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二月八日
2012/09/08(土)03:28:50(12年前) 更新
Evil to Defeat the Evil ~PLC編~
街を変えたい、そんな思いの果てに出来た組織「PLC」
決して善い行いではない、しかし悪を倒すために日々努力する彼等。
そんな彼等に絶好のチャンスがやってくる・・・
昼過ぎ、クラッシュは一軒のぼろい家の前にいた。
「やっぱり、一人で入るのは抵抗があるな・・・」
クラッシュはそう言いつつも、家の扉を開けた。
「・・・お、PLCの新入りか」
という男性の声が奥から聞こえてきた。
「う、うん」
と、クラッシュは扉を開けて突っ立ったまま言った。
「おいおい、早く入って来いって」
「あ、ごめん」
クラッシュはそう言って中に入り、扉を閉めて奥に進んだ。
「一人で来るなんて意外と度胸あるな、お前」
と、カウンターの奥に立っていた南が言った。
「まぁ、今日はちょっと色々用事があって」
「とりあえず適当に座ってくれ。話はそれからだ」
「うん、分かった」
クラッシュはそう言ってカウンター席に座った。
「・・・それで、刑務所突破のためにどんな武器がほしいんだ?」
「え!?何でそれを・・・?」
「ま、長年の勘ってやつさ。今日の夜、PLCは刑務所に忍び込んでアーネストという男性を脱獄させる・・・そんなところだろ?」
「そ、その通りだけど・・・」
「ヘッ、それにしてもあそこは新人の扱いが荒いな」
南はそう言った後に、クラッシュの目をギロリと睨んだ。
「な、何?」
「お前、後悔はないか?」
「後悔?」
「刑務所に無断で入ったことがバレれば、その場で殺されることだって十分ありうる。そうじゃなくても、もし捕まれば人生の一割以上を臭い檻の中で過ごす事になる。今回のその作戦、そこまでのリスクを犯してでもやる価値があるんだな?」
「そ、それは・・・」
「はっきり言わせて貰うけど、今までろくに戦闘経験も無いだろうお前が今回の作戦を上手く行える確率は、殆ど無いといっても過言じゃないぞ?」
南のきつい言葉を聞いて、クラッシュは俯いてしまった。
トントン拍子で作戦が決まっていったため、深く考えてはいなかったものの、よくよく考えてみればこの作戦は危険極まりないものだ。
だが、それと同時にアーネストはクラッシュにとって大事な人物であることも確かだ。
「おいらにとって・・・この作戦はどれだけ危険だろうとやる価値のあるものだ!」
クラッシュは顔を上げて、はっきりとした声でそう言った。
「成程な・・・何となく分かったわ」
「・・・え?」
「いや、まぁ何でもない。そうか、本当にやるんだな?」
「ああ、絶対においらはやってみせるよ!」
「フッ、そうと決まれば早速武器の準備だ。お前の分だけでいいのか?」
「うん」
「そうだな・・・ベレッタがあれば潜入任務に困ることはねぇんだけどなぁ・・・あ、そういえばネイキッドからCQCは習ったんだよな?」
「習ったよ。まぁ、実戦で完璧に出来るかどうかは怪しいけど・・・」
「確かに、訓練と実戦は全然違うな。ま、そんなこと今気にしても仕方ねぇ。とりあえずだ、CQCが出来るならこれは持っておいて損はない」
南はそう言うと、カウンターの下を手で探り、そしてカウンターの上に何かを置いた。
クラッシュはそれを手に持った。どうやらナイフのようだ。
「ナイフ・・・?」
「片刃のナイフ。CQCを行う際に、こいつがあるのとないのとでは大違いだとよ」
「へぇ・・・」
「ま、俺は柔道紛いのあんな技なんて全く使わないから知らないけど、こいつにはこんな機能まである」
南はそう言うと、一旦クラッシュからナイフを奪った。
そしてナイフを右手に持つと、ナイフのグリップについていたボタンを押した。
すると、瞬く間にナイフの刃の部分が赤く変色していったのだ。
「これは・・・?」
クラッシュは謎の現象を見て呟いたが、南はそれを無視してナイフを真上に向かって投げた。
ナイフは回転しながら宙を舞い、下方向に落ちてきた。
その瞬間、南は腰に差していた刀を素早く抜いたのだ。
店の中に、金属のぶつかる音が響き、火花が飛び散った。
「え、な、何!?」
しかし、ナイフは軌道が変わることなくカウンターの上に突き刺さった。
そして、それと同時に南の持っていた刀の刃の部分もカウンターの上に落ちた。
「え、えぇー!?」
「超高熱ナイフ。熱を使って簡単に金属とかを断ち切ることの出来る代物だ。ま、あんまり深い原理は聞かないでくれよ」
南はそう言って、真っ二つに切断された刀をカウンターの裏にしまった。
「それより、刀をそんな風に使って大丈夫?」
「こんな実験程度に一級品の刀を使う訳ねぇだろ、こいつは不良品だから廃棄処理のついでに実験台として使っただけだ」
「そうなんだ・・・それで、このナイフくれるの?」
「この街じゃあそういう色物は全然売れないからな、在庫処理の一環としてタダでやるわ」
「ありがとう!」
「あと、こいつもな」
南はそう言ってナイフケースをカウンターの上に置いた。
クラッシュは既に熱が下がったナイフをそのケースにしまって、ナイフケースを持った。
「まぁ、他に要りそうな武器は他の連中が集めるだろうから、お前はそれとベレッタだけ持って行け」
「これだけ?何か心もとない気がするなぁ」
「初心者が武器を持ちすぎても使い時が分からず混乱するだけだから、そのくらいで丁度いいだろ」
「なるほど・・・分かった!」
クラッシュはそう言って席から立ち上がった。
「ま、派手にやって来いって。お前の選んだ道なんだから、失敗しても後悔とかするなよ?」
「うん、分かってる!それじゃあ」
クラッシュはそう言って、南の店を後にした。
「・・・これだけで十分か」
昼下がり、クリムゾンは自身の研究室にいた。
「この程度なら、壁くらい潰すことが出来るはずだ」
クリムゾンはそう言って、箱型の何かを手に持った。
「え、爆弾まで自作したんだ。気合入ってるね」
という声がどこからか聞こえてきた。
クリムゾンが声のするほうを向くと、そこにはビットが立っていた。
「・・・全く、俺の家は出入り自由じゃないんだが」
「そんなこと言うんだったら鍵くらい閉めたらいいのに」
「その反論はおかしいぞ。鍵を開けようが閉めようが一切関係はないが、住居に不法侵入したほうは問答無用で罰せられる」
「でも、その住居の中で違法な実験を繰り返していたら?」
「・・・もういい、俺が悪かったことにしてくれ」
クリムゾンはそう言って、箱型の爆弾を机に置いた。
「それ、何個作ったの?」
「ざっと五つだ。正面側に三つ、逃走中の足止め用に二つといったところだ。壁なら破壊できるが、建物自体が崩壊するほどの威力は無い」
「でも、南さんに言えばC4爆弾くらいいくつか買えただろうに、何で自作したんだい?」
「あまりあいつに頼りすぎるのも癪に障る」
「ふーん・・・仲が良い様に見えるけど」
「仕事上関わらないとならないから関わっているだけだ。それで、一体何をしに来た」
「刑務所の地図、やっと見つかったからさ」
ビットはそう言って、クリムゾンに向かって筒状に丸まった紙を投げた。
クリムゾンがそれを受け取って開くと、そこには刑務所の地図が細かく書かれていた。
「・・・成程な」
クリムゾンはそう呟くと、机の上の邪魔なものをどかし、地図を広げて置いた。
「多分それが最新版。まぁ、地図なんて要らないくらいシンプルな内部構造なんだけどね」
と、ビットは机に近づきながら言った。
「それで、例の出入り口は何処だ?」
「確か・・・此処だね」
ビットはそう言って、刑務所の東側の壁を指で押さえた。
「此処から一番近いのが・・・監視室か」
「ああ。此処の壁だけ唯一廊下と接しているんだ。だから、壁を抜ければすぐに廊下に入ることが出来る。そして、その廊下を北側に向かって歩けばすぐに監視室だね」
「逆に、管理室は北西にあるのか。其処まで行くのは中々大変そうだな」
「そうなんだ。東の廊下から西の廊下に行くためには、一旦中央の牢獄か正面玄関、そして北の大運動場のいずれかを通らないといけない。たとえ監視室で監視カメラを止めたとしても、見回りの警備をいくつも突破する必要がある」
「中央と正面は警備が厳しいだろうし、この北の運動場は無駄に広いから隠れて進むのは至難の技だろうな」
「そう。だから、隠れずに進めばいいんだ」
「・・・何?」
「いやー、やっぱり物っていうのはとって置いて損は無い。実はこの地図と一緒に刑務所の警備員の制服も見つけてさ」
「何だと?そういうものは普通返しておかないといけないんじゃないのか」
「洗濯してから返すつもりだったんだけど、忘れててね」
「・・・相変わらず間抜けな男だ」
その時、上の階からかすかに扉を叩く音が聞こえてきた。
「・・・全く、今度は一体誰だ」
「ああ、クラッシュにも此処に来るように伝えといたから、多分それ」
「フン、勝手な真似をしやがって」
クリムゾンはそう言って、階段を昇って玄関へと歩いていった。
そして、扉の覗き窓から外を見ると、確かにクラッシュが立っていた。
クリムゾンは黙ったまま扉を開けた。
「あ、こんにちは・・・えっと、ビットさんから此処に来るように言われたんだけど」
「ああ、知っている。とりあえずとっとと入れ」
クリムゾンはそう言って、扉を開けた。
「お、お邪魔しまーす」
クラッシュはそう言いながら家の中に入った。
「とりあえず俺について来い」
クリムゾンはそう言って、廊下を歩いていった。クラッシュもその後ろを追って行った。
そして、階段を降りて二人は研究室に着いた。
研究室ではホルマリンに漬けられた生物を、ビットが嫌悪感たっぷりの表情を浮かべながら見ていた。
「よくこんなもの部屋に置いとけるね」
と、ビットがクリムゾンのほうを向いて言った。
「研究の一環だ、無ければ困る」
と、クリムゾンが言った。
「ふーん、こんなものも研究に役立つんだ」
「まぁな。それより、とっとと作戦会議を始めるぞ」
「ああ、そうだね」
その後、三人は地図の置かれた机を取り囲むようにして立った。
「さてと、今回は誰がどの役割を果たすかを決めよう。まず、監視室の占拠。こっちは監視員を必ず無力化しないといけないけど、距離的には結構楽だね。だから・・・」
ビットはそう言って、クラッシュのほうを向いた。
「え、おいら?」
「一番楽なんだからいいと思うけど。その代わり、此処を失敗すれば作戦はまず成功しない。責任は重大だね」
「うん、おいら頑張るよ!」
「そう、じゃあクラッシュの役割はそれ。で、管理室に向かうのは僕が変装して向かうとして、残りはクリムゾンさんでいいよね?」
「・・・残り物か。まあいい」
と、クリムゾンが呟いた。
「一応無線機は3つ用意できたから、渡しておくよ」
ビットはそう言ってポケットからかなり小さな無線機を二つ取り出し、クラッシュとクリムゾンに渡した。
「で、周波数は面倒だからメモに書いておいたから」
ビットは今度は手帳を取り出し、ページを二枚破って二人に渡した。
「・・・こいつも返すのを忘れていたのか?」
と、クリムゾンが言った。
「いや、こっちはPLCにあったのを適当に見繕ってきた。さてと、それじゃあこれから・・・」
クリムゾンはそう言って、自身の腕時計を見た。時刻は午後の3時頃だ。
「うーん、まだ時間があるなぁ・・・」
「・・・紅茶とシュークリームならあるぞ」
と、クリムゾンが言った。
「相変わらずおしゃれというか女の子っぽいというか・・・で、それ御馳走になっていい?」
と、ビットが言った。
「そうじゃなければ話していない」
「まぁ、確かに。じゃあ、ついでに夕飯もご馳走に・・・」
「・・・図々しい男だ。まぁいい、適当に作ってやる」
クリムゾンはそう言って階段を昇って行き、研究室を後にした。
「それじゃあ、僕達も行こうか」
「うん!シュークリーム楽しみだなぁ」
「何か、キミって感性が子供みたいだ」
「え?そんなにおいらって若く見える?」
「・・・そういう所がまさに子供っぽい」
ビットはそう言って研究室から去って行った。
「え、だから何なのさー!?」
クラッシュはそう言ってビットを追いかけていった。
夕方、PLC本部の一室では、ピンストライプが椅子に座って暇そうにしていた。
そして扉の近くではティアがじっと立っていた。
「何だ、今日はえらく人が少ないな」
と、ピンストライプがティアに向かって言った。
「・・・恐らく、此処最近色々ありすぎて、忙しいのでしょう」
と、ティアが言った。
「成程な・・・はぁ、それにしても麻薬の密輸は失敗するし、竜の所とはあの一件以降若干信用度が下がっちまったし、いいことないな」
と、ピンストライプが言ったが、ティアはボーっとしていて相槌も何もしなかった。
「・・・ティア、どうした?」
というピンストライプの言葉で、やっとティアはピンストライプのほうを向いた。
「いえ、別に。すみません」
「そうか、ならいいんだけどな」
ピンストライプはそう言いながらも、ティアの目をじっと見ていた。
彼女の目はいつもと違い、何か動揺しているような目をしていた。
「・・・おいおい、何か困ったことがあったら遠慮せずに俺に話してもいいんだぞ?」
と、ピンストライプが言った。
「困っていること・・・ですか。今は特に無いですね・・・」
「本当か?あんまり一人で抱え込むのも良くないからな?」
「え、ええ分かりました。また何かあれば相談させてもらいます」
ティアがそう言ったその時、ティアの携帯電話が部屋に鳴り響いた。
「あ・・・!すみません、少し失礼します」
ティアはそう言って急いで部屋から出て行った。
「・・・あれで隠し通せているつもりか、相変わらず分かりやすいな」
と、ピンストライプが呟いた。
一方で、ティアは本部の廊下に出て行くと携帯を手に持った。
「もしもし」
「もしもし、ミストだけど」
「ミストさんですか、例の件でしょうか?」
「そうそう。さっきやっと船と連絡が取れたんだけど、オーストラリアには寄っても大丈夫だってさ」
「そうですか・・・ありがとうございます」
「いいのいいの。あ、一応船着場では私も立ち会うけど、大丈夫?」
「ええ、お構いなく」
「分かったわ。それじゃあまた」
電話はそこで切れた。
21時40分。東の森の入り口の前に、クラッシュ、クリムゾン、そして監視員の服を着たビットの三人がいた。
住宅街より更に東側にあるこの森の道路には街灯も一切無く、遥か上を走っている電車と高速道路の明りぐらいしか光が存在しなかった。
「フン、夜にこんな場所まで態々来る真似なんてしたくなかったな」
と、クリムゾンが言った。
「此処まで来てまだそういうこと言う?」
と、ビットが言った。
「まぁまぁ、喧嘩はやめてさぁ・・・」
クラッシュはそう言って二人の間に割り込もうとしたが、クリムゾンがギロっとクラッシュを睨んだため、クラッシュはすぐにやめた。
「別に喧嘩というわけではない。それより、とっとと済ませてとっとと帰るぞ」
クリムゾンはそう言って道路を歩いていった。ビットとクラッシュも、その後を追った。
しばらく三人は森を歩き続けると、木々が途切れ、目の前には平野が広がっていた。
そして、平野には巨大な壁が存在していた。
「いよいよ着いたね。あれがChaonate市立刑務所。刑務所としては異例で、市が管理している。更に警察の訓練施設まで同じ土地に存在している奇妙な施設だ」
と、ビットが言った。
「訓練施設は閉まっているんだな?」
「確か、あそこは八時には完璧に閉められるはずだったと思う。だから多分誰もいないかな」
「そうか、ならいい」
「見た感じ壁の外には監視員がいないっぽいし、一気に秘密の出入り口まで向かおうか」
三人は其処から更に歩き、南側を向いている正門を通り過ぎた。
その際にクリムゾンはふと正門のほうを向いた。
「・・・監視員は結構多いみたいだな」
と、クリムゾンが呟いた。ガラス張りの正門から見える入り口内には、何人かの監視員らしき男達が廊下を行き交っていた。
「そう?今は真面目な人ばっかりなんだ」
「それってどういうこと?」
と、クラッシュが言った。
「昔はサボりが多くてさ、実際に見回りをしてるのは10人もいなかったし」
「・・・そういえば、ビットさんってなんでそんなに警察のことに詳しいの?」
クラッシュのその言葉に対し、ビットは少し困った表情を浮かべた。
「まぁ何ていうか、話すと長くなるからこの作戦が終わってからでいい?」
「え、うん・・・」
「・・・この新人、入って一週間程度で上司の秘密を知ることになるとはな」
と、クリムゾンが呟いた。
「クリムゾンさんも、秘密がばれないように注意すれば?」
と、ビットが言った。
「・・・黙れ」
三人は刑務所の壁伝いに歩いていき、そして東側の壁に差し掛かった。
其処から今度は北方向に壁を伝って歩いていった。
「さてと、着いたね」
ビットはそう言って、壁のある場所で立ち止まった。
「・・・何もないように見えるが」
クリムゾンはそう言いながら壁に手を触れた。
壁の材質はレンガで、不自然な継ぎ目があるかどうかも分からず、此処に入り口があるなんて到底考えられなかった。
「そりゃあ、すぐにばれれば秘密でも何でもないからね」
ビットはそう言って壁と向かい合うように立つと、レンガの一つを奥に押し込んだ。
すると、何とレンガの壁の一部分が扉のように向こう側に開いたのだ。
「こんな風に扉を作ってその上からレンガをつけて偽装している。結構お金掛かったんだ、これ」
「・・・まるでどこかの魔法の世界みたいだな」
「ま、扉の先には夢なんて一切無い世界があるんだけどさ。とにかく、あまり扉の前にいると他のサボりが来てばれるだろうから、一旦廊下に入ろう」
ビットはそう言って扉を潜った。その後ろにクリムゾンとクラッシュが続いた。
扉を抜けると、すぐに廊下があった。廊下にはバチバチと音を立ている豆電球が、ぼやっと光っていた。
「・・・人の気配は感じないな」
と、クリムゾンが呟いた。
「よし、じゃあ早速作戦開始。クラッシュ、出来るだけ早く済ましてきて」
「うん、それじゃあ」
クラッシュは小さな声でそう言って、廊下を北方向に向かって走っていった。
走る、とは言っても先日ネイキッドに習った足音を立てずに歩く方法を上手く利用していたため、足音は殆ど響かず、敵に音で察知される心配は無かった。
更に廊下には監視員も全く歩いておらず、監視室まで行くのはかなり簡単だった。
しかし、だからといって監視室に潜り込むことは決して簡単ではなかった。
クラッシュは監視室の扉を開けようとしたものの、内側から鍵が掛かっているようでビクともしなかった。
「まいったなぁ・・・どうしようか・・・そうだ!」
クラッシュは何を思ったのか、突如扉をノックし始めたのだ。
「おう、すぐに開ける」
という声が中から聞こえてきた。
クラッシュはすぐに、扉から死角になるような場所に潜んだ。
「すまないすまない・・・あれ?」
扉を開けた監視員は誰もいないことに疑問を持ち、扉を開けたまま廊下に出てきた。
クラッシュはその後ろからこっそりと近づいていった。
そして、敵に気づかれる前にクラッシュは敵の首に左腕を素早く回したのだ。
「な!?お、おいおま・・・」
監視員は大声を出そうとしたが、クラッシュはその前に監視員の口を右手で押さえた。
「お願いだから、静かにしてて」
クラッシュはそう言いながら、ネイキッドから教わったとおりに左腕をグイッと胸の方に寄せた。
すると監視員の首は更にきつく絞まり、監視員はその場で暴れ始めた。
首が閉まっている上に口を押さえられていた監視員は、すぐに気を失って力が抜けてしまった。
「ふぅ・・・上手く行った」
クラッシュはそう言って、監視員を解放した。監視員は地面に倒れこんだ。
まだ息はある様子だったが、クラッシュは監視員をそれ以上何かするわけでもなく、すぐに監視室に入った。
監視室内には無数のモニターが置かれており、其処には刑務所の色んな場所が移っていた。
「えっと、監視カメラを切るには・・・」
モニター付近のボタンを見ていくと、onとoffと書かれたボタンを発見した。
「よし、これだな」
クラッシュはそう言ってそのボタンをoffのほうに押した。すると、モニターが全て消えたのだ。
「やった!これでおいらのやることは終わりだね!」
クラッシュはそう言って、無線機を手に持った。
「こちらクラッシュ、二人とも聞こえる?監視カメラの電源は落とせたよ。うん、うん分かった。じゃあビットさんの連絡の後に牢獄に行くよ」
クラッシュはそう言って無線機を切った。
一方、ビットは北側に位置するグラウンドにいた。
グラウンドにはいくつもの監視用ライトが設置されており、中央を堂々と歩くことはもちろん、端を歩いていくのも困難だった。
だが、今のビットは監視員の格好をしている。それなら少なくとも遠方から見られても怪しまれることはないはずだ。
ビットは堂々と、懐中電灯を構えながらグラウンドの端を歩いていった。
「相変わらず、ザル警備で助かるや」
ビットはそんなことを呟きながら、いとも簡単にグラウンドを突破した。
そして、グラウンドから今度は西側の廊下へと入り、そこからまた北方向に歩いていった。
すると、一つの部屋の扉が見えてきた。
ビットが扉をノックすると、すぐに中から声が聞こえてきた。
「何か用か?」
「いやぁ、暇だからコーヒーでも飲もうかなって」
と、ビットが言った。
「ついでにチェスもやって行けよ、俺も暇で暇で仕方ないんだ」
中からそんな声が聞こえた後に、扉がゆっくりと開かれた。
ビットはすぐに管理室に入り、監視員のほうを見た。
「チェスか・・・ルール良く知らないんだけど、これがチェックメイトってやつ?」
ビットはそう言うと、即座に腰に下げた刀で居合い切りを行った。
一瞬の出来事に監視員は何もすることもできず、声も上げずに地面に倒れこんだ。
「もうちょっと、しっかりと警備したほうがいいと思うけど」
ビットはそう言って刀を鞘に収めると、管理室に置かれていた囚人名簿をぱらぱらと読み始めた。
「二月の・・・七日で・・・あったあった、129だね」
ビットはそう言った後に、今度は壁に掛けられていた鍵束を手に持ち、鍵を調べ始めた。
鍵には一つ一つ番号が書かれていたので、129という番号を探すのは簡単だった。
ビットは129の鍵のみを束から取り外し、残りの鍵束を壁にかけた後に、無線機を持った。
「こちらビット・・・牢屋番号は129、近辺の障害を排除しといてね・・・うん、じゃ」
ビットは無線を切り、部屋を後にした。
ビットからの無線を聞いたクリムゾンは、東側の廊下から中央の牢獄施設への侵入を開始した。
やはりその近辺の警備は厳重で、簡単に潜り込むことは難しそうだった。
まず、施設に入るための入り口には監視員が常に立っており、それを排除しない限り中に入ることは不可能に近かった。
クリムゾンは物陰から入り口のほうを見つつ、どうやって突破すればよいかを考えていた。
その時、監視員が手に無線機らしきものを持った。
「・・・了解、至急北グラウンドに向かう」
監視員はそんなことを言った後に、クリムゾンのいるほうに向かって走ってきた。
クリムゾンは素早く廊下の端に置かれていた箱の裏に隠れた。
監視員はそのまま箱を通り過ぎ、廊下を走っていってしまった。
「・・・クソ、どっちかがしくじったか」
クリムゾンはそう呟いた後に、箱の裏から出てきて扉に近づいた。
扉には鍵らしきものも掛かっておらず、クリムゾンは中に侵入することができた。
扉を開けると、其処には天井のかなり高い大きな部屋が待ち構えていた。
此処の牢屋は三階建てのようで、この部屋に設置されている階段を使って昇り降りするようだ。
牢屋は各階の両端に設置されており、牢屋の扉の上には三桁の数字が書かれていた。
「129・・・1階の29個目の牢屋か」
と、クリムゾンが呟いた。
この部屋の電気は薄暗く、更に監視員もいない。部屋の中には囚人達のイビキが響くのみだ。
クリムゾンはなるべく物音を立てないように部屋の中を歩いていった。
しばらく歩いていくと、今度は南側に向かって伸びている廊下へ出ることの出来る扉についた。
クリムゾンは早速白衣の裏ポケットから爆弾を取り出すと、扉の近くの壁に爆弾を仕掛け始めた。
「・・・何故此処まで静かなんだ、逆に気味が悪い」
と、クリムゾンは爆弾を壁に貼り付けながら呟いた。
監視員が来る気配も全く感じず、入り口方面から誰かが訪れてくることも全く無い。
いくらなんでもガサツ過ぎる警備体制に、クリムゾンは心の中で呆れ返っていた。
三つの爆弾を設置し終えたクリムゾンは、今度はさっき入ってきた入り口のほうへと戻っていき、其処にも二つの爆弾を仕掛けた。
その時、施設内に扉が開く音が響き渡った。
クリムゾンが素早く振り返ると、遥か前方の扉付近に人影がいるのが見えた。
そして、それと同時にクリムゾンの無線が静かに鳴った。
「・・・後にしてくれ」
「ああ、もしかして見えてる?僕だから安心してよ」
「・・・ビットか」
クリムゾンはそう言って、前に向かって歩いていき、前方にいるビットと合流した。
「あれ、まだクラッシュは来てないんだ」
と、ビットが言った。
「もう少しで来るとは思うが・・・いや、まさかな」
「ん、どうかした?」
「どうも、北グラウンドで何かあったらしい」
「そう?僕が通った時は騒ぎは何も起きてなかったみたいだけど」
ビットがそう言った時、部屋に扉の開く音が響いた。
二人が素早くその方向を向くと、其処にはクラッシュがいた。
「・・・少なくとも俺達には関係ない問題だったか」
と、クリムゾンが呟いた。
クラッシュは二人のほうに向かって走ってきた。
「ごめんごめん、途中で監視員と鉢合せになりそうだったから」
と、クラッシュが言った。
「へぇ、上手くやり過ごせたなんて結構いい腕してるね。じゃ、とりあえず129号室前に移動しようか」
三人は部屋の中を歩いていき、129と書かれた扉の前で立ち止まった。
「さて、この部屋に今回の作戦の目的のアーネストがいる。この扉を開けた瞬間、僕達の存在はすぐに警察に知れ渡るから、ここからは迅速に行動しないとだめだ」
「とにかく、警察が来るまでに此処から逃げれば大丈夫?」
と、クラッシュが言った。
「まぁ、極論を言っちゃえば。じゃ、準備はいい?鍵を差し込むよ」
ビットはそう言って、扉に鍵を差し込んだ。
鍵の開く音が静かな部屋に響き渡り、そして重たい鉄の扉がゆっくりと開かれた。
「・・・アーネスト!」
扉の中には、ベッドに腰掛けて鉄格子の窓から外を見ていたアーネストがいた。
アーネストはクラッシュの声に驚き、ベッドから転げ落ちてしまった。
「アイタタタ・・・え、なんでクラッシュが・・・?」
と、アーネストは腰を押さえて立ち上がりながら言った。
「詳しい説明は後にして、とっとと脱獄するよ」
と、ビットが言った。
その時、今まで暗かったはずの部屋の明りが一気に灯された。四人は突然の光の眩しさについ目を瞑ってしまった。
「そこまでよ。ホント、何考えてるの?」
という声が部屋に響いた。
四人は目を開けて、部屋のほうを振り返ると、其処には既に大量の警官達が武装して四人を取り囲っている光景が広がっていた。
「・・・ビット、話が違うぞ」
と、クリムゾンが呟いた。
「おかしい・・・この時間帯の刑務所にこれだけの警官が常にいるわけがない・・・」
と、ビットが呟いた。彼にもこの状況は想定外だったようだ。
「その囚人を脱獄させようとした・・・どうせそんな所でしょ?」
そう言いながら、一人の女性が四人のほうに向かって歩いてきた。その女性は白い道着のようなものを着ていた。
「まさかとは思うけど、訓練中だったとか?」
と、ビットが言った。
「・・・アンタ達にそんなこと関係ないでしょ?さて、無駄な抵抗はせずに、両手を挙げなさい」
女性がそう言うと、取り囲んでいた警官達が一斉に銃を構え直した。
クラッシュとアーネストはすぐに両手を挙げたが、ビットとクリムゾンは女性の言葉に一切従おうとはしなかった。
「・・・フン、生憎命令に従うことが大の苦手でな」
クリムゾンはそう言うと、突然右手を白衣のポケットに突っ込んだ。
女性はとっさに空手のような構えを行った。だが、その瞬間正面入り口方面の扉付近で大爆発が起きたのだ。
「えっ・・・!?」
警官達は突然の出来事に若干パニックになってしまっていた。
「新入り、アーネストと共に早く逃げろ」
と、クリムゾンがクラッシュの方を向きながら言った。
「え、此処から?」
「・・・早くしろ、此処の後処理は俺達でどうにかする」
「で、でもそんなことして大丈夫?」
「お前に心配される筋合いはない」
クリムゾンはそう言ってクラッシュの目をギロリと睨みつけた。
「・・・わ、分かったよ。アーネスト、早く!」
「え、あ、何だかイマイチ状況が分からないけど、クラッシュについていけばいいんだね」
「うん、さぁ行こう!」
クラッシュとアーネストは、警官達の間を上手く潜り抜けて、東方面の出口から出て行った。
二人は廊下を走り去って行くが、後ろからは警官達が次々とやってくる。足を止めることは絶対に許されない。
「はぁ・・・はぁ・・・ク、クラッシュ、僕もう何が起きてるのか全然分からないんだけど・・・」
と、アーネストは息を切らせて走りながら言った。
「このことは、話すととっても長くなりそうなんだよ・・・だから、後で言うから!」
と、クラッシュも走りながらそう答えた。
二人とも、限界まで力を出して全力疾走し、何とか例の出入り口までたどり着く事ができた。
「よ、よし!ここから出れるから、ちょっと待ってて!」
クラッシュはそう言って、壁についていた取っ手を引っ張り、扉を開けた。
そして、其処を潜って二人は刑務所から脱出できた、かに思えた。
だが、二人が外に出た瞬間二人のいる場所に一斉にライトが照らされたのだ。
二人は一瞬目を瞑った後に、周りの状況を確認した。
周りには、刑務所内部とは比べ物にならないほどの重装備をした警官達がいた。更に空にはローター音を鳴り響かせながら一機のヘリがライトを照らしながら滑空していたのだ。
「そこの二人、無駄な抵抗はせずにこちらの言うことを聞きなさい!」
一方で、PLC本部ではピンストライプが書類仕事を行っていた。
「・・・」
彼が黙々と仕事をしている横では、ティアがじっと立っていた。
ふと、ピンストライプは仕事をしながらティアのほうをチラッと見た。やはり彼女は何か物思いに耽ったような顔をしていた。
「・・・考え事か?」
と、ピンストライプが言った。
「・・・特には」
と、ティアが呟いた。
「いや、俺には分かるぞ。お前が今何かの問題について深く悩んでいるってことがな」
「そう・・・ですか」
その時、またしてもティアの携帯が室内に鳴り響いた。
「・・・申し訳ございません、少し席を外させて・・・」
「いや、別に気にしないから此処で電話に出ればいい」
「そ、それは・・・」
「ん、どうした?俺に聞かれると困る話でもする気か?」
「・・・分かりました」
ティアはそう言って、携帯電話を取り出し、耳に当てた。
「もしもし・・・はい・・・え・・・!?ええ、分かりました、ではネイキッドさんに・・・」
その瞬間、ピンストライプは素早く立ち上がると、ティアから携帯を奪ったのだ。
「え、いきなり何を・・・!?」
困惑するティアをよそに、ピンストライプは電話に応じ始めた。
「もしもし、俺だ・・・用件だけ伝える。この件は後でしっかり話を聞かせてもらうからな」
ピンストライプはそう言って、携帯を切った。
「・・・申し訳ございません」
と、ティアが言った。しかし、ピンストライプはそれを無視してティアに携帯と、机の上に置いてあった車の鍵を渡したのだ。
「これは一体?」
「十二日のレース用にカスタマイズした車の鍵だ。裏の車庫に停めてある。ネイキッドのほうには俺が伝えておいてやるから、お前はその車を自由に使えばいい」
「それは、私に彼等を助けに行けということでしょうか?」
「生きて帰ってきてもらわないと、説教ができないからな」
「・・・ありがとうございます」
ティアはそう言って、深く頭を下げた。
「俺の車を使えば、此処から刑務所まで最高2分程度だ。途中で事故るなよ?レースに出れなくなっちまうからな」
「運転のほうは大丈夫です・・・では、行ってきます」
ティアはそう言って、部屋を飛び出していった。
「・・・ったく、本当に馬鹿な部下しかいないな」
ピンストライプはそう言って、電話を手に持った。
刑務所東側、秘密の出入り口前では、クラッシュとアーネストが多数の警官達に取り囲まれていた。
二人の前には、一人の女性が立っていた。
「やっぱり、何か関係があったんだ」
と、女性がクラッシュの顔を見て言った。クラッシュも、この女性の顔に見覚えがあった。
「確か、空港で・・・」
と、クラッシュが呟いた。この女性は、空港でアーネストを連行していたあの女性だったのだ。
「成程、PLC相手に麻薬を売ろうと・・・とりあえず、二人ともおとなしく、両手を挙げて地面にうつ伏せになって」
二人は女性に言われたとおり、両手をすぐに挙げると、その場に跪き、ゆっくりとうつ伏せの体制になった。
しかしその時、突如何処からかエンジンの音が鳴り響いてきたのだ。
その音は瞬く間に大きくなっていき、数秒後には爆音となって一行の耳に飛び込んできた。
警官達は音の発生源を突き止めようとあたりを見渡したが、それと同時にクラッシュ達目掛けて一台の車が猛スピードで突っ込んできたのだ。
あまりのスピードに警官達もつい道を開けてしまい、女性も迫り来るヘッドライトに対して目を瞑ってしまった。
車は女性の目の前で急ブレーキをかけて停車し、中から一人の女性が降りてきた。
クラッシュはすぐにその正体が分かった。
「ティアさん・・・!?」
「・・・今は作戦のことだけを考えるように」
ティアはそう言うと、地面を素早く蹴り、女性に向かって即座に抜刀術を繰り出したのだ。
しかし女性は突然の一撃に対し、瞬時にナイフを左手に持ち、刀を上手く受け流した。
「何、平和に解決しようとする気は更々ない感じ?」
と、女性は後ろに少し下がってからそう言った。
「平和に解決できないから、実力行使に出るだけです」
ティアはそう言って、其処から更に刀を左に向かってなぎ払った。
女性も再びナイフで刀を受け、攻撃をやり過ごした。
しかし、その時またしても辺りにエンジン音が鳴り響きだしたのだ。
更に、一筋の光がヘリに向かって飛んで行く姿まで確認された。
女性はそれを見た瞬間、顔色を変えた。
「あ、あれは・・・!?」
その瞬間、光はヘリと衝突し、大爆発を起こしたのだ。
ヘリは空中で炎を上げ、赤い破片が地面に向かって次々と落ちてきた。
「ロケットランチャーですって・・・あなた達、本気で真利亜達を敵に回したわね」
と、真利亜という名の女性がティアのほうを睨みながら言った。
しかし、ティアもまたこの出来事は予想していなかったようで、少々困った表情を浮かべていた。
「流石に、派手すぎる気がしますが・・・」
そして、今度は辺りに銃声が鳴り響き始めたのだ。どうやら警官達がある方向に向かって発砲しているようだった。
真利亜とティアはその方向を見ると、其処には数台のジープに向かって警官達が銃を撃っている姿があった。
「ティア!足止めは俺達に任せろ!」
そんな声が拡声器を通してティアの耳に入ってきた。ティアはすぐに、その声の正体がネイキッドだと分かった。
一方、真利亜もまたネイキッドの声を聞くと、すぐに無線を手に持った。
「こちら真利亜、至急追跡班の出動を要請。ナンバーは無しの違法改造車。以上」
真利亜はそう言って無線を切ると、ティアのほうを見た。
「あの男を、他の皆が止められるわけがない・・・悔しいけど、後は他の班に任せるわ」
真利亜はそう言うと、そそくさとネイキッドのいるほうに向かって走り去ってしまった。
今、警官達はネイキッドとの銃撃戦に全人員が傾いており、逃げることは容易だ。
ティアはまだうつ伏せになっている二人に向かって手招きをした。
二人はやっと立ち上がり、ティアのほうに向かって来た。
「早く乗って」
ティアがそう言うと、二人は黙って頷き、車の後部座席に乗り込んだ。
そしてティアは運転席に乗り込み、即座にエンジンを掛けた。
「シートベルトの着用を推奨しておきます」
「え?」
「・・・言われたことはすぐに行動に移すように」
ティアはそう言った瞬間アクセルをベタ踏みし、車を勢い良く発進させた。
クラッシュとアーネストは突然の衝撃に思いっきり後ろのめりになったが、何とかシートベルトを着用することができた。
「ティアさん・・・どうして此処に?」
と、クラッシュが言った。しかし、ティアは返事をせずに運転に集中していた。
「あの・・・クラッシュ・・・まだ状況が良く分からないんだけど・・・」
と、アーネストが言った。
「あ、そうだったね・・・そうだな・・・まぁ、端的に話しちゃえば、おいらPLCっていうグループに所属することになったんだ」
「PLCって、もしかして僕が取引をしようとしていた相手?」
「うん、そうだけど・・・何でアーネストは麻薬を売るようなことを?」
「・・・ほら、どうも最近不景気で、農業だけじゃあとてもやりくりできなかったんだよ・・・」
「ああ、成程・・・でも、いつものアーネストならお金のことなんか関係無しにのんびりしてるじゃん」
「でも、植物を育てて、少し加工するだけでお金が一杯もらえるなんて夢見たいな話を聞くと、つい手を出しちゃって」
「・・・良くある話ですね」
と、ティアが呟いた。
「え、そうなんですか・・・?」
と、アーネストが言った。
「麻薬のこととかを良く知らない相手に、メリットだけを伝えて麻薬の元となる植物を育てさせる。其処からマフィア、売人、消費者と移っていくことによって麻薬市場経済が潤っていく。
今も世界中で、莫大な金が手に入るという事実だけを聞かされて、麻薬を作る貧乏な世帯というのは多いんですよ。
アーネストさん、今回あなたはこうやって脱獄して人生を無駄にすることは無かったわけですが、これからこの業界に知識も無いまま足を突っ込むことはやめたほうがいいですよ」
「はい・・・もう今回の件でこりごりです・・・」
「・・・すみません、もう少しだけ危機感を持ってもらうことになりそうです」
ティアはそう言って、車のスピードを更に上げたのだ。
クラッシュとアーネストが後ろを見ると、其処には数台のパトカーがサイレンを光らせながら迫ってきていた。
「た、大変だ!!ティアさん、どうすれば・・・」
「クラッシュさん、あなたに何か頼んだところであなたは何かすることが出来るんですか?」
「そ、それは・・・ほら、例えば銃を使って応戦とか・・・」
「扉を開けられるとスピードが落ちるのでやめてください」
「す、すみません・・・」
車はスピードを一切落とすことなく、道路を疾走して行く。そのスピードにパトカーも着いていくこともままならなかった。
「す、凄い・・・」
と、クラッシュが呟いた。
「此処で言うのも何ですが、PLCの表の顔は車のバイヤーなんですよ。ですので、こういう改造車も簡単に入手できるわけです。それでも今回はピンストライプ様が独自に改造した分スピードは桁違いですが」
と、ティアが言った。
「そうだったんだ・・・マフィアに表の顔とかあるんだ」
「ブルークレイに入っている企業も殆どが車に関係するものですし、流石に裏の仕事だけで経費を賄うことは不可能ですから」
そうこう言っている内に、気がつけばパトカーは既に後ろから消えていた。
ティアは運転しながら時計を見た。時刻は22時50分。時間に関しては余裕がある。
ティアは少しスピードを落とし、車をしばらく走らせていった。
そして、数分後に車は廃港に到着した。
三人は車から降りて、波止場へと歩いていった。
波止場には、何者かの人影があった。
「結構早く終わったようで」
そう言いながら、人影が三人に向かって歩いてきた。
「ええ、何とか」
と、ティアが言った。クラッシュは、相手がミストだということに気づいた。
「あ、ミストさん!」
「クラッシュさん・・・無事でよかった」
と、ミストが呟いた。
「船のほうは、まだでしょうか?」
と、ティアが言った。
「もう少しで来るとは思うけど・・・」
その時、遥か遠方から波の音が聞こえだした。一行が海の方を見ると、暗闇の中にわずかな光が確認できた。
そして、光はだんだんとこちらに向かってきて、それと同時に大きな船体も暗闇の中から現われた。
「到着したみたいね」
と、ミストが言った。船は波止場に泊まり、中から一人の男が出てきた。
ミストはその男に近づき、何かを話し始めた。
そしてしばらくして、ミストはまたティア達のほうにやって来た。
「後はこっちで何とかするから、二人は早く帰ったほうがいいわ。警察に見つかると面倒でしょうし」
「分かりました。では、アーネストさん、後はミストさんの指示通りに動いてください」
「はい、分かりました・・・」
と、アーネストが言った。
「アーネスト、また今度」
と、クラッシュが言った。
「クラッシュ、なんで君はマフィアに・・・」
「・・・それは、次に会った時ゆっくり話すよ」
「そうかい・・・じゃあ、またいつか」
アーネストはそう言って、ミストの方に向かって歩いていった。
「では、我々は帰りましょう。他の方々のことも気になりますが・・・これ以上私達が動くのも難しいですし」
「はい・・・皆、大丈夫かな・・・」
「恐らく、あの方々なら大丈夫でしょう・・・そう信じます」
利益も何もない、リスクだけが高い救出劇は、ひとまず成功という形で終わることとなった。
しかし、この出来事が、この街においてどのような変化をもたらしたか、まだ誰も知ることはなかった。
そして、PLCという存在もまた、この街において大きく変わっていくこととなる。
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