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第11章
2014/03/28(金)15:13:48(10年前) 更新
何やら外の様子が騒がしい。昼休みを返上して武器の製作に取り掛かっていたコルテックスは、窓を貫通して聞こえてくる大声を気にかけ始めていた。最初に聞こえてきた少女の悲鳴を皮切りに、次々と騒がしい音が聞こえ始めていた。
この学校では、こういった騒ぎが起こることはさほど珍しいことではない。だが、どうにも嫌な予感がする。まさかと思い窓を開けて外の様子を眺めてみる。しかし、ここは寮の3階であり、周りは雑木林に囲まれている。
生い茂る木々が邪魔して、ここからでは騒ぎの様子はよくわからない。せいぜい分かったのは、今日の空は薄暗い雲に覆われており、あまりよろしくない天気だという事くらいだ。もどかしい思いをしていると、突如背後から扉からノックをする音が聞こえてきた。
コル「誰だこんな時に・・・」
そう呟いて振り返ると、特に了承したわけでもないのに、部屋の扉は開いていた。入ってきたのはリドリーだ。このタイミングで彼が入ってくるあたり、ますます嫌な予感がする。
コル「お前か。外の騒ぎは一体何だ?お前なら知ってるはずだろ?」
リド「流石、察しがいいじゃないか。嫌な予感は的中したってわけだ」
絶望という絶望が押し寄せてくるようかのような言葉だった。同時にリドリーの軽い言い回しが彼への苛立ちに拍車をかける。
コル「んなこと言ってる場合かッ!どうしろっていうんだ!取り返しのつかないことになったぞ!!」
焦りと苛立ちで彼はリドリーに迫るように声を荒げた。全身の血液が瞬く間に抜けていくかのような不快感も襲ってきた。
リド「落ち着け」
コル「落ち着け・・・!?こんな状況で、落ち着けだと・・・!?」
その声は震えていた。混乱するコルテックスだったが、それでも彼の言っていることには一理ある。
リド「それもそうだな、悪かったよ。だが人の話は聞いとくべきだ。それだけは覚悟しろよ?」
覚悟しろ、という彼の口調に何故だかコルテックスは対抗心を抱く。
コル「な、何だよ・・・とにかく、詳しく聞かせろ」
リド「まず、察しの通りこの近くの森の中で生徒がドラゴンに殺された。殺されたのはそこで遊んでいた2年生の男子生徒。一緒に遊んでいた女子生徒によって発見された」
コル「ドラゴンは・・・ドラゴンは今どうなってる?」
リド「生徒を殺してからまたどっか遠くへ行っちまった。幸いアレはまだ見つかってない」
そうはいっても、生徒が死亡したとなれば教師陣が黙っているはずがない。近いうちに何らかの調査が始まるだろう。
コル「・・・そう言えば、殺された奴の状況はどうなってる?」
リド「バラバラ殺人、ってところだな。恐らく爪を使って切り刻んだんだろう。まぁ、これは話で聞くより自分の目で確かめた方がいいだろう。今は野次馬どもが現場にたかってる頃だから、それに紛れれば不自然ではないはずだ」
コル「成程・・・確かにそうだな・・・」
校庭へ出てみると、もうすぐ昼休みも終わるというのに大勢の生徒が森の中へと駆け込んでいた。野次馬生徒が多いためか、この手の噂はこの学校では実に迅速に広まってしまうのだ。現場付近まで来れば、そこには既に何人もの生徒が囲んでいた。
コルテックスはそんな人ごみをどうにか押しのけて最前列へとたどり着く。
コル「・・・!」
リドリーの言っていた通り、そこには全身をバラバラに切り刻まれた死体が辺りに散乱していた。地面や周囲の植物は死体から飛び出した血で紅く染められている。何ともむごたらしい光景だ。
コルテックスは吐き気を堪えながら、さらに死体の切り口を見つめてみる。よく見ると、どれも綺麗に一刀両断されたような平らな切り口だ。骨まで少しの凹凸もなく切断されている。相当切れ味のいい刃物でなければこのような切り口はできないだろう。
そして厄介なことに、あのドラゴンの爪の鋭さなら、それは可能だ。どうやら本当にドラゴンの仕業らしい。改めて周囲の状況を見回してみる。もしこの場に犯行の証拠となるような代物でも残っていたら、厄介どころの話では済まない。
だが、仮にそれを見つけたところで、これだけ大勢の人間が見ている中、証拠隠滅を図るのはあまりにも無理がある。コルテックスはできる範囲で確認する。すると、彼はあることに気付いた。
コル「あっ・・・!」
それは茂みの奥の地面にあった。足跡だ。人間のものではない。それは間違いなく、コルテックスが造り出したドラゴンのそれだったのだ。
コル(これはまずいっ・・・!)
幸い生徒たちはまだ死体に目がいっており、その足跡には気づいていない。コルテックスは、できるだけ不自然にならないように、人ごみに身を任せるようにして、ゆっくりと着実にその足跡のある箇所へと近づいていく。
そして、他の生徒たちと同じように死体へ目線を向けつつも、地面をしっかりと踏み込んでその足跡をかき消した。今の段階でできることと言えばこれくらいだろう。否、現段階でこのことに気付けたのは、むしろ上出来と言っていい。
しばらく足跡を上書きする作業に勤しんでいると、奥の方から何やら一段とやかましい声が聞こえてきた。ここでようやく、教師陣のお出ましだ。
アン「ハイハイどいてどいて~!」
校長の気迫の混じった声を聞き、生徒たちは慌てて道を空ける。コルテックスは迫りくる彼女の姿に思わず1歩後ずさりする。今の瞬間ほど彼女を恐れたことはなかったであろう。それも、後に続いてきたのはマルク、ザヌサーにネイキッドとそうそうたるメンバーだ。
ザヌ「おいおいこいつぁ・・・一体何の冗談だ?」
死体の状況を見て、ザヌサーが眉間にしわを寄せながら言った。他の教師たちを見ても皆同じような反応をしていた。いくら悪の学校と言えども、これほどの死体はめったに出てくるものではない。
ここで、聞き慣れたチャイムの音が辺りに鳴り響く。昼休みの終わりを知らせる、いつもと何ら変わらない無機質な音色だ。
アン「・・・ほら、皆何やってるの。もう昼休みは終わったわよ。早く授業に行きなさい」
直後に聞こえてきた彼女の声もまた、何故だか無機質なもののように思えた。怒るでもなく叱るでもない無感情の声に、生徒たちは言い知れぬ悪寒を感じ、そそくさとその場を離れていった。
とりわけコルテックスは、その悪寒を誰よりも感じていた。鼓動は早鐘のように速度を増していき、最早歩く感覚すら感じられなくなっていた。彼が歩いていた、と認知できるようになったのは、知らぬ間に彼が自身の寮部屋に戻ってきてからだった。
一通り生徒を追いやったところで、アンバリーたちはしばらく死体を見つめ、そしてこれからの対応を話し合っていた。
マル「これは・・・ひどいな」
ザヌ「ああ、俺も長い事この仕事に就いちゃいるが、ここまでのは初めてだ」
ネイ「これから校長は如何なされるおつもりで?」
アン「そうね、まずはこの子の死因を調べたいところね。状況的に考えて殺人と考えるのが普通だと思うけれど・・・」
ネイ「ええ、余程鋭利な刃物でなければ、こうも綺麗に人をブツ切りにはできない」
アン「そう、これは人の手を加えた何かを使わなければできないこと。そして一番の問題は、それは一体何なのか、ということよ」
何を使っての犯行なのか。この学校においては、それを明らかにすることが、真相解明への第一歩となることが多い。この学校で扱われる道具の数々が、あまりにも特殊だからだ。
アン「とりあえず、この死体を生物実験室へ運びましょう。まずは調べてみないことには道は開けないわ。手袋はある?」
マル「・・・私が持ってきましょう」
アン「じゃあ、頼んだわよ?あ、そうそう、ついでにレイリーちゃんにもこのことを伝えといてちょーだい」
マル「分かりました」
彼はそう言うと、素早く森を抜けていった。するとここで、ネイキッドが静かに口を開く。
ネイ「・・・そうだ。第一発見者にその時の状況を聞いてみるのはどうだろう。俺たちにこのことを伝えてくれた、あの娘に。何か得られるものがあるかもしれない」
アン「そうね。じゃあそれはネイキッドちゃんに任せるわ」
ザヌ「・・・ふぅ、こいつぁ骨の折れる仕事になりそうだ・・・」
ふとザヌサーがそんな言葉を漏らした。
アン「文句言わない。大事な仕事よ」
そんなことを言っていると、後ろから2人を呼ぶ声が聞こえてきた。振り向くと、そこには手袋を持ち出してきたマルクが早くも戻って来ていた。
マル「持ってきましたよ、手袋」
アン「あら、仕事が早いのね」
ザヌ「早すぎだろオイ・・・」
いつの間に、自分はここまで歩いてきたのだろう。気が付くと、コルテックスは自身の寮部屋の中で、力なくソファーの上に腰かけていた。無事に部屋まで辿り着いたことで緊張感はとけたものの、強く胸をたたきつけられるような不快感は未だに消えていない。
まだこの部屋にリドリーが居座っていたことに気付いたのは、もうしばらく時間がたってからの事である。
リド「どうだった?生で見た現場の情報は」
突然の声に、コルテックスはまたも心臓を打ち付けられたかのような衝撃を受ける。
コル「うわっ?!な、ななな何だっ!?お前いつからそこにいたっ・・・!?」
リド「最初からいた」
コル「最初っていつだよ?!・・・というか、そんなことはどうでもいい!まずいんだ!地面に足跡・・・」
喚くコルテックスに対し、リドリーは口元に人差し指を突き立て、静かにするように合図した。
リド「そんな大声で情報を漏らすもんじゃないぞ」
その一言でようやく落ち着きを取り戻したのか、コルテックスは一瞬黙り込む。
コル「チッ・・・で、一体これからどうしろって言うんだ・・・?」
リド「俺に聞くな」
あまりにもそっけない返事に、コルテックスは唖然とした。
コル「はぁ?!ここまで言っといて何を・・・」
リド「俺はあくまで情報を提供してやるだけ。そいつを使ってどうするかはお前が決めることだ」
リドリーの言っていることは、腹立たしいほどに筋が通っている。
コル「・・・とにかく、ドラゴンは既に1人の生徒を殺してしまった。こうなってしまったら、仮にドラゴンを捕獲できたとしても・・・」
リド「処分・・・だろうな。少なくとも、学校側がそいつを卒業研究の発明品として認めることはないだろう」
コル「分かってることはいちいち言わんでいい」
リド「じゃあ、逆に何が聞きたい?」
そう言われて、コルテックスは少し考えるそぶりを見せると、こう返した。
コル「・・・そういえば、遺体を発見した生徒っていうのは誰なんだ?」
リド「成程、いい質問だ。事件の進展のカギを握るのは、往々にして第一発見者なわけだからな」
コル「余計なことはいいからさっさと質問に答えろ・・・」
リド「第一発見者は2年のシエラ・ミルヒーユ・ペルシャ。お前も知っている人間だろう?」
それを聞いて、コルテックスは思わず身を少し前に乗り出した。彼女はブリオを慕ってよく彼のもとに来ていた少女だ。
コル「・・・!シエラ・・・よくブリオのとこにいるあの子か・・・」
リド「そうだ。まぁ、彼女が遺体を発見した時にはドラゴンはもういなかったが、現場を見て彼女がどう思ったのかは流石の俺でも分からないな」
当然と言えば当然のことではあるが、人の心というのは、どれだけ理論づけて説明しようとしても、それは不確かな情報でしかない。
コル「・・・なら、まずはシエラがどれだけあの状況を把握しているかを聞きだす必要があるな。先生たちもきっとそこから情報を聞き出そうとするはずだ」
リド「やるな。それは正解だ。現に今まさにネイキッド先生がシエラのいる保健室に向かっているところさ」
リドリーの言い草は、どこか教え子に問題を出して指導をしている教師のようなものに感じられ、癇に障る。しかし、今の発言にはそんなことよりも気にしなければならない点がある。
リドリーは今、ネイキッドがシエラのもとに移動していることを、どうやって知ったのであろうか。彼の発言に嘘がなければ、彼は少なくともコルテックスがこの部屋に入ってきた時にはもう既にこの部屋にいたはずだ。
そんな状況で、一体どこからそんな情報を手に入れたのか。コルテックスには想像もつかなかった。何より、コルテックスにとって、それよりさらに重要なのは彼のもたらした情報そのものだ。
コル「とにかく、できるだけ早くシエラの証言を聞き出そう。まずはそこからだ」
バラバラにされた身体、草木や地面に滴る鮮血。その光景は今も鮮明に焼き付いて離れない。考えたこともなかった。今まで当たり前のように共に学び、共に遊んでいた友達が、ある日突然そんな事になることなど。
ハエや、カエルや、ゴキブリの屍とは違う。人間の、友達の屍だ。泣かない、笑わない、喋らない、動かない友達に愛着があったのではない。動かなくなる前の、共に生きていた友達に愛着があったのだ。
だが、生きていた頃の友達の姿はもうそこにはない。その姿はもう、何者かによって壊された。そこにあったのは、何の愛着も、親近感も、現実味もないただの屍だ。
?「・・・か。大丈夫か?」
突然、そんな声が聞こえたかと思うと、目の前にはいつの間にかネイキッドが腰をかがめてこちらを見つめていた。シエラはそこで初めて、自分が保健室に運ばれていたことに気付く。教師たちに遺体のことを伝えた後の記憶は戻ってこない。
シエ「は、はい・・・」
彼女は力なくそう答えるのが精一杯だった。
ネイ「そうか、まぁ、話す気になったらでいいんだが・・・あの子を見つけた時の状況は覚えているか・・・?それを教えてほしいんだ」
シエラは一瞬反応に遅れるものの、何とか答える。
シエ「えっと・・・あの時、私達はかくれんぼをして遊んでいたのです・・・それで、その子は森の方へ隠れたらしく・・・」
ネイ「それであんな場所で見つかったのか・・・」
ネイキッドはため息をつきながら言った。
シエ「ええ、私が見つけた時には、もう既にバラバラの状態にされていたのです・・・」
どこか虚ろげな目をしたシエラに、ネイキッドは若干言葉を詰まらせる。
ネイ「そうか・・・何か・・・他に気になったことは?」
シエ「いえ・・・その時は気が動転していたので、何も・・・すみません」
ネイ「いや、いいんだ。無理もない」
むしろ、これだけ小さな子供が今の段階でこのやりとりが出来ているだけ、シエラの精神力は大したものだと言えるだろう。今の今まで当たり前に在ったものが、ある日突然なくなっている。
それを事実として受け入れることは、それだけ難しいものだ。
シエ「・・・ぁ、ただ・・・」
小さくではあるが、彼女は再び口を開いた。
ネイ「・・・何だ?」
シエ「彼の顔を見た時、彼・・・なんだか複雑な表情をしていた気がするのです・・・とても怯えていて、驚いていて、戸惑っているような・・・そんな感じがしたのです」
最初のうちは、既に感情を抜き取られたかのように固まった表情に見えていたのだが、今ではそれはいくつもの感情が複雑に混ざり合った末の表情だったように思えてくる。
ネイ「そうか・・・きっとそうだろうな・・・」
そういえば、前にもこんな奇妙な感覚を味わったことがある。シエラはふとそんなことを思った。両親が死んだときのことだ。あの時も、気がつけば両親は自分のもとから消えていなくなっていた。
後になって、両親が死んだという事を聞かされたのだが、その時も実感が湧かなかった。実のところ、今でもそれほど実感はしていない。それと似たような気持を今、シエラは再び味わっている。
ネイ「それじゃあ、後はゆっくり休んでいてくれ。それから、何か気になることが出てきたら、すぐに先生に言うように」
シエ「はい、ありがとうございます」
シエラは淡々と答えた。
ネイ「では、俺はこれで失礼する」
彼はそう言って、保健室を後にした。
ネイキッドが保健室から出てくるのを、コルテックスは調度目撃していた。
コル(やはり向こうも考えることは同じか・・・シエラが余計な事を喋ってなきゃいいが・・・)
そんな思いが頭をよぎりつつ、彼は保健室の扉を開けた。見ると、シエラは隅のベッドにポツンと座っていた。コルテックスはシエラに近づいていくが、彼女がこちらに気付く様子はなかった。
コル「シエラか?」
そう話しかけてようやく、彼女はコルテックスの存在に気が付いたようで、少し身体をびくっとさせてからこちらの方を向いた。
シエ「あっ・・・あなたは、コルテックスさんですか・・・」
コル「そうだ、お前の友達がその~・・・」
そう言えば、シエラに話しかける言葉を考えていなかった。仲の良かった友人が死んだというのに、いきなり探偵じみた事情聴取を始めるのはばつが悪い。コルテックスは必死でかける言葉を考える。
コル「まぁ、何だ。色々と大変だったろう」
結局気の利いた一言は思い浮かばなかった。
シエ「いえ、大丈夫なのですよ?そんなに気を遣わなくても・・・」
コル「そうか・・・すまないな。そう言えば、さっきネイキッド先生がここから出ていくのを見たが、何か話していたのか?」
さりげなく目的の話題へ持っていこうと試みる。
シエ「はい、私が発見した時の状況について」
コル「やっぱりか・・・何か分かったことは・・・?」
シエ「いえ、私が見た時にはもう・・・私もよく見ていなくて、あまり力になれなかったのです」
シエラは無意識に遺体だとか、殺されたといった言葉を使うのを避けているようだった。
コル「仕方ないさ、気にすることじゃない」
コルテックスは優しい口調でそう言った。どうやら教師陣に有力な情報は渡らなかったらしいことに安堵したのもある。
シエ「コルテックスさんは、どう思いますか?」
コル「えっ」
ホッとしたのもつかの間、コルテックスは彼女の言葉に再び冷やりとさせられた。彼は慌てて答える。
コル「い、いやぁ・・・僕には何とも言えないなぁ・・・ほら、とにかく今は情報が少なすぎる」
シエ「・・・ですよね」
彼女はため息でもするかのようにそう吐き捨てた。この時、コルテックスは瞬時に沈黙が続いてしまうと予感し、なんとか話を繋げようとするのだが、失敗する。シエラの目はどこか虚ろで常に何処ともつかない場所を見据えたままだ。
そんな彼女を見ていると、コルテックスの心の中にも少しずつ罪悪感がこみ上げてきた。何か言葉をかけたい。しかし何と言葉をかけてやればいいのかわからない。実は、お前の友達を殺したのはドラゴンで、そのドラゴンは僕が作ったんだ。とでも言えばいいのか。
まさか。もどかしい思いがコルテックスの頭の中を巡る。結局、どちらも言葉を発しないまま、どれだけの時間がたったのだろう。それは、最早どちらにとっても全く見当もついていなかったはずだ。
まるで時が止まっているかのようだ、という比喩表現はまさにこういう状況を表すために作られた言葉なのであろう。そして、シエラの言葉によって時は再び、ゆっくりとだが動き出す。
シエ「・・・どうして」
コル「え?」
シエ「どうして、人は死んでしまうのでしょう・・・」
突然、虚ろな目でそんなことを言いだすものだから、コルテックスはシエラに対して驚きを通り越して戦慄さえ覚えた。何を考えているのか分からない、何をしだすか分からない。そんな狂気にも似た何かをシエラに感じたからだ。
コル「どうしてって、どうしてもなにも・・・人は皆そういうものだよ」
コルテックスは勇気を出して、正直な意見を述べた。勿論、シエラがそれを納得してくれるなどとは微塵も思っていない。ここで重要なのは、そんなことではない。
シエ「ええ、知っているのです。人はいずれはみんな死ぬものなのです。でも、それはどうして・・・?どうして人は死ぬものなのでしょう・・・?」
コル「それもちゃんと授業で習うさ。テロメア説というのを知ってるか?」
そうだ。ここで重要なのは、会話をすることだ。黙って一人で考え込んでいると、思考はよくない事を思いついてしまい、悪循環に陥る。それを防ぐためにも、内容はどうあれ会話をし続けなければならないのだ。
シエ「・・・それはまだ習っていないのです」
コル「そうか・・・生物クラス以外はこれはまだ習わないのか。そうだな、まず遺伝子にはテロメアという配列があるんだが、このテロメアは細胞分裂をする度に少しずつ短くなっていくんだ。そして、ある程度短くなるとその細胞は分裂しなくなってしまう」
シエ「それが、寿命なのですか?」
コル「流石、察しがいいな。だから人は老いるし、最終的にいつかは死ぬ」
この時、シエラは複雑な表情をしていた。だが、その目には虚ろさだけではない、他の何かが混じり始めているようにも見えた。
シエ「へぇ、それは知らなかったのです」
その言葉や口調から、どうやらシエラは心底感心しているようだった。それから再び間ができたものの、今度はすぐにシエラが口を開いた。
シエ「私・・・もっと知りたいのです」
コル「何をだ?」
シエ「人の死について・・・ですかね?」
それを聞くと、コルテックスは何故だか小さく笑い出してしまった。そして、からかうように答えた。
コル「おいおい、それは哲学か?大したもんだな」
シエ「今、コルテックス先輩の話を聞いたら、何故か少し気持ちがすっきりしたのです。だから、今は知りたいのです。人が死ぬ理由と、それから・・・あの子が死んだ理由も・・・」
思えば、シエラは早くにして人の死に触れながら、その原因はどれも分かっていなかった。両親の死も、いつの間にかその出来事だけを知らされただけで、その原因については全く教えてもらえなかった。
だからこそ、今のシエラには知るということが何より求めているものなのかもしれない。人はなぜ死ぬのか。人が死んだのはなぜなのか。それが理解できれば、少なくとも今までのもやもやした感情は解消されるのかもしれない、と。
コル「・・・そうか」
シエ「私、決めたのです」
この時、シエラの目から虚ろな様子はなくなっていた。保健室がだんだんと明るくなっていく。太陽の光が雲を突き破り、窓から入り込んできたのだ。
シエ「どうしてあの子が死んだのか・・・まずは、その原因を自分なりに調べてみようと思います」
次章、物語はついに歩み始める・・・
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