運命は、敵か味方か　～メシック・ルミナリー～

2016/08/31（水）21：47：17（8年前） 更新

運命は、敵か味方か…だなんて、誰にも分からないよね。

もちろんルミにだって、それまでは分からなかったよ？

でも…あの日、あの男に出会って……運命はルミに味方してくれたって、分かったんだ！







「ただいまー」
「あ、おとうさんおかえりなさーい！」
「おぉルミ、お利口にしてたかい？」
「してたよ！みてみて、きょうおえかきしたの！」
「おぉどれどれ、父さんに見せてごらん」
「これ！おとうさんとおかあさんとルミのさんにんのえー！」
「ハッハッハ、よく描けてるじゃないか。母さんそっくりだなぁ」
「フフッ。さあ、お夕飯できたわ。今日は2人の好きなハンバーグよ」
「おぉっ、やったなルミ！母さんのハンバーグだぞ！」
「やったー！いっぱいたべるー！」
「デザートにはアップルパイも用意してあるから、後で食べようね」
「うんっ！おかあさん、ありがとう！」
「あ、そうだ。明日はルミのお誕生日だったなぁ、すっかり忘れてたよ」
「えー！おとうさんルミのおたんじょうびわすれてたのー？おとうさんきらーい！」
「ごめんごめん、許して。ルミの好きなもの、何でも買ってあげるからさ！」
「んー、それならいいよ！」
「もう、この子ったら！」
「アッハッハッハ、この子には頭が上がらないよ」
「おとうさんもおかあさんも、だーいすき！」






ルミはね、このお父さんとお母さんの子どもに生まれて、とっても幸せだったの。

お父さんは一緒に遊んでくれて、オモチャや洋服をいっぱい買ってくれたんだー。

お母さんはとっても優しくて、おいしいご飯をいっぱい作ってくれたんだー。

3人暮らしだったけど、お父さんがいっぱいお金を稼いでくれてたし、お母さんもルミに愛情をたくさん注いでくれたし、

辛いことなんて、なんにもなかったの。









――――あの日までは。






「ただいま」
「おかえり！」
「お帰りなさい」
「ちょっと、2人に話すことがあるんだ」
「なになに？」
「実はな、父さん……会社、辞めることになっちゃったんだ」
「…え？」
「……」

ルミもお母さんも、このときは流石にビックリしちゃって、言葉も出なかったよ。
でもお母さんは見抜いてたみたい。



「……『株』でしょ？」
「ッ！？」

そのときはよく分からなかったけど、今になって思い返してみればそういうことだったのかって思った。
お父さん、『株』をやってたんだ。いわゆる「株の大暴落」ってやつだね。

「…で、でも安心してくれ？父さんの仲間の知り合いが、しばらくお金を貸してくれることになってね…」
「そうなの？それならあんしんだね！」
「…そう。それならいいけど」
「あ、あぁ。2人は何も、心配しなくていいんだよ？父さんに任せてくれ…」


お父さんはああ言ってたけど、ルミもお母さんも、実は心配だったんだ。
それに…この頃からだったかな。

お父さんとお母さんの仲が悪くなっちゃったの…。



運命は、ルミたち家族に牙をむき始めたんだ。




「どうしてあなたは本当のことをちゃんと話してくれないの！？」
「話してるじゃないか！君が僕の言う事を信じないだけだろう！」

それからお父さんとお母さんは、毎日ケンカするようになっちゃった。

「おかあさんもうやめて…おとうさんも…おこらないであげてよ…」

もちろんルミも必死に止めようとしたよ。泣いちゃったけど。

「……ああごめんなさいルミ…。ご飯の支度しなくちゃね…」
「……くっそ…」

暴力を振るったりはしなかったけど、もう誰が見てもとても気まずい雰囲気に見えるよね…。



でも、問題はそれだけじゃなかったんだ。



ドンドンドン！！

「ひっ…」
「ッ…！」

「お宅のダンナさん金借りたまま返してくれねェんだけどォ？」
「いい加減金返せっつってんだろゴルァ！！」
「借りたものは返せって学校で習わなかったのかぁ？あぁん！？」


家に借金取りが押し掛けてくるようになったんだ。
本当に叫びたいぐらい泣きたかった。怖かった。

借金取りが来ない時間にしか外に出られなくなっちゃった。


そうしてルミたち家族は、逃げるように転々と住む場所を変えていったの。
だけど、あいつらはどこまでも追ってくる。





そしてついに…運命は、ルミたちを奈落の底に突き落とした。




「ヘッヘヘ…やっと見つけたぜ…」
「おカシラ！ここにいましたぜ！ドーンとやっちゃってくだせぇ！！」
「最初からそのつもりだ」


借金取りのボスが家に入ってきたんだ…。


「す、すみません！！どうか私どもをお許しください！！！」
「この子だけは…！この子だけはどうか見逃してやってください！！」


お父さんとお母さんは土下座をして泣きながら何度も何度も謝ってた。
ルミももう、耐えられなくて泣き喚いてた。
今でも鮮明に覚えてる。



「人様の金をパクっといてそりゃないぜ？ダンナァ」
「こちとら商売やってんだぞゴルァ！！」
「まぁ落ち着け野郎ども」

ボスが近くにやってきてこう言ったの。


「俺もコイツらも人間だ、軽々と命を奪うような真似はしたくねぇ」
「…？」

「だが、お前らが金を払わねぇつもりなら、お前らをうちでボロ雑巾みてぇにコキ使ってやる。もちろんそこのガキもな」
「えっ…！！」
「家族3人で一緒にいられるじゃねぇか。それに、断ったら…どうなるか分かってるよな？」



手下たちがナイフや鈍器をこれ見よがしに手に持ったのが見えた。









誰が悪いの？




借金取り？




お父さん？




お母さん？




それとも…この世界？





運命って、残酷だな。


もう何も分からないよ……。



いや、分かったことがひとつだけあった。





ルミの人生が、ここで終わるってこと。





気が付いたら、お父さんとお母さんは、アイツらにやられてて。

子どもだったルミにも、もう助からないってことぐらいすぐに分かった。


分かりたく、なんか、なかった、けど……。



「このガキはどうします？」
「そうだな…殺すのは勿体ない。俺たちでたっぷり可愛がってやろうか」
「ヘッヘヘ、流石おカシラ！使い終わったら即ポイですよ！」



アイツらが何か言ってるような気がしたけど、もう聞こえなかった。




お父さん、お母さん。最後に言わせて。





ルミは、幸せだったよ……。










でも、運命はそこで救いの手を差し伸べてくれた。


本当に。ルミに似て気まぐれ屋さんなんだ。






ガシャーン！！



「おぉっと、邪魔するぜェ…！」


「なっ、誰だおま…ぐわあああぁぁぁっ！！？」

「おい、どうした！うあああっ！！！」



急にアイツらとは違う声が聞こえた。かろうじて聞き取れた。
と思ったら、アイツらが血を噴き出して倒れたのが見えた。



「誰だ貴様は。名を名乗れ」

「生憎、それはできねェ相談だなァ。上からの指示でよォ」

「俺の子分どもを殺したのは、貴様か」

「見りゃ分かんだろ。そして、だ」




別の男は鋭い何かを借金取りのボスの体に突き刺した。


「てめぇを殺せ、って指示なんだよ。わりィな」




そう言って鋭い何かを無理矢理引き抜いた。借金取りのボスは血を吐いて倒れた。



「よォし、これで完了だな……ん？」

ルミはそのやり取りをずっと見てたんだ。いつの間にか涙が止まっちゃってた。
そしたら、その男と目が合ったの。


これが、ルミとあの男の出会いだったんだ。




「このガキは誰だ…？上からは何も言われてなかったしな……流石の俺様も、何の関係もねェガキを殺めるのは気が引けるな…」

そう呟いて、あの男はルミに近づいてきた。

「コイツらは全員蹴散らしたし、ここにはお前1人か……家族はいねェのか？」

ルミは、首を縦に振って、横で倒れてるお父さんとお母さんを指差したの。

「…！そうか、コイツらにか…」


何故かよく分からなかったけど、あの男に対しては恐怖心を抱かなかったの。
なんでだか、今でもよく分からないや…。


「んー…決めた！お前、俺様と一緒に来い」
「…だれ？」
「そんなことどうでもいいさ。さ、行くぞ」

あの男は、ルミを無理矢理背中に負ぶったんだ。
少し血生臭かったけど、少し温かかった。






「ガーリックトースト１つくれ」


どこかの店に入ったのかな。おいしい香りがする。

「おい、お前もなんか食え。腹ごしらえは大切だ」
「はらごしらえってなに…？」
「あー…まぁ何だ、飯を食おうぜってことだ。食いたいものあるか？」
「……パイ」
「んぁ？」
「…アップルパイがほしい」
「そうか。…じゃあそれも1つくれ。金は置いとくぞ」




「どうだ、うまいか？」
「…うん」
「そいつは良かった。ちゃんと残さず食えよ」


お母さんの作るアップルパイとは、味が違ってちょっと慣れなかった。

そこで、ルミはあることに気付いたの。




お母さんの作るアップルパイは、もう二度と食べられないんだってこと。




それに気付いたら、もう既に大声を上げて泣いちゃってた。
迷惑、かけちゃったかな。



「ど、どうした！いきなりそんなに泣いて！！」

周りの客が一斉にルミたちのほうを見る。

「…あ、わ、わりィな、すぐ出てくぜ！ほら、行くぞ！！手に持って食え！！」


あの男は急いで残ってたガーリックトーストを無理矢理口に突っ込んで頬張ると、今度は両手でルミを抱きかかえた。
そして足早に店を出ていった。
頬張ってるときの顔、ちょっと面白かったな。




「次はここだな。入るか」

あの男はガーリックトーストを食べ終えていた。ルミも、泣きながらなんとかアップルパイを食べ終えた。
そしてあの男はルミを地面に降ろすと、手を繋いで別の店に入った。


「正直、俺様はガキの服なんてわからねェからな……。お前、こっから好きなもん選べ。俺様が全部買ってやる」

洋服屋さんみたいだった。お誕生日にお父さんに買ってもらった服を着てたんだけど、さっきのこともあってかボロボロになっちゃってた。

そこで、また気付いちゃったの。



ルミの好きな服を買ってくれるお父さんは、もういないんだってこと。




また、泣いちゃった。



「あぁ～！ったく世話のかかるガキだぜェ！俺様をここまで困らせるとはなァ…！早く選べ！」

ルミは泣きじゃくりながら気に入った服を3つ指差したの。

「これでいいな！？じゃあ後は俺様の背中で思う存分泣け！！」


あの男はルミを負ぶったまま会計を済ませて、すぐに店を出ていった。




「はァ、ちょっと休憩するか。丁度いい、ここに座ろうぜ」

あの男は、テーブルを挟んだ向こう側の椅子にルミを座らせた後、その反対側に座った。

「ちょっとアイツに電話してみっか…。あ、すぐに終わるからよ」


あの男は立ち上がると、すぐにその場で電話をかけたの。



「俺様だ」
「どうした」
「いや、例の仕事は終わらせてきたんだが、そこにガキがいてな……どうやら親が殺されちまったらしいんだ」
「…そいつは今どこにいるんだ」
「今俺様と一緒にいる」
「連れ出したのか。誘拐じゃないのか」
「なっ、ちげェよ！！人聞きのわりィこと言うんじゃねェよ！」
「で、そいつをどうしたいんだ」
「あ、いや、なんつーか……俺様達で面倒を見ようかと思って」
「……」
「おいどうした？」
「…いや、薄々感付いてはいたが、本当にそうだったとはな」
「な、何で分かるんだよ！？」
「さぁな。それにしても、お前も厄介事を俺んとこに運んでくるようになったな」
「う、うるせェ！」
「…まぁいい。詳しい話は後で聞く」
「ってことは、いいのか！？」
「…切るぞ」
「ちょっ、おい！おい！！…ったく勝手に切りやがって」


ルミは、あの男の電話でのやり取りを見てたんだ。
なんか、表情がコロコロ変わるのが、すごく面白かった。


「…ま、あの様子ならOKっぽいな。わりィ、待たせたな」
「…どこにいくの？」
「そうだな、何て言えばいいか……とりあえず、お前にとっての新しい家、って感じだ」
「……？」
「行ってみりゃ分かるさ。アイツも、顔は怖いが意外と面倒見がいいヤツだ。そこで、お前は俺様達と一緒に暮らすことになる」
「…！いいの…？」
「そうじゃなきゃこんなこと話してねェし、そもそも俺様もお前を見捨ててたかもしれねェしな」
「……じゃあ、いく！」
「よし、俺様の背中に乗れ。今から行くところの居心地は、なかなか良いぞ。俺様が保障してやる」
「ところで、おなまえなんていうの？」
「んぁ？名前？…つっても本名は教えられねぇしな……『でぃーえーしーびー』だ。覚えろよ」
「…？『えーびーしーでぃー』？」
「違う違う、『でぃーえーしーびー』だ」
「『しーびーでぃーえー』？」
「違ぇっての！『でぃーえーしーびー』だ！！」
「…あはは、おもしろいなまえー！」
「面白い言うな！！大体この名前は、この誇り高き俺様の異名の頭文字を取ってだな…」
「『びーでぃーしーえー』！『しーでぃーえーびー』！」
「やーめーろー！！人の話聞けよ！！っていうか、お前の名前は何だよ！？」
「ルミ？ルミはぁー、メシック・ルミナリーっていうんだー！ルミってよんでねー！」
「ルミナリー…？ケッ、お前も変な名前じゃねェか」
「あなたにいわれたくないー！」
「うるせェ！振り落すぞ！！」
「やだー！…ふふふ、あはははは！！」
「…フッ、フハハハハハッ…コイツはまた賑やかになりそうだぜ…」
「ルミ、にぎやかなほうがいいー！」






あのとき、運命が味方してくれたおかげで、ルミの望んでいた幸せとは、ちょっと違う形ではあるけれど。




幸せをこの手で掴めて、ルミは本当にうれしいよ。




みんな優しくしてくれるし、ルミはここにいて良いんだって、言ってくれるんだー。




運命もなかなか、捨てたもんじゃないよね。




できれば、お父さんとお母さんと一緒にいたかったけど、ワガママ言ってられないよね。








お父さん、お母さん。ルミを生んでくれて、ありがとう。






おしまい。

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