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第22章
2012/04/09(月)07:55:13(12年前) 更新
ドラゴンは、暗闇の中でニーナ達の熱が遠のいていくのを感じた。視界が完全になくなった今、その感覚はより一層研ぎ澄まされていた。確実に、ここにいた人物はもと来た
道へ戻っていくのが分かる。
ドラゴン(今更逃げようったって、そうはいかねぇぞ!)
ドラゴンは奥から漏れ出てくる熱を頼りにニーナ達の後を追う。一方のニーナは、クロックを引きづりながら隠し部屋の出口へ走っていた。腕を伸ばしてはしごの一番上に
手をかけ一気に上へあがる。皆が出ていくのを見てから、2つ目のはしごも同じ要領で一気に上って部屋を出る。ドラゴンもニーナを追おうと翼を広げた。
ナット「急げニーナ。パーシーが待ってる!」
ニーナ「パーシー?」
言われてみれば、いつの間にかパーシーの姿がない。恐らくナットが指示を出したのだろう。
ニーナ「アンタ何企んでんのよ?」
ナット「いいから図書室まで出るぞ」
ナットはそう言って地下倉庫の階段を上がっていく。それを見ていると、後ろから突風が起きたような音が聞こえてきた。ドラゴンが隠し部屋から出てきたのだ。ニーナは
急いでナットの後を追うように階段を上った。
ニーナ「来たわよ!」
ナット「ニーナ、こっちだ!」
見ると、ナット達は吹き抜けになっている空間に浮いているかのように在る階段に集まっていた。後ろからはドラゴンの足音が迫って来ている。ニーナは階段の手すりに
腕を伸ばして穴を跳び越え階段に着地した。それと同時にドラゴンも地下倉庫の階段から姿を現した。既にニーナ達の居場所を把握しているようで、ドラゴンはまっすぐ
ニーナ達の方に向かって翼を広げた。そして、ドラゴンは翼をはためかせ飛び立つ。その瞬間、ナットは叫んだ。
ナット「やれ、パーシー!」
ドラゴンはニーナ達に向かって一直線に飛んでくる。その時、ドラゴンの真下から奇妙な色をした何かが大量に放たれた。それは液体なのか、光線なのか、そうでなければ
オーラや波動といった類のものなのか、とにかく何かがドラゴンを包み込んだ。
ドラゴン(!!?何だ・・・こりゃ?!)
ドラゴンは奇妙な物体に包まれたまま図書室の底へ落ちていった。
パーシー「や、やった・・・」
何色ともいえない物体に包まれ落ちていくドラゴンを見ると、パーシーはその場に崩れ落ちるように座り込んだ。パーシーが作動させたのは、昨日ナットが作っていた装置
だった。ナットはイデアから透明化する薬を貰い、再び教師の監視を掻い潜り図書室にこれを仕掛けておいたのだ。ちなみに、ナットが作ったのは捕獲用の光線大砲で
この光線には触れたものの動きを鈍らせる効果がある。その中に閉じ込め捕獲したドラゴンをアンバリー校長に差し出す算段だった。
ナット「よし、後は奴を引き上げて校長に引き渡せばめでたしめでたしだ」
そう言ってナットは図書室の底へ降りていく。しかし、その途中で底からドラゴンの雄叫びが響いてきた。
全員「!!」
ナット「何ッ・・・!?」
何とドラゴンは不可思議な光線を振り払っていた。ドラゴンは翼を広げ、ナットに向かって一気に突っ込んできた。ナットは何とか直撃は避けたものの、壁の本棚まで突き
飛ばされてしまった。激しい痛みに耐えながらナットは考えた。ドラゴンはクロック戦の時にかなりの体力を消耗していたはずで、少なくともあの光線を自力で振り払う
ことはあり得ない。とすれば、あの瞬間に光線を無効化した人物がいるはずだ。恐らくそれが今回の真犯人だろう。しかし、ナットにはその人物を探す前に、ドラゴンが
目の前に迫っていた。ナットは立ちあがるが、足が痛んで思うように動けない。ドラゴンは容赦なくナットに襲いかかろうとした。その時、何の前触れもなく横から刃物が
伸びてきて、ドラゴンの鋭い爪を持った腕を弾いた。伸びた刀身をなぞるように見ていくと、その先にはデス・クラッシュがいた。
ナット「お前!何でこんなとこに・・・」
デス「こんな面白そうな事俺が見逃すわけないだろう。暴れさせてもらうぜ!」
そう言うとデスは剣を縮めて、ドラゴンの方へ駆け寄っていく。ドラゴンが腕を振ってくるのを避けると、その隙をついて刀身を伸ばしながら腹に斬りかかった。しかし、
ドラゴンの皮は非常に堅く、傷は浅かった。
デス(今のでそれしか斬れねぇのか・・・)
ドラゴンはすぐさま反撃し、デスは2、3歩退いた。すると、デスの後ろには本棚があり追い込まれてしまった。ドラゴンは尚も攻撃を繰り返してくる。デスは本棚に
張り付くようにして何とかそれを避けた。そしてドラゴンがさらに腕を振り上げたところで、デスは剣を伸ばした。
ドラゴン「!!」
一瞬のうちに伸びた刃はドラゴンの翼を貫いていた。すぐに剣を戻し、不意を突かれたドラゴンにさらに斬りかかる。しかし、ドラゴンはしっぽを振り回しデスを吹き飛ばす。
デスは吹き飛ばされながらも刀身を伸ばし反撃を試みるが、これはドラゴンの爪に弾かれてしまった。デスは立ちあがり、再びドラゴンの方へ行こうとしたが、デスの足元に
銃弾が撃ち込まれた。
デス「・・・!誰だ!?」
見上げると、視線の先にはダークネス・ダークが銃を持ってしたり顔で立っていた。
ダークネス「はーはっは!今日こそお前に積年の恨みを晴らしてやるぜ!」
デス「いや空気を読めーーー!!そこのデカブツが見えてねぇのか!!」
ダークネス「フッ、だからこそだ。この混乱に乗じてお前をメッタメタにしてやるのさ!」
ナット(その割には堂々と登場しやがったな・・・)
デス「何だと!調子に乗りやがって!」
こうして、デスとダークネスはここにきて取っ組み合いの大喧嘩(勿論一方的な展開だったが)を始めてしまった。
ナット「オイ何やってんだお前らァアア!!」
しかしナットの抑止も空しく2人はあっけなくドラゴンに殴り飛ばされてしまった。その時、上から怪しい液体が入ったフラスコが落ちてきた。それがナット達のいる地面に
当たると、瞬く間にその場が白煙で包まれた。
ドラゴン「ハッ、今更目くらましなんざ効くかよ!」
実をいうと、これはドラゴンの目くらましではなくデスとダークネスを引き離すための煙幕だった。これを投げたのは、ダーク・サファイアだ。ナットはダークネスを
引きずりながらダークの所までやってきた。
ナット「よぅ、お前までどうした」
ダーク「お前には関係ないだろ」
ただ、ニーナ達に30年前の話をしてからこの事件の事が気になっていただけの話だ。すると、ドラゴンがナット達の前まで飛んできた。ダークは懐から何かを取り出して
ドラゴンに投げつけた。それがドラゴンの腕に当たると、何と腕の皮膚が溶けだした。
ドラゴン「何!?」
さらに、ドラゴンの背後からはデスの剣が伸びてきてドラゴンの腕をかすめる。皮膚の溶けた腕には比較的深い傷がついた。
ドラゴン「チィッ・・・」
その頃、ニーナ達はクロックの簡単な手当てをしていた。全身に火傷を負っており、手持ちのものでは治せそうにない。とりあえず、ドラゴンから離れた場所に寝かせておく
ことにした。その時、クロックがいる先の扉が開いた。扉を開けたのは、イデア・メルシュムだった。
イデア「まぁ、この人ひどい怪我だわ」
アテナ「あなたは・・・!」
イデア「とりあえずこれを飲ませて」
そう言ってポケットから錠剤の入った瓶を取り出した。
ニーナ「アンタは何でここに来たわけ?」
イデア「ナット君が私の薬をくれって言ったから何に使うのかなと思ってね・・・」
そこでイデアは、薬を飲んだナットを追う事にしたのだ。そして、ナットは図書室に辿り着き怪しい機械を設置して戻ってきた。その時イデアは、図書室で何かが起きると
確信していたのだ。
イデア「でもまさかここにドラゴンがいるなんて思わなかったわよ」
その時、再び後ろの扉が開く。今度はムート・ドッグが入ってきた。
シド(まずい・・・見つかっちゃった)
ムート「・・・クロック!」
ムートはクロックの様子を見て動揺していた。次にムートが目にしたのが、下でナット達が闘っているドラゴンだった。
ムート「・・・そういうことか。こいつは保健室に運んでいくぞ。お前達もここから離れるんだ」
シクラメン「あの人たちはどうするんですか?」
ムート「大丈夫だ。もうすぐ校長がおいでになる」
そう言った瞬間、上からあの甲高い声が響いてきた。
ナット「!まさか・・・」
全員が天井を見上げる。すると、天井からはアンバリー校長が物凄い勢いでこちらへ急降下してきた。
アンバリー「アンタがうちのかわいい生徒達を傷付けた奴ね?お仕置きの時間よ!」
そう言うと、アンバリーは右手から電撃を放った。それを喰らったドラゴンはしばらく悶絶していたようだが、すぐに炎を吐いて反撃した。アンバリーは先ほどとは逆に
急上昇してこれを避ける。やはり今回もロープで身体を支えているようだ。
アンバリー「あなた達も逃げるのよ!」
ナット「オイそれって・・・俺達も校長の攻撃を避けろってことかァ~!?」
そう叫んだ直後、アンバリーの両手から大きな電気の塊が現れて、そこから大量の雷が落ちてきた。無差別攻撃にも程がある。
デス「くっ!」
デスは反射的に持っていた剣をドラゴンに投げつけた。雷は金属に落ちやすいからだ。デスの剣はドラゴンの背中に突き刺さり、さらにそこへ複数の雷が落ちてきた。
ドラゴン「ぐあああああ!!」
ドラゴンは何とか電撃に耐え、背中に刺さっていた剣を抜き取った。アンバリーは更に電撃を繰り出す。しかし、ドラゴンは剣を投げて電撃をそこに誘導した。さらに、
その剣はアンバリーを支えていたロープを断ち切った。
アンバリー「あら、意外と頭もきれるのね・・・」
そう言うと、アンバリーは再び急降下していった。
クロックを保健室まで送ったニーナ達は、図書室の様子が気がかりで仕方なかった。校長はともかく、ナット達があの場に残っているとしたら、今頃文字通りの修羅場に
巻き込まれていることだろう。
ニーナ「っていうか、あいつらがあの場から逃げるとは思えないわ」
シド「でも、どうするんだよ?」
カトリーヌ「1つだけ案があるわ。ね、伯爵?」
ムート「ああ・・・まぁ、かなりの賭けにはなるがな」
その時、保健室の窓の外から何かのエンジン音が聞こえてきた。
カトリーヌ「来たわね」
マーク「お前一体何を企んでるんだ」
カトリーヌ「人聞き悪いわね。私もドラゴンを倒すために色々考えたんだって」
メドロ「やぁ、ここにいたんだね」
カトリーヌが開けた窓から顔を出したのは、エアバイクに乗ったメドロ・コントラだった。
シド「君は・・・メドロ!?」
イデア「・・・一体どういう事なの?」
カトリーヌ「要するに、彼の作ったアレでドラゴンを誘導するのよ」
アテナ「おとり作戦ですか?」
カトリーヌ「まぁそんなとこね・・・ってことで、宜しく頼んだわよ。ニーナ」
ニーナ「・・・いや何でぇぇぇえええ!!?アイツがやるんじゃないの!?おとり役」
カトリーヌ「まぁそうなんだけど、さすがに1人じゃ不安じゃない。ここは多くの実戦経験を持つニーナも・・・」
ニーナ「誰がこいつと仲良くおとり役なんてするかぁぁあ!」
メドロ「そんなこと言うなよ。せっかくもう1台作ったんだから」
ニーナ「つーか何でアンタはおとり役にそんなノリノリなの」
メドロ「まぁ大丈夫。何とかなるって」
メドロ以外(こいつ、ポジティブにも程がある・・・)
一方、図書室ではアンバリー校長が図書室の底へと落ちてしまったことで、ナット達がドラゴンの標的となっていた。ドラゴンはデスやダークの攻撃を避けつつ襲いかかる。
その時、不意に図書室の底から電気が伸びてきた。その電気は図書室の足場全体へ流れていくようだった。
ドラゴン「何だ?」
すると、階段が少しずつ動き出し足場がなくなっていった。この図書室は、実はアンバリー校長の電流によってレイアウトを変えることができる造りになっていたのだ。
ダーク「アンバリーめ。一体何をする気だ?」
ナット「つーか俺達の足場もなくなってきてるぞ!」
ナット達は足場がなくなる前に、唯一床が動いていない最上階の足場に移動した。その時、最上階の扉から何者かがやってきた。
ナット「あ、お前は・・・」
さらにその直後、今度は1階の扉を突き飛ばしながら物凄いスピードで何かが入ってきた。エアバイクに乗ったメドロとニーナだ。結局ニーナもおとり作戦を実行することに
なったようだ。
メドロ「おぉ、どうやら僕らが動きやすいように校長先生が図書室を整理してくれたみたいだよ」
ニーナ「そんでどこに誘えばいいわけ?」
すると、2人の耳にはイヤホン越しにカトリーヌの声が聞こえてきた。
カトリーヌ「まずはドラゴンを挑発して、図書室の天井まで誘うのよ。後はそこを突っ切っちゃって」
ニーナ「ハァ!?天井を突っ切るってどういうことよ?」
カトリーヌ「もうすぐ分かるわ。とりあえず挑発ヨロシク」
仕方なく2人は上にいるドラゴンの方へ向かった。しかし、ドラゴンはナット達への攻撃でこちらには一切向かってこない。ナットはドラゴンの後ろにいるニーナ達を見ると、
作戦を察したのかニーナの乗っているエアバイクに飛び乗って来た。
ナット「ヘイ、アホドラゴン!こっちだ!」
ドラゴン「んだと!?」
ニーナ「ちょっと!危ないわねぇ!」
ナット「何だよせっかく機転を効かせてやったのに」
ドラゴンはニーナとナットに向かって勢いよく飛んでくる。ニーナはエアバイクを急発進させ、一旦下降してドラゴンの攻撃を避けた。
ナット「メドロ!お前も何かちょっかい出せよ。挑発するんだろ?」
メドロ「よし・・・」
すると、メドロはエアバイクで一直線にドラゴンの方へ突っ込んだ。
ドラゴン「ぐふぁっ・・・ってめぇ!」
ナット(それは流石に無茶じゃねぇの?!)
ドラゴンはメドロに向けて炎を放ったが、メドロはドラゴンとぶつかった反動を使って後ろに急発進してそれを避けた。
ニーナ「まぁ、こんなもんでしょ」
その時、図書室の天井近くの空間が突如じりじりと音をたててゆがみ始めた。黒ずんだ空間のゆがみは円状にどんどん広がっていき、図書室の天井を埋めつくしてしまった。
ニーナ「何アレ?!」
リサ「くっついたんだヨ。元はバラバラだった空間がネ!」
無邪気な笑い声と共にそんな声が聞こえてきた。図書室の最上階には二酒、二階堂、リサの3人が正三角形を形作るように等間隔の場所に設置した機械の上に立っていた。
二階堂「相変わらず変な言い方ね・・・」
要するに、3人が共同して作っていたのは空間結合型のワープ装置だ。3つの装置が離れ離れになっている空間同士を結合させることでワープを可能にするものだ。
リサ「でもまさか弦ちゃんもまったく同じものを作ってたなんて思わなかったヨ」
リサは二酒の口調が余程気に入ったのか、未だに彼の口調を真似している。それに対して二酒はあくまでもリサを無視し続けている。しかし、二酒はニーナを見て確かに
口を開いた。
二酒「・・・今回は特別だ。さっさと行けヨ」
カトリーヌは恐らくこの3人の行動を知った上で、この作戦を考えたのだろう。二酒もそのことに勘づきながらも作戦に協力することにしたようだった。ドラゴンがニーナ達
に向かって飛んできた。ニーナ達はエアバイクを操って歪んだ空間に向かって一気に突っ込んでいった。その後を追って、ドラゴンもその輪をくぐっていく。
リサ「いつかこれが未来に繋がればいいな・・・」
二酒「・・・俺はむしろ過去に行きたいヨ」
二階堂「二酒さん・・・」
3人は黙って歪んだ空間の奥を見つめ、ニーナ達を見送った。
次章、ついに物語はクライマックスへ!!
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