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第10章
2012/04/06(金)11:22:01(12年前) 更新
事件以来ニーナ達の初めての授業は、クレア・チャーリーの生物科学だった。授業は思いの外淡々と進んでいたが、その水面下では事件についての話が飛び交っていた。
クレアもそれに気付いていたのか一度ため息をついてから、自ら事件の話をし始めた。
クレア「彼の遺体は・・・実は未だに発見されていないわ」
突然の一言に、生徒達は一斉に黙ってクレアを見た。
クレア「現場に残されていたのは、大量の血痕と制服だけ。周辺のどこを探しても遺体はなかったわ」
生徒「じゃあ、死体をバラバラにして持ち運んだんじゃ・・・」
1人の生徒がつぶやくように言ったが、クレアがそれに反論する。
クレア「でも、発見者は被害者の叫び声を聞いてすぐに彼の制服を発見したそうよ」
つまり少なくとも声が聞こえた瞬間からニーナが制服を発見した間には、既に死体は何らかの処理を施されたことになる。そして、この時点で犯人がその現場から離れる
のは極めて困難だ。ここで、ニーナはようやくある事に気付いた。ニーナが制服を発見した直後、彼女は恐怖でその場から逃げ去ってしまったのだ。ある意味それは賢明
な判断ではあったが、それは犯人にその場から逃げるチャンスを与えてしまったことにもなる。もし遺体をバラバラに切断していたのであれば、それを持って倉庫から
逃げ去ることも十分に可能だ。
シド「でも、バラバラに切断しようとしたんなら服が残ってたのにも納得がいくよ」
ニーナ「・・・問題はどうやって体を切断したのかよ。叫び声が聞こえたってことはその時点ではそいつは生きてたってことでしょ?つまり犯人は一瞬で体をバラバラに
したのよ」
この学校の人間であれば、それが可能な装置を開発することも決してありえないことではない。
クレア「バラバラ殺人ねぇ・・・そういえば、私が学生だった頃にそんな噂が流行っていたわね。確かあれは校庭外の森の中で起きた事件だったわ」
カトリーヌ「それ、聞いたことあるかもしれない・・・30年くらい前に森の中でバラバラに切り刻まれた死体が発見されたのを機に次々と変死体が校内のいたるところで
発見されたって話。でも結局犯人は見つからないまま事件は終わったとか」
クレア「よく知ってるわね。それで、私がここに入学してきた頃にはそれが噂になって広まってたのよ」
こうして話題はクレアがワルワルスクール生だった当時に流行っていた噂の話に変わっていった。
30年程前、突如始まった恐怖の連続変死事件。その幕は、校庭を包み込むように生い茂る森の中で開いた。ある生徒が森の中で友達とかくれんぼをしていた時だった。
突如、彼は奇妙な音を耳にした。グォォオオ、という何とも言えない不気味さを持った音だった。一瞬、彼の背筋は凍りつく。後ろの方から音が聞こえてくるのが分かった。
ゆっくりと、非常に慎重に首を回した。もしかしたら、彼の背中は本当に凍りついていたのかもしれない。何ともぎこちない動きだった。結局、彼は全てを見ないうちに
その体をバラバラにされた。何をする間もなく、ただ背後からの恐怖だけを感じて死んだのだ。間もなく、彼の死体は共に遊んでいた友人により発見された。これが、
事件の始まりだった。それから数日後、今度は校内の廊下に切り刻まれた生徒の死体が発見される。その後も次々と生徒の死体が発見されていった。しかし、犯人の正体は
全く掴めないまま、やがて事件はぴたりとおさまってしまった。しかし、犯人はこの学校にとんでもないモノを残していったという。この学校そのものを破壊しかねない
あるモノを。それは今も、この学校のどこかで目覚める時を待っているのだ・・・
午前の授業が終わり、昼休みになるとニーナ達は食堂に向かいながらふとクレアの話していた噂の話をし始めた。
ニーナ「何か臭いわねぇ・・・」
シド「何が?」
ニーナ「クレア先生の言ってた噂で、生徒は死ぬ直前に奇妙な音を聞いていたって言ってたでしょ?実はあたいもあの時変な音が聞こえたのよ・・・その音をたどって
いったらあの地下倉庫に着いたってわけ」
ナット「・・・っていうかお前よく死ななかったな」
カトリーヌ「奇妙な音にバラバラ殺人・・・事件に通じてるのは案外こっちの方の噂なのかもしれないわね」
ナット「・・・とすると、これは30年前の事件をなぞっていってるってことなのか?」
シド「じゃあ次は切り刻まれた死体が現れるっての?」
ナット「どうだろうな・・・単にバラバラにしそこねただけかもしれない」
カトリーヌ「当時の詳しい状況も分からないし、その辺は断定できないわね」
そんな話をしているうちに、ニーナ達は食堂に辿り着いた。すると、食堂では早くも騒ぎが起こっているように見えた。その爆心地とも言える場所には、やはり
デス・クラッシュがいた。しかし、彼の目の前に居る今回の標的は珍しい者だった。顔立ちの整った少年で、まだかなり幼い。機械科学科3年生のメドロ・コントラだ。
ただ、年齢の割には体つきはやけにがっしりしていて、それがあどけなさ全開の整った顔とはかなりのアンバランスさを感じさせていた。
デス「お前、ガキのくせに生意気なこと言うな」
メドロ「やめときなよ。僕は力が強いんだ」
元々柄の悪いデスがこの言葉に我慢できるはずもなかった。ついにデスはメドロに殴りかかる。しかし、メドロはそれを容易く自分の手のひらの中に収めた。デスは舌打ち
をしながらメドロの手に蹴りを入れて、無理矢理自分の手を引き離した。
デス(こいつの力自慢は満更でもないようだな・・・ここはこいつを使うか)
彼は後ろに手をやったかと思うと、どこからだしたのかいきなり右手に木刀を持っていた。
ナット「いよいよ不良っぽくなってきたなあいつ・・・」
メドロ「すごいね・・・君は手品師に向いてるよ」
デス「お前は黙って頭かち割られてろ!」
そう叫んでメドロに向かって木刀を振りかぶる。メドロはやはり木刀を掴もうとしたが、デスは頭を狙うふりをして突然みぞおちを素早く突いた。かなりの重い一撃。
しかしメドロは目を見開いて心底驚いたような表情こそ見せたが、腹を抑えながら倒れこむことはなかった。それどころか、せき込む動作の1つもない。
メドロ「参ったなぁ・・・いいフェイントだ・・・」
デス(馬鹿な・・・!急所だぞ!)
メドロ「だけどこんな物騒なものを振り回すのは気に食わないなぁ・・・こんなもの、へし折ってやる!」
そう言いながらデスの木刀を掴み、宣言通り勢いよくへし折った。しかしその音はバキッという木が爆ぜる音ではなかった。食堂にバキィィィンという金属音が鳴り響いた。
折れた木刀を見ると、中身は金属でできているのが分かった。デスが持っていたのは、木の皮を被った鈍器だったのだ。
ナット「おいおい・・・何がガキだよ。化け物の間違いだろうが」
ナットがそう言った直後、メドロはデスの腕を掴みあげ軽々と彼を投げ飛ばしてしまった。その時、ニーナは投げ飛ばされたデスがわずかに笑っていたのが見えた。何かを
企んでいるのは間違いない。間もなく、メドロの体から爆発音と共に激しい火花が溢れてきた。何回か連続して爆発が起こっているようだった。そして最後に八尺玉の花火
のような大爆発が起こり、食堂は一瞬煙で辺りが見えなくなってしまった。周囲の生徒の悲鳴だけが聞こえてくる。
ニーナ「ケホッケホッ・・・これって・・・!」
デス「ハーハッハ!どうだ、俺様特製の大爆竹は!流石に効いたろ」
ナット「爆竹ぅ!?んなレベルじゃねぇだろこりゃあ!」
メドロがデスの腕を掴む前、デスはすかさずメドロの体中に特製の爆竹を仕掛けたのだ。しばらくしてようやく白煙が食堂を去っていった。そして、誰もが一斉にメドロが
立っていた方を見る。なんとメドロはなおもその場所に突っ立っていた。制服はボロボロになったものの、彼の体には傷一つついていない。
メドロ「ゴホッ・・・」
しばらくして彼は1回せき込んだだけだった。デスもその場に立ち尽くしている。しばらく時が止まっているかのように感じられた。その時、突如この空気を一変させる
人物がデスの前に現れた。どうやら女生徒のようで、黒髪に白いリボンのカチューシャをつけているのが印象的だった。前にも一度見たことがある。ミス・ワルワルスクール
に出ていた5年生のイデア・メルシュムだ。しかし、今の彼女の表情はその時とはかけ離れたものだった。
イデア「ちょっとアンタ・・・アンタがあんな事するから・・・アタシのデザートが台無しになったじゃない!!どうしてくれんのよ!?」
見ると、確かにショートケーキが火花で所々焦げてしまっていたが、それだけのためにデスに激昂するというのも大げさなことのように思える。
デス「はぁ?知るかそんなもの」
イデア「・・・死んでくれる?」
周囲の生徒(マジかこいつ・・・!)
イデアはおもむろに背中に下げている物を取り出した。見ると、何とそれは薙刀だった。
シド「ひぃッ、ホントに殺す気だ!」
カトリーヌ「いや、あれはおもちゃの薙刀よ」
シド「え?」
しかし、薙刀は光に反射して鋭く光っている。かなり精巧な作りで、少し見ただけではそれがおもちゃだとは気付けなかった。おそらくカトリーヌは事前に知っていたから
そう言えたのだろう。イデアはそのあまりにもリアルな薙刀で、デスの頭に斬りかかった。しかし、デスはこれを素早く避けてしまった。避けてしまったが故に、薙刀が
おもちゃであることには気づかず、その後も彼は薙刀を避け続けて、思うように攻撃できない。
イデア「・・・うぜぇ、さっさと死んでくれる?!」
その声は、直接脳に響いてきたように思えた。それくらいの迫力があった。そしてイデアはデスに向かってゆっくりと動き出す。その時だった。何と後ろからメドロが
イデアの薙刀を持った腕を掴んでいた。
メドロ「・・・ダメだよ。そんなもので殺したらその人は報われない」
これをいいことにデスは後ろからレーザーガンを取り出す。彼がトリガーを引こうとしたまさにその時、突然銃がスパークして勢いよく壊れてしまった。
アンバリー「アンタ達、いい加減にしなさい!今日は居残りよ!」
そう言った頃には、3人とも体が麻痺していた。
デス「うぐぅっ、くそッ!覚えてろよ!」
そんな捨て台詞をよそにマダム・アンバリーはニーナ達のところへ寄ってきた。
アンバリー「そうそうナットちゃん。あなたもよ」
ナット「え・・・うぇえええええ!?何でだよ!?」
アンバリー「忘れたの?ダンスパーティのあの夜、シドちゃんとムートちゃんをけがさせたのはあなたでしょう?」
ナット「げっ、ばれたか・・・」
こうして、アンバリーは数人に居残り授業を宣告してその場を去っていった。
アンバリー「今日はミス・ワルワルスクールの時の分も溜まってるから気合いを入れなくちゃね~」
そんな嫌な予感を感じさせる台詞も残していった。
そして午後の授業が終わり、いよいよ居残り授業の時が迫ってきた。
ニーナ「じゃ、がんばっていってらっしゃい」
シド「僕の仇をとられてきておくれよ」
ナット「っっせぇ!」
ナットは2人に満面の笑みで見送られながら、校長室に向かっていった。校長室の扉は他のに比べてやけに大きく、そのせいでおごそかな雰囲気が漂っている。ゆっくりと
その扉を動かし、中に入っていく。中には既に居残り授業を宣告された者全員が揃っているようだった。校長室に早く行ったからと言って特別いい気分はしないのだが、
この者たちに後れを取るというのも何か気分が悪い。今日はいつもよりも人数が多めで、普段見ない者も見受けられた。ナットが特に気になったのは、通称悪魔の男、
マーク・プレジテンドだ。彼はかなり機嫌が悪そうな様子だった。マークがここに呼ばれたのは初めてではなかったが、その時もそんな顔をしていた。ナットが日常的に
小さな悪戯をするタイプとすれば、マークは小さな不満をため込んで巨大なものにし、それを一気に爆発させるタイプだった。故に、ナットは彼が何をしてここにいるのか
に非常に興味があった。さらに、どんよりとした表情のダーク・サファイアがいた。これは恐らく落ち込んでいるのではなく、単に二日酔いだろう。そう言えば、保健室
から帰ってきたシドがマークと噂になっていた転校生、酒で泥酔していたダークネス・ダークがやってきたと言っていた。マークと転校生の方は、体中ボロボロで気絶した
状態で校長に運ばれてきたと言っていたが、本当に彼らは一体何をしていたのだろうか。ダークネスは泥酔していることから、恐らく十中八九酒の勢いでの喧嘩だろう。
きっとその相手がダーク・サファイアだったに違いない。なぜなら、泥酔した彼の力で保健室送りに出来るのはダークネスくらいなものだからだ。そんなわけで、今回は
ナット、デス、メドロ、イデア、マーク、ダークの6人が居残り授業を受けることになった。
メドロ「6人か・・・これだけいれば協力し合えば何とかなるんじゃない?」
デス「協力だと?何でそんなもんをしなくちゃならないんだ」
メドロ「でも、これからお仕置きを受けるっていうのに僕達がいがみ合ってもそれこそ意味がないだろ?それなら協力し合ってダメージを最小限に抑えた方が絶対に得だ」
ナット「協力つったって一体何すんだよ?もう時間ねぇぞ」
メドロ「それを皆で考えようって言ってるんだよ」
マーク「くだらんな・・・」
その時、奥からついにアンバリー校長がやって来た。やはりロープに吊るされた状態で、ピーターパンのように宙を舞っている姿は滑稽にも思えた。
アンバリー「ハイそこまでぇ~!もう居残り授業の時間よ~!」
ナット「ホラ言わんこっちゃない・・・校長多分今の話聞いてたぞ」
シド「おお、いよいよ始まるぞ!」
ニーナ「今回はいつもより人数が多いから見ものだね」
2人は以前ニーナが作ったカメラ付きネズミを校長室に侵入させて、居残り授業の様子を観戦していた。ニーナは、そのネズミを作ってからはそれが習慣になっていた。
シドは普段お仕置きを受ける立場にあることが多いだけに、この観戦に関してややテンションが高めになっていた。その時、ニーナの部屋の扉からノックの音がした。
ニーナ「ああこれからいいとこなのに・・・カトリーヌ行ってきてよ」
カトリーヌ「ここに何の用なのかしらね」
そう言って、部屋の扉を開けてみる。扉の向こうにはアテナとシクラメンが立っていた。
カトリーヌ「あれ、あんた達は・・・」
アテナ「あの、ニーナさんはいませんか?ちょっと色々と話がしたくて・・・」
次章、彼女達は何を語るのか?そしてナット達の運命は・・・?!
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