね。やり方はチェシャに任せる」
仕留める・・・あれ、これってもしかしてマジックじゃない・・・?
いや、マジシャン用語の一種なんだろう。そうだと信じよう。
「私、今回が初仕事なので少々不手際があるかもしれません。その際はサポートを頼んでいいでしょうか」
「ああ、もちろん。というか常に君の近くにいるから安心してくれ」
「ありがとうございます」
「さぁ、そろそろ時間だ」
フロッドさんがそういったとき、クラブハウスに続々とバイクに乗った男達が集まってきた。
「名前を見てもパッとしなかったけど、あいつらか。アレなら数が多いだけだから楽そうだ」
流石フロッドさん。多人数に対するマジックもお手の物ということだろう。
ギャングの男達が全員クラブハウス内に入った後、フロッドさんと私は車から降りてトランクから道具を取り出した。
私はハンドガン入りのホルスターをスカートの中、左足の太ももに取り付け、腰に大型ナイフをぶら下げ、ショットガンを片手で担いだ。
懐かしい、自衛隊の訓練を思い出す。でもこれはマジックの道具。実銃ではない。
一方でフロッドさんはハンドガン一丁をスーツの内側に仕込んだだけ。他の道具は既にセッティング済みなのだろう。
私とフロッドさんはゆっくりとクラブハウス入り口に近づき、扉を開けた。
店内の右側には小さなカウンターがあり、そこで数人の男達が酒を飲んでいた。
「ああ、いらっしゃ・・・おい、武器降ろせ!何しにきやがった!?」
バーテンダーの男がそう言うと、他の男達は一斉に銃を構えた。
「血の気が盛んだねぇ。チェシャ、始めようか・・・チェシャ?」
此処まで来てやっと理解できた。今日の仕事はマジックではないのだと。
じゃあ、何?今もっているのはマジック用ではなく、本物の武器ということなのだろうか。
つまり・・・ギャングを殺せ、ということ?
ああ成程、マジシャンの仕事にはこんなことまであったのか。
皆に夢を見せるマジシャンは、社会の不届き者であり夢をぶち壊す悪を蹴散らす、そんな正義の味方のような職でもあったのだ。
そうと決まればお仕事開始だ。今日の私はスーパーヒーロー。
「はい、フロッドさん。精一杯やらせてもらいます」
そう言って私はショットガンを片手で構え、バーテンダーに向かって引き金を引いた。
いよいよ銃撃戦が始まった。
僕は素早くハンドガンを構えたが、それよりも遥かに速いスピードでチェシャはショットガンで男達を撃っていく。
幾ら散弾仕様とはいえ、その狙いは非常に正確で、引き金を引くたびに男達が倒れていく。
僕もハンドガンを構えて応戦しようとするが、その前にターゲットが死んでいく。
このフロアの敵が全滅したあと、チェシャはショットガンのリロードを行った。
「フロッドさん、私ノってきました」
チェシャはそう言うと、こちらのほうを見た。
その口元は確かに緩んでいた。もはやチェシャ猫なんて生ぬるい。こいつはやはり猛獣なのだ。
「チェシャ、本番はこっからだよ。下の階にこの倍はいる」
「ええ、分かっています。フロッドさんは私の後ろにいてください」
一瞬で僕が守られる側になるとは。まぁ、彼女の後ろにいれば何もせずに済みそうだしいいか。
チェシャは腰からナイフを抜き、左手に持った。
そのナイフも、対人用のコンバットナイフとかではない。刃渡り30cm越えの超大型ナイフだ。
サバイバルではこのようなものを使うのかもしれないが・・・
その時、銃声を聞きつけたのか下の階段から銃を持った男達が再び現われた。
それを確認した瞬間チェシャは一気に相手に向かって走っていくと、相手に攻撃の隙を与えず一瞬でナイフを振りかざし、首を切り落としていった。
そしてそのままチェシャは階段を駆け下りていき、下のクラブへと雪崩れ込んでいった。
こいつは今まで見てきたどの殺し屋より惨い戦い方だ。まだジェロシアのやり方のほうが綺麗だといえる。
僕は死体を避けつつ下のクラブへと向かった。
「・・・予想以上にやってくれるねぇ」
チェシャはクラブの真ん中で男達に囲まれていた。が、それらは全て死体であり、生きている男達は物陰に隠れて銃口のみを出している状態だった。
そして一人の男が銃を撃った瞬間、チェシャはその方向目掛けてとんでもない高さまでジャンプしながら接近し、落下しながらショットガンを撃った。
銃の反動を利用して空中で一回転しつつ、続けてチェシャは別の場所にいる男目掛けてナイフを投げつけた。
更にチェシャは近くの柱を蹴り、地面に足が付くことなく空中でショットガンを撃ち続けた。
まるでワイアーアクションの如き身のこなし。僕はチェシャの暴れる姿をただ眺めることしか出来なかった。
銃声が止まり、チェシャも地面に着地した後、何処からか男のすすり泣く音が聞こえてきた。
チェシャがその音の鳴るほうへゆっくりと近づくと、物陰から涙目の男が飛び出してきた。
「お、お前達は一体何なんだよ!?俺達が何かしたってのか!?」
どうやらアレがこのギャング共のリーダーのようだ。
武装は既に解いており無力も同然。果たしてチェシャはこいつをどう仕留める?
僕が黙ったまま傍観していると、チェシャは男にグイグイと近づき、男のミゾオチを左拳で思いっきり殴った。
男はその場に胸を押さえて倒れこみ、チェシャは男の頭にショットガンを突きつけた。
「お休み、いい夢を」
チェシャはそう呟き、引き金を引いた。
決め言葉を用意しているなんて、やはり彼女は殺し屋に違いない。あんな臭い言葉、普通の神経を持った人間なら言える訳がない。
事が終わり、ナイフを回収したチェシャは僕の元に歩み寄ってきた。
「フロッドさん、終わりました」
「ご苦労、良くやったよ」
「ありがとうございます」
「さて、警察が来る前にとっとと逃げよう」
僕はこれからこの野獣をどうしていこうか。
自分の命が危うくなる前にとっとと仕留めるか、それともしばらく泳がせて尻尾を見せた瞬間抹殺するか。
でも僕はそれ以上に、単純に彼女を観察していたいとも思った。
彼女の行動は見ているだけで面白い。
僕はどうも、何を考えているか分からない少し馬鹿な女性がタイプみたいだ。
深夜、私は自分のアパートのベッドで横になっていた。
初めての仕事が、まさか悪の組織との戦いだとは思いもしなかった。
でも、初体験にしては自分でもそこそこ上手くいったんじゃないかと思う。
最後の決め言葉も、即席だったけど正義のヒーローらしくてお気に入りだし。
もしかして、私って結構マジシャン向いてるのかも。
・・・そういえば、何で私ショットガンやナイフをあんなに上手く使えたんだろう。
自衛隊であんな武器使ったことないのに。
ま、天性の才能というものだろう。そんなことより、明日からも仕事頑張ろうっと。
18191