DRIFT☆STREET-The Driving Ace-


レッドゾーンさん作

ACT.6「決戦」

…意識がハッキリしない…
…何があったの…?…
優里は見覚えの無い部屋で目覚めた。
何があったのかを思い出そうとしたが…よく思い出せない。
家を飛び出し、瞬佑の家に向かう途中だった。確か。
そこからが思い出せない…
とりあえず部屋を見渡してみる…
すると、人が2人居た。
涼一と剛だ。
「あれ…涼一に…剛さん?なんでこんな所に…?」
ますます混乱してきた優里は答えが得られない事を覚悟の上で尋ねた。
「すまないな…俺らも何があったのかよく分からねぇんだ」
剛が申し訳なさそうな表情で答える。
その後、場は沈黙するが…隣の部屋から声が聞こえてくる。
瞬佑の声だ…!
「ああ………った……だと……にも………事して……らう……に……か」
よく声が聞きとれない。
だが話し相手の声が聞こえないので、恐らく電話だ。
しばらくすると声が止まる。
電話を切ったようだ。
すかさずドアが開く。
出てきたのはやはり瞬佑だ。
「3人とも目が覚めたか…」
かつてなく真剣な表情だ。
しばらく行方をくらましていた事等から考えて状況はかなりマズいのか…?そもそも3人とも何が起きているのか知らないのだが…
知れば絶望の淵に立たされるかもしれない。
それを覚悟で優里は質問した。
「ねぇ瞬佑…教えて!一体何が起きているの!?」
気迫に満ちた声だ。
「…」
瞬佑は黙っている。答えるべきかどうか迷っているのだろう。
「多分3人とも良い知らせで無い事は理解していると思う…それでも…」
此処で言葉を切るが…
「…」
3人とも返答の代わりに頷いた。
「分かった…じゃぁ…話そう」
一呼吸置く。
やはり相当重たい話のようだ。
「テレビで『終焉の目撃者』ってテロ集団のメッセージが流れたろう?俺はちょっとしたコネでそいつらの目的を知る事が出来た」
「…」
目的…?
3人はそう復唱しそうになるがすぐに堪えた。
多分答えはすぐに分かるだろうと直感したからだ。
「奴らの目的は…文字通り世界を『終焉』に導く事…いや、『世界』じゃなくて『人類』の終焉と言った方がいいか…」
やはり相当危なさそうな話だ。
「奴らは人類を絶滅させようとしている。それが終わったら奴ら自身も死ぬつもりだ…
そして…そのための手段は…」
瞬きも忘れるほど緊迫した空気…
「新型の放射線兵器」
「な…っ!?」
これには流石に反論せずにはいられなかった!
「ちょっと待てよ!!放射線なんて使ったら人類どころじゃねぇだろ!?」
声を荒げて言う涼一。
しかし瞬佑は表情を崩さず…
「新型の放射線だ。極秘開発された…な。
ソイツは特定の生物の遺伝子のみを破壊できるって代物だ」
と言う。
そして涼一と優里が唖然としているすぐ横で剛は…
「さっきお前はちょっとしたコネと言っていたが…情報源はどこなんだ?そこをハッキリさせなきゃこっちとしてもその話を信じていいのか分からないぜ?」
至って冷静な口調だ。
「『情報屋』…とだけ言っておきます」
すこし曖昧な感じだが…
「分かった」
剛は納得したようだ。
そこですかさず涼一が尋ねる。
「その放射線兵器の場所ってのは分かってるのか!?」
肝心の場所が分かって無ければ黙って死を待つだけだ。
「一応分かっているが…発動する時間がそんなに無い。恐らく今から24時間以内だ。
つまり俺一人では止められない。
一応、今セットされているのは日本だけだ。此処で食いとめられれば残りのテロも仕掛けようが無いはず。
だからこうして3人に来てもらった」
段々と話が見えてきた気がする。
だが、気がかりな事が一つだけ。
それを聞いたのは優里だ。
「クルマはどうするの?私たち…殆ど拉致られる形で来たからクルマ持ってきてないよ…?」
それはもっともな意見だ。
「心配するな、その情報屋のルートでクルマを格安で用意できた。正直言ってホントに格安で仕入れられるのかって程のクルマだ」
瞬佑はほんの少しだけ口元を緩めた。
そしてガレージらしき建物に歩いていき…シャッターを開けた。
「…!?」
3人とも驚いている。
無理もない。
用意されていたのは「ランボルギーニ・ムルシエラゴ」「パガーニ・ゾンタF」「BMW・M3 GTR」の3台。
詳しい説明はあえてしないでおくが3台とも軽く1000万円以上するクルマだ。
「こりゃぁすげぇな…ノーマルでも十分すぎる戦闘力あるぜ…」
剛が感心して言う。
そして、「確かにこんなモン格安で仕入れられるとは…信じられねー話だな…」と続けた。
「じゃぁ…場所教えてくれよ、割り当ても決めてさ…」
涼一が言う。
「ああ、クルマにこいつをセットしてくれ」
そう言うと瞬佑は箱のような物を3人に渡した。
「そいつのナビゲーション通りに走れば放射線兵器の場所に辿りつけるはずだ。あと…このメモに解除方法を書いてある。それから…」
「まだあるのか?」
涼一が言葉を遮った。
「ああ…敵が何を仕掛けてくるか分からない…護身用にコレを」
渡した物は自動拳銃だ。
こういう物まで使わないといけない程危ない相手なのか…
だが真相を知ってしまった以上尻込みしても仕方ない。
一番に動いたのは優里だった。
瞬佑と眼を合わせると、M3のキーを受け取り乗りこんだ。
キュルルルル…ヴォゥォゥン!!
通常のE46型M3に載っているのは直列エンジンだがこのM3のグレードは「GTR」。
ガレージ中に力強いV8エンジンのサウンドが響き渡る。
そしてクラッチを繋いで…
ヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォ…
ガレージを出て行った。
「ここまで来た以上逃げるのもアホらしいな…俺も行くぜ!」
涼一が威勢のいい声で言い、ムルシエラゴのキーを受け取った。
ギュィィィィィン!!ギュィィィィィィィィン!!!
セルモーターを回し、アクセルを1回吹かしてからクラッチを繋ぎ、ガレージを出た。
「俺は余り物…ね…まあゾンタも十分速いから良いけどな」
最後に剛がゾンタのキーを受け取って…
「犯人の方は任せたぜ!」
そう言ってエンジンを掛けて出発した。
ヴォゥゥゥン!!!
(さて…と…俺もケリを着けに行かなきゃな…)
ガレージの更に奥にシャッターがあった。
そのシャッターを開いて、中にあるFDに乗り込んだ。
「この件が解決すれば公道レースはまた違法行為になる筈だ。
それ考えたら…これ以上走り屋やる事もねぇよな…だから…」
―多分…今日が俺とお前の最後のドライブだ…!!―
ギュィィン!
1速でクラッチを繋ぎ、FDを発進させる。
全てにケリを着け…「平穏」を取り戻す為…

その頃…優里は…
グォォォォォォォン!!ガコッ!!バシュゥン!!
「ああもう!!何なのよコイツら!!」
走り出してから15分後。
カーナビが示す残り距離は10km。
大体5分後くらいから黒のベンツが追いかけてくる。
この一般道で80キロ以上の速度で走る優里に同じくらいの速度で追いかけてくる。
こっちを狙ってるのは明らかだ。
ゴゥン!!キシャァァァァァァ!!
交差点を4輪ドリフトで駆け抜ける。
「もぅ…しつこいな!!どうしよ…こんなの片手で撃てる訳ないし…」
優里は一瞬助手席に置いてある自動拳銃を見た。
だが自動拳銃なんて女が片手で扱える物ではない。
そりゃあ訓練などをすれば別だが…
「いや…だったら逃げる事だけ考えればいい!!自分のドラテクを信じろ私!!」
優里は大声でそう言うとサイドブレーキを引いてクルマの向きを変えた。
クルマを向けた先にあったのはクルマ1台がギリギリ通れる程度の狭い道!
キャァァァァァァァァ!!
激しく鳴り響くスキール音!!
そして―
「よしっ!!」
スライドを上手く調節して路地に入る事に成功した!!
そしてベンツの男は…
「うわぁぁ!!ヤベぇぇぇぇぇ!!!」
ガッシャァァァァァァァン!!
哀れ、高級外車は路地侵入にミスって鉄クズに変わりましたとさ。
「ふぅ…」
どうやら他に追手は来ないようだ。
だがペースは緩めずにナビの指示に従い走り続ける。
そして…
グォゥゥゥゥン…
ガチャッ、バタン。
優里はクルマを降りるとすぐに放射線兵器の場所に向かった。
そこには黒の直方体があった。
赤と青と緑と黄色のコードが剥き出しになっている。
瞬佑のメモを見てみると…
『切るコードは青と黄色』と書いてあった。
「えっと…ハサミは…っと」
バッグからハサミを取り出し指示通り青と黄色のコードを切った優里は…
「はぁーっ…終わったー!!」
緊張を解いてその場に座り込んだ。
「涼一と剛さん…大丈夫かな…大丈夫よね!私だって成功したんだし!」
緊張感の無い声で言うが…そこで表情を曇らせる。
「でも…やっぱり一番危ない橋渡ってるのは瞬佑…だよね…」
瞬佑の身を案じる優里。
だが此処で何か出来る訳でも無い。
出来る事はただ信じて待つのみ。
そしてその時間はとても辛い物だ。

少し時を遡り…涼一は何をしていたのか…
「ったくよぉ!!予想していたとはいえウザってーなコイツら!!」
イラついているのが明らかな声で言った。
ムルシエラゴの背後を走るは2台のポルシェ カレラGT。
何か増えてる。
そして車種違う。
テロ集団の資金源は豊富らしい。
「どうすっかなー…ムルシはコーナーじゃ絶対カレラより遅い…」
家がクルマのショップなだけに冷静に判断する涼一。
さて…ストレートの速度では多少優っている程度。コーナーでは明らかに劣勢…涼一はこの状況でどうするのか?
「落ちつけ俺…狭い道で勝負したらジリ貧になんのは確実…!なるたけストレートを走りながら作戦を考えるんだ…」
状況は結構マズい。
独り言のように思っている事を呟いても仕方ないだろう。
ボシュゥゥゥン!!
マフラーから勢いよく排出される排ガス。
大排気量だけにただ直線走ってるだけで迫力がある。
(さぁて…何かいい策…あった!!一か八かだけど…!!)
思い立った瞬間、涼一はサイドブレーキを引いてクルマを180℃スピンさせる。
そのままバックギアに入れてバック走行。
当然敵との距離は詰められてしまうが…
「出来ればコイツは使いたくなかったぜ!!」
そう言って自動拳銃を相手のクルマに向けて撃った!!
バンッ!!
「うおっ!?」
銃弾はカレラのフロントガラスに当たった!
2台の内1台が怯んでスピン…路駐していた一般車に突っ込んでしまった。
「食らいやがれ!!」
バンッ!!
続けざまにもう1発撃つ!
バリン!!
もう1台のカレラのフロントガラスが割れたが今度の相手は怯まずに向かってくる。
「マズいな…これ以上撃ったら腕が折れそうだ…」
既に発射のリコイルで腕を痛めてしまった涼一。
万事休すか…いや!まだある!!
涼一はバックさせたまま右に思い切りステアを切り、ターンを決める!
「!?」
敵は対応しきれずにそのまま直進…そしてその先は…!!
「しまった!!」
突っ込んだ先は交差点。
しかも事故を起こした10tトラックが横たわっている!
ガッシャァァァァァァァン!!
トラックに突っ込んだカレラは宙を舞った。
ガシャン!!ガン!!ガコン!!
着地した後、カレラは数回バウンドして止まった。
シュゥゥゥゥゥゥゥ…
リアのエンジンルームから白煙を吹いている。
一応タイヤは接地しているが自走は無理だろう。
「…俺らは此処までか…他の奴らが何とかしてくれる事を祈るぜ…」

「よし…何とか撒いたな…」
涼一は少し安心して、ある程度のマージンを残しつつ兵器の場所に向かった。
ギュィィィィィィィィン…
兵器の場所は完全に廃墟となった駐車場だ。
ムルシエラゴは完全に場違いな感じである。
だがそんな事言っても仕方ないので駐車場に入る。
「止め方は…赤と青を切れ…」
指示通りに赤と青のコードを切った。
ハサミなんて便利な物は無かったので素手で千切る事になったが…。
とりあえずカウントは止まった。
「さて…と…俺は終わった…」
それを呟いて涼一はムルシエラゴに戻った。
(…木下と剛さん…上手くやってくれたかな…でも2人とも成功したとして瞬佑が失敗しちまったら全部パーだ…アイツにかかってるな)
下っぱ相手でもかなり苦戦した。
ボスキャラ相手では一体どうなる事やら…
それだけが涼一の心配事だった。

また少し時を遡り…今度は剛が何をしていたか…
「チッ!!わらわらわらわら…ウジ虫みてーに湧きやがって!!」
剛は迫る追手に悪態を吐いた。
追手のクルマは3台。
3台とも黒のフェラーリ・テスタロッサだ。
既に10台は潰したが何度も何度も復活してくる。
車重はゾンタの方が軽いからコーナーでは有利だが…
直線では本気で踏むと少し前輪が浮き気味になるため差を詰められてしまう。
(さてと〜…ハンドガンの弾丸は予備のマガジン含めて30発くらいか…足りるか…?)
とにかく今はコーナーでの優位性を頼りに狭い道を走り続ける。
ヴォゥン!ヴォゥン!ギャァァァァァァ!!
1速と2速を使っての低速ドライブ。
それでも80キロは出ているが…
「ったく…何台いるんだアイツらは!!」
流石に焦りが浮かんでいる。
(仕方ない…失敗したら放射線兵器の停止は不可能になるが…どの道今のまま追いかけっこしたって停止は無理だ…腹くくって行くぜ!!)
剛はクルマの進路を兵器の場所から少し反らした。
「アイツ…正気か!?」
追手は驚いている。
何とゾンタは途切れた橋に勢いよく突っ込もうとしているのだ!
フルスロットルで今150キロを超えた。
「もう少しだ…10秒…」
橋までは一本道。横から突っ込まれる危険はない!
「っしゃぁ!!行けぇっ!!!」
アクセルを踏んだまま200キロを超えるスピードで橋に突っ込んだ!
(―――っ!!)
接地感はゼロ。
かなり怖いはずだ。
だがちゃんとクルマは道路と並行に飛び出した。
あとは向こうまで届けば…!!
「よし!」
ガシャン!!
デカい音と火花を散らして、ゾンタは無事に着地した。
「うおっ!?」
追手の方は着地時の態勢が悪くスピンした者や、速度が足りず海の藻屑となった者、アクセル全開で飛び出して派手に横転した者など…無事にジャンプを成功させた奴は誰ひとりとしていなかった。
「流石にもう来ねぇな…」
増援が来ない事を確認すると、剛は再び目的地に向かった。
目的地まで残り10分程度という所か…思いがけないクルマとすれ違った。
車種はFD3S型RX−7。
間違いなく瞬佑のクルマだ。
(アイツにはアイツの戦い…か…すれ違ったのは俺が遠回りしたせいだろうな…俺は確実に成功する。
あとは2人の成功と…そしてお前の成功で全てが終わる…!)
その後は無言で目的地に向かって走り続ける。

「これが例の兵器か…」
目的地にたどり着き、放射線兵器を目の前にする剛。
「このコードのどれかを切れって事か…」
そう言って瞬佑のメモを取り出すと…
『その位置の兵器の止め方はカウンターを壊す事』
それだけが書いてあった。
「…」
無言のままカウンターにハンドガンを向けて…
バンッ!!
バチッ!!
兵器を抱え上げて耳に近付ける。
カチカチする音は止まったようだ。
特に動作している様子もない。
コードに触ってみると、タコ糸のようだ。
このコードが罠という事か…まあ止めてしまった今はもう関係ないが…
(俺は上手く行った…もう出来る事は何もない)
外を見ながら…剛は煙草を一本取り出した。
カチッ…ジュボッ…
「…」
「……」
「………」
残るは瞬佑のみ…

ACT.6 完

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