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第18章
2012/04/09(月)07:48:50(12年前) 更新
アルゴスが殺害されてから2日が経ち、ケンは現場の地下倉庫に向かっていた。現場の調査というよりは、アルゴスを弔うためだったのかもしれない。気がつけば、
身体は図書室に向かっていた。そして、いつの間にか地下へと続く階段を降りて、持っていた懐中電灯をつける。処理のしようがなかったのか、現場の血痕は見事に
残されたままだった。それを見ただけでもその時の状況の凄まじさは痛いほど伝わってくる。アルゴスは、どのような思いでここにやって来たのだろうか。アルゴスは、
どのような思いで殺されたのだろうか。ただ茫然と立ち尽くして、ケンはそんなことを考えた。彼の考えている事はやはり分からない。ケンが次に考えた事は、彼がその時
見ていた光景のことだった。つまりは、犯人と殺害方法である。この件に関しては、身体をバラバラにされてどこかに処理されたという説が生徒達の間で強かったが、
未だにその遺体は欠片の1つも見つかっていない。ケンは本当にアルゴスの遺体がバラバラにされたのかどうかに疑念を抱き始めていた。しかし、もっと別な方法で
彼を殺害したにしても、一体何をどうすればこのような芸当が出来るのか想像がつかなかった。しばらくその場に立ち尽くしていると、いつの間にか奇妙な音が響いてきて
いるのに気がついた。それと同時に、彼は背中に氷を流し込まれたかのような寒気を感じた。ケンは事件の翌日、ニーナから現場を発見した時の状況を聞いていた。
その時、やけに奇妙な音がしたのを強調していたのが記憶に新しかった。今聞こえているこの音は、まさにそれのことではないかと直感で分かった。犯人は現場に戻る。
ふとケンの頭にそんな言葉が浮かんだ。その通りだ。確実にその不気味な音は大きくなってきていた。ケンは急いで地下倉庫から出ようとする。しかし、震えた脚は
なかなか自分の言う事を聞いてはくれなかった。よろけながらも、ケンは地下倉庫を出る階段を目指す。その間にも不気味に響き渡る音はどんどん近づいてくる。
やっとの思いで階段に辿り着くが、段差に足を取られて思うように進めない。這いつくばりながらも何とか地下倉庫から脱出することが出来たが、あの音はまだケンの耳
まで届いている。しかし、ケンはそこから離れようという気持ちが徐々になくなり始めていた。むしろ、アルゴスが死んだあの場所から逃げ出してしまった事を恥ずかしく
思った。自分をはじめとする生徒や教師達が探していた答えがすぐそこにやって来ているのだ。アルゴスを殺した犯人を知る絶好のチャンスじゃないか。見届けなくては
ならない。それが彼の死を見届ける唯一の術のような気さえした。やがて、地下倉庫から振動が伝わって来た。恐らく階段を上って来ているのだろう。
ケン(・・・これって、まさか・・・?)
ケンの心には再び恐怖が込みあがって来ていた。同時に抱き始めた違和感のせいなのかもしれない。そして、その違和感の正体がついに姿を現した。
ケン(!!・・・こいつが!?)
ケン「・・・驚かないでほしいんですけど、その時そこから出てきたのは人間ではなかったんですよ」
ケンは最初、自分が殺されかけた状況をすぐに思い出せるかどうか不安に思っていたが、話を始めると同時に頭の中でその時の映像が次々と流れ込んできていた。
アテナ「え」
シクラメン「・・・どういうこと?」
ケン「要するに、あの噂は本当だったってことです。本当に地下倉庫には怪物が潜んでいたんだ」
ニーナ「冗談でしょ?」
ケン「でも、僕は確かにこの目で見たんです。その怪物の正体を」
シド「僕はその怪物は犯人が作りだした変異種で、それを操って殺させたとみてるんだけど」
ケン「僕もそう思います。あれを作って噂を流したんじゃないかと・・・」
ナット「でもそしたら30年前の事件は一体何なんだよ」
ケン「30年前・・・?」
そこでニーナ達は、30年前の事件との奇妙なリンクのことをケンが知らない事に気付き、大雑把にそれを説明した。
ケン「30年前に誰かが残していったモノ・・・その正体があいつってことですかね・・・」
ニーナ「・・・ところで、アンタの言ってる怪物って一体どんななの?」
不可解な事件だったわりにその答えが単純なものであったことに拍子抜けしていたニーナだったが、怪物の正体には一応興味があった。おじのネオ・コルテックスが
動物兵団を作り出していることから、怪物という響きには親近感のようなものがあるのかもしれない。
ケン「それは・・・一言で言ったらドラゴンです」
ケン以外「・・・ドラゴン?!」
シド「成程、君のその傷はドラゴンの爪にやられたんだね。今回殺された人だってそれで納得がいくよ。ドラゴンは炎を吐くんだから」
シクラメン「ちょっと待ってください、ドラゴンって実在したんですか?てっきり想像上の生物だとばかり・・・」
シド「もともとはそうだったんだけど、悪の科学者たちの実験によって本物のドラゴンが作りだされたと言われてるよ」
ナット「へぇ・・・さすがシド。この手のことには詳しいな」
シド「まぁね」
シドはここぞとばかりに誇らしげに胸を張る。そんなシドの余韻を妨げるかのようにカトリーヌが口を開いた。
カトリーヌ「じゃあ、最初に起きたアレは何なのかしら?制服だけを残して身体を消すってのは」
シド「それは・・・ほら、カトリーヌも言ってたろ?制服には大量のだ液がついてたって・・・だから、そのアルゴスって人は多分奴の腹の中だよ。一度口の牙で噛んでから
制服を吐きだしたんだ」
その時、その場にいた者全員がどんよりとした表情になった。
イデア「・・・ドラゴンって人間食べたりするの?」
シド「さぁ・・・でも、何を食べるか分からないからあり得なくはないよ」
ナット「だとしたら今頃あいつは消化されてウ○コになってるな」
ニーナ「・・・アンタ女の子の前のうえにこの状況でよくそんな冗談が言えたわね」
ナット「とにかく、犯人の手口はこれで分かったけど犯人はまだ分からねぇな。ケンは犯人も見たりしなかったのか?」
ケン「いえ、僕が見たのはドラゴンだけでした・・・」
そう言ったケンの脳内には、そのドラゴンの姿がありありと映し出されていた。
地下倉庫の奥から地響きをたててやって来たドラゴンは、ケンの身長の3倍以上にも及んでいるように見えた。紫色の皮膚が毒々しさを醸し出しており、鼻の先から伸びる角
や手足の鋭い爪はれっきとした刃物のように思える。たたんでいた蝙蝠のような翼を少し広げただけでも、ケンにはその大きさがさらに何倍にも増しているように感じた。
そのドラゴンの口からはあの不気味な音が漏れ出している。ドラゴンは呆気にとられているケンに目を向ける。その眼もやはり、彼の角や爪同様に鋭いものだった。
右目は潰れていたが、それが余計にこのドラゴンのおぞましさを強調している。蛇に睨まれた蛙、とはまさにこのことだろう。ケンはただそのドラゴンを見た時の体勢を
維持しているだけだった。そして、ケンはそこで納得してしまった。
ケン(ああ、そうか・・・俺はここで死ぬんだな・・・)
ドラゴンを目の当たりにする前、ケンは犯人を目にしたらどうするのだろうと客観的に思っていた。やはり憎悪が込み上げてきて、犯人に復讐しようとするのだろうか。
しかし、それは相手が人間だったらの話だ。怪物や動物といった類の生き物に殺されるのは、ある意味自然災害のようなものに近い。例えば地震や竜巻で友人を失った
としても、何かを恨むことはなくただ深い悲しみが残るだけだ。なぜなら、それは仕方のない事だと人間が納得しているからだ。今のこの状況もそれと似ていた。
大地震が起きれば死者が出るように、竜巻が起きれば死者が出るように、ドラゴンに遭えば人は殺される。そういうものなのかもしれない、と納得してしまったのだ。
アルゴスを失った今のケンには、死ぬことにさほど抵抗はなかった。いつの間にかドラゴンはケンの目の前までやってきて、鋭い爪をもった腕を大きく振ってきた。
胸に激痛が走り、血が身体から飛び出ていく不快感がケンを襲った。ドラゴンはもう片方の腕でさらにケンを攻撃する。再び胸に激痛と不快感が充満し、徐々に意識が
遠のいていく。息も苦しくなってきた。吸っても吸っても空気は切り裂かれた胸から抜けていく感覚がしていた。いつしか周囲の音は全く聞こえなくなり、視界も暗く
なっていった。
ケン「アルゴスは・・・ひょっとしたらあのドラゴンに興味があったのかもしれません」
アテナ「・・・どういうことですか?」
ケン「アイツは最近いつの間にか1人でどこかに行ってしまう事があったんです。今思えば、その時アイツはドラゴンの事を調べていたのかなと思って・・・」
ニーナ「そういえば、前にアンタがアタイらの所に来た時もそんなこと言ってたわね」
シクラメン「でも、その時はまだ事件すら起きていなかったのに何故ドラゴンが居ると分かってたんでしょう?」
ケン「さぁ・・・僕らには気付かなかった何かに気付いたんですかね」
ニーナはケンの言葉に何かひっかかるものを感じた。事件が起こる前のいつの日かの記憶を辿っていく。そして、頭の中でその時の記憶と同時に光るものを感じた。
ニーナ「そういえば、アタイは事件が起こるちょっと前にもあの音を聞いてたわ」
アテナ「え?」
それは調度クロックがワルワルスクール生徒として授業に参加した初日のことだった。クロックの様子を見に行くために機械科学室に向かう途中、廊下の地下からその音が
聞こえてきていたのだ。
カトリーヌ「ああ、その音ならアタシも聞いてたわよ。あれがそうだったのね」
ニーナ「要するに予兆はあったってことよ」
シクラメン「アルゴスさんもそういうのを読みとって独自に調べたと・・・」
ナット「というか、下手したら広まった噂とは関係ないものと思ってたのかもな。ニーナ達が聞いた日って確か噂が流行る前だったろ?」
ニーナ「ええ」
シド「それできっとある日気づいたんだ。そいつの居場所が地下倉庫だって」
ケン「その時アルゴスは犯人を見たんでしょうか・・・」
ナット「さぁな。けど恐らく近くには居たはずだ。奴を殺した後すぐにニーナがそれを発見したってことは、ドラゴンをどこかに隠す必要がある」
そうは言っても、ドラゴンをものの数秒で隠す場所などそこにあったのだろうか。しばらくニーナ達は思案を巡らせる。すると、ナットが口を開いた。
ナット「じゃあ、こういうのはどうだ。犯人はとっさにドラゴンを隠したんじゃなくて元々そこに隠す場所を用意してたんだ。例えばあそこに隠し部屋があったとしたら」
シド「成程ね。確かにあり得る。それだったらさ、30年前の事件とも繋がってくるんじゃないのかな?ドラゴンや隠し部屋は30年前に作られて、犯人はそれを復活させた」
ニーナ「30年前ねぇ・・・」
またしてもニーナにはひっかかる言葉だった。しかし、30年前の記憶などニーナにあるはずもない。
カトリーヌ「つまり30年前の事件が突然収まったのは、犯人がドラゴンを隠し部屋に隠したからってわけね」
ナット「にしてもそれから30年も見つからなかったなんてある意味すげぇな」
カトリーヌ「地下倉庫自体も進入禁止の場所だしね。当時の犯人もそれを考えてそこを隠し場所にしたんでしょ」
シド「しかし一体誰がドラゴンなんて作ったんだろうね。もう尊敬しちゃうよ」
ナット「30年前の奴なんか俺達が知るかよ」
彼の言葉にニーナは心の中で密かに反発する。30年前にドラゴンを作りだした人物は誰なのか。ニーナはその答えに着実に近づきつつあった。
ニーナ「・・・ねぇ、ちょっと行きたい所があるから移動するわね」
ナット「何だよ。あてでもあるのか?」
ニーナ「まぁそんなとこ」
そう言ってニーナは鋼鉄の腕についているボタンのようなものを押した。すると、ニーナの身体は瞬く間におぼろげになりシュバッ、という音を出してこの部屋から消えて
いってしまった。いわゆるワープというやつだ。
ナット「つーか・・・アレは今までにも使う場面はあったろうに」
カトリーヌ「まぁ、ワープ装置ってのは融通が利かないのよ。決められた場所にしか転送できないから」
その頃、クロック達は中庭からクレアの部屋の窓の下でケン達の話を聞いていた。マルクは思った以上に勘がいいらしく、振り切るのにはそれなりに時間がかかった。
どうにかマルクの追跡から逃れたクロック達は中庭の影に隠れていたのだ。そして、図らずもその中庭の一角にクレアの部屋があったというわけだ。遅れてやって来た
とはいえ、クロック達にとって重要な話題を聞き逃すほど遅れてしまったわけではないようだった。クロック達は壁に耳を当てて、耳に神経を傾ける。部屋の中からは
ケンが被害に遭った時の状況やニーナ達の推理が話されていた。クロックはそれを聞きとるのに集中しながらも、心の中ではある確信が生まれていた。
クロック(やっぱりだ・・・やっぱりこの事件を調べることは間違いじゃなかった)
そして、ニーナ達の推理を聞きながら自分の仮説を組み立てていく。クロックもまたこの事件の真相に急速に近づきつつあった。ある程度の考えがまとまると、部屋から
聞こえてくる声も遠くなっていった。どうやらニーナ達は部屋から出ていくようだ。
フラップ「・・・中の奴らはいなくなったようだぞ。どうする、入るか?」
クロック「いや、もう充分話は聞かせてもらった。あまり彼に問い詰めても大変そうだしなぁ」
ケン「気を遣ってくれてどうも」
クロック「いやいや・・・って、え?」
見上げると、窓からケンがこちらを見下ろしていた。
クロック「・・・ばれてた?」
ケン「さっきカトリーヌさんが去り際に教えてくれたんです。こっちにも話を聞いてた人がいるって」
クロック「なかなかやるなぁ・・・さすがはワルワルスクールの生徒だ」
ケン「見上げてる人に上から目線でものを言われたのは初めてですよ。それはそうと、あなたは確か転校生でしたよね?トレジャーハンターの」
クロック「・・・それもカトリーヌって人から?」
ケン「そうです。もしかして、あなたはあのドラゴンを退治しに来たんですか?」
クロック「どうしてそう思うんだい?」
ケン「タイミング的に上手く出来すぎてるなと思って・・・転校生自体来るのが珍しいですから」
クロック「そうか・・・確かにそうだね。じゃあ、僕らはこれで失礼するよ」
ケン「ハイ、気をつけて」
クロック「そっちも」
クロックは手を上げてそう言うと、素早く寮に向かって戻っていった。
次章、まだまだ浮かび上がる衝撃真実!!
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