幻の最高速


ふぇにーちぇさん作

第12話 失われた光

午前1時 芝浦PA

鈴木正義の黄色いFDの隣に黒いポルシェが止まった。春川のポルシェなのだが、乗っているのは石田だ。
潰してしまったFCをまたしばらく預けてもらっているからだ。

鈴木「今日はどうしたんですか?FCは諦めて今度はポルシェで勝負ですか?」
石田「いや、FCは今ある店に預けてある。」
鈴木「チューニングですか?いまさらあんな車に何やったってムダだと思いますけど?」
石田「イラつくわァ〜お前。イラついたから来週の水曜バトルだ。チーム全員で総力戦と行こう。」
鈴木「またですか?ま、今度もこっちの勝ちでしょうけど。」
石田「それだけ伝えに来た。じゃあナ。」

石田はポルシェに乗り込み、高速へ出た。なんだか、さっきの会話からイライラする感情がこみ上げてきた。
怒りをかき消すかのようにポルシェを疾走させる。
ただ疾走するだけでなく、意味も無く派手なドリフトをしたり、意味も無く一般車を煽ったりした。


何をやってもムダ――――


石田「クソッ!嫌な過去が蘇って来やがるッ!」


「な、何故俺がレーサーを諦めなければならないんですかッ!?」


俺の目が両目とも見えていたら間違いなくレーサーになっていた。片目が見えなくなったのは運命のいたずらとしか言い様が無い。
中学の頃、誰かがふざけあっていて窓ガラスを割ってしまった。物音で振り向いたとき、そのときから俺の左目は光を失った。

石田「一生恨むぜ。名も知らぬ同級生よ・・・」


春川ボディーワークス――――

春川「それじゃ、このFCの試走、頼んだぞ。」
吉田「分かりました。」

石田の白いFCの吉田が乗り、最後の大詰めにかかる。

9号線 湾岸線方面――――


辰巳PAへかっ飛ばしている石田は、バックミラーに何かを見た。

石田「――――ッ!後ろから何か来るッ!」

恐ろしい速さでこちらに追いついてくる1台が現れた。

石田「物凄く、速い――――ッ!」

追いついてきたのは吉田が試走しているFCだ。2車線の狭い9号線を250キロ以上で走っている。
石田もポルシェに鞭打つ。加速性能の差で追いつくことは出来たが、一般車に阻まれ、追い抜くに至らず。

石田「このまま行けば湾岸線だ。性能の差でこっちが勝てるはずだ。」

辰巳JCTを右に曲がり、湾岸線を神奈川方面へッ!

吉田「いくぜ、湾岸線300キロ、GO――――ッ!」

加速して行く2台。一般車が少し多めだが、何処かで台数が減る場所(オールクリア)があるはずだ。
その瞬間を虎視眈々と狙い、大台300km/hの領域へ踏み込む。

石田「一般車の台数が減りつつある。オールクエリアは近い!」

250キロ以上の速度で一般車たちを縫う。台数が減るにつれて260,270と、巡航速度は上がっていく。
メーター達がエンジンの悲鳴を目で伝えてくれる。
有明JCTを過ぎ、海底トンネルのおよそ1キロほど手前、視界に一般車が消える。

吉田「オールクリア――――ッ!!」

後方へのGが一気に上昇する。前方の光景は襲い掛かる速度を増す。エンジンの甲高いロングトーンは、加速の終わりを告げようとしている。

石田「300キロ・・・到達ッ!――――!!馬鹿なッ!」

白いFCはこのポルシェのスピードに追いついてきた。間違いなく300キロ以上出ている。
しかし、一瞬ポルシェの前に出た直後に失速してしまった。エンジンブローを恐れて、アクセルを抜いたのだ。

吉田「ロータリーエンジンをチューニングする上での一番の問題点はこの脆さだ。俺のFCもどうにかしないとナ。」

ポルシェが先に海底トンネルに入り、FCが速度を緩めながら続く。バトルが終了したことを確認した石田は、辰巳PAに戻った。
辰巳PAでは、チームの何人かが休息を取っていた。石田はそのうちの一人、副リーダーの原 桐子に話しかけた。
彼女は読唇術が使えるので、手話などを使わなくても普通に話しかけられる。

石田「原。いきなりで済まないが、来週の水曜日に『ロータリーセブン』とチームバトルを申し込んだ。メンバーに伝えてくれ。」
原「ええ、分かったわ。でも、勝算はあるの?この前負けたばかりじゃない。」
石田「あまり良く思ってくれないだろうが、助っ人を一人呼んでおいた。良いかな?」
原「んー、それしか勝つ方法が無いなら、私は構わないわ。」
石田「それも伝えてくれ。俺は、仕事もあるから、この辺で帰ることにするヨ。じゃな。」
原「じゃ、さよなら。」

石田のポルシェはそのまま去っていった。後には原が残された。

原「またチームバトルかぁ・・・、あたしも頑張らなきゃ。」

愛車の空色の80スープラで、走りに出た。

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