DRIFT☆STREET-The Driving Ace-


レッドゾーンさん作

ACT.2「去る泥棒跡を濁さず」

あの(動機が超下らない)連続強盗事件から2週間…
もう5月に入り、凶悪犯罪も減少した。
捜査一課の出番は無い。
なので、今回は知能犯担当の捜査二課の出番である。

警視庁捜査二課…
柳斗は此処に配属された。
今捜査二課が担当している事件は、窃盗事件である。
この事件も連続強盗同様、昨年暮れあたりから発生している。
4ヶ月も経った今…必死の捜査も空しく、決して証拠を残さない犯人のお陰で分かっているのは「窃盗事件が発生している」という事だけである。
「またやられた…今回で83件目だ…」
捜査二課のなかで「Driving Ace」枠で入った者は3人ほど。
その内1人は心底自分に自身を失くして辞める辞める騒いでいるらしい…
「くっそぉ!!なんで何一つ証拠が見つからないんだ!!」
柳斗は嘆いていた。だが決して諦めてはいなかった。
「この事件の犯人だって人間なんだ!何かしらミスを犯している筈なのに!!」
必死に情報収集するも、「怪しげな人影を見た」なんて情報すら入ってこない。
「見つからないのはこっち側が能無しって事じゃないの?」
柳斗にそう言ったのは「Driving Ace」枠で入ってきた「水野 香子(みずの きょうこ)だ。
彼女は完璧主義の人間で、他の二課メンバー全員を見下している。
「完璧でなければ意味が無い」がモットーの彼女は「完璧なんてあり得ない」をモットーとする柳斗とは半端無く対立している。
「犯人は完璧な人間よ…絶対に証拠は残さない…
私は無能な警察より有能な犯罪者の方がまだマシだと思うわ」
「テメェ…犯罪を容認するのか…!?」
「そうとは言ってないわ、ただ警察だろうと政府だろうと無能なら存在価値0だって言いたいの…
第一、「Driving Ace」枠が誕生したのだってロクな対策を取ろうともしない無能な政府のせいじゃない。
二課がこんなにも無能だったならせめて一課希望すれば良かったわ」
そういって香子はその場を去っていった。
「あんのアマ…」
確かに捜査一課はこの窃盗事件と同時期に起きた事件を解決した。
だからってそんなに二課を酷評する事無いじゃないか…
嫌な奴と同僚になっちまったな…
そんな想いが柳斗のイライラを更に加速させていった。
そして昼休み。
外は太陽がギンギンに輝いていて暑いが、なぜか署内に居たくなかったので外に出た。
だが暑いせいで柳斗のイライラが収まる事は無かった。
コンビニにでも入って涼もうとした時、コンビニの中から瞬佑が出てきた。
「おー、川島じゃん」
「赤島…なんでこんなトコに…?」
「いや〜、最近目立った事件がねーからさ、まあそれはそれで平和の証拠だからかまわねーけど暇で暇でしゃーねーんだ、だからコンビニで適当に雑誌立ち読みとかしようかなーって」
「…ホントいーよな一課は…」
柳斗が羨ましがると…
「そーでもねーよ…特にこの前の強盗犯の動機は今思い出しても頭痛がしてきやがる…」
まあ確かにあの動機は小学生レベル…いやもっと低いかもしれない…
「あ、そうだ…」
「どうした?」
柳斗は今捜査している事件の概要を瞬佑に話した。
「ふーん、証拠の無い窃盗事件ね…知能犯は専門じゃねーから詳しく捜査はできねーが…一課は今異常に暇だからな、皆にも話しとく」
「サンキュ、恩に着るぜ!じゃ!」
そう言って柳斗は帰っていった。

ー翌日ー
依然として窃盗犯の手がかりは見つからない…
インターネットや聞き込みetc…思いつく限りの方法で捜査するも目撃証言の「も」の字も見えぬ今、犯人逮捕は夢の夢のまた夢である。
「あー!!畜生!!なんで見つかんねーんだよ!!…目撃者0で96件もの窃盗を繰り返すなんて人間業じゃねーぞ!!」
柳斗もまた依然としてイライラしていた。が、ある事を思い出した。
「あ、そういえば捜査一課にも多少の協力を頼んだんだっけ…
さっき携帯忘れて外でたからな…なんかメール来てるかな…」
そう言って携帯を開いた。
「Eメール 1件」の表示があった。
メールの送り主は瞬佑だった。
『お前が担当している事件の鍵になるかは分からないが、お前に教えておきたい事があったから伝えておく。
昨日、新宿のとある路地で30人以上の人間が集まっていた。
興味本意で覗いてみたらそこで行われていたのはなんとヤクの密売だった。
だが中毒でもなさそうな人間があれだけ集まっているのは不自然だ。
ひょっとしたらあの大人数を集めるために金が必要で、そのために窃盗をしていたのではないか…
確証は無いがその線もあると思う。
じゃあ、捜査頑張ってくれ。』
と、書いてあった。
そのメールに対し柳斗の感想は…
「なるほど…流石に中毒者でもない人間があれだけヤク目当てでやってくるとは考えにくいな…」
事件は動くのか…!?
「とりあえずそっちの方も捜査してみるか…」
そう言った後、柳斗は一度家に戻った。
家のパソコンで調べるつもりのようだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
隅々まで、解決に繋がりそうなものはどんな小さなモノでも見逃さないつもりらしい。
「…!?…もしかして…コレか!?」
柳斗が目にしたものは裏サイトだった。
掲示板しか無いこのサイト…検索では引っかからなかった。
リンクを適当にクリックしたら出てきた、偶然の産物だ。
早速掲示板を開く。すると…
「パスワード入力画面」と出てきた。
勿論パスなど知るよしも無い柳斗…
結局手がかりはは見つからなかった。
どんな仕組みなのか…音を増幅する機械を持って新宿の路地という路地を歩き回った。
すると怪しげな集団が居た…
早速会話を盗み聞きしてみた。
「皆さん、これから明日のサイトのURLと掲示板パスを教えます」
なるほど、と柳斗は思った。
毎日URLを変更しているのか…更にパスも毎回変えている。
この集まりに参加しなければならないということか…
いつまでも危険な場所に居る必要性は全く無い。
柳斗は足早にその場を去った。

翌日、柳斗は二課メンバーにその事を伝えた。
麻薬密売の方と窃盗の方の捜査に分かれる事になった。
柳斗は瞬佑に電話を掛けた。
『どうした?川島…』
「やったぞ赤島!!いよいよ窃盗犯を麻薬密売の罪も含めてブタ箱にブチ込む日が来そうだ!!」
犯人にはかなり近づいた。後は作戦の決行を待つだけだ。

ー決行の日ー
「…いやいよだ…絶対にしくじれない…」
柳斗は決行に向けて意気込んでいた。
インプの整備もしっかりとし、前日もしっかりと寝た。
(昨日のサイトの暗号…窃盗は間違いなく渋谷で行われる…密売のほうは例によって新宿だな…)
キュルルルルル…ヴォゥン!ヴォゥン!ヴォゥン!
Egを掛け、2回フカす。
そしてニュートラルから1速に上げ、クラッチを繋ぐ。
インプレッサはゆっくりと動き出す。
柳斗は適当な所にクルマを停め、あたりを見回す。
怪しい人影はないか…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
いた…!!怪しい人影がいた!!
怪しい男を見つけた瞬間、柳斗はそっちの方に向かい、手帳を見せた。
「おい!お前!止まれ!!」
すると男は驚き…
「げっ!!サツだ!?なんで俺の場所が分かった!?」
チャキッ!
男は拳銃を取り出し、発砲した。
柳斗は手を撃たれたが構わずにインプに乗り込む。
犯人のクルマはテスタロッサだった。
「ケッ、フェラーリかよ…最近の犯罪者は高級外車ばっか乗りやがって…」
ヴォォォォォォォォ!!
犯人のテスタは大通りから国道246号線方面に向かっている。
「246号線から神奈川に向かってヤビツにでも入るつもりか…!?」
柳斗の読み通り、犯人は神奈川に入り、ヤビツ峠に向かった。

ーヤビツ峠ー
ブォォォォォン!!キャキャキャ!!
ヤビツ峠…突如として道幅が広くなったり狭くなったりの難コースである。
ギャァァァァ!!
狭い峠に響き渡るスキール音…路面に残るブラックマーク…
それは同時に走り屋の迷惑さの象徴でもあるのか…?
コース中盤あたり…柳斗はテスタに猛プッシュを掛ける…
そして遂に並んだ!
すると…
「チッ…!!ウゼェんだよ腐れポリ公が!!」
そう言ってテスタは横からインプを突き落とした。
「…!?野郎!!!」
崖下に落ちていくインプ…だが運良く下の道路に着地出来た。
だがこの落下がインプに与えたダメージは絶大だ…このインプはもう修理しても無駄だろう…
「クソ…ッ…インプ!!犯人をしょっ引くまでで良い!!もってくれ!!」
ババババババ…ギリリリリリリ…
EJ20の音は最早Eg音とはお世辞にも言えないほど酷くなっていた…
だが何とか走っている。
ギィィィィィィィィ!!!
異音を鳴り響かせながらヤビツのヒルクライムを疾走するインプ。
だが異変は直ぐに起きた…
「!?…ブーストが掛からない!?」
ブーストメーターの指し示す数字は0から変わらない…
「畜生!タービンが飛んだか!?…頼むインプ!!あと5分もあればいいから!!」
ギ…ギ…ギ…
Egの回転数が上がらなくなってきた…Eg音も頼りなくなってきた。
そして…遂にヘッドライトが見えた!
「!!?…あいつ生きていたのか!?…クソォ!!完全に死んだと思っていたのに!!」
「喰らえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」
柳斗はインプの最後の力を振り絞ってテスタにブツけた!
ガシャァァァン!!
キャァァァァァァ!!
テスタは側壁に当てて停止した。
「…窃盗及び公務執行妨害で逮捕する!」
「証拠残さずの泥棒」事件は終結した。
本部に連絡し、犯人は連行された。
そしてインプに入り込む。
「よくやった!」とでも言うようにハンドルを握ったその時だった。
…その瞬間、Eg音が消えた…

この窃盗犯はやはり麻薬の密売に関わっていた。
だが名前だけは吐かなかった…住民票か何かを手に入れようとしても住民票自体が無い。
指紋を採っても名前が出てこない…「名前は捨てた」犯人はそれだけを言っている。

そして翌日ー
柳斗のGDBインプレッサは犯人のテスタロッサと一緒に廃車としてスクラップ場に運ばれた。

その日以降柳斗は愛車を失ったショックを引きずりながら出勤した。
香子も柳斗の事を少しは認め始めたようで一応は柳斗の事を心配している。

クルマは消耗品の塊だ。
どんなに大切に使っていても何時かは廃車になってしまう。
分かっていても柳斗にとっては辛すぎる事であった。
あんな無茶な並びをしなければインプもこんな目には遭わなかった。
全ては自分の無知さのせい…
傷つきながらも成長している。
それが人間の一生だから…

ACT.2 完

戻る