幻の最高速


ふぇにーちぇさん作

第一話 スピードという麻薬

六月某日。午後7時。A高校。

俺は部活が終わり、荷物を持って出口へ向かった。

俺「明日は日曜か・・・。また首都高行くか。」

大概の奴は、マックやらモスバーガーやらに寄って帰るらしい。(最近知った。)
俺は特に寄る所も無く、一人中央線に乗って帰ろうとしていた。
俺が普段乗る扉の位置に、数人の女子が集っていた。その中に一人、俺の幼馴染にして唯一心を開ける者が居た。大川 櫻だ。

俺「よ。」
大川「よ。」

はい。会話終わり。他の女子がめんどくさいので、他の扉から乗る事にした。
夜の車窓は、ハッキリ言って殆ど何も見えないので、立ってるにしろ座っているにしろ眠っている。
新宿で乗り換えてまた眠り、気付いたら下車駅。たまに乗り過ごす。

大川「あ、また。」
俺「ん?お前か。なんか用か。」
大川「今日暇だからさ、ゲーセンとか行こうよ。」
俺「他の奴らはどうした。」
大川「用事だって。」
俺「別に良いけど、俺はひとりで勝手にやらせて貰うからな。」

俺達二人には親は居ない。俺は交通事故で、大川は強盗かなんかに殺されて・・・。
目的のゲーセンに着いた。俺は自動車のゲームやら電車のゲームやら旅客機のゲームやら、基本的には景色が前から後ろに流れるものしかやらない。
大川はその俺をいつも見ている。金が無いんだとさ。じゃあ誘うなよ・・・。

夜11時。今から行けば、首都高も一般車が少なくなっているだろう。
特にこれといって会話も無く、大川と別れた。
家に帰り、荷物を置いたら俺はガレージに向かった。

俺「さーてと。今日も行くか。FC。」

エンジンを掛けたとき、携帯が鳴った。大川からメールだ。
鍵をなくして家に入れないんだとよ。ちゃんと管理しろよ。
仕方がないので、首都高に行く前にそいつの家に行った。家の目の前で座って待っていた。

大川「凄くウルサイ車だと思ったら、吉田君のだったの?」
俺「うん。」
大川「ちょっと乗せてってよ。暇だしさ。」
俺「ちぇっ・・・」

大川を乗せて、車は首都高へと向かった。いつも通りに木場から新環状線に乗る。

大川「高速道路?どっか遠くへ行くの?」
俺「違う。首都高をグルグル回ってるだけ。」
大川「楽しいの?」
俺「うん。」

隣に大川がいるので、あまり飛ばさず、法定速度以内で流している。
新環状線、C1、湾岸線に横羽線・・・。いろいろ回って、新環状線右回り、福住の辺りに来たとき、一台の車が後ろからライトを点滅させて、バトルを挑んできた。Z31だ。
俺は面倒くさいし、大川の目の前でそんなことはしたくないので、ブレーキを踏み、バトルをする気は無いと意思表示をした。

大川「何なの?あの車。」
俺「ん・・・、(なんて説明しよ・・・)」
大川「キャ!!ぶつけてきた!!」

Z31ドライバー「何だよ!そんなチューンでバトルする気はないだぁ?ナメてんのかよ!」

更にもう一度ぶつけてきた。普段ならここで関西弁になり、一気に突き放そうとするのだが、隣に一般人がいる。危険なマネは出来ない。
ヘタすればそいつも、全てを失ってしまう。

大川「あんな車イヤ。どうにかして逃げようよ・・・」
俺「う・・・うん。でもどうするの?」
大川「そのくらい考えてよ。男でしょ。」
俺「はぁぁ!?」
大川「とにかく逃げれればなんでも良いから。」

俺は一瞬戸惑った。飛ばせばこんな奴らすぐに振り切れるのだが、大川の前でそんなことしてもいいのか。いや、どうせすぐだろ。

俺「10秒間だけ飛ばすぞ。いいな。」
大川「うん。お願い。」

俺はアクセルを一気に床まで踏み込んだ。一気にバックミラーの彼方へと消えていくZ。

Z31ドライバー「げぇぇ!!嘘だろぉ!!いきなりバトル開始かよ!!」

3連続の左右の切り替えしをクリア。たったそれだけでZは視界から消えた。ジャスト10秒。アクセルを緩め、ここから一番近い、塩浜出口へと向かった。

大川「うわぁ〜。おもしろ〜い。はや〜い!!」
俺「えっ・・・?」
大川「もっと飛ばしてよ。」
俺「えっ・・・?」
大川「ダメ?」
俺(いや、普通に考えてダメだろ・・・法律違反だし。)

気がついたら塩浜出口を降り、その辺の路肩に止まっていた。
面白い・・・ってなんだ?いや、面白いときもあるけどあれはつまらんかっただろう。なんていったって相手が弱すぎた。

大川「あたしも車乗ろうかな・・・」

どうやらコイツは、そこらの麻薬よりも危険なものに取り付かれたようだ。こんな危険な行為を分かってくれる者が居たとは。しかも女。

大川「もっかい高速道路行こうよ。」
俺「お前、免許取れば。」
大川「そだね。」

その後、大川のリクエストに答えて、首都高を4時までぶっ続けで走った。めっちゃ疲れた・・・。

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