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ワルワルスクールデイズ
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第5章
2012/04/06(金)11:18:23(12年前) 更新
シド「ねぇ、次ってニーナの番じゃない?」
ナット「おっ、そりゃあ楽しみだ」
2人がそんな会話をしているのが、ニーナには簡単に予想がついていた。だが、今は最早そんなことを気にする余裕は欠片もない。周囲の声など全く聞こえず、勘を頼りに
自分のタイミングで舞台に出た。
ナット「さぁ、どう出る?」
ニーナは、鋼鉄の手を真上に上げて勢いよく腕を伸ばす。その先には調度フックを持ったガーゴイルが飛んでいた。勿論、これはニーナが用意していたものだ。ニーナは
そのフックをがっちり掴む。そして今度はニーナがガーゴイルに向かって上がっていく。フックリールだ。よく見ると、天井にはもう何匹かガーゴイルが飛んでいる。
ニーナはもう片方の手を伸ばし、さらに上を飛んでいるガーゴイルのフックを掴む。そうして、次々とガーゴイルに飛び移っていく。やがて、ガーゴイルも大広間をまばらに
飛び始めた。それでもニーナは楽々とガーゴイルに飛び移る。そのうちニーナは、身体を一回転させてから飛び移ってみたり、向かいのガーゴイルに飛び移るように
見せかけて突然上のガーゴイルに手を伸ばしてみたり、ガーゴイル以外に掴まれそうな所があればそこに掴まってみたりと大広間という空間を自由奔放に動きまわった。
まさにサーカス団の空中ブランコのような(あるいはそれ以上の)空中ダンスだ。
ナット「こりゃすげぇ・・・」
誰もがそんなことを思っていた。ニーナの緊張感もいつの間にか楽しさに変わっていた。それどころか、これまでの小さな悩みもストレスも全てが洗い流されていくよう
だった。ああ、こんなに楽しく身体を動かしたのはいつぶりいだろう?ニーナはふとそんなことを思った。そしてあっという間に1分間は過ぎ、ニーナは最後に綺麗に着地を
決めてその場を去った。舞台袖では、この後に出番を控えているカトリーヌが待っていた。
カトリーヌ「どう?楽しかった?」
ニーナ「ま、いいストレス発散にはなったわ」
カトリーヌ「フフ、そう」
そのまま2人はすれ違った。
そしてカトリーヌが舞台に出ようとしていた頃、クロックは席を立った。
フラップ「ん?何処行くんだ?」
クロック「ちょっとトイレ」
そう言ってクロックは大広間を出た。ここで秘密を探るのもいいが、言ってるうちに本当にトイレに行きたくなったのでとりあえずトイレに向かうことにした。そして、
事を済ませて手を洗っていると、クロックは誰かの視線を感じた。しばらく辺りの様子を窺うが、トイレは不気味なほど静寂に包まれている。すると、かすかに不気味な音が
聞こえてきた。クロックは即座に神経をその音に集中させた。
グォォォ・・・
その音は心なしか徐々に大きくなってきている。まるで自分に近づいてきているかのように。しかしクロックはその場から去ろうとはしなかった。彼の心には恐怖よりも
好奇心や期待の方が大きくなっていた。ひょっとしたらこれはワルワルスクールの秘密に何か関係しているのではないか、と。クロックはその音にさらに意識を傾ける。
と、突然後ろから何者かの気配がした。かと思うと、次の瞬間にはクロックの頭に激痛が走っていた。
クロック「ぐっ!(しまった!)」
そのままクロックは目の前が真っ暗になってしまった。
その頃、ミス・ワルワルスクールではいよいよ優勝候補であるシクラメン・バンディクーが舞台に立っていた。彼女はある物を手に取り、そっと息を吹きかけた。すると、
それは燃えるような勢いで辺り一面に飛び散った。いや、本当に燃えていたのか?ボウっと音をたてながらそれは一気に姿を変えていく。そして宙に浮かびあがってきたのは
何とシクラメンの花だった。その花はかがり火のようにかすかに輝いている。シクラメンの花は舞い上がる。シクラメンはさらに息を吹きかける。花はさらに上へ上へと
舞い上がる。窓からの夕陽を浴びて、花はより一層輝きを増してゆく。美しい花々はしばらく宙を滞空していた。大広間はシクラメンの赤い光に照らされている。やがて
シクラメンの花々は再びボウっという音を出して燃えてなくなった。こうしてシクラメンのアピールタイムが終わった。次はアテナ・バンディクーのアピールタイムだ。
アテナは扇子の月夜桜を構えて、それを一気に一振りした。すると地面から何かが巻きあがり、やがてその形がはっきりと見えてきた。桜の花びらだ。アテナは月夜桜を
振りかざして、桜の花びらを操るように自分の周りを旋回させた。徐々にその範囲が広くなってくる。そしてとうとう桜の花びらはオーディエンスの所までに及んだ。
シドはその花びらに触れようとしたが、触れた瞬間雪のように瞬く間に溶けてしまった。
シド「え?どういうこと?」
ナット「そうか・・・こいつの正体は霧だ。細かい粒子の乱反射と窓からの夕陽で桜の花びらに見えてたんだ。アテナが最初地面に仕込んでたのはこの霧だったんだ」
シド「へぇ~よく分かったね・・・」
ナット「へへっ、何せ俺もトリックは仕掛ける側なんでね」
シド「あぁ・・・成程」
そして、全ての出場者のアピールタイムが終わり、いよいよ生徒達にボタンが配られ投票の時間がやってきた。皆何故か神妙な面持ちで番号を入力する。
司会「さぁ、それでは皆さんの投票が終わったようなので、いよいよミス・ワルワルスクールを発表したいと思います!」
観衆も一気にざわつき始める。どうやら発表はマダム・アンバリーがするらしい。アンバリー校長が舞台の上にあがり、封筒のような紙を持っている。アンバリーは封筒を
開けて一足先に結果を見る。すると少しだけにやけながら他の先生が急いで持ってきたマイクに顔を近づけた。
アンバリー「皆さ~ン!それでは結果を発表するわよ~!」
あの甲高い声が、大広間を貫くように響き渡る。生徒達は慣れているはずのその声に驚いたように一斉に静まり、アンバリー校長の方を見た。
アンバリー「栄えある第208回ミス・ワルワルスクールは~・・・?」
校長のわざとらしい溜め方で数秒間大広間に沈黙が続く。そして、やっとアンバリー校長が大きく口を開けた。
アンバリー「エントリーNo59番、シクラメン・バンディクーとエントリーNo60番、アテナ・バンディクー!!今年は2人がミス・ワルワルスクールです!!」
その瞬間、シクラメンとアテナにスポットライトが当てられた。そしてアンバリー校長が電撃で一気にクラッカーを発射させた。光に反射し煌めく紙吹雪が2人を包んだ。
観衆のテンションも最高潮に達し、拍手や口笛、叫び声などあらゆる方向から様々な音が聞こえてきた。その音はしばらくの間、大広間から漏れ出していた。
午後5時、ミス・ワルワルスクールの会場だった大広間はダンスパーティ会場へと変わっていた。その空間には愉快な音楽や激しい音楽が鳴り響いており、生徒から先生まで
かなりの大人数が踊り狂っている。脇の方には何とも豪華な料理が長テーブルに並べられており、それを食べながら皆の踊りを眺めている者もいる。その中にはニーナ達の
姿もあった。
ナット「お前らのアピールもなかなか良かったぜ」
シド「一時はどうなる事かと思ったけどね」
ニーナ&カトリーヌ「アンタにだけは言われたくない!」
シド「うっ・・・」
しばらく沈黙が流れ、シドが気を取り直すように料理をつつき始めた。それにつられて3人も料理に手を伸ばす。思った以上に料理が美味かったので皆夢中になって食べ
始めた。すると、ニーナは気付かぬ内にシドの足を踏みつけてしまった。
シド「いったぁ!?」
たまらず足をあげてケンケン跳びをしながら右足をおさえるシド。そのままバランスを崩して長テーブルに激突。すると、何と長テーブルの仕掛けが作動して壁からニーナ
の腕のような鋼鉄がシドに向かって思い切り突進してきた。シドはその鋼鉄に押され、勢いよく吹っ飛んだ。見ると、シドが吹っ飛んだ先にはムート・ドッグがいる。
ニーナ「あ、ヤバ・・・」
ムート「そこのお嬢様!ぜひ私と一緒に・・・ゲフガァ!?」
見事にクリーンヒット。シドとムートの意識はあやふやだ。
ニーナ「えーと・・・これはあたいのせいではないよね?」
ナット「ていうかヤベェ、俺の仕掛けがシドに反応しちまったな・・・まぁこれはこれで面白いけど」
ニーナ「ってアンタが仕掛けたんかい!つーかアンタ何企んでたの!?」
2人がそんな会話をしている時、フラップもムートの事態に気がついたようで彼に近寄って来た。
フラップ「オイ、大丈夫か。・・・そんなことよりクロックがトイレ行ったっきり帰ってこないんだが・・・」
ムート「そんなことてお前・・・まぁ、あいつなら大丈夫だろ・・・」
そう言っていると、シドとムートが周りの生徒に保健室に運ばれていった。そんなやりとりを茫然と眺めていたニーナに突如不気味な音がかすかに聞こえてきた。ニーナは
その音にハッとした。前に一度聞いたことのある獣の息のような不気味な音だ。辺りを見回すと騒ぎの音で誰もこの音に気付いていないようだ。ニーナはこの音がどこから
聞こえてくるのか探ってみた。・・・壁。どうやらその音はニーナの背後の壁から聞こえてくるようだ。ニーナはその壁に沿って大広間を出た。前からの不気味な音と背後
からの宴の音が混じり合って聞こえる。まるであの世とこの世の狭間にいるかのような嫌な感じがした。それでもニーナの心では好奇心の方が勝り不気味な音の音源を
辿ろうとした。ニーナは壁から聞こえてくる音を頼りに、壁に耳を当てながらゆっくりと歩いていった。やがてニーナは図書室に出た。夜の図書室は今にも消えてしまい
そうな何とも頼りない灯りで照らされており、不気味な雰囲気を増長させていた。巨大な吹き抜けの空間に、あの不気味な音が響いている。ニーナは一瞬その音がどこから
聞こえてくるのか分からなくなってしまったが、神経を研ぎ澄ませてその音を聞きとろうとした。すると、その音は確かに地下の方向へ向かっているのが分かる。
ニーナ(立ち入り禁止の場所・・・)
ここでニーナは以前ナットに聞いた怪談を思い出した。ニーナの鼓動は一気に高まる。この先に行くべきか大広間に戻るべきか・・・?ニーナは心の中で激しく葛藤したが
またしても彼女の心は好奇心の方が勝っていた。。ニーナは意を決して地下へと続く進入禁止の階段を降りていった。
クロック「イテテ・・・」
その頃、クロックはふと気がついた。どうやら気を失っていたらしい。殴られたらしい後頭部をさすりながら辺りを見回す。真っ暗・・・いや、壁が黒いのだ。しかもかなり
狭く、人一人入るのがやっとだ。正面を向くとモニターらしき画面が2つある。
クロック「どこかに閉じ込められたのか?」
クロックの発言に答えるかのようにモニターのうちの1つがついた。そこには1人の男が映っている。
クロック「誰だ?」
マーク「俺はマーク・プレジテンド。お前にとっておきのゲームを用意した・・・」
クロック「ゲーム・・・?」
マーク「そうだ」
クロック「悪いけど・・・僕は遊んでるほど暇じゃないんだ。帰してくれるか?」
そう言った瞬間、マークの目つきが変わった。
マーク「ふざけるな!!何のためにお前を殴ってまでここに連れてきたか分かるか!?お前を苦しめるためだ!!俺はお前が気に入らないんだよ!!それにお前はこのゲーム
が終わるまでここからは出られんぞ!?」
確かにクロックは鎖のような物で座っている椅子に固定されている。今の所、ここから出られる術はない。
クロック「分かった・・・やるよ。ただし終わったらちゃんと帰してくれよ?」
マーク「終わったら・・・だと?なめるな!このゲームに負けて生きて出られると思うなよ?」
クロック「・・・どういう意味だ?」
マーク「まずは説明を聞け。モニターの下にもう一つの画面があるだろう」
見ると、その画面に縦10×横10マスの方眼図が現れた。その一番左端のマスが赤く光っている。
マーク「赤く光っているマスは今自分がいるマスだ。今お前がいるのは自分の駒の中だと思え。このゲームは相手がいるマスを探り当てるゲーム。その名も"サンダー
ロケート"だ。まず、先攻がマスを移動する。この時、移動できる範囲は前後左右の4マスだけだ。あるいはその場から動かなくてもいい。移動するマスを決めたら目の前の
矢印ボタンを押せ。次に、先攻はどこかのマスに雷を落とさなければならない」
クロック「雷?!」
マーク「ああ、俺は上級生のころ雷を好きな場所に落とす実験に成功した」
クロック「ワルワルスクールの技術は大したもんだな・・・」
マーク「・・・説明を続けるぞ。一度雷を落としたマスには移動することはできない。雷を落とせる範囲は自分のいるマスから縦横斜めに2マス離れたマスまでだ。雷を
落とす時は画面の落としたいマスにタッチしろ。落としたら自分のターンは終了し、相手のターンに移る。これを繰り返し、相手のいるマスに雷を落とすか相手を動けなく
した方の勝ちだ」
これを聞いてクロックはすぐに、もし負けたら命が危ない命がけのギャンブルゲームであることが分かった。
クロック「それって・・・」
マーク「だから言ったろう?このゲームに負けて生きて出られると思うなと・・・勝った者のみが生き残れる。この世はそういう世界なのだ!!」
その頃、ニーナは灯りのない地下倉庫に入っていた。腕時計のライトをつけて部屋を見回す。噂に聞いた通り辺りには様々な研究資材が散乱している。あの音はいよいよ
大きくなってくる。ニーナはライトをあちこちに向けて音源を探ろうとする。と、その時
「ギャアアアアアアアア!!」
突然奥の部屋から叫び声がした。ニーナはその方向にライトを向けたくなかった。しかし、その叫び声がおさまるとあの不気味な音もいつの間にか聞こえなくなっていた。
辺りは急に静寂に包まれて、逆に不穏な雰囲気を醸し出している。ここで、ニーナの心には再び好奇心が湧きあがってきた。ニーナはようやく奥の部屋の様子を覗いてみた。
やはりこの部屋も研究資材や分厚い本などが散乱している。そして、ライトをゆっくりと床に向けてみる。ニーナの鼓動は既に最高潮に達していた。すると、床にはいくつか
の血痕がついている。それもかなり新しい。間違いなくこれはついさっき叫んでいた人のものだとニーナは思った。ニーナは背筋が一気に凍るような感覚がした。そして、
次の瞬間目に飛び込んできたのは無造作に落ちている血まみれになった生徒の制服だった。
ニーナ「・・・ギ、ギャーーーーーーーー!!」
ニーナは必死の思いで地下倉庫を飛び出していった。
次章、ワルワルスクールの謎はさらに深まる・・・
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