幻の最高速


ふぇにーちぇさん作

第二話 命を張った戦い 1

日曜日。家でお気に入りのレースゲームをやっていたら、誰かが訪ねてきた。

大川「や。今日も高速道路行こうよ。」
俺「昼間はマズイだろ・・・。」

昼間は交通量も多い。思うように飛ばせないし、公衆の目に留まるような時間にそんなことをやるのは迷惑だろう。夜中も同じなのだが・・・。

俺「そうだな。今日は首都高には行けないが、俺の知り合いに会いに行こうか。」
大川「え〜。」
俺「明日学校だろ。まぁ、車関係の奴だから、そこそこ楽しいと思うぜ。」

俺は、愛車FCで都内にあるマンションを尋ねた。俺は駐車場にあるギャランと言う車を指した。

俺「あれが、これから会いに行く知り合いの車だ。ギャランって言うんだ。」
大川「へ〜。なんかそれっぽい。」

エレベーターで5階に上がり、脇坂と言う表札の前で止まった。脇坂耕吉(ワキサカ コウキチ)。知り合いの名だ。インターホンを押してしばらく待つと、眼鏡を掛けた同い年くらいの男が現れた。

脇坂「何だよ〜。来るなら来るって言えよ〜。」
俺「ああ、わりいな。コイツは大川。走りの世界に目覚めた女だ。」
大川「どうも〜。」
脇坂「ども、脇坂です。」

脇坂の家の中で何をしていたかと言うと、やっぱレースゲーム。大川にいろいろ教えながら、バトルを繰り返していった。
一段落したとき、思い切って脇坂に頼み事をして見た。

俺「なぁ、こいつに車買わないか。」
脇坂「え?でも免許持ってないんでしょ?」
俺「俺達は無免でやってたじゃん。」
大川「えっ、無免?」
脇坂「うーん、免許は近いうち取らせるとして、車種は何にする?」
俺「そうだな、GT−Rはどうだ?四駆だから安定性も良いし。」
脇坂「そんなの買える金あるか?」
俺「そりゃそうだ。じゃぁどうしようか。」
脇坂「ここは本人の好きな車種にするか?」
俺「そうしよう。じゃ、お好きな車種をどうぞ!」
大川「えっ・・・、私がぁ!?」

レースゲームの車種選択画面で、いろいろ見ながら大川は悩んだ。
ポルシェ 買えるもんならかって見やがれ
GT−R さっき買えないって言っただろ
AE86 首都高でトップに立てるわけが無い
フェラーリ ・・・・・・

結局、俺のFCの次の型のFD−3Sという車にした。馬力次第ではC1や湾岸線でもトップに立てる力を持った車だ。脇坂がその車を売っている店を知っているそうなので、おそらく一週間以内にはこちらの手にあるだろう。

そして一週間後・・・土曜日・・・

俺の家のガレージに一台車が追加された。黒いFCの隣に、白いFDが止まった。

俺「すげぇな。ホントに手に入っちゃったよ。」
脇坂「お前が言ったとおり、リミッターは解除しといた。で、無改造。ノーマルのまま。まぁ、初心者だからね。」

二人でいろいろ話していると、大川が来た。いよいよ、大川のファーストランが始まる。

俺「木場から入って、C1へ行こう。内回りでな。」

C1内回りは初心者向けのコースといわれている。外回りは上級者向けだ。とりあえず、今日は内回りコースのレイアウトを覚えてもらうために、80キロで流してもらう事にした。

俺「俺は一人で走ってくる。しっかり覚えておけよ。」
大川「えっ、何か教えてくれるんじゃないの?」
脇坂「あいつはああいう奴なんだよ。」

俺はビデオカメラを取り付けてC1内回りへ向かった。学校の都合上、土曜日の夜しか走れない。たった一日だけではコースは覚えられないので、他の日でも覚えることが出来るように、録画しておくためだ。
C1内回りを録画し終わり、芝公園の辺りで降りた。近くに走り屋達が集う広場があった。何かじろじろ見られている。人があまり多いところは好きじゃないので、人通りの少ない静かな場所で止めた。

?「あれか?先週君を10秒ほどでぶっちぎったFCって言うのは。」
Z31ドライバー「間違いねぇ!あの黒いFCですよ!GTウイングも付いてるし。」

やがて、コンコンと窓をたたく音がした。悪そうな奴ではなさそうだ。俺は窓を開け、話を聞いてやった。

俺「何ですか?」
?「先週、君、Z31とバトルした覚えはあるかい?」
俺「覚えてないですね。」
Z31ドライバー「何だとぉ!!」
?「覚えてないならそれで良い。少しバトルをしてもらえないかな。」
俺「構わないですよ。あなたの名前は?」
田路「田路 悠木。Non Powersというチームのリーダーだ。とりあえず、うちのメンバーとバトルしてもらいたい。」
俺「良いですね。そっちは誰が走りますか?」
田路「今呼んでくるよ。」

暫くして、3台の車が来た。グロリア、クラウン、セルシオ・・・。首都高ではあまり光の当たることの無い、地味な車がそろっている。

田路「まずはこの3台とバトルしてもらう。C1内回り・芝公園出口に先に入った方が勝ちだ。それで良いかい?」
俺「構いませんよ。それで行きましょう。」

芝公園からC1内回り。アクセルを目いっぱい踏み込む。前から後ろに加速Gが掛かっていく。100キロ・・・120・・・140・・・

俺「面倒だ。さっさとケリをつけさせてもらう!!」

浜崎橋の右コーナー。かなり長いストレートの直後に、下り勾配の付いたコーナーがあるので、かなり手前からブレーキを掛ける。
下り勾配に差し掛かり、一瞬車がジャンプする。

俺「ヒューーー!ここのジャンプはいつ来てもひやひやするぜ!」

思いっきりハンドルを切り、車はドリフトを始める。タイヤは滑り、路面に黒い軌跡を残していく。
次は汐留のS字コーナー。ここは3車線あるので、ある程度オーバースピードでも十分クリアできる。
最初の左。一番右の車線から、思いっきりブレーキを掛ける。ハンドルを切る。タイヤが滑る・・・。
次の右コーナーはさっきの左よりも僅かにきついコーナーだ。タイヤを滑らせ、車体が左に向いたまま、一気にハンドルを右へ切る。
逆ドリフトというテクニックだ。

俺「あっれ〜。あっという間にバックミラーから見えなくなっちゃったよ。おっせーなぁ、あいつら。」

その後は別に本気で走らなくても、およそ5分の走りで追い抜かれずに一周した。
芝公園出口の近くに田路が居た。俺はその近くで止まった。

俺「一周してきましたよ。俺の勝ちですね。」
田路「そうか。あいつらもまだまだだな。次はもう少し強い奴と戦ってもらう。」
俺「何人かかってきても同じですよ。」
田路「果たして本当にそうかな。」

お?今度は何が来るんだ?っと思っていると、AE86とS30が来た。この2台は某漫画で主人公の登場車種となった車だ。でも、いくら漫画のマネをしても、その主人公のようにはいかないのが現実・・・。

田路「この2台とのバトルだ。ルール・コースはさっきと同じだ。頼んだぞ、二人とも。」

始まった。芝公園からスタート。浜崎橋の右下りコーナーを3台がドリフトで駆け抜ける。汐留のS字も同じくドリフト。

俺「へえぇ。存外まともそうな奴らだな。この先はコーナーの多い銀座区間か。ちょっとやばそうだぞ。」

トンネルをくぐり、問題の銀座区間へと入った。ここはS字コーナーが多く、車線の間に橋げたみたいのがあったりして、首都高では一番難しいところだと思う。
最初のS字。右、左の順で、きついコーナーが続く。3台はドリフトで何とかクリア。しかし、コーナーでFCと他の2台との車間が少しだけ縮まった。コーナーでは負けている。

俺「ちょっとこれはやべぇんじゃねぇの!?」

ストレートでその差は簡単に挽回出来た。緩い左の後、最初の橋げたが現れる。この緩いコーナーでミスって、コントロールを失ってしまうと、橋げたに激突しかねない。
次はさっきのよりも緩いS字だが、最初の左は上り、次の右は下りという風になっている。そして、下りの左コーナーの出口には橋げた。
斜線の真ん中を通るような中途半端な走行ラインでは勿論激突。かといって、橋げたの左側を通ろうとすると、コーナー外側の大きな壁が迫り、ちょうどよいスピードでないと壁に激突してしまうことも有り得る。
右側は大幅な減速が必要だ。かなり減速すれば無事に通り抜けることが出来る。しかし、この後はC1でかなりの長さを誇るストレート。ここで相当な減速をすれば、そのストレートでの加速が伸びず、タイムロスにつながる。
俺はいつも外側を通るようにしている。マシンを適正速度に減速させて、どうにかクリア。直後のストレートで大幅な差をつけた。

AE86の男「くっ・・・。コーナーで差が詰められない。テールランプが小さくなっていくっ!!」
S30の男「追いつけねぇ!!」

江戸橋ジャンクションで、たった一車線の下り右コーナー。一車線だが、わずかに白い斜線の入ったスペースがある。そのスペースを利用し、派手にドリフト。
宝町ストレートで遅れをとっていた2台は、今にも視界から消えそうなFCを見て相当焦っていた。2台のうち、先頭を走っていたハチロクは、江戸橋の右コーナーでスピン!!

AE86の男「のわぁっ!!しまったぁぁぁ!!」
S30の男「はっ!!馬鹿ぁぁぁ!!!」

AE86、S30 スピンアウト――

俺は再び芝公園の広場へ戻った。

俺「正直言って全く相手になりませんね。次は誰が?」
田路「本気で言っているのか?タイヤのグリップがやばいんじゃぁ
・・・」
俺「そんなものは言い訳にはならない。とにかく、あんたのチームを今夜潰す。」

その一言で、Non Powersのメンバー達は後ずさりした。田路は、吉田の車から、吉田本人から何かオーラのようなものを感じた。

田路(何だ?車の限界を知らないような相手ではないし、虚勢を張っているわけでも、単なる脅しを言っている様な感じでもない。)

こいつには揺らぐことの無い自信がある―――

とんでもない奴を相手にしてしまった。だが、このまま帰してくれる訳でもなさそうだ。完全にこのチームを潰すつもりだろう。

田路「良いだろう。山本、吉川、平田。来るんだ。彼らはうちのチームの二番手、三番手、四番手だ。」
俺「彼らを倒せば、次はあんたってわけですか?」
田路「ああ。」

車種は呼ばれた順に、MR−2、アルテッツァ、ロードスターだ。どの車種も、馬力こそあまり無いが、コーナリングに優れている。
再び芝公園から4台がバトルを始める。

田路はAE86レビンに乗って、どこかへ駆けていった。

メンバー「田路さん、どこ行くんですか?」
田路「神田橋か、霞ヶ関の辺りからC1内回りへ行く。待ち伏せて連続バトルに持ち込む!!」

激しいスキール音で4台は最初の大きなコーナー、浜崎橋へ突入。Non Powersの3人は携帯電話をメーター類の近くに置き、お互いに連絡を取り合っている。チーム戦だからこそ出来る、簡単かつ高度な戦法だ。

山本(MR−2)「相手のFCはタイヤのグリップがやばい筈だ。後方からバンパープッシュを仕掛けて、スピンアウトさせるぞ!」
吉川(アルテッツァ)「了解!」
平田(ロードスター)「分かった。」

バンパープッシュとは、コーナーで相手を抜き去るための技だ。コーナーに入って、相手の車を後方横から軽くぶつける。上手くいけば、相手はバランスを失い失速。こちらは開けた道を全開で進むだけだ。
フルブレーキングでジャンピングポイントを通過、左へ大きくドリフト。すかさず山本のMR−2が左後方から迫る!!

俺「大体やる事は分かってるんだよ!!」

アクセルを思いっきり踏み込み、迫るMR−2をかわす。次は汐留のS字コーナー。左から始まり、次はさっきよりもキツい右。
最小限のブレーキでコーナーへ突っ込む!コーナークリアと同時に、サイドブレーキで車体を一気に右へ回転させる!!

山本「何だそりゃァ!!強引過ぎる!!頭おかしいんじゃねえの!?」

フルスロットルで加速、この先は首都高最難関、銀座エリアだ。

平田「嘘だろぉ!!何なんだ、あの加速!!」

吉田のFCはおよそ500馬力。GTウイング(レーシングカーの後ろについてるアレ)というパーツを装着。一見普通のFCに見える。だが、普通の者はやらないような秘密が隠されているとか。

吉田「読者の方には教えてやる!!コイツの車重、1トン切ってるんだぜ!!」

車重およそ950キログラム。元の車重が1200キログラム強。車体の材質をカーボンという材質に変えたために、これほどの軽量化が可能になったのだ。
軽量化によるメリットは、加速、最高速の性能が飛躍的に上がること。反対に、デメリットは、ハンドル・アクセル・ブレーキの操作が一瞬でも狂うと、どこに吹っ飛ぶか分からなくなる、非常に扱いにくい車へと変貌する。
圧倒的な加速力で、3台を一気に引き離す。難しい銀座区間のS字コーナーを何とかクリア。宝町ストレートに入る!

吉川「くっそぉ・・・。ぜってぇ抜かすっ!!」

吉川はこのストレートでスクランブルブーストを掛けた。上り坂の部分でFCを抜かした。
スクランブルブースト。この装置を起動させると、マフラー(排気ガスが出るあそこ)から白煙が出て、加速力が一時的に上昇する。ただし、その分エンジンに相当な負担がかかるため、下手をするとエンジンブロー。つまり、エンジンが壊れてしまう。

俺「オイオイ。下手にそういうの使うなよ。車の悲鳴が聞こえるぞ。まぁ、このくらいのストレートなら、ぶっ壊れたりしないだろうけど。」

順位が入れ替わる。アルテッツァ、FC、MR−2、ロードスター。
江戸橋JCTの右下りコーナー。アルテッツァがドリフトを始める。FCも続けてドリフトに入る。

俺「今だ!!」
山本「吉川っ!!後ろっ!!!」
吉川「!!!」

FCの右フロントがアルテッツァの左後ろにヒット!!バンパープッシュだ!!
アルテッツァはバランスを失いスピン。後ろの2台は何とかよけた。だが、アルテッツァはその後車線をふさぐような形で停止。再び走り出したときには、3台ははるか彼方へ。

吉川「ちきしょぉ・・・」

吉川 アルテッツァ スピンアウト―――

山本「吉川、大丈夫か?」
吉川「今、自走して出口に向かっています。大きなダメージはなさそうです。」
山本「そうか。それは良かった。警察には見つかるなよ。」
吉川「はい。」

残りは2台。呉服橋、神田橋とFC先頭の状態が続く。

山本「代官山のトンネルの右上りコーナーでバンパープッシュを仕掛ける。万が一失敗したら、後はお前が頼むぞ。」
平田「は、はい。」

竹橋JCT、北の丸、そして代官山・・・!!

山本「頼むぜMR−2!!いっけぇーー!!」

事故を覚悟でFCに立ち向かっていく!FC・突然ブレーキを踏み、MR−2とトンネルの壁の間に入り込む!?

俺「アホんだらぁ!!そんなスピードで突っ込んだら死ぬでぇ!!わざわざ助けてやらなアカンやろぉ!!」

ガッシャァァァン!!!

山本「え・・・?助けられた・・・?」
平田「よっしゃぁぁぁ!!抜けるっ!!」
山本「止めろ!平田!」
平田「え?」
山本「アクセル抜いて、80キロに戻せ。副リーダー命令だ。」
平田「は、はい・・・」

3台は再び芝公園の広場へ戻った。メンバー達が、傷んだMR−2を見て驚きの声を上げた。どうしたんですかと詰め寄る者もいた。

山本「このバトルは無効だ。日を改めてやり直そう。それで良いですよね。リーダ・・・、リーダー?どこ?」
メンバー「待ち伏せして連続バトルに持ち込むと言って、どっかに行きましたよ。」
山本「そうか。ま、いっか。どうせ地味なリーダーだし。それよりもあんた。ありがとな。って、あのFCの奴もいない!?」
メンバー「『修理代をもらっていく』って言って、山本さんの鞄から財布を取って逃げました。」
山本「うっそぉぉぉぉ!!!」

その頃・・・信号で止まっているFCの中で、俺は山本とか言う奴の財布を見ていた。

俺「ひゅーーー!!万札ばっか!!速い奴の財布はぜんぜん違うなぁ!!!」

同時刻・・・C1内回り
AE86が、誰かを探すように迷走していた。Non Powersリーダーの田路の車だ。

田路「アレ?みんな・・・どこ?」

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