幻の最高速


ふぇにーちぇさん作

第5話 失う悲しみ 2

しばらくして、レッカー車が来た。運転していたのは・・・春川だ。

春川「あんたらか。ちょっと手伝ってくれ。運ぶから。」

言われるままに、FDを荷台に乗せた。レッカー車は2人乗りなので、春川と俺が乗った。大川はタクシーで帰ってもらった。
レッカー車の車内で、春川は俺に聞いた。

春川「何故冷却系の装置を付けなかった?」
俺「失う悲しみを知ってもらうためです。」
春川「なるほどな。この世界はそういう物だからな。」

春川の板金屋に到着。だが、春川はエンジンは専門ではない。他の誰かに手伝ってもらうとのことだ。ということで、春川がその相手に電話している間、俺はレジやら金庫やらをいじっていた。

春川「・・・・・・あ、鈴木自動車ですか?春川ボディワークスの春川です。鈴木 正義さん、いらっしゃいますか?」

なんやかんやで、エンジンは鈴木自動車というところの鈴木正義という男が、新しいエンジンを持ってきてくれるんだとか。
春川のポルシェで送ってもらい、俺は家に帰っていった。

辰巳PA――

2台のBNR32、それと、Z32,33が止まっていた。Rはwing driveRsのリーダー、副リーダーだ。Zは、Zdriversのものだ。

大原「久しぶりだな、白田、それから北平。」
北平「そちらこそ、お元気そうで・・・。」
横山「ここに俺らを呼んだのは、何かわけがあるんですよね。」
大原「ああ。お前らも最近聞いているだろ、黒いFC。」

他の3人は、それがどうしたのというような顔だ。

大原「忘れたのか、18年前のアレを!」

一週間後

新しいエンジンを積んだ白いFDがガレージに運ばれてきた。

春川「持ってきてやったぜ。あんたの注文通りにな。馬力は400、タイヤのグレードを上げて、ボンネット、リアスポイラーを変えた。軽量化はホントに良かったのか?」
俺「彼女はまだその域に達していないと思います。有難うございました。」
春川「あ、金は要らねえぜ。俺の店はあまるほど持っているからな。じゃ。」

そう言って春川は去っていった。
俺はちゃんと注文通りに作られているかもう一度見た。うん。ちゃんと作られている。
だが、一つだけ注文し忘れているところがあった。アクセルやブレーキ。大川は、身体的な理由でペダルが踏み切れていない。

俺「あっちゃぁ〜、仕方ない。即席で作るか。」

俺は倉庫にあったベニヤ板やガムテープなどを引っ張り出して、ペダルにテキトーに貼り付けた。これで身長130センチ弱のあいつでも踏めるはず。
今日はハイエース軍団、「ふざけてねーよ」の4〜2番手とリーダーの中原とバトルしてもらう。
いつも通り、大川が来た。

大川「あ、車直ったんだね。今日はあたしの車でいい?」
俺「ああ。構わないよ。この前の奴等とリベンジマッチか?」
大川「うん。」

大川の目に迷いは無い。時速が300キロを超えることがあるその場所では、一瞬の迷いが敗北と死の原因となる。
歌でもそう。真っ直ぐで飾りの無い声が最終的には一番だ。

大川「もう絶対壊したりしない。」
俺「金がかかるからナ!」
大川「ちょっと、今カッコいい事言ったのに空気壊さないでよ。」
俺「わりぃ、あ、エンジン壊したくなかったら、このメーターに注意しろよ。」

この前は気にしなくても良いと言った、油温計や水温計だ。エンジンの負担を示しているようなものだ。
これを見て、どれだけエンジンに負担を掛けられるか、勝負どころに出れるかどうかなどを判断する。

俺「このメーターのどれかが赤い部分に到達したら、勝負は中止。ハザードを出して法廷速度に戻せ。ある程度回復するまで待てよ。」
大川「うん。」

木場入口より新環状線内回り入り――――

俺(短い間だが、今回で最後だ。俺の隣にコイツがいるのはこれが最後だ。残りは実践でしか手に入らない。戦って、撃墜(オト)して、ぶち殺して出しか手に入らない。
すべてはお前のため。だが、ここで関係を断ち切ることは俺のためでもあるんだ。それが分かるのはいつになるやら・・・)

白いハイエース3台。後方から追いついてきた。やはりライトを点滅させる。

湾岸線下り有明にてリベンジマッチ開始――――ッ

俺「踏め!!」

400馬力の加速が襲い掛かる。本物。紛れも無く本物の加速だ。有明JCTで11号線へ。レインボーブリッジへと進路を向けるように右コーナー。
200キロオーバーでコーナーに立ち向かう。ブレーキを踏み、後輪を滑らせながら旋回、アクセルで速度をコントロールしコーナーを立ち上がる!
バックミラーのハイエースは一気に後方へ。緩いながらも非常に距離の長いコーナー。直線的にクリアし、加速を無駄にしない。

ハイエースの男「んなアホな・・・!?」
ハイエースの男「置いていかれるッ!?」

レインボーブリッジ、速度は200キロ近くへ突入。侵入者のブレーキを試すように、右コーナーが大きな口を開いている。
再び彼女の渾身のドリフトッ!華麗に立ち上がり、続くストレートへアクセル全開!一般車を押しのけるように避け、芝浦JCTのS字へ。

1号線経由C1内回り――――ッ

ハイエースの男「追いつけないッ!!」
ハイエースの男「ここまでか・・・。」
ハイエースの男「まだだ。俺はまだやれるッ!!!」


「ふざけてねーよ」2,3番手 失速――――


4番手の男はいまだに全力疾走。仲間達が携帯でギブアップを呼びかけるも、一向に耳を傾けない。

ハイエースの男「俺はまだやれるんだ。本当に負けるまで、俺は負けを認めねぇ!!!」

大川は後方のハイエースが見えなくなり、エンジンの負担を抑えるためにスピードを落とした。だが、4番手のハイエースが接近して気が変わったか、もう一度アクセルを踏んだ。

俺「まだやれるとでも思っているのか?その愚か者に分からせてやれ。」
大川「・・・?」


まだやれる まだやれる

そんな薄っぺらな言葉で

勇気はちっともわいてこない


汐留S字コーナー。3車線の内ど真ん中に4tトラック。一般車にコースを邪魔されて上手くドリフトが出来ない。
コーナー入口で軽くドリフトさせ、中盤からは速度を殺して一般車を追い抜くまで待つ。
汐留JCTトンネル、そして銀座区間――――ッ

緩めの左コーナーをクリアし、まずは一つ目の橋げた。そして二つ目ッ!

大川「ッ!!」
4番手「とりゃぁ!!」

共に橋げたの左側を通りクリア。立ち上がって速度は80キロ弱。アクセル全開で宝町ストレートへ突入ッ!
加速力で後れを取るハイエース。ここぞとばかりにスクランブルブーストで追いつこうとする!追いすがるッ!
並ぶ・・・このときハイエースはFDの右側に付く。

4番手「直線ではこちらが不利。この先の江戸橋JCT、コーナーの多いC1内回りと、直線の多い新環状線外回りに分かれる。俺の取る道はC1内回りッ!進行方向左側の道ッッ!!!」

4番手の男はFDに新環状線へ行かせない為に強引に左側に寄せていく。FDは、ハイエースに邪魔されて有利な新環状線へ向えないッ!
上り坂に突入!一番左の車線と真ん中の車線の分かれ目の線を、ちょうどまたぐような位置にいるFD。
右側のハイエースが寄せてくるッ!襲い掛かる――――ッ!!

4番手「喰らえぇぇッ!!」

俺「臆すな!そのまま、そのまま真っ直ぐ、アクセル全開ッ!引いちゃダメだ!」

坂を上りきり、開けた視界の先に分岐点!

4番手「動けよFDッ!!動きやがれッ!!」

迫る、分岐の間のコンクリートの壁ッ!!

俺「まだ引き付けろッ!!」
4番手「このまま行けば、俺もお前も分岐の間の壁に衝突だ!それでも動かねえってかァ!!」

目の前に、迫るッ!!

4番手「これ以上は無理だァッ!!」

ハイエースが引いた!!ワンテンポ遅れてFDがC1へッ!!


ふざけてねーよ4番手 ハイエース 戦線離脱――――ッ

法廷速度に戻し、残り最終戦へ向けてエンジンの負担を軽減する大川。C1内回りを、獣が最後の標的を探す!

4番手「中原さん!あのFDはC1内回りです!」
中原「OKOK。張り切っていくぜ!」

辰巳PAより、黄色い派手なハイエースが出発。「ふざけてねーよ」リーダー、中原一志。そのちゃらちゃらした外見とは裏腹に、実力は・・・そこそこ。今の大川が勝てない相手ではない。

C1を一周して江戸橋JCT――――ッ

中原「おっ、白いFD。アレか?」

俺「来たな。大川、あのハイエース、あいつがハイエース軍団のリーダーだ。」

C1内回り江戸橋JCTより
最終決戦――――ッ

先頭ハイエース、後追いFDでバトル開始。呉服橋、日本橋、神田橋、代官山と、中速コーナーが続く区間、2台は膠着したまま。差は開くことも縮まることもしない。

中原「おっ、思ったよりはまともなやつだな。C1俺についてくる。」

最初のタイトコーナー、千鳥が淵コーナー。大川、獲物に牙を向けるかのごとく、インから一気に抜こうとする。
だが、ハイエースはその大柄な車体を上手く利用し、FDの進路を塞ぐ!
トンネルに入り、しばらくストレートが続く。直線での伸びは互角。ならば、必然的にコーナー勝負で決着は付く!
三宅坂、霞ヶ関トンネルと中速コーナーで追い抜こうとするが、やはり進路をブロック(塞ぐ)される。
霞ヶ関トンネルを出て、その先の赤坂ストレートッ!
ハイエースのマフラーから鋭い白煙が吐かれる。スクランブルブーストだ。

大川「何?あの加速!?」
俺「スクランブルブーストだ。一時的に加速力の上がる装置。格闘ゲームの必殺技みたいなもんだ。」

離れてゆくハイエース、焦る大川。谷町JCTコーナーが近づく。一見緩いコーナーだが、直前の赤坂ストレートで200キロ近くまで速度が上がるので、クリアするには減速が必要。それは前回、このコーナーで思いっきりぶつけたために重々承知しているはず。
しっかり減速をし、かなり良いタイミングでアクセルを踏む。だが、ハイエースは射程距離からはるかに離れてしまった。
そして次の同じくらいの曲率の左コーナー。同じようにブレーキを踏んだとき、異変は起こった!

大川「えっ!?」

車体が外側に滑っていく・・・壁が迫る――――ッ!
咄嗟にブレーキを踏み、車速を落とし、ギリギリもところでクリア。一体何が起こったのか、大川には理解できなかった。だが、吉田は理解していた。

俺(タイヤが「熱ダレ」を起こしている。やばくなってきたかな。)

タイヤの熱ダレ。タイヤに負担を掛けるような走行(ドリフトなど)を続けることによっておきる現象のことだ。
タイヤのグリップ力が下がり、路面に食いつかなくなり、結果、コーナー時に車体が外側に滑るようになる。
この状態で車体を滑らせないようにするためには、速度を落とすしかない。
直線は互角、コーナーはスピードを出せずに失速、敗北。ストレートでもコーナーでも勝てない!絶体絶命――――ッ!!

俺「時間が無い。この一周でケリをつけろ!」
大川「えっ!?」

タイヤの熱ダレは、タイヤに負担を掛ければ掛けるほど進行していく。最終的には、タイヤは滑りっぱなし。空回りし、前へと進まない。

俺「そういうことだ。一周して、汐留JCTまでに勝負をつけろ」
大川「分かった。やってみる。」

芝公園2連続S字コーナーをクリア。鬼門の浜崎橋JCT〜汐留S字〜銀座区間、江戸橋JCTへ、満月の最終局面ッ!!!

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