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第16章
2012/04/06(金)11:27:03(12年前) 更新
1時間に及ぶ決闘会が終わると、そこからの時間は瞬く間に流れていく感覚がした。ひどく疲れていたからかもしれない。機械的に夕食や入浴を済ませて、ベッドに入ると
いつのまにか朝が来ていた。いつもよりかなり長時間寝ていたはずなのに疲れはさほどとれていなかった。
ニーナ「あ~何だか今日はだるい・・・」
それが今日の第一声だった。談話室で4人が集まった時だ。
シド「やめろよ・・・何だかこっちまでだるくなってくるから」
ナット「でも実際アレは結構きつかったぜ。絶対アレ校長の悪ノリだろ。校長が一番楽しんでたし」
間もなく、無情にも授業の時間はやって来た。この時ばかりは何故か時間が流れていくのが異常に遅く感じる。退屈しのぎに事件の話をしてみるが、ダークの話以来状況が
進展していないため同じ会話の繰り返しだった。本当に退屈な日だ、とニーナは思っていた。確かに、少なくとも午前中までは退屈だった。
何とか退屈な午前の授業を耐えきり、昼休みを迎えた。4人は他の生徒達の流れに身を任せるようにして食堂に向かった。食堂に着くと、それぞれが気分に合わせて
好きなコーナーに行って注文をし、適当に空いている席を見つけてそこに座った。4人は雑談をしながら自分の昼食をマイペースに食べていく。
カトリーヌ「あ」
突然彼女が驚いた様子でそんな声を漏らした。本当に心底驚いている様子で、彼女がこんなに驚いた顔を見せるのは非常に珍しい。
ニーナ「・・・どうしたの?」
カトリーヌ「・・・ちょっと、行ってくる」
彼女はそう言って慌てて席を立つ。その仕草から、彼女は見た目以上に動揺しているらしかった。
ニーナ「ちょっとって何処によ?」
彼女が動揺を見せるという事は、何かそれなりに大きなことが起こっているに違いない。ニーナ達もカトリーヌの後を追う事にした。彼女は急いで食堂を出てすぐの階段を
上っていく。最終的にカトリーヌは、3階にも分かれている食堂をさらに上にのぼって屋上に行き着いていた。そこにあったのは、死体だ。ついに3人目の犠牲者が
出てしまったのだ。しかもその死体はダークの話に聞いていた通りの、真っ黒に焼け焦げたものだった。さらに、ニーナ達の予想もしていなかった人物がそこにはいた。
二酒弦だ。彼は黒焦げた死体を軽蔑するように見つめていた。そんな中、カトリーヌは死体のそばまで歩み寄り座りこんだ。一体何なのだろう、この状況は。
カトリーヌ「やられた・・・」
そう言った彼女は、死体とは別の所を見つめていた。
シド「これは一体・・・どういうことなんだよ?」
思わず声に出してしまったシドを始め、ニーナ達は一体どのことから訊いてよいのか分からずに混乱していた。それを察したのかカトリーヌは小さく口を開いた。
カトリーヌ「あたしがあんなに情報早かった理由、分かる?」
確かにそれはニーナ達もずっと気になっていた事ではあった。そして、そのタネは思わぬ展開で明らかになろうとしていた。
カトリーヌ「・・・これのおかげなのよ」
そう言って、地面に落ちているすすのようなものを指差した。生徒と一緒に燃やされてしまったのか、それが何であったのかは認識することが出来ない。
ニーナ「・・・これは?」
カトリーヌ「蚊よ。正確には蚊の形をしたカメラってとこかしら。この前ニーナが授業で作ってたネズミみたいなもんよ」
ニーナはああ、と納得したような表情でつぶやいた。要するに、カトリーヌはこの蚊をかたどったカメラをあらぬ場所に飛ばして、それに撮影されたものから情報を得て
いたのだ。彼女が現場を見ていたかのような詳しい発言ができたわけだ。実際にその映像を見ていたのだから。
カトリーヌ「カメラからの映像はコンタクトレンズに送られてくる仕組みなの」
それで、そこから送られてくる映像が途絶えたので慌ててここにやって来た、というわけらしい。
二酒「成程ナ・・・その1つを使って俺を監視していたのか」
突然、二酒が口を挟んできた。しかし、彼の視線は微動だにしておらず、むしろ独り言に近い様子だった。
カトリーヌ「別に監視じゃないわ。観察よ」
二酒「パーシーとかいう奴をこっちに差し向けてきたのはお前か?奴の肩に蚊がとまっていた」
しかし二酒はニーナを見ると、いや、と自分の考えを改めた。パーシーの話では、彼女は人並み外れた腕力を有していたといっていた。あの鋼鉄の腕がその正体であるとは
見てすぐに分かった。
カトリーヌ「まぁ、提案したのはあたしよ」
ナット「っつーか、お前らのすぐそばに転がってるその死体にはいつ触れるんだよ・・・」
確かに、それはこの状況の中で真っ先に取り上げるべき話題であっただろう。5人は改めて死体を見てみる。頭の先から足のつま先まで全てが黒く染まっていることから、
相当な高温で焼き払われたに違いなかった。おかげで被害者の身元はよく分からない。
ナット「おい、お前の蚊が一緒に焼かれたんならこいつが誰なのか分かってんだろ?」
カトリーヌにそう言うと彼女は、勿論、と言って被害者の名前を口にした。それは、二酒を含めた4人とも知らない人物だった。さらに言えば、前に被害に遭った2人にも
関係していないらしい。一通りその人物の情報をカトリーヌから聞くと、ニーナ達は周囲の状態を調べ始めた。
ナット「しっかし、こんだけ派手な事しでかしてるのに指紋とかそういう痕跡が一切残ってねぇんだからすげぇよな。感心しちまうよ」
シド「それで・・・もう1つ気になる事があるんだけど、どうしてこんな所にこの人がいるんだい?」
二酒を見ながらシドが言った。一体どういう経緯で二酒がここにやって来たのか想像がつかなかった。しかし、当の本人はそれについて話すつもりはないようだった。
30分前、二酒は午前の授業を終えるとそそくさと教室を出て、誰よりも先に食堂に辿り着いていた。彼は大抵一番乗りで食堂にやってきて、注文した昼食を受け取ると
すぐさま自分の寮部屋に戻って食事をとる。寮の最下層である10年生の部屋が集まる階へ降りていき、ひたすら奥まで突き進んでいくと自分の部屋に辿り着いた。
中へ入ると、机に今日の昼食を置いてソファに深く腰掛けた。そうして彼は無言の昼食を始める。部屋には彼が口の中で食べ物を噛む音だけが空しく響いていた。
そして、彼が今まさに昼食を食べ終わろうとしていたその時、不意に不気味な音が聞こえてきた。例のグォォオオ、というあの音だ。二酒は瞬時にその音に耳を傾けた。
その音は下の方からやってきて、徐々に大きくなってくる。そうかと思えば、その音はビュン、という突風が起きたかのような音に変わり、やがてぴたりと収まった。
二酒(今の音は・・・上に行ったのか?)
しかし、ここは寮の最下層である地下6階だ。今の音は明らかにそれよりさらに下の方向から聞こえてきていた。つまり、今の音は地下から何かが移動した音ではないか、
と二酒は勘ぐった。どこかの生徒がエレベーターのようなものを寮に作ってしまったのかもしれない。しかし、それにしてはあまりにも音が大げさだ。二酒は、
その音の後を追うようにして寮の階段を上がっていった。4階まで上ったところで、二酒はふと階段の途中にある窓を覗いた。そこからはちょうど寮の中央に位置する
食堂の屋上の様子がうかがえた。普段ならそこに人影を見ることはあまりないのだが、今日はそれよりさらに見かける事のないものがあった。死体だ。しかし、
ここからの距離では見間違いの可能性は十分にあり得た。何よりそれは人の形こそしているが、全身が真っ黒に染まっていたのだ。等身大の人形か、あるいは人体模型
と考えた方が自然に思えた。二酒はそれを確かめるべく、食堂の屋上へと向かった。
間もなく、屋上には人だかりが出来ていた。野次馬生徒が事件の臭いを嗅ぎつけてか、そこに集まって来たのだ。さらにしばらくすると、アンバリー校長を含めた教師達が
慌ただしく屋上にやってきた。
アンバリー「ハイハイどいてどいて」
セドリック「こ、これはひどい有様ですねぇ・・・」
消え入りそうなセドリックの声に対して、アンバリーは声を上げて生徒に言った。
アンバリー「皆は今すぐそれぞれの寮部屋で待機していなさい。午後の授業は中止よ!」
その声を聞いて、生徒達は歓喜の声を上げ、ハイタッチをする者までいた。教師達は無理に生徒達をその場から離し、ニーナ達も事情を話すとすぐに寮に戻された。
シド「これから・・・どうなっていくんだろうね」
ナット「さぁな、そのうち俺達はここから出られなくなるんじゃねぇの?」
ニーナ「そういえばさ、4人目は出るのかしらね」
シド「30年前は立て続けに出たって言ってたけど、今回はそんな感じはしないね」
ナット「まぁ、皆で寮にたてこもってりゃ派手には動けねぇか」
カトリーヌ「場所も決まってるしね」
3人「え?」
シド「そんなこと聞いてないけど」
カトリーヌ「アンタ達からダークの話を聞いた時、そうじゃないかと思ったのよ。30年前は森の中、廊下、中庭、屋上、図書室、地下倉庫の順に死体が発見されたんでしょ?
そして今回は、地下倉庫に始まって次は図書室」
ニーナ「あ、順番が逆になってる!」
カトリーヌ「そう。それで、次は屋上に来るんじゃないかなと思ってあの蚊を張らせたわけ」
ナット「成程な・・・でも、犯人は一体何を考えてんだ?」
カトリーヌ「さぁね」
その時、談話室の扉からノックされる音が聞こえてきた。4人は扉の方を向く。扉が開くと、入って来たのはシクラメンとアテナだった。
シクラメン「久しぶりです」
ニーナ「何でアンタ達がここに・・・?」
アテナ「また、現場の状況を聞きに来ました」
彼女は冗談半分の口調で言ったが、目は事態の深刻さを物語るかのようなものだった。
シクラメン「早くこの事件を解決させないとまずいことになりそうですよ」
ニーナ「・・・そうみたいね」
カトリーヌ「まずは、お互いに持ってる情報から言いあいましょ。アンタ達は確か2人目の現場に居合わせたのよね」
アテナ「えぇ、私が図書室に本を返しに行こうとした時、聞こえてきたんですよ。ニーナさんの言ってた不気味な音が」
ニーナ「やっぱり・・・」
シクラメン「でも、図書室に入った途端、いつの間にかその音は消えてました。気が動転して聞こえなかったのかもしれないけど・・・」
ナット「逃げ足は速ぇのにその音は毎回誰かに聞かれてんのな。間抜けなもんだ」
シド「・・・でさぁ、ニーナはそれを例えるなら獣の息だって言ってたよね?」
ニーナ「そうね」
シド「もし仮にそれがさ、本当に獣の息だったらどうかな?」
ナット「どうかなって何だよ」
アテナ「確かにそんな風には聞こえましたけど、それにしては音がやたら大きかったような・・・」
シド「肺活量の大きい生物は意外とたくさんいるよ」
ニーナ「何、それじゃあ犯人は噂通りの化け物ってわけ?」
カトリーヌ「それにしては場所とか方法が意図的すぎるわよ。まさか偶然ってわけじゃないでしょ?」
シド「そうじゃなくて、犯人はその獣を使って殺人をしたんじゃないのかな」
ナット「それで体がバラバラになったり、焼け焦げたりするのかよ・・・どんな生物だ」
シド「そりゃただの生物ではないだろうけど・・・多分、犯人が生み出した変異種だと思うんだ」
ナット「オイオイマジかよ・・・」
シド「ケンが目を覚ませば確かめられるのになぁ・・・」
ナット「そんなんできたら苦労しねぇっての」
カトリーヌ「・・・じゃあ、そろそろ起こしに行こうか?」
カトリーヌ以外「・・・え?!」
その頃、フラップはクロックの寮部屋に来ていた。普段なら、調度昼休みが終わって午後の授業が始まる時間だ。2人はそこでこれからの行動について話し合っていた。
フラップ「どうする?校長は指示が出るまで寮から出るな、だとよ」
クロック「どうするもこうするも・・・出るしかないだろ」
あまりに緊張感のない口調でそう言うものだから、フラップは驚きを通り越して呆れてしまった。
フラップ「お前なぁ・・・今ここから出たら危険とかそれ以前に怪しまれるぞ?」
クロック「でも、校舎には僕達以上に危険にさらされてる人がいるんだ」
フラップ「・・・どういうことだ?」
クロック「僕が見た2人目の犠牲者だよ。彼は今、身動きがとれないどころか意識すらない状態で1人校舎に取り残されている。殺し損ねた人を再び殺しにやって来る
っていう可能性はある」
フラップ「そこは、教師もちゃんと考えてるんじゃないのか?」
クロック「それと、その人に話を聞きたいんだ。犯人にやられた時に何を見たのか」
フラップ「そいつは今意識がないんだろうが」
クロック「いや、大丈夫だ。彼が今意識がないのは恐らく・・・」
カトリーヌ「傷を早く治癒させるためにわざと眠らせてるのよ」
シクラメン「じゃあ、校長がいつ目覚めるか分からないと言ったのは・・・」
カトリーヌ「彼を無理に起こそうと考える奴が現れないようにでしょ。まぁでも、12日も経ってればだいぶ治ってるはずよ」
アテナ「それっていいんですかね・・・」
彼女は半ば呆れるようにそう言った。完治しきっていないうちにけが人を起こしてしまうのは、彼女にはうしろめたさがあった。
カトリーヌ「大丈夫よ。実際、先生達も完治したら目を覚まさせて状況を聞きだそうとしてるみたいだし。何より事態は急を要するんでしょ?」
ニーナ「で、どうやってケンを起こすの?叩き起こせるんならそれでいいんだけど」
シクラメン「いや・・・そんなことしたらそれこそ目覚めなくなっちゃいますよ」
カトリーヌ「恐らく薬剤を使ってるからねぇ・・・その道の人に協力してもらわなくっちゃ」
こうして、ニーナ達は薬剤科クラスの寮へ向かう事にした。
一方、二酒は寮部屋に戻ると携帯電話を手にしていた。普段はあまり使っていないのだが、非常時や日本にいる兄に連絡をとるために一応所持している。電話の相手は
二階堂だった。
二酒「で、そっちは順調に進んでるのか?」
二階堂「ええ、あとはちょっと調整するくらいよ」
二酒「じゃあ早速・・・そうだナ、明日の午後6時くらいに図書室に集合だ。そいつを持ってナ」
二階堂「随分急ね。状況が状況だしそんなに急がなくてもいいんじゃ・・・」
二酒「この状況だからだヨ。とにかく、明日それを使うからな」
二階堂「リサはどうするの?」
二酒「・・・お前が伝えてくれ。俺はできればアイツとは口を聞きたくないんだ」
二階堂「分かったわ」
そして、二酒は電話を切った。
次章、ニーナ達はケンの元へ辿り着けるのか!?
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