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第15章
2012/04/06(金)11:26:28(12年前) 更新
アンバリー校長が打ち出した対策の効果があったのか、10日間の間は特に大きな出来事は起きなかった。暇を持て余したナットが罠を作って授業を台無しにし、校長の
お仕置き授業を受けたくらいのものだった。シドの間抜けぶりも絶好調で、この10日間で実に5回も事故を起こしたが、これは取るに足りない事だろう。そして
金曜日の午後3時、いよいよ校長が半分悪ノリで決定した決闘会が始まる。大広間には中央に特設ステージが用意されており、そこで決闘を行うらしい。急な発案の
割にはしっかりと作られていて、教師や事務員たちの努力が窺い知れる。ここで、見山がそのステージに上り大声でルールを説明し始めた。
見山「よーし!それでは、これより決闘会のルールを説明する!まず抽選で2名を選抜しこのステージの中央に背中合わせで立ってもらう。そしてそれぞれが作った
発明品を我々がステージの端に置く。こちらが合図をしたらそれを取りに行き決闘開始だ。相手の発明品を完全に無効化したら勝利となる。あくまで相手の武器を狙うんだ。
いいな?では、早速1回戦目の抽選を行う!」
そう言うと、教員席にいたアンバリー校長が手元のボタンを押した。すると、彼女の背後にある巨大なモニターに参加者が映し出された。そこには、決闘会第1戦
ナット・プランクVSデス・クラッシュとの表示があった。初戦から居残り授業の常連同士が闘うという展開に、他の生徒はどよめいていた。
ナット「マジかよ!いきなり、しかも絶対容赦しねぇ奴が来た!」
ニーナ「まぁ頑張ってやられてきなさい」
ナット「嫌だぁぁあ!」
ナットは重い足取りでステージに上る。
ナットとデスはいよいよ背中合わせで立っていた。数十m先には自分が作った発明品が置かれている。彼の顔を見た時、なぜか自信に満ちた嫌な笑みをこぼしていた。
そのせいで、妙に体に緊張感が走る。そして、いよいよ見山が威勢よく合図を始める。
見山「それじゃいくぞ。用意・・・始めッ!!」
見山の声が耳に響く中、全力疾走を始める。ほぼ同時に武器の所に辿り着いたが、先に振り返ったのはデスだった。デスが持っていたのは剣のようなものだった。
よく見ると、鍔に何かの装置があるらしくその部分が妙に大きかった。
デス「先手必勝だ。一撃で決めてやる!」
そう言って、走りながら大きく剣を振り被る。しかし、この時点では2人の距離はかなり離れている。ナットはそこからでは届くはずがないと高をくくっていた。
だが、デスが剣を振った瞬間剣の刀身が物凄い勢いで瞬く間に伸びてきた。
ナット「はぁッ!?」
ナットは慌ててしゃがみこみ、何とか伸びた刃を避けた。
ナット「やっぱ容赦ねぇ・・・ってかどういうことだよこれは!?」
デス「こいつはストレチウムというレアメタルで作ったのさ」
金属には、叩くと薄く延びる延性というものがあるが、ストレチウムのそれはかなり極端なものだった。デスはこの性質を利用して刀身が伸びる剣を作りだしたのだ。
ナット「成程ねぇ・・・だがそれが分かっちまえば怖いもんはねぇな」
デス「何だと?」
ナットは持っていたフリスビーのような武器をデスの剣に投げつけた。それほど強く投げ込んだわけでもないのに、デスの剣は勢いよく弾かれた。
デス「・・・お前の武器も妙じゃねぇか」
ナット「何のことはねぇ。これは言ってみりゃバンパーだ」
バンパーとは、ピンボールなどによく登場する玉を勢いよく弾く装置のことだ。ナットのバンパーは物体に触れた時、それから受けた力を倍返しにするものである。
武器の無効化が目的であるこの闘いにおいて、デスの武器の方が不利であることは明白だった。
デス(だが奴の武器も万能ではないはずだ。弱点を探ってそこを突く!)
デスは伸びた刃でナットに斬りかかる。ナットはそれをバンパーで弾こうと身構える。しかし剣にバンパーを当てようとした瞬間、剣はもとの長さまで縮んでしまった。
ナット「何ッ!?」
体勢を崩した所へ、デスが再び刃を伸ばす。ナットは間一髪、バンパーを懐へ持っていき刃の軌道を逸らした。
ナット「オイ・・・ストレチウムに縮む性質なんてねぇぞ」
デス「フン、伸びたら伸びっ放しなんて弱点埋めないわけがねぇだろ。何のために俺がこの10日間大人しくしてたと思ってんだ」
確かにその間デスは珍しく喧嘩をしなかった。それもこれも、この武器に全てを注ぎ込むためだったのだ。因みに、伸縮自在の答えは温度だ。温度が下がり続けると、
物質の体積は次第に小さくなっていく。デスは鍔の部分に極端な温度調節を施せる装置を作り、刃の体積を小さくしていたのだ。デスは再び刃をもとの長さに戻すと、
走りだしてナットとの距離を詰めた。今度は刃を伸ばさずに、普通の距離で斬りかかって来たのだ。ナットはそれをバンパーで弾くが、手数で無理矢理当てに来ている
ようだった。その時、デスが剣を振った直後、いきなり刃を伸ばしてきた。が、ナットはそれを読んでいたのか体を横に逸らして避けた。デスはすぐに剣を戻しながら
ナットに斬りかかる。これをバンパーでガードしたナットは、それをそのままデス自身に投げつけた。
デス(しまった!避けられん・・・!)
デスはバンパーに弾かれ、数m程後退した。ナットは跳ね返ったバンパーを手に取り、デスを警戒する。ここでデスは何かに気がついた。
デス(・・・!待てよ?)
デスは再びナットに向かって走り出す。そして、すぐさまナットに斬りかかる・・・素振りを見せてバンパーを構えさせた。
ナット「しまっ・・・!」
デスはナットの持つ手に限りなく近い所へ刃を伸ばした。すると、ナットのバンパーは真っ二つに割れてしまった。
ナット「!!」
デス「おかしいと思ったんだよ・・・触れた物体の力を跳ね返すのなら、どうしてお前はそれを持てるのかってな」
どんなに優しく掴んだところで、触っている時点でそれに力がかかっているはずなのだ。なのにナットの手はバンパーに弾かれなかった。つまりバンパーの効力が働かない
持ち場所があるということだ。デスはそこを狙ったのである。
ナット「チッ、ばれたか・・・ところで、何で力を2倍にして跳ね返してると思う?」
デス「何?」
ナット「・・・2枚重ねだからだよ!」
そう言ってデスの剣を持っているバンパーで地面に向かって叩きつけた。そこには割れたもう1つのバンパーが落ちていた。2つのバンパーの間に挟まれたデスの剣は、
半永久的に負荷を受け続けてとうとう砕け散ってしまった。
見山「勝負あり!デス・クラッシュの道具の破損によりナット・プランクの勝利ー!」
大広間に見山の声が響き渡り、次に生徒達の歓声が湧きあがった。
次に闘うことになったのは、フラップ・ウルフとダークネス・ダークだった。2人がステージに上がると、相変わらずダークネスは無闇に啖呵を切っている。フラップは
それを無視して背中を見せた。間もなく、ダークネスも背を向け見山が始めの合図を出した。2人はそれと同時には走り出す。先に武器を拾ったのはフラップだった。
何を隠そう銃マニアであるフラップの武器は、当然銃だった。まずは威嚇として、ダークネスが拾おうとしている武器のすぐ横に撃つ。一瞬ダークネスの動きが止まったが、
彼は何とか自分の武器を取ってフラップと向かい合った。銃好きのダークネスの武器もまた銃だった。
フラップ「ほぅ、デザートイーグルか。随分無茶をするな」
ダークネス「俺に勝とうとしてるお前の方が余程無茶だ」
そう言って、彼は銃を乱れ撃ちした。
フラップ(オイオイ反動のでかいデザートイーグルで連射なんてやっぱり無茶だろ!姿勢や撃ち方もめちゃくちゃだぞ!?)
その姿にはインパクトこそあったが、やはり狙いはひどく不安定だった。こちらが動かない方がかえって当たりづらいのではないかと思うほどだ。ダークネスの銃の弾が
切れたのを見計らって、フラップは一気にダークネスに近づきダークネスの銃を撃った。フラップはさらに、吹き飛ばされた銃を手に取り目にもとまらぬでその銃を
分解してしまった。中には強力な衝撃吸収材などが備え付けられていた。
フラップ「成程、道理であんな連射ができたわけか・・・だが、それでもお前じゃこいつは使いこなせねぇよ」
見山「勝負あり!ダークネス・ダークの道具の破損によりフラップ・ウルフの勝利ー!」
生徒(決着早ッ・・・!)
第3戦目、モニターにはニーナ・コルテックスVS二階堂可憐と浮かび上がった。2人はステージに上がり互いを見つめ合った。
ニーナ「な~んだ、どんな奴が来るかと思えばちびっ子じゃない」
二階堂「し、失礼ねぇ!私は18でアンタより年上!大体アンタだって背低いじゃない!」
いきなりデリケートな部分を刺激され、一触即発の状況となった2人。2人は互いに顔をしかめながら背中を向けて静かに見山の合図を待つ。そして、いよいよ見山の
始めの合図が響いた。二階堂は全力で走り始めたが、ニーナは伸縮自在の腕を使ってすぐに道具を掴んだ。
二階堂「なっ、ちょっとそれずるくない?!」
ニーナ「そんなん知らないもんね!ベ~ッ」
考えてみれば、彼女の腕もまた立派な武器の1つなのだ。その上発明品を持てば、ニーナは実質2つの武器を持つことになる。そんなニーナが持ったのは、ヨーヨーだった。
勿論、そのヨーヨーも鋼鉄製だ。彼女はそれを鋼鉄の指にはめて、二階堂に向けて思い切り投げ飛ばした。ヨーヨーは物凄い勢いで駆けだし、まっしぐらに二階堂の方へ
向かっていった。二階堂は体勢を崩しながらも何とかそれを避け、自分の道具を手に取った。二階堂の武器は半球状の盾のようなものだった。しかし、それほど重くは
ないらしく彼女はそれを軽々と持ち上げた。ニーナはそれに向かって再びヨーヨーを飛ばした。すると、二階堂は何とその盾を真上に投げた。真上に上がった盾は、
何と一瞬にして巨大化して二階堂を包み込んでしまった。
ニーナ「!!」
ニーナのヨーヨーはその盾に弾かれてしまった。
ニーナ「フン、防御だけの盾なんてブッ壊しちゃえばアタイの勝ちじゃない」
二階堂「いいえ、これはあなたの攻撃から身を守るものじゃないわ・・・あなたを捕らえるためのものよ」
そう言って、もとに戻った盾をニーナに向かって投げつけた。
ニーナ「なっ!?」
その瞬間、盾は一気に大きくなりニーナを取り囲んでしまった。視界は暗闇で閉ざされ、何も見えない。その闇のむこうから二階堂の声が聞こえてきた。
二階堂「その空間は対象を大人しくさせるために作られてるの。中の空間の酸素はどんどん奪われていくわ。あなたの息はいつまで持つのかしら?」
ニーナ(くっ・・・さっさとこれを壊すしかなさそうね)
ニーナはヨーヨーを構えて、目の前の壁に思い切り飛ばす。しかし、やはりヨーヨーは弾かれてしまう。
ニーナ(アタイはこれを壊すのよ・・・集中集中!)
自己暗示のようなことをして集中力を高めようとしたニーナは、目を閉じて脱力してみた。そして、一気に腕を動かし物凄い勢いでヨーヨーを飛ばす。金属と金属が
ぶつかり合う音がしたが、壊れた様子はない。ニーナはすぐにヨーヨーを戻すと、またそれを飛ばした。先程当たったであろう場所とできるだけ同じ所にヨーヨーを当てた。
できるだけ速く、できるだけ正確にヨーヨーを飛ばす。ニーナはそれを何度も繰り返した。そうしているうちに、同じ場所に何度も攻撃を受けることによってその衝撃
は奥へ奥へと伝わっていき、ついにはその壁を貫通した。豪快に金属が砕ける音がした。
ニーナ「やったぁ!どんなもん・・・」
しかし、依然としてニーナの視界は暗闇のままだった。壁を壊したその奥には、また壁があったのだ。
二階堂「残念。これは2重壁構造なのよ」
ニーナ「ええええええ!?」
二階堂「そんな風に叫んで息は大丈夫?」
ニーナ(ぐっ、まずい・・・息が苦しくなってきた・・・)
同じ場所に何度も高速で攻撃を当てるという方法はただでさえ体力と神経を激しく消耗するもので、その上酸素が不十分なこの空間でそれをするのはかなりの重労働だった。
ニーナの疲労度はここに来て一気に増し、呼吸も苦しくなってきていた。この状態で再び神経を集中させて同じ事をするのは困難に思えた。しかし、早くこの壁を
壊さなければニーナの息はもたなくなってしまう。ニーナは再びヨーヨーを構えて、連続で思い切り飛ばした。しかし、やはり先程のように正確に同じ場所に当てることは
できず、うまく破壊することが出来ない。
ニーナ(やばい・・・もう、息が・・・)
ニーナの意識は既に朦朧とし始めていた。そんな中で、必死にこの状況をどう切り抜けるかを考えてみる。彼女の中の集中力を必死にかき集めて、何とか思考している
ような感覚だった。時々、どうでもいいようなことを考えてしまう。そして、最後の集中力を振り絞ってニーナが考えたのは、この盾を壊す方法ではなくこの盾の機能を
解く方法だった。二階堂の道具の一番に厄介なところは、密閉された空間の酸素を抜きとっていくことにある。まずは最低限この機能だけは無効化する必要がある。
そして、ついにニーナはある行動に出る。ヨーヨーをしまい、両手を天井に向けて突き上げた。さらにその両腕を勢いよく伸ばして、この空間の天井に手をかける。
そして、ニーナは腕に今ある限りの力を目一杯かけて、さらに腕を伸ばて天井を力強く押し始めた。呼吸もかなり苦しくなり、立ちくらみもしたがそれでも必死に天井を
押し続ける。やがて巨大化した盾はゴゴゴ、とひどく重たい音を出し始めた。
二階堂(これは・・・まさか!)
ニーナ「ハァァァアアアアア!!」
ニーナは既にほとんど呼吸が出来なくなっていた。それならば、いっそのこと大声を上げて少しでも力を引き出そうとしたのだ。そして、ついにその盾は地面から徐々に
浮き始めた。ニーナはこの巨大化した盾自体を持ち上げようとしていたのだ。そうすれば、地面との隙間から空気が入ってくるはずだ。もっとも、それはとてつもない
腕力と伸縮自在の鋼鉄の腕を持ったニーナだからできた荒技だろう。そして、ついにニーナはその盾を持ち上げて二階堂に投げつけた。二階堂は慌てて盾をもとの大きさに
戻してそれを避けた。見事脱出に成功したニーナは、まず大きく息を吸い込んでからヨーヨーを取り出し、二階堂の盾に向かって連続高速攻撃を繰り出した。すると、
ついに二階堂の盾にひびが入り、次の攻撃でそれは砕け散ってしまった。
見山「勝負あり!二階堂可憐の道具の破損によりニーナ・コルテックスの勝利ー!」
威勢のいい見山の声が聞こえてくると、ニーナはその場に座り込んでしまった。
次章、物語は更なる波乱の展開へ・・・!!
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