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第14章
2012/04/09(月)07:46:09(12年前) 更新
ダーク・サファイアの部屋はとても粗末なものだった。家具はどれも古めかしく、デスクやテーブルの上には空のフラスコや酒瓶などが散乱しており、床には割れたガラス
があちこちに散らばっていた。そして、彼はテーブルそばのソファに深く腰掛けて訝しげな表情でこちらを睨んでいた。
ナット「うへぇ~・・・きったねぇ~」
ダーク「お前ら一体何の用だ?」
ナット「いやぁ~、ちょっとお前に訊きたい事があってね」
ダーク「何だと?」
シド「噂の話を訊きたいんだ」
ダーク「あの事件の事なら何も知らんぞ」
ニーナ「そっちじゃないわ。30年前に起きた連続変死事件の噂の方よ」
ダーク「・・・そんなことを何故お前らが知っているんだ?」
ナット「知らないさ。これからお前に訊くんだから・・・30年前に何があった?」
ダーク「そんなことを訊いてどうするつもりだ」
予想以上の動揺だった。てっきり、話をするどころかこちらの話も聞かずに最悪襲ってくるのかと身構えていたものだから、拍子抜けさえしてしまう。彼の反応からすると
30年前の噂は事実であり余程恐ろしいものだったのか、あるいはその事件に彼が深く関わっていたのだろうか、とニーナ達は想像した。
ナット「・・・訊いてから考える。とにかく、その話を聞かせてくれ」
小さくダークが舌打ちしたのが聞きとれた。
ダーク「アレは、とても人間が殺ったとは思えん・・・」
30年前、ダークは音楽室にある巨大パイプオルガンを盗もうとしていた。ただし、別段何か企みがあったわけではなく、ましてや使用目的があるわけでもなかった。
ただ、目の前にあるパイプオルガンを見て、衝動的に体が動いていた。しかし、そう簡単にそのようなものが盗れるはずもなく、あっけなくアンバリー校長につまみ出された
のであった。仕方なく寮に戻ろうと来た道を引き返していると、あの音が聞こえてきた。しかし、その時のダークはそれを気にするわけでもなく廊下を突き進んでいた。
そして、曲がり角を曲がったところで、奥の方に体に深い傷を負った生徒が倒れているのを発見した。その事件の2人目の犠牲者だった。ダークが近寄った時には既に
息絶えていたようで、触れてみると体は氷のように冷たかった。その時、不運にも廊下を見回っていたマルク・ミノワールが死体に手を触れているダークを見つけたのだ。
マルク「お前、そこで何をしている!?」
ダーク「!!」
そこから、彼は誰からも疑われた。毎日のように真相を追究する生徒達が部屋に押し掛け、その度にその生徒達を攻撃して無理矢理つき返した。そんな日が何日か続いていた
ある日、再び犠牲者が現れる。ダークが気分転換をしようと中庭に出た時だ。中庭の中央に黒い死体があったのだ。それはまるで、空襲の爆熱で炭と化した人のよう、
いや、それそのものだった。その死体は高熱の炎で焼き尽くされたものだったのだ。それも、つい先ほどの出来事だったらしく辺りには鼻を突くような焦げくさい臭いが
蔓延していた。
ダーク「一体これは・・・何なんだ!!」
またしても自分の目の前に死体が現れ、ダークは思わず叫び声をあげた。その叫び声を聞いてか、近くにいた教師も中庭に入って来た。当然、その教師もその光景を見て
愕然とする。
教師「お前・・・!」
明らかに自分を疑っている態度だった。ダークはうんざりして否定する気も起きない。それどころか、ふつふつと苛立ちさえも込み上げてきた。その時、ある生徒が
教師の名を呼び慌てて中庭に入って来た。息が荒くかなり動揺しており、焼け焦げた死体はまだ目に入っていなかった。その生徒から発せられた言葉は、なかなかに
衝撃的なものだった。
生徒「寮の屋上で・・・人が死んでます!」
半分無意識にダークとその教師は顔を向き合わせた。あっさりとダークの無実がほぼ確実なものとなった瞬間だ。だが、今はそれよりももう1人の犠牲者が気になった。
教師は中庭に残り別の教師を呼ぶように言ったが、ダークはその生徒についていくことにした。ようやくこちらの死体に気付いた生徒が、さらに混乱していたせいもあった
のかもしれないが、それにしても道のりは長かった。やっとの思いで現場に辿り着くと、別の教師も既に到着していたようだった。こちらの死体は全身打撲といった
ところだろうか。とてつもない力で殴られたのか、体の形が歪んでおり姿勢も不自然だった。複雑骨折しているのはまず間違いないだろう。頭を強打した形跡もあったが、
これは何かの力で吹き飛ばされて床に叩きつけられたものらしい。血痕も非常に生々しく、どうやらこれもそれほど時間はたっていないようだ。一体どんなものを使えば、
こんな荒技がなせるのだろうか。もしこの2つの死体が同一人物によるものなら、さらに無茶苦茶だ。中庭で生徒を丸焼きにし、すぐさま寮の屋上へ行って別の生徒を
殴り殺したのだ。そんなことを考えていると、教師に寮部屋に戻るように促され、半ば強引に談話室に入れられた。疑いは晴れたものの、ダークの頭にはもやもやとした
ものが残ったままその日が終わった。
翌日、朝になってもそれはダークの頭の中に居座り続けていた。本来探偵まがいの事などさらさら興味はないはずなのだが、今回の件に限っては別物だった。何よりも
犯人が生徒達を殺害した方法が気になって仕方ない。あの常識では考え難い状況はどのようにして作られたのだろうか。退屈な授業が終わると、ダークは2つの現場に
向かうことにした。そして中庭と寮の屋上の現場周辺を探ってみたが、肝心の死体は既に教師たちによって別の場所に保管されているらしく特に何も発見することは
できなかった。仕方なく寮部屋に戻り退屈な時間を過ごし、夕食をむさぼり自分で精製した延命の薬を飲んでまた退屈な時間を過ごした。皮肉なことだが、アンバリー校長
による居残り授業を免れた日は恐ろしくやることがない。ダークはベッドに寝込んでそのまま次の朝を迎えることにした。しかし、やはり頭の中のもやもやが気になるのか
どうにも眠ることが出来なかった。電気をつけ、時計を見てみると午前3時だった。流石にこの時間になると他の生徒は寝静まっている事だろう。しかし、そんな
ダークの考えはあっさりと覆された。コツコツと、小さいが下の方から渡り廊下をゆっくりと歩く音が聞こえてきたのだ。
ダーク(こんな時間に人が廊下を歩いている・・・?)
ダークは地面に耳を当て、その音の行方を追う。足音は談話室へと続く階段を下りていったようで、やがて聞こえなくなっていった。不審に思ったダークは、眠れずに
退屈していたことも手伝って談話室へ降りていくことにする。既にその人物は別の場所へ移動していたようで、そこには誰もいなかった。すると、今度は別の音が
聞こえてきた。2人目の犠牲者を発見した時に聞いたあの音だ。校舎側から響いてくる。ダークはそれに誘われるかのように談話室を出た。無心で音を追っていく。
やがてダークが辿り着いたのは図書室だった。いつの間にかあの音は全く聞こえなくなっている。辺りは当然真っ暗闇でダークが持ちだしたライトの先だけしか様子が
見えない。少し歩くと、ベチャ、という液体を踏む音が聞こえてきた。ライトを地面へ向けてみると、何とそれは鮮明な赤色をした血だった。すぐさまライトを振り回し
辺りを探る。ダークの目の前には心臓をえぐり取られた死体が倒れていたのだ。ダークの鼓動は一気に加速した。長年生きていると、命の危機が迫っている時というのは
感覚で分かってくる。現にダークはそれを幾度も経験してきた。今回もまさにその時だったのだ。ダークは急いでその場を後にする。実はこの時地下倉庫ではもう1人の
生徒が死体となっていたのだが、彼はそのことを朝になって知ることになる。それが最後の犠牲者だった。
ダークの話を聞いたニーナ達は、気分転換に学校の敷地内にある森を歩いていた。想像以上におどろおどろしい内容だったので、シドが外に出ようと言いだしたのだ。
最後の犠牲者の有様は、それはそれはひどいものだったという。それが実際にこれから起こるのかと思うと、鳥肌が総毛立った。
シド「で、3人目の犠牲者は・・・焼死だったよね。連続変死事件とはいったけど、まさかそんな死体が出たなんてね」
ナット「その後すぐに4人目が出たってのも意外だった。1日2人じゃこっちも忙しくなっちまうよ」
ニーナ「どうやってそんなことをしたのかは確かに気になるけど、本当にこんなこと起きるのかしら?」
ナット「さぁな。ただ、徹底的に30年前の事件を再現してるってわけでもなさそうだぞ」
例えば殺害された場所。森の中に始まり校舎の廊下と今回の事件とは食い違っている。
シド「でも、今回の事件の不可解な部分とリンクした所はかなりあったよ」
ニーナもそれに頷く。ダークが奇妙な音を辿っていった件は、ニーナが1人目の犠牲者を発見した時の状況とほとんど同じだ。その後はどういうわけか話題が逸れて
取り留めのない会話が続いた。すると、奥からある音が聞こえてきた。音に敏感になっていた3人はそれにびくついたが、あの奇妙な音ではなかった。エンジンが唸りを
上げるような機械めいた音だ。その正体を見てみると、まさにそれそのものだった。メドロ・コントラが自作の乗り物らしきマシンをいじっていたのだ。
ナット「お前はメドロか・・・何でこんなとこにいんだよ」
メドロ「それはこっちの台詞だよ。この時に森を散歩だなんて随分度胸あるね」
ニーナ「ミステリー物とかだと1人でいる時の方がよっぽど危険だと思うけどね」
メドロ「僕は大丈夫さ。子供の時から頑丈だからね」
シド「そういう問題じゃないと思うけど・・・」
メドロ「僕はね、死んだ母さんから生まれてきたんだ」
3人「ハァ?」
メドロ「新婚旅行で乗った飛行機が墜落したらしくてね。それで親は死んじゃったんだけど、僕はこの通りさ。生まれる前から僕は身体が強かったんだ。だから、僕は
大丈夫だよ」
ニーナ「何言ってんのこいつ・・・」
そんな寓話のような話を急にされても、信じられるわけがない。たとえ彼の超人的な生命力を目の前に見せつけられたとしても、だ。
メドロ「まぁ、そのせいで他の兄弟を殺しちゃったんだけどね。その時は三つ子だったから、母さんの中では狭くて墜落した時エルボーをする形になっちゃったんだ」
つまりこの寓話の寓意は、力が強すぎるのも考えものだ、ということだろうか。3人は首をかしげながらそんなことを考えてみる。
メドロ「それに、いざとなったらこいつがあるし・・・」
そう言ってメドロは目の前のマシンを優しく叩く。それでもマシンは力強く叩かれたような音がした。
ナット「何だよそれ」
メドロ「こいつは名付けてエアバイク。これで空を飛べるんだ」
そう言われてみれば、確かにバイクのような形状をしていた。決定的に違うところと言えば、エンジン部分の装備がやたら大がかりなことだ。しかし、そのマシン自体の
サイズは子供のメドロにピッタリ合うように設計されているらしくコンパクトにまとまっていた。
ナット「へぇ、乗っていいか?」
メドロ「もうちょっとで調整も終わるし、構わないよ」
そう言って、メドロは作業を再開する。
ニーナ「アンタ何やってんの・・・」
ナット「いーじゃんいーじゃん、気分転換だ」
メドロ「操作は普通のバイクとあまり変わらないから。さぁ、調整も終わったし行っていいよ」
当然ナットはバイクの免許など持っていないのだが、ここではそれを気にする者など誰もいなかった。ナットはエアバイクに乗り込み、エンジンを吹かす。そして、一気に
森の中を駆けだし間もなく夜空に向かって突っ走っていった。ナットは叫び声をあげながらその夜空に溶け込んでいく。その声は驚いたものなのか楽しんでいるものなのか
はたまた恐怖によるものなのかは判然としない。ニーナ達はここで初めて、今夜は満月であったことに気がついた。
クロックは寮の屋根へ上がり、ぼんやり満月を眺めていた。ケンが切り刻まれた時の状況を考えていたのだ。最も気になっていたのはやはりあの音だ。この音の正体を暴く
ことがこの事件を解決することに直結しそうな気がしていた。無意識に右目を抑えていた。
フラップ「寮の屋根に上って月見酒か・・・なかなかオツなもんだな」
後ろからそんな聞きなれた声が聞こえてきて、クロックは振り返った。見るとフラップが酒瓶と2つのグラスを持って立っていた。屋根の傾斜をものともせず、見事に
バランスをとっている。
クロック「満月に人狼って・・・縁起悪いな」
フラップ「人聞きの悪いこと言うな。俺はそういうんじゃない」
そう言うとフラップはクロックの隣に座り込みグラスを渡した。畳み掛けるように酒をついで、ひとまず乾杯した。
フラップ「それで、本当の目的は何なんだよ」
1杯目を飲みほした所で、フラップが言った。
クロック「・・・どういう意味だ?」
フラップ「とぼけるな。ここに来たのには別の目的があるんだろ?」
クロック「そんなことを言わせるために酒を?」
フラップ「・・・もったいつけないで早く言えよ」
クロック「分かったよ・・・でも、ここに宝があるかもしれないって事も嘘ではない。事実が分かったら、見つけて帰るつもりだよ」
フラップ「事実・・・だと?」
クロック「ああ、これのだよ」
そう言って自分の右目の辺りをつついて見せた。フラップは、あぁ、という間延びした声を出した。
クロック「僕がこんな風にされたワケが、ここにある。そう聞いてきたんや・・・」
フラップ「成程な・・・」
しばらく沈黙が続いたが、それほど苦しいものではなかった。2人ともじっと満月を眺めている。
フラップ「なぁ、それなら・・・その、何だ・・・お、俺も手伝ってやってもいいぞ」
クロック「・・・あぁ、頼む」
クロックは微笑んでグラスを差し出した。フラップはそこに酒をつぐ。クロックも酒瓶を持ってフラップのグラスについでやった。2人はまた満月を見た。
フラップ「お」
何かに気付いた様子のフラップに次いでクロックも、お、と声を出した。何かの影が満月を横切っているのだ。鳥にしてはスピードがかなり速い。どちらかといえば飛行機
のようだった。しかし、その影は月の周りを自由奔放に飛び回っている。その時、そこから誰かが絶叫しているような声がかすかに聞こえてきた。一体あれは何なのだろう。
2人はその様子をぼんやりと眺めながら、酒を飲みあい取り留めのない会話をした。
次章、激しいバトルが勃発!?
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