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クラッシュ・ウェスタン2 ~Leute beim Edelstein~
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ENDING
2012/06/02(土)01:26:07(12年前) 更新
これより下は本編です
今日は十二月二十五日、クリスマスだ。だが、南半球に位置するオーストラリアは夏真っ盛りである。
アップルタウンにはかつての賑わいはなく、昔の寂れた雰囲気だけが残っていた。宝石目当てでやって来ていた者達は、新たなる犯罪組織の襲来を恐れて次々と帰っていってしまったのだ。
そのため、今のアップルタウンには、今まで住んできた住民と、ごく一部の移住者しか残っていない。
日も暮れ始めた時間、客が全くいないバー・クランチのテラス席に、クロックとシクラメンが座っていた。
「今日も、お客さんは誰も来なかったなぁ」
と、クロックが言った。
「そうですねぇ。クランチさんも店は開けっ放しでどっかに行っちゃうし、前の忙しさが嘘みたいです・・・」
と、シクラメンが言った。
「まぁ、シクラメンが来る前もこんな感じだったし、これが普通といえば普通なんだけどね」
「そうなんですか・・・なのによくお店は潰れなかったんですね」
「はっきり言ってマスターの趣味みたいなもんだし、マスター自身は十分満足してるんじゃないかな」
「確かに、クランチさんは仕事をしているときも楽しそうですもんね。あ、ちょっと待っててくださいね!」
シクラメンはそう言うと立ち上がり、いつもクランチがいるカウンターの所まで行くと、そこに置かれていた赤ワインのボトル一本と、グラス二個を持ってやってきた。
「もうそろそろ夜ですし、どうですか?」
シクラメンはそう言って、グラスに赤ワインを注ぎ始めた。
「店の物なのに大丈夫?」
「このワイン、私が買ったものなんですよ。とっても高いのを買っちゃって、一人で飲むのは勿体無いかなって思いまして・・・」
と、シクラメンが言った。もちろん、本当は最初からクロックと一緒に飲むことを目的として買ったものだ。
「へぇ、シクラメンってワインが好きなんだ・・・実は僕もワインが好きなんだ」
「え、えぇ、それは奇遇ですね!」
と、シクラメンは言った。これもクロックの好みを徹底的に調査した結果であり、奇遇なんかではない。
「それじゃあ、乾杯しようか」
クロックはそう言ってグラスを持った。
シクラメンも椅子に座ってグラスを持った。
「それじゃあ、乾杯!」
シクラメンはそう言って、グラスを軽く当てた。
二人はゆっくりとワインを飲み始めた。
「・・・うん、おいしい」
と、クロックが言った。
「ホントですか!よかった~」
と、シクラメンが言った。
「そういえば、今日ってクリスマスだね」
「そうですよ、クリスマスですよ・・・」
「ほら、前シクラメンが言ってた、彼氏作りってどうなったの?」
「え・・・!?」
シクラメンは、クロックの口からそのような言葉が飛び出すとは思ってもいなかった。
「結局、彼氏はできた?」
「いえ・・・その・・・まだ、なんですよね・・・」
シクラメンは内心かなりドキドキしていた。
実はシクラメンは、今日クロックに告白をしようと思っていたのだ。言うなら今しかない。シクラメンはそう思った。
「ふーん、そうなんだ・・・」
「・・・あ、あのぉ・・・」
と、シクラメンはとっても小さい声で言った。
「ん?」
「え、えぇっと・・・わ、私、実はクロックさんのことが・・・す、凄く・・・」
シクラメンは緊張で顔が真っ赤になっていた。
「あ、そうだ!これから僕の家に来ない?」
「えぇ!?そ、そんな、さすがに、ほら、いきなり、家とかは、まだ、やっぱり、早すぎな、気が・・・」
シクラメンは、クロックの言葉を完全に勘違いして捕らえていた。
「家でココとザジさんがケーキを作ってるんだ。もう少ししたら完成するだろうし、一緒に食べない?」
「え、ケーキ・・・?あ、はい、喜んで・・・!」
「ワインもみんなでパァーっと飲もうよ。だから、ワイン持って行っていい?」
「も、もちろんいいですよ!」
「そうと決まれば、早く行こうか」
クロックはそう言って席を立ち上がると、ワインの口にコルクを詰め、ボトルを持った。
そして、自分の家に向かって歩いていってしまった。
「あはは・・・まだまだクロックさんに告白はできそうにないや・・・」
シクラメンはそう言ってグラスを流し場に置き、クロックの後を追って行った。
クラッシュたちの住む家では、ザジとココの二人が料理をしていた。
「ココさん、このケーキ、というものはこんなにドロドロでいいのですか・・・聞いた話によれば、もっとしっかりしていた気がするのですが・・・」
と、ザジはボウルに入ったケーキの生地を見て言った。
「そりゃ、まだ焼いてないからね。これをじっくり焼けば、美味しいケーキになるはずよ!後は生クリームを作って、りんごを飾れば完成ね!」
ココはそう言いながら、ボウルに入った生クリームの原料をかき混ぜていた。
「なるほど・・・焼くという操作を加える事で、ケーキに反応を起こさせるのですね」
「あ、ザジさんはトッピング用にりんごを切っておいてくれない?包丁とまな板はそこにあるから」
「はい、分かりました」
ザジはそう言って、まな板の上にりんごを乗せ、包丁を握った。
「・・・禍々しい道具ですね・・・」
ザジは包丁を見ながら言った。
「禍々しいって、そりゃ刃物だしね」
「・・・さて、このりんごを切ればいいのですね」
ザジはそう言って、包丁を構えると、思いっきり振りかぶった。
それを見たココは、とっさにザジの腕を持った。
「ちょ、ちょっと待って!包丁はそんなに振りかぶらなくていいから!危ないから!」
「しかし、こうしないと力が入らないのでは・・・」
「大丈夫、そこまで鈍ら包丁じゃないから・・・うん、ザジさんは生クリームを泡立てておいて。あたしがりんごを切るから」
「分かりました」
ザジはそう言って泡だて器を手に持ち、生クリームの原料をかき混ぜ始めた。
ココも、包丁を使ってりんごを切り始めた。
クラッシュ一家で料理を作れるのはココだけということもあって、ココの包丁裁きはかなり上手だった。
「すごい・・・堅いりんごが、こうもあっさりと・・・」
ザジはココの包丁裁きを見て唖然としていた。
「このくらいなら簡単簡単。そういえば、ザジさんって、料理とか作ったりしないの?」
「・・・恥ずかしながら、自分自身で作ったことはないです・・・」
「へぇ・・・それじゃあ、今回でケーキは作れるね!」
ココはそう言いながら、既に切り終わったりんごを皿に移し、今度はケーキの生地を型に流し始めた。
そして、生地をオーブンに入れた。
「・・・できることなら、いつまでもこうやってココさんと一緒にいたいです」
と、ザジが言った。
「そっかぁ・・・ザジさんもうちょっとで帰っちゃうんだね」
「はい、一応地上にいることの出来る期間は、今年までということになっているので・・・これでもかなり無理を聞いてもらったんですけどね」
「次、来るのはいつ?」
「地上で何らかの争いがない限り、私は地上に来ることができないんです。ですので、いつになるかは分かりません・・・」
「そうなんだ・・・また、寂しくなっちゃうな」
その時、玄関の扉が開く音が聞こえてきた。
「ただいま」
「お邪魔します」
クロックとシクラメンだ。
ココとザジは、玄関に行った。
「え・・・?お、おかえり、お兄ちゃん。シクラメンも一緒なんだ・・・」
「うん、一緒にケーキを食べようって、誘ったんだ」
「へぇ・・・お兄ちゃん、ケーキはもうちょっとで出来るから、リビングで待っていてよ」
「分かった」
クロックはそう言って、リビングへと入っていった。
ココはすぐさまシクラメンに近づいた。
「どう、うまくいった?」
と、ココはシクラメンに向かって小声で言った。
実は、シクラメンがクロックに告白しやすい状況にするために色々準備をしていたのはココだったのだ。
ココはクロックとシクラメンが二人きりになれるような状況を作るために、さまざまな人に頼んで回っていたのだ。
「そ、それが・・・告白しようとしたら、クロックさんが家に来ないかって言ってきて・・・結局は・・・」
「ええ・・・そうなの・・・ごめんね、お兄ちゃんホント鈍くて。もう、お兄ちゃんってホント分らず屋なんだから・・・ポトリゲスさんくらいの行動力を持って欲しいわ・・・」
「いえ、いいんですよ・・・こんなに準備してもらってありがとうございました。そうだ、料理手伝いましょうか?」
「そうねぇ、じゃあお願いしていい?」
「はい、分かりました」
シクラメンはそう言って、キッチンに向かって行った。
「・・・私にはよく分からない感情です」
と、ザジが呟いた。
「ザジさんも女の子だから、いつか分かる日が来るよ」
ココはそう言って、キッチンに向かって行った。
「・・・他人を好きになる感情・・・もしかして、私がココさんに抱いている感情のこと・・・?いえ、でも好きという感情は異性間での話・・・地上で生きていくのは難しいものだ」
と、ザジは呟いた。
オーストラリア南部の港町、常に活気に溢れるその町では、クリスマスということもあって恋人で溢れかえっていた。
陽も暮れ、辺りが暗くなった海岸沿いに、ポトリゲスとペタの二人がいた。
「もう、お日様が見えなくなっちゃったね」
と、ペタが言った。
「そうだな・・・もう夜だな・・・風が涼しいぜ」
と、ポトリゲスが言った。
「ポトリゲスぅ、今日は楽しかったよー。お洋服も沢山買ってくれてありがとうね」
「いいんだいいんだ。ペタも女の子らしく服は一杯合った方がいいと思ってな」
「ポトリゲスって、とっても優しいんだね。せけんしらずな私にも色々教えてくれるし」
「まぁ・・・いろいろ知っておいたほうがいいだろうしな」
「フフッ、何だか、ドラマとかのデートってやつみたいだね。それに今日ってクマリススなんだよね」
「それを言うならクリスマスだ」
「そうそう、それそれ。カップルっていうのが、はくじょうしたりする日なんでしょ?」
「白状・・・告白のことか。実際は違うんだけど、まぁそんな行事になってきているな・・・」
「じゃあ、ポトリゲスも今日は誰かに告白するの?」
「いや、まぁ色々あってだな・・・ちょっと待っててくれよ」
ポトリゲスはそう言って、ペタから少し離れた所に行くと、無線機を手に持った。
「そろそろ頼んだぜ」
と、ポトリゲスは小声で言った。
「ああ、まかしとけ。レオパルド二世からでっかいのを上げてやるよ」
「何てったって、おれっちの最高傑作だからな!すっげぇぜ!」
「しかも、タイニーの持ってきたのもいっぱいある!」
「ポトリゲスはんの頼みやったら、タダでも動きますで」
と、無線機からウォーラス、ディンゴ、タイニー、リラ・ルーの四人の声が聞こえてきた。
「へへ、悪いな。それじゃあ、よろしく」
ポトリゲスはそう言って、無線を切った。
「悪い悪い、ちょっとな」
ポトリゲスはそう言いながらペタに近づいた。
「何してたの?」
「色々あってなぁ。そうだ、海でも眺めようぜ」
ポトリゲスはそう言って海の方を見た。
「海ー?真っ暗で何も見えないじゃん」
ペタはそう言いつつも海の方を見た。
その時、水平線から小さな光が上ってきたかと思えば、巨大な花火が夜空に煌めいた。
そして、次々と花火が音を立てて夜空を彩っていったのだ。
「うわ~、奇麗!」
ペタは目をキラキラさせながら花火を見ていた。
「フッ、奇麗だな・・・でも、ペタのほうがきれ・・・」
「あの、ドーンってなるのって、火薬を使ってるの?じゃあ、あれで戦ったりすることも出来ちゃうの?もしかしてアレって大砲?」
「え・・・いや、あれは花火って言ってな。火薬の種類と詰め方を工夫することであんな風に奇麗な色を出すことが出来るんだ。まぁ、兵器として使えないことはないだろうが・・・もっと低コストな火薬を選ぶだろ普通。てか、何で兵器の話が出てくるんだ・・・」
「へぇ~、私も未来で作ろうっと!」
「・・・上手くいくといいな。それで、ペタ。実はな・・・」
「それでそれで、あの花火ってどんな火薬を使ってるの?」
「火薬かぁ・・・よく知らないが、金属の種類によって燃焼時の炎の色が違うことを利用しているらしいからな・・・金属と、空に打ち上げる普通の火薬を使ってるんじゃねぇのか?それよりもだな・・・」
「金属って燃やしたらあんな風になるの?それじゃあ、今日はこれから金属を燃やす実験がしたいなぁ」
「・・・マジかよ。そうだな・・・エヌ・トロピーの家になら実験器具くらいならあるんじゃねぇのか?」
「ホント?じゃあ、今からトロちゃんの家にれっつらゴー!」
ペタはそう言って、どこかに走り去って行ってしまった。
「・・・こいつは今までで最も落とすのが難しい女かもしれないな」
と、ポトリゲスは小さな声で呟いた。
「こんな大事なデイで、レディへのプロポーズをミスするなんて、ユーもついてないね」
突如、ポトリゲスの後ろから声が聞こえた。ポトリゲスは驚いて振り返った。
「何だよ、エヌ・トロピーか。ペタがお前の家に行ったぜ」
「ああ、既にノウイングさ。それより、そろそろタイムリミットは迫っているんだ、早くプロポーズしないと、一生後悔するよ?」
「ああ、分かってる。だが、ペタは何かそんな気一切ないみてぇだしな・・・」
「・・・やはり、ユーには言っておいた方がいいかもしれないね」
エヌ・トロピーは、ポトリゲスに何かを耳打ちした。ポトリゲスはそれを聞いて驚愕した。
「な、何だって!?ペタが、人間じゃないだと!?」
「ビークワイエッツ!あんまり騒ぎ立てない方がいいよ」
「悪い悪い・・・それより、一体どういうことなんだよ?」
「実は、前ペタを未来に戻すための調査の一環として、ペタのレントゲンを撮ったんだよ。そうしたら、ペタのボディには生物とは思えないパーツが沢山・・・」
「マジかよ・・・それじゃあ、俺様はロボットを好きになっちまったてことなのか!?」
「ロボットというか、何だろう、プログラムというか、ワタクシもよく分からないんだ・・・まぁ、外見はピーポゥと何等変わりがないから、気づかなくて当然さ」
「もしかしたら、南はそのことも知っていたのかもな・・・あいつは何でも知ってやがるし」
「恐らく、ノウイングしていただろうね・・・さて、ペタにマイホームを荒らされないうちに、ワタクシはグッバイさせてもらうよ」
エヌ・トロピーはそう言って、自分の家の方向に歩いていった。
「・・・まぁ、何でもいいか。俺様が好きになったことに違いはねぇんだしな」
ポトリゲスはそう呟き、どこかに行ってしまった。
アメリカ西部の郊外、既に人々は他の州に移住し、残っているのは寂れた町のみ。
そこにある建物の一室で、クリムゾンは机に向かって座っていた。
「・・・やはり此処が落ち着く」
と、クリムゾンが呟いた。外は少し明るくなってきており、窓の外には一面の銀世界が存在していた。
「十二月は、寒くなくてはな」
クリムゾンがそう呟いたその時、部屋の扉が荒々しく開かれる音が聞こえた。
「クリムゾン・・・ついに見つけたぜ」
クリムゾンはすぐに誰が来たか分かった。南だ。
「おいおい、もっと丁寧に扉を開けてくれ。実験体が転落したらどうするつもりだ?」
クリムゾンは椅子から立ち上がり、南のほうを向いた。
「黙れ、ったく手間かけさせやがって・・・ここで死ね」
南はそう言って、刀を鞘から抜いた。
「・・・今日はクリスマスだぞ。神聖な日ですら命を奪うか」
「穢れた命は必要ねぇ・・・それに、お前を早く仕留めないと、あの宝石で何をしでかすか分からねぇからな・・・!」
「・・・クックック、やはり宝石目当てか。そこまでして宝石が欲しいか?お前の中で何が宝石を望んでいる?」
「宝石はどうでもいい・・・宝石を使って悪事を行う野郎が気に食わないだけだ・・・」
「そうか・・・なら、お前の望んだ答えをくれてやる。もう此処に宝石はない」
「・・・は?」
南は刀を地面に落とした。
「詳しく調べて見れば、あの宝石はただの辞書のようなものだったさ。過去から現代の全ての物事を知ることが出来る辞書、何て俺には全く必要ない代物だ。俺は自分自身が満足して生きるために必要な情報は全て持っている。今更知ることを無駄に求めたりはしない」
「フン、天才は言うことが違うな・・・それで、宝石はどうした?」
南は冷静になり、刀を拾い上げて鞘に収めた。
「ヘルゼルって野郎のことを覚えているか?」
「・・・ああ、覚えているさ」
「少し前、都会まで買い出しに行ったときに偶然出会ってな。宝石が欲しいって言ってたから、あげたって訳だ」
「ヘルゼルは、何で宝石を欲しがっていたんだ?」
「・・・知ることへの探求って奴だろ。あいつはまだ若いみたいだし、勉強したい年頃なんだろう」
「そうか・・・」
南はそう言って、後ろを振り向いた。
「・・・殺しに行く気か?」
と、クリムゾンが言った。
「いや、ヘルゼルなら多分大丈夫だ。悪いことには使ったりしないだろうな。さて、こんな廃墟からはとっととおさらばだ」
「まぁ待て、久しぶりの客だ。ゆっくりしていけ」
「誰がお前の誘いに乗ってゆっくりして行くんだよ。ホルマリン漬けの生活はごめんだ」
「南、見た感じほとんど飯を食ってないみたいだな。この寒さの中で出て行ったところで、ぶっ倒れて餓死するだけだぞ」
南は無視して部屋を出て行こうとしたが、大きな腹の虫が部屋に響いた。
「・・・ハッハッハ!お前も自然の摂理には逆らえないか。どうだ、パンぐらいならやるぞ?」
クリムゾンはそう言って南にパンの入った袋を投げた。南は振り返って袋を受け取った。
そして、袋からおもむろにパンを取り出し、頬張った。
「・・・悪くない味だ」
「そりゃそうだ、俺の作ったパンだからな」
「やはりな」
「もっと元気になったら俺の所に来い。お前の目的が宝石だけじゃないことぐらいお見通しだ」
「・・・フッ、いつから俺みたいな能力を身に付けた?」
「能力じゃない、経験だ」
「経験か、お前らしい。それじゃあ、よいお年を。最後のクリスマスぐらい神に祈っとけよ」
南はそう言って部屋を去って行った。
「・・・ヒャッヒャッヒャ、いつでも来るがいい。そして、早くお前の苦しむ顔を見せてくれ・・・」
クリムゾンはそう呟くと、再び椅子に座った。
アメリカ西部の閑静な住宅街。そのある家の一室で、ヘルゼルは机に向かってもくもくと勉強をしていた。
「・・・少し眠たいな・・・だが、勉強したいことが多すぎて、寝る暇がないな・・・」
と、ヘルゼルが呟いた。
オーストラリアから自分の家に戻った後、ヘルゼルは様々な勉強をしていた。
「それにしても、この宝石は本当に凄いな・・・ありとあらゆる情報が詰まっている」
ヘルゼルはそう言って、宝石を手に取った。まさか、最終的に自分がこの宝石を手に入れることになるとは思いもよらなかった。
ヘルゼルはこの宝石の力を借り、更に自らの知力を高めるために精進していた。そして、この宝石を見るたびに、オーストラリアでの出来事を思い出すのであった。
「・・・まるで昨日の事のように感じるな。本当にあの時は一度にいろんなことが起き過ぎた。そして・・・」
ヘルゼルはそう言ってゆっくり立ち上がると、部屋の片隅で寝ているフェアーに近づいた。
冬にもかかわらず、フェアーは元気に部屋で暴れまわったり、がつがつエサを食べたりしていた。
そのためか、ここ数日でフェアーは見る見るうちに成長していった。
「・・・一体何というワニの種類なのだろうか。あまりに大きくなりすぎたら、世話が大変そうだな・・・」
ヘルゼルはそう言って、部屋のカーテンを開けた。既に外は明るかった。
「しまった、また眠れなかった・・・まぁ、今から寝ればいいか。今日はクリスマスだしな」
ヘルゼルは再びカーテンを閉めると、ベットに横になろうとした。その時、かすかに宝石が光り輝いたような気がした。
「ん・・・?」
ヘルゼルは宝石を手に取り、じっと宝石を見つめた。
「・・・これは、悪魔か?」
宝石の中には、ヘルゼルと似たような姿をした生物たちが映っていた。
その生物たちは、手に武器を持ち、町のような場所で暴れていた。
「悪魔が、暴れている・・・まさか、悪魔が動き出したのか!?」
ヘルゼルは驚愕した。一難去ってまた一難、今度は悪魔がどこかで悪事を尽くしているようだ。
「また、戦いに行けということなのか・・・?せっかく勉学に励むことができそうだったというのに、悪魔め・・・!よし、一眠りしてから支度をするとしようか」
ヘルゼルはそう言って宝石を机に置き、ベットに横になった。
アメリカ東部のとある町。世界有数の経済都市でもあるその町は、クリスマスの日であっても仕事をする人で溢れていた。
そんな中、ある一軒のバーで優々と酒を飲む男たちがいた。リタイラルとカタパルトだ。二人はカウンターに並んで座っていた。
「んじゃ、乾杯しよう!」
リタイラルはそう言って、ウィスキーの入ったグラスを手に持った。
「・・・乾杯」
カタパルトはそう言って、ウィスキーの入ったグラスをリタイラルのグラスにぶつけた。そして、両者とも酒を飲み始めた。
「・・・良い味だ」
と、カタパルトが呟いた。
「そりゃ、僕オススメの店だから、絶対においしいさ!」
「やはり、酒は御前に任せればまず失敗しないな」
「ああ、旨い酒が飲みたかったらいつでも頼んで!ウィスキーにワイン、カクテルに日本酒までなんでもござれ!」
「フッ、頼りにしている」
カタパルトはそう言って、ウィスキーをちびちびと飲んだ。
「でも、こんな真昼間から飲んでて大丈夫?」
と、リタイラルが言った。
「今日はクリスマス、普通仕事は休みだ。今も働いている奴は、よっぽど仕事が好きなのか、扱き使われているかのどっちかだ」
「まぁ、そうだけど・・・そう言えば、カタパルトって今何の仕事してるんだ?」
「・・・普通の仕事だ」
「カタパルトの普通と、他の人の普通って次元が違うんだよね・・・」
「犯罪には手を染めてない。それだけは言える。で、御前はどこで働いている?」
「今まで通り、普通に働いてる。特に言うこともない」
「そうか、もう俺が仕送りを送る必要もないんだな」
「いや、酒代で生活費が全部消えるから、たまにちょっと送ってもらえたらなぁ・・・」
「・・・断る」
「そんなぁ・・・ええい、もうどうでもいいや!ブランデー、ボトルで頂戴!」
と、リタイラルが叫んだ。しばらくして、リタイラルの目の前にブランデーのボトルが置かれた。
「全部飲む気か?50度だぞ」
「50度なんてジュースみたいなもんさ!僕にとってお酒は80度からだよ!」
カタパルトは、リタイラルがウィスキー一杯だけでべろんべろんで酔っていることに気づいていた。
「・・・ほどほどにしておけよ」
「僕だって、限度ってのは分かってるって~!うぃ~」
リタイラルはそう言いながらボトルを手に持ち、直接口をつけて飲み始めた。
「プハーッ!うめぇ!!」
「・・・マナーがなってないな」
「何か言った~?」
「いや、独り言だ」
「そういえばさ~、カタパルトって、何でVaterに入ってまでお金を稼ごうと思ったの~?」
リタイラルの発したVaterと言う言葉に、店の者全員が固まった。
「・・・何でだろうな」
カタパルトはそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。そして、カウンターに100ドルを置いた。
「この金で気が済むまで飲め。俺は先に帰らせてもらう」
カタパルトはそう言って、足早に店を出て行ってしまった。リタイラルは何故彼が帰ってしまったのか理解できなかったが、しばらく考えて気がついた。
「・・・ハッ!そうか、カタパルトが元Vaterってバレたら、色々厄介になってしまうから、帰っちゃったのか・・・また悪いことしちゃったな」
リタイラルはそう言って、カタパルトの後を追って店を出て行った。
同じくアメリカ東部の町。様々な店が展開する通りに、まだシャッターの降りているファーストフード店があった。
中ではフレイとニーナが、席に座っていた。
「遂に、開店だぜ」
と、フレイが言った。
「ったく、あんたについて行ったらハンバーガー店の手伝いをされるなんて思いもよらなかったわ」
と、ニーナが言った。
「俺の夢は、世界一の悪党か世界一のハンバーガー店オーナーかのどっちかだからな。悪党の夢がつぶれた今、ここでオーナーとしている訳だ」
「あんたがオーナーなんかやって、ホントに大丈夫なの?あんたって経済学とかできるの?」
「ここ数日でそこら辺のノウハウは全て叩き込んだ。しかも機材や食材も全て準備完了。味は俺特製のレシピだから不味くなるわけがない。こんな最強セットがありゃあ怖いもの無しだ!」
「ふーん、上手くいったらいいわね。それで、今日はあたいは何をすればいいのよ」
「ちょっと待ってくれよ」
フレイはそう言って、席の横に置いていたダンボールの中をがさがさ探り始めた。
「今日はクリスマスだろ?だからこれを使って宣伝してきて欲しいんだよな」
「・・・あんた、本気で言ってんの?」
「ああ、そうだけど?」
「ふざけないでよ!何であたいがサンタのコスなんて着なくちゃいけないのよ!?ばっかじゃないの!?」
と、ニーナは顔を真っ赤にさせて言った。フレイが取り出したのはサンタのコスチュームだったのだ。
「・・・ダメか?」
「大体なんでそんなにミニスカートなのよ!こんな寒いのにそんなに足を出したら凍え死ぬでしょ!!それに、あたいが客寄せなんて雑用仕事すると思う!?」
「・・・ホントは着たいんだろ?」
「そ、そんなことないわよ!!」
「じゃあ、この時期にとっとと質屋で売り払ってくるか」
「・・・ちょ、ちょっと待ちな!今すぐ売らなくてもいいんじゃないの!?」
「何でだ?」
「いや、何でって、まぁなんとなくだけど・・・」
「よく分からんねぇな・・・あ、俺は仕込みしてくるわ」
フレイはそう言って、厨房へと歩いていき、姿が見えなくなった。
すると、ニーナは素早くサンタのコスチュームを手に取った。
「フフ、ちょっと可愛いじゃん・・・誰も見てないわね」
ニーナはそう言うと、その場でサンタのコスチュームに着替え始めた。
「中々いいじゃないの。ちょっとワルな小悪魔サンタって感じ?」
ニーナはサンタのコスチュームを着て若干はしゃいでいた。
その様子を、厨房の影からフレイが覗いていた。
「やっぱり着たかったんだな。ホント素直じゃないな、ニーナって」
と、フレイが呟いた。
「フレイ、聞こえるー!?」
と、ニーナは叫んだ。
「ん、どうした?」
と、フレイが言った。
「あんたの言ってた客寄せ、別にしてあげてもいいわよ?」
「本当か、じゃあ今からチラシを配って来てくれよ。近くの席に置いてあるからさ」
「オッケー!それじゃあ行って来るわ!」
ニーナはそう言ってチラシを手に持ち、外に出て行った。
「・・・この店が成功して、金が入ったら今度はニーナの夢を叶える番だな。でも、ニーナの夢って何だ?・・・多分、世界征服とか言うんだろうな・・・」
と、フレイが呟いた。
アップルタウン南部、墓地。墓石の数は少なく、人気もほとんどない。
陽が暮れ始めた頃、クラッシュは一つの墓の前で手を合わせていた。
墓には、弾の抜かれたバズーカと、花が置かれていた。
「やっぱりここにいたか」
クラッシュの後ろから声が聞こえた。クラッシュは後ろを振り返った。そこにはクランチが立っていた。
「何だ、マスターか」
と、クラッシュが言った。
「ちょっと店を追い出されてな」
「そうなんだ。おいらもココにちょっと外に出ていてって言われて、行く所がないから、またお墓参りをしてたんだよ」
「それにしても毎日毎日欠かさずザンナーの墓に来て手を合わせているなんて、意外と律儀な所があるんだな」
「そりゃ、ザンナーさんはおいらのせいで・・・」
「そのおいらのせいってのはもう言うな。何でも自分のせいにするのは昔からの悪い癖だぜ?」
「う、うん・・・ごめん」
「分かればそれでいいんだ。何てったって、お前はこれから町をまとめていかないといけねぇんだからな。そんな奴がくよくよしてちゃあ、誰もついてこないだろ」
クランチはそう言って、クラッシュの肩を叩いた。
「うん、分かった」
「よし、それじゃあ俺の店で一杯やろうぜ、アップルチーフ」
「・・・何でもアップルってつけりゃあいいってもんじゃないよ!!」
《The end》
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