幻の最高速


ふぇにーちぇさん作

第16話 伝説のFCを探し出せ

大黒ふ頭PA

わいわいと走り屋たちが集うこのパーキングエリア。
女連れ、チャラい音楽を大音響で流している奴ら、本当に走りを極めようとする奴ら・・・
車に取り付けられたきらびやかなネオンが華やかさを演出する片隅で、メッチャ重苦しい空気に包まれた4人組がいた。

大原「よし、全員集まったな。俺達4人だけの極秘会議を始める。」
北平「なぁ、大原さん、今回集まったのって・・・もしかして・・・」
白田「あの黒いFCのことだろ?」
大原「そうだ。俺達が18年前にクラッシュまで追い込んだあのFCだ。」
横山「ちょっ、クラッシュまで追い込んだのに何でそいつがまた現れるんだよ?ありゃぁ絶対死んだはずだぜ!?」
大原「何故またあいつが現れたのかは分からないが、俺達を探すかのように連日首都高を走り回ってるようだ。」
白田「この間、俺はそいつに会った。C1の汐留S字。何故か田路悠木のAE86に乗っていた。しかも情けないことに、有利な9号線で負けた。」
北平&横山「!!!」

あまりの驚きに、北平と横山は顔が青ざめていた。横山は小声で呪われているんだと呟いた。

横山「ねぇ、これ絶対呪われてるよ!どーにかなんないの!?」
北平「ムリだろ・・・」

諦めモードの二人をヨソに、白田と大原は会議を続けた。

白田「噂に寄れば、あいつはバンパープッシュを良く使ってくるそうだ。」
大原「ずいぶん荒々しいな。」
白田「もしかしたら、18年前の仕返しにでも来たのか?あいつ・・・」
大原「考えられるなァ・・・。でも、俺達あんなに供養とかアイツの墓にお供え物とかしてるのに・・・」
白田「そんなもんで消えるような過去じゃねーだろwww。」
大原「でも、俺達アレからもっと大人しい走り屋になろうって決めて、実際、前よりも大人しくなってるはずだよナ?」
白田「自分で言うのもなんだがな。そうはなってると思うよ。」
大原「じゃあ、何故・・・?」

そのとき、あまりにも異質な音が聞こえた。ずっと前から聞いた事のある音だ。
4人の背筋が凍りつく。
パーキングエリアに来たのはやはりあの黒いFCだった。
黒いFCは4人の目の前を通り過ぎた。そして、どこにも止まらずにそのままPAを出てしまった。

北平「な、何だったんだ?アイツ・・・」
横山「さぁ・・・」

ボサッとしている二人をほっといて、白田と大原はいきなり自分の車に乗り込み、さっきのFCを追走した。
恐らく方向からして横浜環状線に向ったのだろう。

北平「アッ!」
横山「ま、待ってくださーい!」

大原と白田は大黒ふ頭PAを飛び出し、黒いFCの捜索に出た。
湾岸線から横浜環状線に入り、200キロ前後のクルーズで探すが、一向に見当たらない。

大原「こりゃ、全開で追いかけないと見つからないかナ。」

大原は愛車のR32に鞭を打つ。それに反応して白田も速度を上げる。
巡航速度は約250キロ。次々と一般車を交わして行き、汐入ランプで一台の早い車を前方に捉えた。

白田「間違いない。ロータリーサウンドを奏でる黒い車体・・・」
大原「18年前に俺らが死に追いやった・・・」


元・黒影FC 吉田 耕一――――ッ!!

吉田「やはり来ると思っていた・・・」

不思議なことに、18年前、吉田が死んだ場所と同じ場所からバトルが始まった。
18年前に中断されていたバトルが再開したかのような気分だ。
緩いS字コーナー。ブレーキの必要はほとんど無い。
長い直線、少々キツイS字からの右コーナー。

大原「嗚呼、その動き、18年前と全く変わっていない。」

一般車を次々と追い抜き、FC先頭のまま昭和島JCTまで来た。
FCは左の分岐線に入り、進路を湾岸線東行きに変更した。
上り勾配のS字、長い直線、アクセル全開のまま左コーナークリア。

大原「わざわざ不利な湾岸線へ入るか・・・相変わらずワケの分からねぇ野郎だぜ!」

湾岸線突入・いきなりオールクリアからのフラットアウト――――ッ!

大原「喰らえ!800馬力の威力をッ!」

大原はスクランブルブーストを使った。抑えていた馬力を一気に爆発させる。
大原のR32は通常600馬力だが、実はそれでも抑えていた方なのだ。
800馬力の今の状態こそ、本当の姿なのである。

白田「800馬力に比べりゃ、俺のZ33の600馬力なんてかわいい方だぜ。」
大原「FCの搭載されているエンジン、13B−ターボの限界はおよそ500馬力。ついて来れるわけ・・・なッ!」

なんと、大原のR32の真後ろに黒いFCがいたのだ。
普通なら絶対ありえないのだが、現にバックミラーに映っているし、音からしても間違いなく真後ろから聞こえてくるので間違いないだろう。
さらに、あのFCを操っているのが18年前『黒影』と呼ばれた吉田耕一だということも考えると、決してありえないことではない。

白田「その気配、機械とは思えないその気配もあの時のままだ。」

アクセルを踏み込んだまま、速度は遂に300キロに達しようとしている。
大原と白田は路面に微妙に刻まれた轍やつなぎ目に少しハンドルを取られつつも、即座に性格に進路を修正する。
だが、吉田のFCは轍やつなぎ目に全く動じていない。ハンドルを全く取られていないかようだ。

白田「すげぇナ。それも、お前の好きなボディ補強ってやつの力か?」

その通り。まさにボディ補強の力である。
ボディ補強によって硬くしなやかに生まれ変わった車体は、加速を逃がさなくなるだけではない。
少々の路面の変化に動じなくなるという効果も生み出されるのだ。

大原「湾岸線は、ただの直線じゃない。ただアクセル踏んで、ハンドル切らないで真っ直ぐ進むような、そんな楽な道ではない。路面の轍にハンドルを取られ、一般車の群れに進路を阻まれ、一般車を避けたと思ったらいきなり工事現場が現れたりする。200キロオーバーで一般車を避けようとすれば、それは車線変更ではなくてコーナリングとほぼ同じだ。そんな過酷な湾岸線を、あいつはいとも簡単に・・・」

速度は320キロ。ようやく一般車がポツリポツリと現れた。
だが、わざわざ減速してまで避けるほどではない。
3台のエンジンには多大な負担がかかり続けている。
しかし、それでも1台も加速が終わる様子を見せない。

白田「湾岸線に入り、全開状態が約5分がたった。普通の、いや、かなりのハイチューンのクルマでさえ、ここまで長い全開状態はきついだろう。ましてや熱に弱いロータリーエンジンだ。出来れば俺もアクセルを抜いて車をいたわりたい位だ。でも、踏み続けなければお前はもう2度と俺の前から消えてしまうだろう。」
大原「お前はホントにすげぇナ。熱に弱いエンジン、コーナリング重視だが安定性の無い車体、そんな車体で300キロ行くって事自体が凄いのにな。」

白田のZ33が急に加速し出した。ここまで負担をかけていきなり調子がよくなる。この兆候は・・・

白田「エンジンブロー――――!」

だが、白田は減速する兆候を見せない。ブローするまで踏み続ける気だ。
それから10秒ほどして、白田のZ33のマフラーから煙が吐き出された。
どうにかエンジンだけの損傷で済んだが、もう走る力は残されていない。
白田は一番左の第一車線に車を寄せ、大人しく失速した。

大原「・・・・・・」

湾岸線有明JCTで、大原はレーンボーブリッジ方面に進路を変更した。
これ以上走り続けると白田の二の舞になる。

大原「壊すわけにはいかない・・・」


18年以上の年月をかけて作り上げた、命よりも大切な800馬力を――――

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