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第11章
2012/04/09(月)07:41:51(12年前) 更新
アンバリー校長の手がスパークし始める。恐怖の居残り授業幕開けの合図だ。それを見て全員が身構える。しかし、その攻撃は思いがけないところから来た。校長の手から
放たれた電撃は床に流れていき、何かの装置を作動させたようである。
マーク「・・・これは!」
アンバリー「ホッホッホ!あなた達のためにわざわざ作ったのよ~」
床からいくつもの丸いくぼみのようなものが現れた。嫌な予感がしてならない。そして、アンバリーはその丸いくぼみの1つに電撃を放った。すると、電撃はそのくぼみに
吸収されたかと思うと、別のくぼみから電撃が飛び出してきた。
イデア「キャッ、何なのコレ!」
ナット「校長め・・・厄介なもん作ってくれたな」
アンバリーはさらに電撃を放つ。中心近くのくぼみに入ると、今度はメドロの立っていたくぼみから電撃が流れる。メドロは不意を突かれ、避ける事が出来なかった。
ナット(成程・・・校長の奴、考えたな)
この装置は相手取る人数が多ければ多いほど効果的と言える。どこから攻撃がくるか分からないと身構えていても、まさか6人のうち自分に攻撃がくるとは誰も思わない。
そんな群集心理が攻撃への反応を鈍らせるのだ。メドロはまだ意識があったが、どんなに頑丈な体も麻痺してしまえば意味はなかった。
マーク「だがこの移動にはルールがあるはずだ。それで最も勝ち目のあるメドロを最初に攻撃して戦意喪失させる気だったんだろう」
ナット「一理ある。だとしたら次に狙われるのはそのルールを見破る可能性のあるお前だな」
アンバリー「それは・・・どうかしらね~?」
すると、彼女は片手ずつを使い2か所のくぼみに同時に電撃を放った。
マーク「チッ、そうきたか!」
身構えるマークだったが、電撃はデスの方へ集中した。考えてみれば、1人が身構えたところで結局のところ攻撃が油断している者に行くのは当然のことだった。デスは
電撃をまともに喰らい意識を失った。それからはたたみかけるように次々と電撃を放っていき、四方八方から電撃が飛び交う状態になった。こうなるといよいよ混乱し、
必死に逃げ回っていたイデアはとうとう電撃を浴びてしまった。するとここで、突然ダーク・サファイアが癇癪を起し始めた。
ダーク「もう我慢ならん!降りてこい、アンバリー!」
そう言って彼は何やら刃物のような物をアンバリーに投げつけた。正確にはアンバリーを吊るしているロープに、だ。ロープを切って無理にでもアンバリーをこちらに
引きずり下ろすつもりなのだろう。しかし、刃物はあっさりとロープに弾かれてしまった。どうやらただのロープではないらしい。
アンバリー「残念だったわね~」
そう言って、ダークに向かって電撃を放つ。ダークは後ろに下がってこれを避けたが、彼が立ったくぼみからその電撃が飛び出した。ダークが倒れ込む一方で、マークは
ひらめいた。
マーク「・・・そうか!分かったぞ、この装置の法則が!」
ナット「何!?」
アンバリー「フフフ、流石ね。でも上には気がついたかしら?」
マーク「!!上・・・だと?!」
天井を良く見ると、そこにも床と同じようなくぼみがいくつもあった。そのくぼみの中には全て、アンバリーの電撃が蓄えられていた。
マーク「しまった!俺達が避けていった電撃は天井に蓄えられていたのか!」
そして、天井に蓄えられていた電撃がナットとマークに一気に振りかかる。
2人「ギャアアアアアアアアアアア!!」
こうして、結局は何とかならなかったナット達なのであった。
シクラメン「何というか、すごいですね・・・噂には聞いていたけどここまでとは・・・」
ニーナ達と一緒に居残り授業の様子を見ていたシクラメンとアテナは絶句した。居残りとは無縁な2人だけに、いくら悪の学校とはいえ同じ場所でこんな事が起こっている
のは信じ難かった。マダム・アンバリーの電撃が止んだと見たところで、ニーナが話しかけた。
ニーナ「で、アタイに何か用?」
アテナ「あぁ、聞いたところによるとあなたは例の事件現場の目撃者なんですよね?」
ニーナ「ええ、そうよ」
シクラメン「それで、その時の様子を詳しく教えてほしいんですよ」
ニーナ「あ~成程ね。あんたらも事件の謎を解こうってクチなのね」
シクラメン「まぁ、そんなところです」
カトリーヌ「そういうことなら、話だけでも何だから写真でも見せてあげるわ」
そう言って、カトリーヌはテーブルの上に何枚かの写真を置いた。ニーナが教師を連れて現場に戻った時に、カトリーヌがこっそり撮影したものだ。写真とはいえ、あの時
の生々しい光景はしっかりと再現されていた。シクラメンとアテナの2人は思わず目を覆いたくなる。
アテナ「これはひどい・・・」
シド「一番の問題は遺体はどうなったのかってこと」
カトリーヌ「今もどこかに隠されているのかもしれないし、何らかの方法で消滅した可能性もあるわ」
シクラメン「成程・・・ニーナさんはこれをいつ頃見つけたんですか?」
ニーナ「ダンスパーティが始まってしばらくした後だったから・・・5時半くらいかしら?」
アテナ「現場は図書室の地下倉庫ですよね?そこからどうやって見つけたんですか?」
ニーナ「・・・実は大広間にいた時、不気味な音がしたのよ」
シクラメン「音?・・・音ってどんな・・・」
ニーナ「そうねぇ・・・例えるなら獣の荒い息みたいな、そんな感じかしら。それで、怪しかったからその音が聞こえる方へ辿ってみたの。アタイが思うに、あの音源も
移動していたんだと思うわ。最終的に地下倉庫からその音が聞こえてきて・・・」
アテナ「制服を見たと・・・」
ニーナ「その前に、叫び声が聞こえたわ」
アテナ「叫び声?」
ニーナ「地下倉庫に入って音源を探してたら、急にギャアアアってね。あれは本当にびっくりしたわよ。それからあの場所に言ったら、この有様よ」
そう言って彼女は嫌われ者を指すかのような表情で現場を捉えた写真を指差す。
シクラメン「それじゃあ、犯人はたった数秒で人を殺した上に遺体を処理したっていうんですか?」
ニーナ「まぁ、そういうことになるわね」
アテナ「ところで、クレア先生から聞いたんですけど、制服には戦闘痕のような傷があるのに犯人と思われる指紋は一切なかったんですよね?」
カトリーヌ「それは聞いたわ。代わりに制服にはだ液がついてたってね」
シクラメン「それも尋常じゃない量だったそうですよ」
ニーナ「そのだ液は誰のもので、どうやって服についたのかってのも謎ね」
シド「うーん・・・それは現物でも見ない限り分かりそうにないなぁ」
ニーナ「じゃあクレア先生に頼んでみる?」
シド「見せてくれるかなぁ?」
カトリーヌ「今日の授業で事件の話をしてくれたんだから、可能性はあると思うわよ」
ニーナ「まぁ、それはそれとして・・・指紋がなかったってことは、それなりに計画的な犯行ではあったんじゃないの?」
アテナ「そうですね・・・戦闘痕は被害者を殺害しようとした時に抵抗された可能性が高いですね」
シクラメン「で、仕方なくそのままバラバラに切断した、と」
ニーナ「・・・するとアタイはその時の悲鳴を聞いてそれを発見したってわけね」
徐々に話が繋がってくると、不思議と次々にその先の事が想像できてくるものだ。憶測が憶測を呼び、ついに1つの仮説が出来あがる。
ニーナ「あの時点では恐らく犯人はあの場のどこかには隠れてたはずよ」
カトリーヌ「言われてみれば、アンタが先生達を呼びに行った隙に切断した遺体を持って逃げる事もできるわね」
ニーナ「そうね。それを隠そうとしたんならまず自分の部屋に持っていくはず」
アテナ「・・・でも、そうなると何で制服は持っていかなかったんでしょう?遺体を持って行けたのなら制服も持って行けるはずですよね?」
確かにそうだ。犯人が被害者の身元を隠すために遺体を持ち運んだのなら、制服を隠し忘れるミスを犯すとも思えなかった。アテナにとっては、そこが一番疑問に思って
いた点だった。何故制服だけがその場に残っていたのか?
ニーナ「アタイが見つけた時にはもうその状態だったから、制服の事はもう諦めたんじゃないの?」
シド「もしかしたら、わざと置いていったのかもよ?結果的には、謎が謎を呼んでるからね」
カトリーヌ「解けない事が前提の謎なんて私はないと思うけどね。わざとだとしても、それ自体が犯人のミスだわ」
シド「言ってくれるね・・・」
シクラメン「ニーナさんは、その時人影とか、人の気配みたいなものはあったんですか?」
ニーナ「それは分からなかったけど、強いて言うならさっき言った不気味な音くらいね。今考えたら、あれは重い機械を引きずってる音にも聞こえなくもないわね」
シクラメン「どういうことですか?」
ニーナ「その機械を地下倉庫に持ち出して、それを使って一瞬で相手をバラバラにしたのかも・・・」
アテナ「・・・ニーナさんが言うように、その時あの場に他の人がいたんなら、その可能性は高いですね」
ニーナはその言葉にひっかかった。成程、彼女は自分の事を疑っているのかもしれないな、と感じたのだ。この台詞は、彼女はどちらかといえばその場にはニーナしか
いなかったと思っている証拠だ。そして、被害者を殺したのはニーナだと思っているのかもしれない。ニーナは証言に嘘をついていて、被害者と争っていたのは実は
ニーナだと考えれば、制服などに指紋が付いていないのにも説明がつく。ニーナの腕は鋼鉄でできているからだ。一瞬で体をバラバラにする必要もない。全てが終わった
後で教師達に嘘の証言を報告すればよいのだから。考えてみれば、彼女がニーナを疑っても無理もないことだった。そもそも、殺人事件においては真っ先に第一発見者が
疑われるものではないか。彼女達は結局はそれを確認しに来ただけなのかもしれない。それからはあまり会話をすることもなく、御礼だけ言ってこの部屋を後にした。
ニーナの部屋から出たアテナとシクラメンは、一旦アテナの部屋に戻ることにした。彼女の部屋は和風で非常に落ち着く。部屋に備え付けてある机やベッドにもアジア風に
アレンジが加えられている。シクラメンも彼女の部屋は気に入っていた。時計を見ると、午後5時を若干回っているところだった。アテナは、机の上にあった分厚い本が
目に入った。
アテナ「あ、これそろそろ図書室に返さなきゃならないんだった・・・」
本の貸し出し期限が1ヶ月とかなり長いのは、あまりにも分厚い本が多いからだろうか。アテナが借りた本はあと3日ほどで返却日となっていたが、既に読み終わって
いたので返しに行こうと机の上に置いておいたのだ。
アテナ「今、5時くらいだから間に合うよね」
午後6時からは例の見回り先生が校舎を見回り始める。
シクラメン「私も行く。事件現場も近いし・・・気をつけていった方がいいわ」
こうして、寮を出ていき図書室へ向かう2人。歩きながらニーナ達の話を振り返る。
シクラメン「ところで、彼女の話はどうだった?」
アテナ「うーん・・・嘘をついてるような表情でもなかったけど、ちょっと胡散臭い部分もあったわね。不気味な音とか」
彼女には、UFOを見たと言い張る発見者がテレビカメラに向かってその様子を語っているのと似ているように思えた。
シクラメン「もうちょっと様子を見る必要がありそうね・・・」
この時、2人はこのワルワルスクールに来る前に言われた事を思い出していた。
「ワルワルスクールには、隠された秘密兵器があるらしい」
実は、この2人はその兵器の謎の真相を探るために入学して来た。更に言えば、その事を告げた人物から送り込まれた、いわばスパイのような存在なのだ。しかし、
実は自分の他にもう1人スパイを送り込んだ、とはお互い知らされていなかった。というより、知らせることができなかった。なぜならワルワルスクールの領域には、
特殊な電磁波が張られていて、普通の電波では届かないようになっている。そのため、こちらから電波を発信させない限り、外部との連絡が取れないようになっているのだ。
悪の学校の所在を暗ませ、外の世界と空間を隔絶させるための処置のひとつだ。そうでなくても、生徒や教師達の発明品の電波で回線は非常に混雑している。ここでは、
携帯電話一つにも改造を加えなければ、まともに通話もできない。こうして、生徒達は知らず知らずのうちに通信技術の高度化がなされているのである。シクラメンや
アテナもこの事実を知るよしもなく、お互いに同じものを胸の奥に隠しているのだった。その後もしばらく事件についての推理を話しあっていると、円状の小部屋に
入っていた。前後左右の四方向に扉があり、そこからあらゆる場所に繋がる。このまま前の扉にまっすぐ進めば図書室だ。と、その時2人から見て右側の扉が開いた。
扉を開けたのはクロックだった。
シクラメン「あ」
クロック「あ」
2人は目が合い、間延びした声を出す。
シクラメン「また会いましたね」
アテナ「知り合い?」
シクラメン「まぁ、そうかな」
クロック「前に一回、道で邪魔しちゃって・・・」
シクラメン「いえいえ、邪魔だなんてとんでもない。こちらこそ、迷惑を掛けてしまって」
クロック「いえいえ」
シクラメン「・・・ところで、これからどちらへ?」
クロック「え、いやぁ・・・図書室にでも行ってみようかと」
厳密にいえば、クロックは図書室の地下にある地下倉庫を目指していた。事件のことを調べようと決意したクロックは、まずは現場に行って様子を見てこようと思って
いたのだ。もうとっくに整理はされているのだろうが、それでも何か発見できる事はあるかもしれない、と高をくくっていた。
アテナ「あら、奇遇ですね。私達もこれから図書室に向かうところです」
クロック「そうだったんだ」
その時、どこからともなく3人に奇妙な音が聞こえてきた。クロックにはその音に聞き覚えがあった。ミス・ワルワルスクールの真っ最中にトイレに行っていた時の事だ。
グォォォ・・・というあの時に聞こえた音と今聞こえている音はまったく同じだった。一方のシクラメン達もハッとしていた。この不気味な音は、まさにさっきニーナ
が言っていた音のことではないか、と思ったのだ。耳をそばだててみると、その音は図書室の方から聞こえてきているようだった。いよいよ怪しい。
クロック「とにかく、図書室に行ってみよう」
2人はうなずくと、前の扉を開いた。図書室に近づくにつれて、その音はしだいに大きさを増していく。しかし、彼らが図書室の扉を開けた途端、その音はピタリと
聞こえなくなってしまった。中には誰も見当たらない。ふとシクラメンが下を見ると、彼女は思わず声をあげそうになった。図書室の地下2階にあたる足場には、何と
血まみれの死体が転がっていたのだ。
次章、物語は新たなる展開へ・・・
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