幻の最高速


ふぇにーちぇさん作

第10話

8月2日 午前3時30分
辰巳PA

駐車場の一角に走り屋の車がずらりと並んでいる。2つのチームの車が向き合うように並び、それぞれのチームのリーダーらしき者が話し合っている。
一人は石田 治。「白刃」というチームのリーダー。
もう一方は鈴木 正義。「ロータリーセブン」のリーダー。

鈴木「こちらの勝ちのようですネ。」
石田「クッ・・・!」
鈴木「じゃ、約束どおり、今回のバトルの打ち上げはそちらの負担で(笑)」

チーム同士のバトルの後のようだ。結果は、白刃7戦1勝、ロータリーセブン7戦6勝。ロータリーセブンの圧勝。


8月5日 辰巳PA

一人の男が駐車場の出口付近で車を止めていた。白いFC、「白刃」リーダーの石田だ。

石田(ここ最近、うちのチームの戦績が悪い。俺個人の戦績も悪いな・・・。とりあえず、俺だけでも強くならなきゃナ。そのために、俺は一台の車を待っている。最近噂の黒いFC。車が同じなら、勝敗を左右するのはチューン(改造)のレベルとドライバーの腕。俺は自分がどのくらい強いのか知りたい!さぁ、来てくれッ!黒いFCッ!)

願う石田に獲物がやってきたッ!黒いFC、吉田耕一ッ!

石田「来たァ!!待ってたぜ、黒いFCッ!俺の力量を教えてくれッ!」

辰巳PAより湾岸線西行き入り――――

石田は黒いFCの後方に付き、パッシング(ライトを点滅させて、宣戦布告をすること)をした。黒いFCはそれに応えて加速を始めた。
加速する2台。速度は一気に200キロオーバーへ!

石田「次の有明JCTで台場線に乗り換えるだろう。そのあたりは俺の縄張りだからナ。覚悟しとけヨォ!」

一般車が多いせいであまり速度が乗らない。右に左にスラローム(一般車を避けること・・・だと思う。)していく2台。
吉田の黒いFCは石田の予測どおり台場線へ・・・と思わせて、ギリギリで進路を変更し、湾岸線を直進した!

吉田「このフェイント、効くかナ?」

石田「マ、マジかァ!そんなムチャなフェイントするのはお前くらいだぜ!だけどナ、この湾岸線の一部も俺の縄張りなんだヨ!ぶっちぎれると思うなヨォ!」

一気に100キロまで減速した速度が、ほんの僅かの時間で200キロオーバーに回復。一般車がいなければ250キロは軽くオーバーしているだろう。
2台は東京港トンネルに突入。このトンネルを抜ければ、直後に湾岸最大のコーナー、大井コーナーがある。さらに、多いコーナーの左側に分岐があり、横羽線の上りとつながっている。通称大井Uターン。

吉田「ここで湾岸線を直進すれば確実に勝てるだろう。だけど、俺はそっちには行かない。後ろのFCから聞こえる・・・俺はその声に応えるだけだッ!」

吉田は有利な要素を捨てて、大井Uターンへッ!

石田「そっちを選んでくれたか・・・有難うッ!」

大井Uターンより横羽線上り入り――――

湾岸線を200キロ級でスラロームしていたのが、僅か500メートルの大井Uターンで一気に100キロ台のスラロームになる。
僅か500メートルで狂う感覚。この狂いに苛立つ者はミスを犯す。耐え抜いたものが感覚を取り戻し、続くC1で事故らずにクリアできる。

石田「だがアイツは、感覚が狂っていない!いや、一瞬で横羽線の感覚に切り替えた。という方が正しいか・・・?」

右に見える東京モノレールとしばらく並走し、分かれるとまもなくC1だ。

石田「う、うまい・・・テクニックだとかそんなんじゃなく、周りに対する気配り。つまり、一般車を避けるのが上手すぎる。およそ80キロで走行する一般車が、倍以上の速さで真横を通過しようとする車をバックミラーから見たら、一瞬でビビりが入って避ける。だが、アイツは一般車にビビりを入れさせない。気付いたときには前方に・・・。なるほど、黒々とした外見の割には優しいんだナ。」

石田は、相手との格の違いを思い知らされ、アクセルを抜きドロップアウトした。

辰巳PA

石田は駐車場に入り、さっきの黒いFCがいないかどうか見渡してみた。居た!!
車体だけでなく、外装系の全てのパーツまでもが真っ黒なFC。間違いなくさっきのFCだ。
石田はそのFCに近づき、ドライバーがいるかどうか確認した。ドライバーは中で寝ているようだ。
窓を軽くノックし、そのドライバーと話をしようとした。

石田「お休み中すまないんだが、ちょっと話を聞いてくれないか?」
吉田「あなたは?」
石田「あぁ、自己紹介が遅れたな。俺は石田 治。『白刃』と言うチームのリーダーだ。さっき、君のFCとバトルしたと思うんだが・・・」
吉田「あぁ、あの白いFCの・・・それで、用件は何でしょう?」
石田「早速で悪いんだが、俺のFCに乗ってくれないか?」
吉田「えっ・・・何故・・・ですか?」
石田「最近、俺のFCが乗りこなせなくなってきたんだ。俺のFCに何か問題が無いか、第三者の目で見て欲しいんだ。あと、ついでに、来週、『ロータリーセブン』と言うチームにリベンジマッチを仕掛けるつもりなんだが、良かったら、それにも出てもらいたいなと。」
吉田「構いませんが、僕はこの通り左腕がありません。」
石田「何ィ!?マジかよ・・・」
吉田「シフトレバーの操作はそちらにお任せします。」

石田のFCは、ボディーカラーは白、リアスポイラーはGTウイングとは違う形をしている。馬力は450馬力。最高速度は280キロ。
とりあえず、新環状線ルートで一周し様子を見ることにした。この性能では、新環状線あたりが一番上手く走れるだろうと思ったからである。

俺(何だ?これ?)
石田「上手いナ。弘法筆を選らばずってかァ?」
俺「いえ、これは僕の腕ではありません。石田さん・・・でしたよね。良くここまで仕上げましたネ。」
石田「君ほどではないヨ。この車は中古で50万+チューニング代500万てトコ。君は?」
俺「えっと〜、覚えてナイ・・・」

湾岸線からレインボーブリッジ。吉田は自分のFCとは違うある異変に気付いた。

俺(加速が・・・鈍い。)

原因は分からない。馬力のせいなのかもしれないが、450馬力にしては加速がトロい。
自分のFCでは、レインボーブリッジで230キロほどがベストだ。だが、このFCは200キロ・・・ギリギリ行かない。

俺「このFC、加速が・・・」
石田「加速?加速がどうかしたか?」
俺「このFC、ボディ補強などはどうしてますか?」
石田「ボディ補強?ロールケージ(車体を支えるパイプ)とか入れてるゼ。」
俺「最後に手を入れたのは?」
石田「うーん、覚えてないナ。最近は金がないからメンテもロクに行ってないと思う。」

それだ。原因は車体。恐らく数年間は手を入れていない。長い間、ロクに手を入れていなかったボディはヤレて(劣化して)、エンジンの持つ馬力をしっかりと路面に伝え切れていない。パワー(馬力)が逃げている。と、表現するようだ。
ボディと言えば、あの人しかいない。

首都高7人衆 春川 正――――

江戸橋JCT。黒いポルシェが合流してきた。春川の車だ。

俺「丁度良いタイミングで来ましたよ。このFC、見てもらいましょうか。実戦で――――」

箱崎JCTの左コーナーを2台がドリフトでクリア。続いて右を、一般車を避けながら難なくクリア。
アクセルを踏んで2台が加速を始める!

俺(ここからだ。加速の鈍くなったFCと、化け物のような加速力を誇るポルシェ911。こっちの方が圧倒的に不利だ。)

春川「逃さない。」

加速力の差で一瞬にして順位が入れ替わる。差はどんどん広がっていく。
次に緩い右コーナーで、差の広がりは一瞬収まるが、再び加速力の差を見せ付けられる。離れてゆくッ!!

春川「話にならない。そんなヤレ切ったボディではマトモな加速が出来るはずがナイ。」

勝負は辰巳JCTに入る前についた。黒いポルシェは一気に前方へ消え失せた。

俺「完敗ですね。これじゃァ仕方ありません。」

辰巳PAに入り車を停めた。黒いポルシェの真横だ。

春川「君には前に会っているよネ。」
俺「ええ。凄いですね。プロのボディ屋の作る車体は。」
春川「いや、ポルシェそのものの力だ。ポルシェっていうのは、他の車よりも良いボディだからな。修理するのも大変なんだがナ。」
俺「早速質問なんですが、この白いFC、どうでしたか?」
春川「・・・はっきりいって、ダメだな。ヤレきってしまって、全く馬力を路面に伝え切れていない。約1割は馬力をロスしてしまっている。」
石田「ど、どうにかなりますか?」
春川「なりますよ。しかも、元通り、なんてケチな事は言いません。それなりの金を払ってくれれば、本来の馬力よりも馬力が多く感じられるボディに仕上げることが出来ます。」
石田「金・・・かぁ・・・金無いんだよナ、俺・・・」
春川「そうですか。ではこうしましょう。選択肢は二つ。一つは、金は取らないが、金額以上の何かを見せる。もう一つは、借金をしてでも金を払い、俺は全ての責任を背負ってボディを作る。与えられるものは同じ。さぁ、どうしますか?」
石田「う〜ん・・・金は払いたくないナ・・・前者でお願いします。」
春川「金額以上の物を見せる、と?」
石田「はい。」

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