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第4章
2012/05/07(月)18:31:25(12年前) 更新
昨日の雨も収まり、夜が明けるころにはすっかり爽やかな青空になっていた。今日から研修授業を受けることになったセドリックは、空へと昇る太陽に負けず劣らず目を輝かせながら外の景色を眺めていた。
すると、奥から薬剤科学準備室の扉が開く音がした。振り返ると、そこにいたのはニークリスだった。
セド「ああ、教頭。おはようございます」
ニー「おはよう。いよいよ今日からだな」
セド「ええ、楽しみです」
すると、ニークリスは若干笑いながら答えた。
ニー「そうかそうか。始めのうちは私の授業の助手という形になるが、まぁ、何か参考になることがあれば参考にしてくれたまえ」
セド「はい、是非とも参考にさせていただきます!」
すると、丁度最初の授業開始を知らせるチャイムの音が鳴り響いた。
ニー「おっと、時間か。それじゃ、いくか」
セド「はい!」
2人は第1薬剤科学室へ繋がる扉を開く。そこには、薬剤科学クラスの2年生の生徒が集まっていた。この時間のニークリスの担当クラスだ。ニークリスは教壇へ上がり、セドリックは1歩下がって彼の指示を待つ。
ニー「皆静かに。えー、今日は授業を始める前に、皆に紹介したい人がいる。今日からこの学校で研修授業をしてもらうセドリック・スープラ君だ。皆、気軽に声でもかけてやってくれ」
生徒たちはセドリックを見てガヤガヤと何かを話し始めた。セドリックにはそんな光景さえも微笑ましく思えた。
ニー「さぁ、それじゃあまずはセドリック君に自己紹介でもしてもらおうかな。ほら、前に来なさい」
セド「あ、はい!」
ニークリスに促され、セドリックは教壇に上って前を向く。
セド「皆さん初めまして!今回研修にやってきたセドリック・スープラといいます。どうぞよろしくお願いしますッ!」
ニー「そういうわけだ。では、そろそろ授業に入ろうかな。今日の授業では基礎的な薬剤の調合方法を勉強していきましょう」
彼はそういうと黒板に今日の授業内容をおおまかに書き込んでいった。真面目にノートに書き写す者、頬杖を突きながら虚ろな目で見つめる者、隣の生徒とお喋りを続ける者など皆の反応は様々である。
一通り板書が終わったところで、実際の実験に突入する。ニークリスとともにセドリックも生徒たちの様子を見て回ることになった。
セド「お、ダーク!久しぶりじゃないか!」
セドリックはダークを見つけるとそう話しかけた。彼が学生だった頃にも、彼は相変わらず今の学年だったのである。
ダー「何だ?!ワシはお前のことなど記憶にないぞ?」
実際、何年も同じ場所に留まっている彼にとって、こういうことは幾度もあったのだろう。最早いちいち同学年の生徒を把握しきれるはずもない。
セド「あぁ、いやぁ、有名だったからつい、な。それにしても相変わらずだなぁ」
ダークはセドリックに言葉を返すことはせず、ただ彼を険しい表情で睨むだけだった。そんな反応さえ懐かしく感じる。セドリックが懐かしんでいると、後ろから少女の声が聞こえてきた。シエラだ。
シエ「先生ー」
セド「お、分からないのか?よーし、俺に見せてみろ!」
セドリックは意気揚々とシエラの席に行って様子を見てみる。どうやらひとしきりの作業はこなしているようだ。
シエ「あの、この薬の材料って、確かゴックンのつぼみと相性が良かったはずですよね・・・?それを加えたらどうなるのです?」
成程、発展的な質問に答えるのも教師として重要な役目であろう。セドリックは嬉しそうにシエラの質問に答える。
セド「ほぉ、よく知ってるな。確かにそれを加えればこの薬の治癒効果は高まる」
すると、近くにいたニークリスもその会話に参加してきた。何やらとても上機嫌のようだった。
ニー「彼女はこの学年の中でもかなり優秀な生徒なんだよ。それに本当に可愛らしい娘でねぇ~。僕の好みだよ・・・ウへへ」
ダー「フン、ロリコンジジイがほざくな」
ダークがそんな罵声を放つと、ニークリスは振り返るとともに激しい剣幕の表情を浮かべた。ついさっきまでにやけていたのが信じられないほどである。
ニー「何処の誰がロリコンだって?テメェ、俺を侮辱しているのか!?だいたいお前にジジイとか言われたくないわ!!」
ダー「ロリコンジジイはロリコンジジイだろが、何言ってんだ!」
何故かここにきて突然の言い争いが起こってしまい、セドリックは困惑するばかりだ。
セド「ちょっ、教頭・・・落ち着いてください・・・!」
ニー「ああ・・・すまんな・・・私としたことが取り乱してしまった」
セド「い、いえ・・・」
ニークリスは何事もなかったかのように教壇まで歩いていき、気を取り直して再び板書を始めるのだった。
ダー「フン、くだらん。わしはもう戻るぞ」
そう呟いてダークは教室を出て行ってしまった。
セド「あっ、おい、ダーク!」
セドリックは呼び止めたが、ダークが彼の言葉に振り向くはずもなかった。
一方、第2機械科学室では、アレクサンドロによる6年生の授業が行われていた。その中にはワットの姿もいる。ここでの授業内容は、特殊な金属探知機の製作というものだった。実際に作業を行う授業が多い機械科学クラスでは、流石に居眠りをしようなどという猛者はそうそういない。
ワットは与えられた課題を淡々と手際よくこなしていく。作業さえ終わってしまえば、後は余程アレクサンドロの気に障る事をしでかさなければ目を付けられることはない。1人あっという間に作業を終えると、何となくクラス全体の状況を眺めてみた。
すると、ある女子生徒に目が留まった。彼女は金属探知機とは別に、何やら不可解な装置を作っているようだった。彼女の名はミスト。しばらく彼女の動作を観察していると、次第にその装置の正体に興味がわいてきた。
サぺ「やぁミスト、何してるんだい?」
その言葉に気が付くと、ミストは振り返って青い瞳をこちらに向けてきた。
ミス「あらワット、何?もしかしてこの機械に興味持った?」
サぺ「ま、そんなところ」
すると、ミストは嬉しそうにその機械について説明し始めた。
ミス「さっすが、お目が高い。この装置は、攻撃を受けそうになったときに守ってくれるんだ。まあ、簡単に言えば盾になってくれるって事。魔法でもそういうのあるでしょ?」
彼女は普段から、機械や科学的な方法でどれだけ魔法を再現できるか、という研究に勤しんでいた。今回の装置もどうやらその一環らしい。興味を持った1つの目標に向かってひたすらに研究を重ねる彼女の姿は、ワットには少しうらやましく思えた。
自分にも、何か夢中になれる1つの目標のようなものがあれば、少しは変われるのだろうか。彼女を見ていると、なんだか今の自分が霞んでいくように見えてしまうのだ。とはいえ、彼女のしていることはなかなか面白そうに思える。
彼女のように夢や目標とまではいかなくとも、暇つぶしとしては十分すぎるほどだ。
サぺ「へぇ~、成程・・・そいつは面白そうだねぇ~」
ミス「でしょでしょ?」
サぺ「で?具体的にはどういう仕組みになってるの?」
ミス「まぁいわゆる電磁波ってやつね。何層にも積み重ねた電磁波で一定の範囲に膜を張るんだ。ついでに電磁波同士の間は真空状態になってるから爆発だってへっちゃらなんだよ」
サぺ「ほぉ~、しかし凄い技術だねぇ。どうやったらそんなことができるの?」
ミス「それは企業秘密だよ~」
ミストは笑いながら冗談めかしてそう言った。ワットもそれにつられて笑って答えた。
サぺ「フフっ、企業って・・・」
その時、不意に背後からアレクサンドロの声が聞こえてきた。
アレ「何?ミスって動かないだと?貴様の心臓取り出して素手で握り潰されたいのか?」
彼の口調は淡々としていたが、それが逆に恐ろしく思えた。そんな情の欠片もない台詞を言われたのは、ブラックという少年だった。
ブラ「待ってくれ、違うんだ!これはミスなんかじゃない!見てろ・・・今に完成するっ・・・!」
ブラックは躍起になって漆黒の瞳を机上の機械に向けていた。彼の必死な様を見て、隣にいた男子生徒が心配そうに話しかけてきた。ブラックの親友であるセムスだ。
セム「・・・本当に大丈夫?僕も手伝おうか・・・?」
どうやら不安に思ったセムスが、ブラックの苦戦をアレクサンドロに伝えたようである。
ブラ「大丈夫だッ!俺1人で完成させてみせるッ!」
セム「もう・・・またムキになっちゃって・・・」
アレ「お前機械科学に向いてないんじゃないのか・・・?何故よりによって手先の器用さが要求されるこのクラスを選んだんだ・・・?」
ブラ「うっ、うるさいっ!」
実は、ブラックはそこまで考えてクラスを選択したわけではなかった。大抵の場合、1年生のうちから4つのうちのどれかを選択しなくてはならないため、そういう生徒も割と少ないわけではない。
ミス「何々~?ま~た手こずってるの~ブラックく~ん?」
様子を見ていたミストはブラックに近づいてそうからかった。ブラックは不機嫌そうにミストを睨む。
ブラ「あぁもう何だよどいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって!」
セム「別に僕は馬鹿にしてるわけじゃ・・・」
アレ「いいからさっさと作れ。貴様の背骨を抜き取られたいか?」
ブラ「うるさいなぁ分かってるって・・・!」
そう言ってブラックは半ば自棄になりながら作業を進める。
セム「あぁほら・・・そこは反対側に繋げるんだよ・・・」
ブラ「わ、分かってるよそんなこと!ちょっと手元が狂っただけだ・・・!」
サぺ「・・・相変わらず面白いなぁ~ブラックは」
一部始終を見ていたワットはそう呟いた。
ブラ「聞こえてるぞワット!」
ブラックは噛みつくようにそう言ってきた。
サぺ「あ~らら、ま、聞こえないように言ったわけじゃないんだけどね」
ブラ「まったく、お前も腹立つ奴だなぁ・・・」
彼は最早呆れた様子でため息交じりにそう言った。すると、ワットは何かを思い出したような表情をして唐突にミストに話しかけた。同時にそれはわざとブラックの言葉を無視しているようにも見えた。
サぺ「あ、そうだミスト、君にちょっと聞いてほしい話があるんだけど」
ミス「ん、何~?」
その頃、コルテックスは相変わらず自室で研究を進めていた。昨日の実験は成功に限りなく近い結果だっただけに、いつも以上に研究に熱が入る。
コル「合成による強化はいいとして、まずどんな生物兵器を作るのか・・・う~ん、そろそろこの辺も考えないとな・・・」
そう、今までの実験はほとんどがサンプルに進化光線を浴びせた反応を確認するというものだった。今はそれらの結果を統合して傾向を測りつつ、ある程度の法則を見出していく作業に追われていた。
とはいえ、合成実験の方はまだデータが少ない。作品を完成させるには、どうやらまだもう少し実験が必要なようだ。
コル「そうだな・・・次は3体以上の合成、あるいはそこに無機物を加える実験でもしてみようかな・・・」
そうと決まれば、早速材料の調達をするべきだろう。まずは相性のよさそうな生物の組み合わせをこれまでの傾向から考えてみる。ここがこの研究で最も生物学的なセンスが問われるところであろう。
まずは手近に入手しやすい生物を思い浮かべ、その生物の特徴を中心にしていくつか候補を絞っていく。そして、今回のサンプルはおおよそ固まった。コルテックスはこのことを伝えようと通信機でブリオに連絡した。
各々で手軽に連絡が取れるようにとエヌ・ジンが作り出したものだ。しばらく応答を待つと、彼の細々しい声が聞こえてきた。
ブリ「・・・は、はい?もしもし?」
コル「僕だ。次の実験のサンプルが決まった。ブリオもいくつか材料を用意してくれないか?」
ブリ「あ、はい・・・それで、材料は何でしょう?」
コル「まずは蛇にカメレオン、それから亀かな・・・」
ブリ「ほぉ・・・今回は3つですか」
コル「ああ、そうだ。それで、今からそれを集めてきてほしいんだが・・・」
すると、ブリオは急に困惑したような声を出し始めた。
ブリ「えっ、ええっ?!い、今からは、ちょっと・・・」
コル「・・・何だ?何か他に用でもあるのか?」
ブリオはその性格上、よく他人から頼みごとという名の脅迫を呑んでしまうのである。最上級生となった今でも、それが収まったわけではない。
コル「・・・ハァ、僕はそれがなきゃ実験を始められないんだ。できるだけ早く頼むぞ?僕にもやらなきゃいけないことがある」
ブリ「は、はい。努力します・・・」
ブリオの声は今にも消え入りそうだった。どうにも不安を誘う口調だったが、コルテックスは敢えて念を押すことはしなかった。
コル「・・・じゃあ、切るぞ」
そう言ってコルテックスは通信を切った。
ブラックの作業もようやく佳境に差し掛かったころ、ワットはミストにコルテックスの実験の話をしていた。彼が生物を進化させ、生物兵器を作り出そうとしているエヴォルヴォレイ計画についてだ。
あとはどんな生物に仕上げるかが問題だ、とは彼は昨夜の時点から漏らしていた。勿論、それも含めて彼女に話した。
サぺ「さてどんな生物にするのがいいかって話だけど、どう思う?ミストの意見が聞いていたいな」
ワットには彼女の独特な発想に期待している部分があった。どれだけ実用的、現実的でなくとも、それは彼の退屈しのぎの餌程度にはなるかもしれないと高をくくっていたのだ。
ミス「う~ん、なるほどねぇ~・・・」
彼女は数秒間何かを考えているかのような表情を見せたが、すぐに顔を上げて明るい表情を向けてきた。
ミス「あ、そうだ。ドラゴンなんてどお~?」
サぺ「ドラゴン・・・?」
ミス「知らないの?」
サぺ「いや、知ってるけど・・・」
ミス「ほら、ファンタジーとかによくでてくるあのドラゴンだよ。アレなんて力も強いし、タフで長寿だからなかなかいい線行ってると思うんだけどな~」
予想通り、彼女の答えは現実離れした素晴らしい独創性の賜物だった。科学とは相対する存在ともいえるファンタジーの世界観を簡単に引き出してくるあたり、流石はミストといったところだ。
サぺ「成程、ドラゴンねぇ・・・流石、ミストらしいや」
ミス「えっへへ、どれほどでも」
ミストは上機嫌にそう言った。その時、奥の方でも何や歓喜の声を上げる者がいた。さっきまで機械の製作に悪戦苦闘していたブラックだ。
ブラ「・・・よっしゃぁぁぁあああ!できた!ついにできたぞっ!どうだ、見ろ!これは俺が作ったんだぞ!」
どうやら相当はしゃいでいるようである。セムスを始め、教室にいた生徒たちは彼を見てクスクスと笑いだした。そこには人によって賞賛と軽蔑、その他様々な意味が入り混じっているように見えた。
アレ「黙れ。完成したのはお前で最後だ。次の時間でそいつの効果を試しに行くぞ。さっさと準備をしろ」
アレクサンドロは呆れるでも軽蔑するでもなく、ただひたすらに冷たいだけの言葉を彼に浴びせてきた。そうして間もなく、授業終了を知らせるチャイムの音が教室中を支配した。
1時間目終了の合図であるチャイムの音が校舎からうっすらと聞こえてきた。ブリオは自分の寮部屋でため息をつきながらこれからの行動を考えていた。今現在、彼が受けた依頼はさっきのコルテックスのものを含めて3つもあった。
1つは同級生の男子生徒からのもので、もう1つはなんとダーク・サファイアからのものである。たまたま近くを通りかかったのが運の尽き、哀れブリオはダークに呼び止められ薬の材料をよこすように脅されたのであった。
3つのものを合わせると、集めるものは多いうえ、いずれも期限に猶予というものは無きに等しかった。この学校に気の長い人間はそう多いわけではない。まして、急に呼び止めてきて依頼を押し付けてくる人間となれば尚更だ。
最早、優先順位を整理する時間さえブリオには残されていないように思われた。とにかく、目当てのものを片っ端から集めていくしかない。そう考えてブリオは自分の寮部屋を飛び出した。
1階に下りて、談話室を通る。と、そこには厄介なことにダークの姿があった。本来なら今は1時間目と2時間目の間の休み時間で、あまりここで休んでいる暇はないはずなのだが、彼ならここにいても仕方ない。
そして、勿論彼との接触を避けてこの部屋を出ることは叶わなかった。
ダー「ブリオか。貴様、わしの材料は手に入れたんだろうな?」
ブリ「い、今から取りに行こうとしていたところです・・・」
ダー「今からだと?!貴様今まで何をしていた!」
ブリ「ひぃっ!すいません、今すぐ取ってくるのでどうかご勘弁を・・・」
ダー「早くしろ!さもないと・・・」
ブリ「い、行ってきます~ッ!!」
罰の内容を聞かないうちにブリオは勢いよく談話室を飛び出していった。とにかく逃げた。物理的に距離を取っても意味がないことは分かっていたが、それでも背中から感じる恐怖から逃げだしたかった。
勿論、恐怖は走ったところで背中に張り付いたままであることも分かっている。それでも逃げた。夢中で走っていると、突如彼の目の前に人影が現れる。恐らく曲がり角から来たので見えていなかったのだろう。
ブリオはその人物と勢いよくぶつかってしまった。
ブリ「ああぁっ・・・!」
ブリオはその場に倒れこんでしまったが、すぐに必死で謝った。
ブリ「ひぃっ、すっ、すいません・・・!」
?「ん~ん、平気だよー。あなたこそ大丈夫?」
そこにいたのは黒髪のショートカットでやや小柄な少女だった。どんな恐ろしい者とぶつかってしまったのかと怯えていたものだから、驚いて反応が少々遅れてしまった。
ブリ「・・・へぁ、だ、大丈夫です・・・」
少女「そう?何だかとっても困ってるように見えるけど?」
彼女はブリオの顔を見て笑みを浮かべながらそう言ってきた。
ブリ「えっ・・・?」
突然の言葉にブリオは思わずそう声を漏らしてしまった。仮にブリオがそのように見えたとして、見知らぬ者に何故そんな言葉をかけるのだろうか。彼は呆気にとられたまま少女を見つめる。
少女「悩みがあるなら思い切って言っちゃったほうがいいと思うよ~」
ブリ「はぁ・・・実は、集めてくるように言われた材料が多くてとても間に合わなくて・・・」
ブリオは彼女の言葉に乗せられて自然と口にしてしまった。まるで、言葉の防波堤のようなものが一瞬機能しなくなってしまったかのような感覚だ。
少女「ふ~ん・・・」
少女はしばらくすると不意に笑みをこぼし、ブリオに話しかけた。
少女「それ、私が引き受けちゃっていいー?」
ブリ「え?」
予想だにしていなかった言葉にブリオはまたも呆気にとられた表情をした。
少女「材料を集めてくればいいんでしょ?それくらいだったら、協力すればすぐじゃない」
そうだとしても、何故彼女がそんなことに協力する必要があるのか、ブリオには理解できなかった。それとも、何か見返りを求めてくるのかと想像もしたが、そういう様子にも見えなかった。
ブリ「あの、あなたは・・・」
少女「私?クロワだよー!あなたの名前は?」
ブリ「わ、私はブリオと言います」
クロ「そう。じゃあ、早速手分けして材料を探そうよー」
ブリ「え、えぇ~・・・ですが・・・」
クロ「いいのいいの。さ、何を集めればいいのー?」
結局、彼女の考えが全く読めないまま、ブリオは集める材料を伝えるのであった。
コルテックスは引き続き自室でエヴォルヴォレイ計画のビジョンを考えていた。しかし、まだ完全にデータが集まっていない現状では、やはりそう簡単に思い浮かぶものではなかった。
コル「・・・ふぅ、ちょっと気分転換でもしようかな・・・ちょうど休み時間だし」
時計を見ると、現在の時刻は午前9時40分だった。次の授業が始まるまであと20分あるから、ゆっくり休むことができるだろう。とはいえ、昨日の出来事を忘れているわけではない。
今日は校舎ではなく、寮の中心にある食堂の屋上に行くことにした。食堂は1階から3階のエリアまで分かれており、それを繋ぐ階段をさらに登れば、屋上へと出ることができる。コルテックスはそこを目指して部屋を出た。
すると、偶然にもコルテックスの向かい側の扉も同時に開いていた。向こうにいたのは、吉田耕一である。寝起きなのか、吉田は若干おっくうそうな様子だ。
吉田「おーう、コルテックスか・・・奇遇だな」
コル「何だお前起きたばっかか?いくら卒業研究の時間だからってのんびりしすぎじゃないのか?」
コルテックスは含み笑いをしながらお得意の皮肉を言い放った。一方の吉田は本調子でないのか、口調も若干重たく感じた。
吉田「いや、昨日は夜遅くまで実験してたからな・・・研究の時間を好きに選べるのが最上級生の利点だな」
コル「まぁ・・・ばれなきゃの話だけどな」
吉田「誰もそんなこと管理してないし大丈夫だろ?」
コル「まぁ何でもいい。とにかく僕は屋上へ行くんだ。こんなところで貴重な休憩時間を邪魔されたくないんでね」
吉田「屋上?やっぱ奇遇だな。俺も気分転換でそこへ行こうとしてたんだ」
コル「・・・マジかよ・・・」
階段を上った先に待つ古びた扉を開けると、そこには2つの寮の塔に切り取られた快晴の青空が広がっていた。
2人「おわぁ~・・・」
コルテックスと吉田の2人は思わず声を漏らして屋上の縁に手をかけて空を見上げた。澄み切った青空を舞台に、雄大な雲が堂々と寮塔の間を横切っていく。今までも窓から何度か眺めたはずだが、もう久しくこんな青空を見ていなかったように感じられた。
吉田「こんなとこでもこんな景色が見れるもんなんだな・・・疲れも吹っ飛んだぜ」
コルテックスも同じだった。この空を見ていると、何故か悩みも忘れられた。時折吹いてくる適度な風がとても心地よい。今はただ、この時を少しでも長く過ごしていたい。そう思った。
吉田「なぁ?お前はどうしてここに来ようと思ったんだ?」
どうやら吉田はあっという間に元のテンションに回復したらしい。
コル「あぁ・・・?気分転換だよ」
吉田「だから、どうして気分転換しようと思ったんだ?」
コル「何でお前にそこまで話さなきゃならないんだよ・・・」
吉田「ま、それもそうか」
コル(何だったんだよ今の・・・)
吉田「まぁ、お互いハードな実験だったってことかな?昨日のお前の部屋はなんか賑やかだったしな」
昨日の出来事は向こう側の部屋にまで音が響いていたのか。言われてみれば、確かに機械の警戒音や振動音は周囲の部屋に聞こえていても不思議ではなかった。
コル「何だよ、聞こえてたのか・・・」
吉田「まぁな。俺もな、昨日の実験は結構大変だったんだぜ?まさに命懸けの実験だからな」
コル「フン、命懸けなんて、そんなの当たり前だろ?」
そう、技術の進んだ実験ほど、危険性を伴うものなのだ。コルテックスの実験だって、決して安全が保障されたものではない。
吉田「おっ、それかっこいいね。今度から使わせてもらうわ」
コル「何だよそれ・・・」
吉田「へへっ、まぁいいじゃねぇか」
その後、しばらく沈黙が続き、2人は改めて空を見た。空は相変わらず澄み切った青空だ。
吉田「本当に綺麗な空だな・・・ここに来て正解だったぜ」
コル「あぁ・・・いい気分転換になった」
次章、人々の出会いが運命を形作っていく・・・
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