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第3章
2012/04/21(土)09:53:56(12年前) 更新
苦しかったお仕置きの時間もようやく終わり、心身ともに憔悴しきった彼らは最後の力を振り絞って自らの寮を目指していた。全員残らず未だに体のしびれが残っており、その動きは何ともぎこちない。
エヌ・ジンに至っては、コルテックスに肩を抱えてもらってやっと歩ける状態だ。
ジン「すみませぬ・・・拙者が不甲斐ないばかりに・・・」
コル「相手が校長なら仕方ない。それより、戻って実験の続きをしなくちゃ・・・」
ジン「今日はもうお休みになった方がいいですよ・・・こんな状態では実験にも身が入らないでしょう」
コル「いや、それはできない・・・一刻も早く研究を進めなきゃ間に合わないんだ・・・」
そう、コルテックスの卒業研究は、未だにレポートの作成も始まっていない状態だった。特に今回のコルテックスの計画は上級生の中でも割と大きな計画だ。この調子では卒業までに発明品やレポートを完成させることは難しい。
ジン「そうですか・・・しかし、残念ながら拙者は今夜は協力できそうにありませぬ・・・」
確かに、身体がしびれてまともに手を動かすことができない今のエヌ・ジンには、それは酷なことかもしれない。
コル「そうか・・・なら仕方ないな・・・僕とブリオだけでも・・・」
すると、エヌ・ジンはここで何かを思いついたような表情をした。
ジン「・・・そうだ。拙者は参加できませぬが、代わりに腕の確かな者を紹介します。今日はその者にも協力させるのはどうでしょう?機械の技術だけで言えば、拙者とほぼ同等かと思います」
コル「成程、お前と同等か・・・そいつは興味があるな」
そんなことを話していると、やっとの思いで寮の入り口までたどり着いた。入り口に入った瞬間、その帰還を待ちわびていたかのようにラングレーが走ってきた。
ラン「コルテックス様、大丈夫ですか?!居残り授業を受けておられると聞いて心配しておりました・・・!」
コル「ああ、大丈夫・・・そうだ、お前は確か薬剤クラスだったな?僕の寮部屋に来るようにブリオに伝えてくれないか?」
ラン「お任せください。実験をするんですね?・・・あの、もしよかったら、私もその実験に協力させていただいてよろしいでしょうか・・・!」
コル「あぁ、まぁいいだろう」
ラン「やった、ありがとうございます!では早速お呼びしてきますね♪」
そう言うとラングレーは嬉々として薬剤科学クラスの寮のある左の道へ歩いていった。
ジン「それでは、拙者もあの者に話をしてきます」
コル「もう1人で歩けるのか?」
ジン「ええ、心配いりません」
エヌ・ジンの言葉を聞くと、コルテックスはゆっくり彼から肩を離した。彼の動きはまだぎこちなかったが、ゆっくりと確実に機械科学寮がある右の道を歩いていった。コルテックスも、3つの分かれ道の前方の道を進んでいった。
生物科学クラスの寮は、この先にある食堂を経由して右に曲がったところにある。ちなみに、反対方向に曲がれば自然科学クラスの寮だ。コルテックスもゆっくりと寮を目指していき、ようやく自分の寮部屋の扉を開いた。
談話室。寮の扉を開けるとまず目に飛び込んでくるのが、この部屋である。ここでは同じ選択クラスの者同士の交流を目的とされており、そこから個人個人の寮部屋へとつながっている。
機械科学クラスの談話室では、1人の少年がソファーにだらしなく座りながら、何をするわけでもなく虚ろな目で天井を眺めていた。ボサボサな白髪頭が特徴的なこの少年は6年生のワット・サぺルだ。
サぺ「はぁ~・・・暇だなぁ~・・・な~んもすることないや・・・」
ふいにそんな言葉を漏らした。そんなことを言ってはいるが、この学校にも多少の宿題などの類のものは存在する。勿論今の彼にもそれが全くないわけではないのだが、彼が言っているのは自分のやりたい事、という意味である。
彼には特にこれといって定着した趣味や目標などもなく、ただその場で思いついた遊びをしてその日の暇を潰していく淡白な毎日を過ごしていた。だから、運悪くいい遊びを思いつかなかった日は苦痛さえも感じていた。
そして、厄介なことに今日がまさにその日だった。
サぺ「あ~あ、な~んか楽しいことないかな~」
その時、談話室の扉が開いた。扉を開けたのは、ワットの元同級生のエヌ・ジンだ。彼は今では飛び級を果たして最上級生となったが、今でもたまに雑談をしたりする程度の仲は保っている。
サぺ「お、エヌ・ジン」
ジン「その顔、どうやら相変わらず暇なようだな。丁度いい・・・今からコルテックス殿の実験に協力してやってくれないか?」
サぺ「ふ~ん・・・どんな?」
ジン「コルテックス殿は今、進化光線を用いて生物兵器を作る研究を進めているのだ。その機械の調整の手伝いを頼みたい。お前の腕を見込んで言っているのだ。嫌とは言わせんぞ?」
サぺ「ったく、エヌ・ジンも相変わらず強引だな~・・・分かったよ。ちょっと面白そうだし、その実験、参加させてもらうよ」
ジン「うむ、頼んだ」
一方、コルテックスは自室で1人実験の準備を整えていた。すると、突如背後から男の声が聞こえてきた。リドリーだ。
リド「よぉ、頑張ってるようだな」
コル「・・・うわっ?!なっ、お、お前ッ、いつの間に?!どこから入ってきたッ・・・!?」
リド「ちゃんと扉から入ってきたさ」
リドリーはコルテックスの反応をからかっているのか若干口元が緩んでいるように見える。
コル「・・・ってかお前、僕のことを勝手に言いふらしてるみたいじゃないか・・・」
リド「言いふらす・・・?心外だな。俺はただ聞かれたから答えただけさ。誠心誠意な」
コル「・・・で、今度はいったい何をする気なんだ?こんなところに来て・・・」
リド「いや、ただの見学だ」
リドリーは冗談とも本気ともつかない口調でそう言ってきた。
コル(コイツ・・・僕をおちょくってるのか?)
すると、寮部屋の扉が開いた。入ってきたのはブリオとラングレーだ。
ブリ「来ましたよ~ってあれ?貴方はリドリーさんじゃないですか」
ラン「ああ、この前はお世話になりました」
リド「丁度いい、お前からも自分でコイツのことを聞いてきたのだと言ってくれ。コイツが情報を言いふらしてるってうるさいんだ」
リドリーがラングレーに向かってそんなことを言うと、彼女は急に表情を険しくしてリドリーを睨んだ。
ラン「・・・おい、コルテックス様をコイツ呼ばわりするな」
リド「おっと、俺としたことが迂闊だった。すまんすまん」
彼は前髪で目が隠れていて、彼女の視線が分からないからそれほど余裕でいられるのだろうか。そうでなければ不自然に思うほど彼女の形相は恐ろしいものだった。
コル「おい、こんなところで暴れてもらっては困る。とにかく今は実験のことに集中するんだ」
すると彼女は重大なことに気が付いたかのような反応をした後、コルテックスに向かって素早く頭を下げた。
ラン「・・・!申し訳ありません!」
コル「まぁいい、後はエヌ・ジンが言っていた奴だけか・・・」
すると、噂をすればコルテックスの部屋の扉が開く音がした。勿論、入ってきたのはワット・サぺルだ。
サぺ「うぃーっす。エヌ・ジンの代理で来ましたー。ワット・サぺルで~す」
何とも軽いノリの挨拶に加え、彼の気だるい目がコルテックスたちに不安を誘う。
コル「・・・成程、ワット・サぺルな・・・それじゃ、早速実験を始めようか」
コルテックスはそう言うと、早速エヴォルヴォレイ装置の改良を始めた。
コル「早速だがワット、お前の実力を見せてもらうじゃないか。ここの部分をこの設計図通りに改良してくれ」
そう言ってワットに事前に書き込んだ設計図を渡した。彼はしばらくそれを眺めてから口を開いた。
サぺ「・・・わっかりました~」
やはり彼の返事にはあまり期待できないでいたが、そんなコルテックスとは裏腹にワットは実に手際よく改良を進めていった。
サぺ「は~い、できました~」
コル「早っ・・・!もう?!」
急いで確認してみると、確かに装置は完璧に設計図通り改良されていた。その様子を見てリドリーが微笑を浮かべながら口を挟んできた。
リド「成程、エヌ・ジンの目は確かだったということだな」
コル「・・・確かに、機械技術”だけ”は同等だと言ってたあたり、流石エヌ・ジンだな」
コルテックスは皮肉交じりにそう言った。ワットは相変わらず気だるい表情で答える。
サぺ「・・・ま、一応褒め言葉として受け取っときますよ」
一瞬だけ沈黙が流れた後、コルテックスがため息をついてから口を開いた。
コル「・・・さて、それじゃあ準備も整ったし、実験を始めるぞ」
そう言うと、コルテックスは装置のモニターを見ながら操作を始めた。
ラン「コルテックス様、何か私にも手伝えることはありますでしょうか?」
コル「えっと、そうだな・・・じゃあ、要らない部品をそこの収納スペースにしまっておいてくれないか?」
ラン「はい。分かりました!」
ラングレーは乱雑に置かれた部品の数々を手際よく運んでいく。一方、作業が終わって手が空いたワットは、退屈そうに部屋全体を見回していた。
サぺ「う~ん、暇だなぁ~・・・誰か面白い話でもありませんかねぇ?」
コル(コイツ・・・マジで空気読めよ・・・!)
コルテックスにはそんな悠長なことを言っている暇は勿論ない。機械の画面を見て、その反応に集中しなければならなかった。しかし、意外にもワットの問いに応える者がいた。リドリーだ。
リド「それなら、最近あった世界のニュースにでも目を向けてみないか?」
やはり、この男は自分の実験を邪魔しにやってきたのだろうか。コルテックスの不信感は募るばかりだ。
サぺ「成程、一応聞いときましょうかね」
ワルワルスクールは世界全体から孤立しているような場所にあるため、世界で起こった事件や情勢などの情報は、それほど頻繁に入ってくるものではなかった。故に、存外この場にいる全員が全く興味のない話題というわけでもなかった。
リド「ついこの間の話だ。日本で世界最大規模の航空機墜落事故が起きたらしい。その時の乗員は合わせて524人だったが、生き残ったのはわずか4人だそうだ。何でも機体の一部が突然爆発を起こしたらしいが、原因は不明らしい」
ブリ「へぇ~・・・そんなことが・・・」
世界でそんな大きな事故が起きても、ここにはその噂さえ立たないあたり、地理的な意味だけでなくワルワルスクールはやはり世界から孤立しているのだと改めて感じさせられた。
リド「・・・と、これだけなら大して面白味もない、本当にただのニュースだったんだがな。これは表向きの話だ」
サぺ「へぇー、何か面白いことでもあったんですか?」
リド「同じ日、日本では自衛隊によるミサイルの発射実験がひそかに行われていたんだ」
その言葉を聞いた瞬間、皆の表情が一瞬固まった。それまで実験に集中していたコルテックスでさえも、その言葉には驚きを隠せなかった。
リド「実験はちょうど航空機が飛行していた夕方ごろに行われた。その実験では、夕焼けに同化して見にくいように、オレンジ色の的が使われていたらしい」
ブリ「で、でも・・・いくら自衛隊でも流石にそんなミスはしないんじゃないですかねぇ・・・」
リド「その事故が起きた航空機は日本インター321便だったんだが、日本インターの飛行機ってのは下半分は塗装がなく金属の銀色のままだったのさ。銀色ってのは周囲の色と同化しやすい」
ラン「それでも、もっと他に原因は考えられないのか?例えば、整備のミスとか・・・」
リド「俺の知る限りでは、その航空機の整備は万全だったし、事実その事故が起きる直前までは順調に飛んでいた。となると、まぁこれしか爆発の原因は考え付かないわけだ」
知る限り、という言葉は他の者であれば何とも頼りないものだっただろうが、何故かリドリーのその言葉には確信めいたものが感じられた。
リド「しかし日本政府はこの事実を公開していない。ま、当然だろうがな。今は隠ぺいのために記録を書き換えるのに必死らしいぞ?日本人ってのは変なところにマメだよな」
サぺ「成程、そりゃあ確かに滑稽な話だ」
リド「で、結局政府はその原因を整備ミスってことにしようとしてるらしいが、もっとおかしなことに今日本でバッシングを受けてるのが、政府でも整備士でもなくその航空機を操縦していた機長だってことだ」
コル「・・・まぁ、大して何も考えもせず、簡単な結論に流れるのは愚民どもの性だからな」
とうとう実験を進めていたコルテックスも口を挟んでしまった。コルテックスはそれを言ってから少し後悔した。何故だか、リドリーに敗北してしまったような気がしてならない。
リド「そうだな、今頃機長の家じゃ常に電話のコールが鳴り響いてるだろう」
ブリ「それは家族の人も大変でしょうねぇ~・・・」
コル「フン、子供がいたらグレなきゃいいがな・・・って!」
彼はいつの間にやらエヴォルヴォレイ装置が特異な反応を示していることにようやく気が付いた。装置の画面は赤く染まり、警戒音らしき音を鳴らしながらその体を身震いさせていた。
コル「くっ、何だ・・・何がまずいんだ・・・?!」
コルテックスは必死に立て直そうとするが、状況は悪化するばかりだ。そして、ついに力尽きたようにエヴォルヴォレイ装置の動きは停止してしまった。
サぺ「あ~あ・・・」
ラン「あ~あじゃない!お前が何かやらかしたんじゃないのか!?」
コルテックス以上に憤慨するラングレーは勢いよくワットに掴みかかった。
サぺ「いやいやいや!俺はちゃんと設計図通りにやりましたって!」
すると、部屋の隅でその様子を見ていたリドリーが小さく声を漏らした。
リド「・・・中の部品が1つ外れているな」
コル「何・・・?」
リド「恐らく今の振動で奥の部品が外れてしまったんだろうな。あれはこの装置ごと持ち上げて下から取り付けるしかなさそうだぞ?」
ブリ「こんな大きな装置を持ち上げるなんて・・・無理があるでしょう・・・」
低学年のころから改良に改良を重ねてきたエヴォルヴォレイ装置は、最早大人数でも持ち上げることは難しいほどの重量と大きさになっていた。そもそも、この装置は持ち運びのことを全く想定していなかったため、持ちやすそうな部分もかなり少ない。
ラン「あたしの力なら持てないこともないですが、反対側にもう1人持つ人が欲しいところですね」
彼女は力の強さには自信があったが、どんなに力を持っていても、これだけ大きな物を持つには1人だけではバランスが悪すぎる。
コル「・・・仕方ない、アイツの手を借りるか・・・僕は自然クラスの寮に行ってアイツを連れてくる。皆はそこで待機しててくれ」
そう言ってコルテックスは自室を出ようとしたが、不意にリドリーの方に振り返って付け足した。
コル「お前はもう出てっていいぞ?というかもう帰れ」
リド「冷たいな。俺が助言してやったんじゃないか」
コル「お前が妙な話をしなきゃあんなことにはならなかった」
リド「・・・まったく、仕方ないな。じゃあここらでお暇するよ」
そう言ってリドリーが部屋を出ようとすると、不意にワットが彼に話しかけた。
サぺ「まぁ今日の話は面白かったですよ。よかったらまた話を聞かせてください」
リドリーは一度立ち止まってワットの方を向き、静かに笑ってから言った。
リド「・・・そうか、それはよかった。俺はリドリー。知りたくなったことができたら何でも聞け」
そう言い残してリドリーは部屋を去っていった。
一方、コルテックスは自然クラスの寮へとやってきていた。扉を開けると、自然クラスの談話室が広がる。どこのクラスの談話室もまったく同じ間取りではあるが、微妙なインテリアの違いでも案外印象は変わるものである。
見慣れない家具の配置に少々違和感を覚える。コルテックスはさらに奥へ進み、上下に続く階段の前までやってきた。この先にあるのが、それぞれの生徒の寮部屋である。上には6階、下には地下6階までそれが広がっている。
コル「えーっと、確か奴の部屋は地下4階だったな・・・」
コルテックスは下に続く階段を下り、地下4階にある扉を開けた。その扉の上には6年生と書かれた札が掛けられている。基本的には1度入学した時に決められた寮部屋で固定されるため、今年はこのような配置になっている。
そこを過ぎてしばらく歩いた後、ある扉の前を向いて立ち止まった。コルテックスはその扉をやや雑にノックする。
コル「お~い、ロバート!僕だ。いるか~?」
すると、そのドアはコルテックスを押しつぶそうとするかのように攻撃的に開いた。扉を開いたロバート・レットマン・オックスの表情もなかなかに攻撃的なものだった。かなり巨大で、筋肉も隆々とした牛の怪物だ。
特注で購入したという彼専用の制服は、今にもはち切れんばかりである。どうせ特注なら、もう少しゆとりのあるものを作らせればよかったのではないか、とは敢えて突っ込まなかった。
ロバ「何だコルテックス、おいどんに何の用だ?!くだらない用なら帰ってくれ!」
いきなりの剣幕に、コルテックスも思わず一歩後ずさりしてしまう。
コル「そ、そんなに怒るな・・・ほら、困ったときはお互い様って言うだろ?」
ロバ「お互い様?お前がおいどんに一体何をしてくれたって言うんだ?!」
コル「勿論お礼はする。だから頼む、お前以外に頼れる奴はいないんだ・・・!」
コルテックスは決死の思いで頼み込んだ。その言葉を聞くと、ロバートは少しの間考え込む素振りを見せた。
ロバ「・・・フン、そこまで言うんなら、頼みと礼を聞かせろ。その内容次第では考えてやる」
コル「まず頼みたいことは、訳あってエヴォルヴォレイ装置を持ち上げなきゃならなくなったんだ。お前の力があれば、それができるだろう?」
ロバ「フン、まだそんなもんをやってたのかお前は・・・おいどんはアレは嫌いだ・・・」
そう言うロバートは、何か苦い薬でも無理やり飲まされているかのような表情だった。
コル「そう言うな。で、報酬だけど、実は最近いいものが手に入ってな・・・霜降り肉のしかも和牛だ」
それを聞いた瞬間、ロバートの目が変わった。彼は牛であるが、牛肉は普通に食べる。
ロバ「何ッ・・・お前、一体何処でそんなものを・・・そんなの食堂で手に入る代物じゃないぞ・・・!」
コル「たった装置を持ち上げてるだけでそんな飯にありつけるんだ・・・いくらアレが嫌いでもお釣りがくるだろう?」
ロバ「むぅ・・・貴様の言うことが本当ならな・・・」
コル「安心しろ。その点は保証する」
ロバートは、少し間をおいてから答えた。
ロバ「・・・わかった」
時を同じくして、会議室では新人役員のセドリック・スープラの紹介も終わり、本格的に予定会議が開かれていた。
セド「・・・ひぇ~、ワルワルスクールってこんな金かかってたんですねぇ。薄々わかってたけど予想以上だ・・・」
手元に配られた予算の資料を読むとセドリックは驚嘆の声を上げた。
アン「フフ、みんな最初はそんな反応するのよね~」
シン「そうそう、私もレイリーも最初はそんな感じだったわねぇ」
シンシアはセドリックを見て少し懐かしそうにそう言った。恐らくレイリーも同じ気持ちだろう。
アン「で、これを踏まえて何か要望とか質問はないかしら?」
すると、ここで手を上げるものが現れた。美術教師のアルフレッド・ファレスである。
アン「あら、アルちゃん、何かしら?」
アル「校長、僕が使っている赤い絵の具の在庫が切れそうなのですが・・・また発注してもらってくれませんかな?」
アン「えぇ?この前補充したばかりじゃない?」
アル「アレだけでは到底僕の感情を表現しきるには足りませんよ。もう少し美術の絵の具代に予算を分けてもらいたい」
ニー「それは無理があるだろう・・・ただでさえ科学分野の予算もギリギリなんだ」
ザヌ「だいたい学校の予算を使って自分の絵を描くなよ・・・それくらい自費でやれ自費で」
ニークリスとザヌサーが矢継ぎ早にそう口を挟んだ。当然ながら校長も2人と同意見のようである。
アン「そうよ、このお金は趣味のために使うものじゃないの。だから我慢してちょーだいね?」
アル「うーん、それなら仕方ないか・・・残念だ」
アレ「校長、俺にも話がある」
何故か機嫌悪そうにアレクサンドロがそう言いだした。
アン「どうしたの、アレクサンドロちゃん?」
アレ「俺の部屋から部品を盗んでいく輩がいる。最近は特にひどい。部屋にセキュリティ装置を付けてもそれを掻い潜ってきやがるんだ」
それは、様々な金属、部品を扱う機械科学の教師の宿命でもあった。毎年機械科学クラスには多額の損害が出ており、これには学校側もほとほと困らされていた。
アン「それは厄介ねぇ~・・・誰がやったか分かったの?」
アレ「ネオ・コルテックスとかいう奴だ。今日居残り授業に送り込んでやった」
アン「ああ、そういうこと・・・じゃあ、まずは彼にその方法を聞いてみようかしら?アレクサンドロちゃんのセキュリティを掻い潜るなんて、ちょっと興味あるし」
アレ「ぜひともお聞かせ願いたいもんだ」
アン「・・・さて、じゃあ時間も時間だし、今日はこのぐらいにしておきましょうかね。皆さん、お疲れ様でした」
教師「お疲れ様でした」
こうして、今日の会議は解散した。
その頃、ロバートを連れたコルテックスは再び自室に戻ってきた。中ではブリオ、ラングレー、ワットの3人が話をしながら待っていたようだ。
コル「連れてきたぞ」
ラン「お帰りなさいませ、コルテックス様」
ラングレーは深く礼をしてコルテックスを迎える。一方、ワットはその隣にいるロバートに反応を示した。
サぺ「・・・うわ、何ですかそのでかいのは?」
コル「ロバート・レットマン・オックス。僕が作った牛の進化生物だ」
ロバ「おい、変な説明はやめろ。おいどんはお前に作られた覚えはない」
コル「まぁ何でもいい。とにかく、早速そこのエヴォルヴォレイ装置を持ち上げてもらおう」
ラン「はい」
ロバ「フン、仕方ない」
そう言うと、2人は向かい合うようにして装置を掴み、軽々とそれを持ち上げた。コルテックスはその下へ入り込んで取れてしまった部品を付け直す。
コル「・・・よし、これで直った。もう1回実験するぞ」
彼は装置の下から這い出てくると同時にそう言ってきた。
ロバ「・・・これでおいどんの役目は終わったな。で、報酬の件は?」
コル「ああ、それならそこの冷蔵庫に入っているぞ」
コルテックスはそう言って、部屋の隅にある小型の冷蔵庫を指差した。ロバートはその扉を勢いよくあける。その中には、確かに高級そうな牛肉が置かれていた。
ロバ「・・・ほぅ、お前にしては良心的じゃないか」
そう言ってロバートは満足げにその牛肉を取り出した。その様子を見てワットが口を出してきた。
サぺ「・・・ってか牛が牛肉を食べるって共食いじゃん」
ロバ「おいどんが牛肉を食べて何が悪いんだぁ!」
ロバートは不満げな表情でワットを激しく睨む。
コル「・・・あまり奴を刺激しない方が身のためだぞ?それより、実験再開だ」
そう言うと、コルテックスは再び装置を操作し始めた。今度こそ画面に集中して順調に操作していく。先ほどのような警報もない。そして、ついに実験は佳境に突入した。
コル「来るぞ・・・!」
その直後、実験終了を知らせる機械音が部屋に鳴り響く。コルテックスはすぐさま中の被験体を確認した。今回はコウモリと犬の合成実験だ。以前の実験でも合成には成功しているあたり、この手法を使っていく方が近道になる予感がしていたのだ。
そして、その結果を見てコルテックスは笑みを浮かべた。見ると、2つあった生物は見事に1つの姿へと変貌していた。犬の背中にコウモリのような翼が生えた面妖な姿だった。その姿を見た他の者も皆感嘆の声を上げている。
ブリ「おお・・・!ついにやりましたねぇ・・・!」
ラン「よかったですね、コルテックス様!」
サぺ「これはすごいですねぇ~」
コル「ああ、これでようやく希望が見えてきた・・・!」
気が付くと、窓の外では雲から徐々に月の光がさしてきていた。
次章、物語は徐々に足踏みをし始める・・・
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