幻の最高速


ふぇにーちぇさん作

第15話 何としてでも頂点に立て

一ノ橋JCT――――

鈴木FDを先頭に、石田FC・吉田FC・大川FD・原のスープラとバトルは続く。
出口のキツイ左コーナーを抜け、トンネル内の緩いS字コーナー。

石田「次の谷町JCTの右コーナーを抜ければ約500メートルの赤坂ストレートだ。もう一度スクランブルブーストで追い抜く!」

鈴木FDが最初に右コーナーをクリア。一般車がいないことを確認する。

鈴木「一般車なし!オールクリア――――ッ!」

5台一斉に加速!最も加速が早いのは・・・石田のFCだ!

吉田「なんじゃありゃぁ!!」

軽量化による加速性能の上昇+スクランブルブースト+鈴木のFDを利用して空気抵抗を減らす技、『スリップストリーム』!
それら3つの要因で、石田FCは高速、いや、光速で鈴木FDを抜き去る!
ストレートが終わり、石田はスクランブルブーストを解除し、ギリギリのレイトブレーキングでコーナーを切り抜ける。

鈴木「流石だ。プロのレーサーを目指していただけあって、車を操る技術にかけては俺も改めて舌を巻くぜ!」

吉田「だが、一つだけ足りないものがある。」

大川「技術じゃなく・・・どこがどうと言うような具体的なものじゃない。」

吉田「そして、それは自分で気付いていくしかない――――」

鈴木「気付けますか?石田さん。あんたが気付くまで、俺はあんたを追い込んでやるよ!」

三宅坂JCT直前の左急コーナー。突然下り坂になるので、速度をつけ過ぎていると一瞬ジャンプし、操縦不能になる。
たかが一瞬だが、時速150キロ近くで一瞬と言うと結構な距離を進んでしまう。
なので、いかにジャンプしないように出来るかが、このコーナーで生きるか死ぬかを分けるのだ。
と、言ってるそばから石田のFCはジャンプしてしまった。

石田「大丈夫だ。多少ジャンプしても、強引にドリフトさせれば曲がりきれる!」

息を止め、足のペダルと手のステアリングに全神経を注ぐ。
着地――――そこからドリフト――――
全身から汗が飛び散る

大川「嘘ッ!あんなコーナリング見たことないッ!」

見てるこちらも冷や汗ダラダラだ。頭のねじがブッ飛んでるとしか思えない。
その後も、緩めの左下りコーナー、右コーナー2連続とクリアしていくが、鈴木のFDは石田のFCを徐々に射程距離から逃がしてしまう。

鈴木「クソッ!追い込むなんてとんでもねぇ!こっちが追い込まれてるじゃねぇかッ!」

千鳥が淵の右急コーナー。石田のプロ顔負けのブレーキングで更に鈴木から逃げる。

石田「っぉっとぉ!!」

2車線と言う狭いスペースを目いっぱい使って他の誰よりも早くコーナーを抜ける。
ガードレールと車体との差はおよそ2センチ!

吉田「凄い。ギリギリぶつかってないな。石田さんのFC。かなり上手い走り屋でもガードレールに2・30センチまで詰め寄るので精一杯だ。
だけど石田さんの場合は、ほとんど2・3センチ位までしか余裕がない。徹底的に鍛えられているんだナ。」

その後、竹橋JCT、神田橋を通り、江戸橋JCTから再び新環状線ルートに戻る。
その江戸橋JCTで異変は起きた。
銀座区間へ向うためには江戸橋JCTを右折する。その右折のコーナーで石田はやはりレイトブレーキングで突っ込む。
そのとき、コーナーの外側に一般車がいた。このままではぶつかってしまうと、ブレーキを踏みつけ減速する。

鈴木「もらったァーー!!!」
石田「クソッ!これで何度目だ!?」

これまでと同じパターンで再び鈴木に抜かれてしまった。吉田のFCは強引にブロックして進路を塞ぎ、2番手を守った。
石田はこれまで以上に苦しそうな表情だ。


お前速ぇけどサ、やっぱプロにはさせられないわ――――


石田(何だこれ。何年前の話だよ!)


もう諦めろ!お前は・・・・・・


石田(止めろッ!止めてくれ――――!!)



お前はただ命知らずなだけだ――――

石田のFCのマフラーから一瞬赤い炎が出た。アクセルを抜いて失速したのだ。
他の4台の邪魔にならぬよう一番右の車線に寄る。
すると、原のスープラまで失速した。
石田が失速したら自分もバトルを下りようと決めていたようだ。

石田「行けって。バトルの行方を最後まで見届けろヨ。」

原「ううん。あたしは『あなた』を最後まで見届けるって決めたから。」

石田「そうか。」


辰巳PA

石田達がつく頃には決着がつき、両チームのメンバーも熱気が冷めていた。

石田「俺の負けだ。やっぱ歳のせいかナ。こりゃぁ。」
鈴木「いつも通り、罰ゲームで打ち上げの費用はそっち持ちですね。」

十分ほどして両チームとも高速を降り、いつもの居酒屋に寄った。

いつもの居酒屋

ガヤガヤ騒いでる店内で、石田だけは静かに酒を飲んでいた。
しばらくすると、石田は原の所に寄った。

石田「チームリーダー。頼んだよ。」
原「・・・・・・」

それだけ言って石田は店を去った。


本当に降りてしまうんですね――――


あの時アクセルを戻したのはバトルから降りたんじゃない。走り屋という世界から降りたのだ。
もう彼は二度と、100キロを越す速度を感じることはないだろう。

辰巳PA

白いFDと黒いFC。紛れもなくあの二人の車だ。なにやら話をしている。

大川「白いFCのあの人、途中で失速しちゃったネ。」
吉田「ああ。」
大川「何でだろ。」
吉田「別に知る必要はないよ。石田さんだけの問題だ。」

大川は吉田に何処か違和感を感じていた。

大川「なんか吉田君、変わった?」
吉田「お前が変わったと感じるんなら、そうなんだろうな。」
大川「なんか、ピリピリしてるとゆーか・・・」

確かにそうだ。自分でも分かるくらいに気持ちがこわばっている。
もう覚悟を決めて全てに決着をつけなければならないのだ。もう余り時間はかけていられない。
そしてもう一つ、やつらに証明したい事がある。

吉田「悪いが今日はここまでだ。俺はもう一走りしてくる。」
大川「あ、ちょっ・・・」

高らかなエンジン音を奏で、黒いFCは夜の暗闇に消えていった。

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