幻の最高速


ふぇにーちぇさん作

第7話

7月20日。今日から学校は夏休みだ。この夏休みが終わるまでは、思う存分首都高を走りこめそうだ。

ということで首都高――――

俺は黒いFCで横羽線下りを走っていた。最終決戦へ向けて、セットアップをするためだ。

俺(久しぶりに横羽戦を走ったな。やはりここではあまり良くないか・・・。おそらくあいつとの戦いは、C1から湾岸まで、首都高全体を使ったバトルになるだろう。首都高のどこでも完璧に走れるセッティングじゃないと勝てはしなっ・・・あ、)

ガス欠だ。最後の部分が台無しだ。大黒ふ頭で降りて給油をする。FCに積まれているロータリーエンジンというエンジンは、他の車に比べて燃費が悪い。
この車が出来てから20年以上経った。その間に見事に時代に反する車になってしまった。
正直言うと、このエンジンは良いとは思わない。生活保護で得た金が、この車のチューンとガソリン代に消えてしまう。
燃費さえよければ、ゲーセンにでも行きたい。だけど・・・

俺(このエンジンは世界で一番速いエンジンなんだ。燃費は、速さを得るための代償。どんな世界でも強さを得るためにはリスクが付きまとう。)


そのリスクとどう向き合うか――――


俺(俺はリスクから目を離さな・・・)
田路「あっ、誰かと思えば!」

台無しだろーが!割り込んでくるなよ!

俺「な、何の用ですか?」
田路「いや、ここのところ、自分の走りに対して行き詰まりを感じてね。君の走りを助手席で見てみたいんだ。良いかな?」
俺「・・・。分かりました。じゃぁ、助手席に・・・」
田路「あ、出来れば僕のハチロクに乗って欲しいんだが・・・」

えっ!ハチロクゥ!!そんな車でどこを走れというんだ。大黒ふ頭からは湾岸線と横浜環状線が延びている。
湾岸線はとにかく直線ばかり。圧倒的な馬力勝負。横浜環状は、長い直線とコーナーがウザイ程難しい形で並んでいるので、直線で相手に離されない様な加速と高速域でのコーナーの性能、乗り手の腕が求められる。
そしてハチロクという車。
しょぼい馬力、コーナーの性能は良いが、それは低速域の話。高速域ではどうなのかは分からない。

田路「湾岸線を走れなんて言わない。横浜環状、横羽線を往復してくれないか。」

アホな事言うな!そんなショボイ車でまともに走れるわけあらへん。20年以上前に発売されたFCよりも古いねんぞ!
と、言いたい気分だ。だが、田路がどうしても言うので、仕方なく俺は引き受けた。

田路「馬力は400馬力まで上げた。赤坂ストレートで290キロを記録して、それが最高速度だ。」

横浜環状へ上がり、みなとみらい付近で3台の車がバトルしているところに遭遇した。

田路(バトルのようだな。このハチロクの本当のポテンシャルを見るチャンスだ!)

前方を走る車はレガシィ、ランサーエボリューションV×2の3台。
馬力はこちらとほぼ同じだが、コーナーが恐ろしく下手糞だ。おそらく相手にもならないだろうが、

田路「頼む、ぶっちぎってくれ!コイツの本当のポテンシャルが見たいんだ!」

と言うので、仕方なくぶっちぎった。やっぱり大した事なかった。汐入付近でバックミラーから消えてしまった。

田路「すげぇ・・・俺の車ってこんなに速かったっけ・・・?」
俺「腕の差です。向こうがただ単にヘタなだけですヨ。」


レガシィの男「何だァあいつ!?ハチロク!?冗談じゃねぇよ!とにかく報告だ。」

男は携帯電話を取り出し、どこかに連絡した。

ランエボの男「町田さんッ!いま、横羽線なんですが、ものすごい速いハチロクに振り切られました!」
町田『何ィ!そんなハチロク聞いたことねぇぞ!一旦大黒ふ頭に戻れ。』

大黒ふ頭――――

町田は電話を切り、深いため息をついた。

町田「さっきいたあのハチロクじゃァねぇよな。アレはNon Powersの田路の車だ。横羽なんかじゃぁ話にならねぇ。」

そうつぶやいた時、男が一人こちらに近づいてくるのが見えた。町田の良きライバル、「スバリスターズ」のリーダー、城嶋 文弘だ。

城嶋「よう。町田ぁ。お前のチームのやつ、横羽線でハチロクに振り切られたそうだな。」

町田は舌打ちをし、どうせ隠してもばれる事だと思ったので正直に話した。

町田「ああ、そうだよ。悪ぃか?」
城嶋「実はな、俺のチームのやつもなんだよ。」
町田「ッ!?」
城嶋「いま、何人か偵察に行かせたけど、チームの下っ端たちじゃぁ相手にならないだろうな。」
町田「で、用件は何だ?」
城嶋「このままじゃぁ、寝覚めが悪い。今夜中にも、あのハチロクを撃墜しないか?」
町田「なるほど、同感だ。で、どうやって撃墜するんだ?」

二人は建物の隅に隠れ、作戦会議をした。会議が終わるなり車に乗ってどこかへ出かけてしまった。

横羽線羽田トンネル

ハチロクは新たな敵と交戦していた。GD8インプレッサ×2、ランサーエボリューションW×2
スタートは馬力の差で前に出られてしまった。羽田トンネルを抜け、緩い右コーナーに差し掛かった。
目前に4台が固まってスローダウンしている。前方のトラックを避け切れなかったようだ。

俺「馬力はある。だが、一般車を避けるのはヘタだ。」

一気にごぼう抜きにし、次は同じくらい緩い左コーナー。アクセルは全開のままで、左足でブレーキをちょんちょんと踏む。「左足ブレーキ」だ。
速度の減少を最小限に抑え、平和島料金所まで続くストレートへ入る。

ランエボの男「そっちはハチロクだろ?コーナーでミスってもストレートで楽に前に行けるんだよ!」

4台に一気に抜き返される。少しずつ開いていく差。

田路「クッ!ハチロクじゃぁ無理もないな。」
俺「いえ、勝算はあります。かなり危なっかしいやり方ですが・・・」
田路「分かった。どんなやり方でも構わない。」

勝利のポイントは、この先の平和島料金所。4台はETCを搭載していてもある程度減速してくるはず。
こちらは相手よりもブレーキをかなり遅らせて料金所に突っ込む。それである程度相手よりも前に出れるはずだ。

インプレッサの男「この先は料金所だな。ある程度速度を落としておいたほうが良い。」

4台、ほぼ同時のブレーキ。すかさず吉田が反応!
相手より前に出たのを確認し、一気にブレーキを掛ける。だが、料金所との距離に対して、ブレーキを始める距離を詰めすぎた。止まれないッ!
そのとき、吉田はハンドルを左に切り、ドリフト走行を始める!

田路「つッ!・・・ドリフトか。これなら普通にブレーキを掛けるよりも制動距離は短くなる。それに、車体を斜めに向けることによって、相手の進路をブロックすることにもつながる。」

速度を十分に落とし、ETC専用のゲートを一番に通過。ランエボ2台、インプレッサ2台が続く。

ランエボの男「だからよぉ、ストレートでは俺の方が圧勝だろうが!」

すぐに1台のランエボに抜かれてしまう。右車線ハチロク、左車線ランエボ!
だが、次のコーナーは横羽線でトップレベルのきつさのコーナー。吉田は、以前田路とのバトルでトドメに使ったあの技を使う。

カツンッ!

ランエボにバンパープッシュ!だが、この技は今の相手にとってあまり有効な技ではない。
なぜなら、ランエボは4WDの車だからだ。
4WDとは、4つのタイヤをフルに使って加速することだ。これによる最大のメリットは安定性。まるで競走馬のように4つの足で路面を蹴る。
安定性が武器の車に対して何故その技を使うのか?それは、ドライバーの腕!!
バトル開始直後、4台はコーナーでトラックを避けきれずにスローダウンしてしまったのを覚えているだろうか。
吉田はそれを見てドライバーの腕を判断!結果、バンパープッシュと言う答えにたどり着いた。

ランエボの男「ウワァッ!」

ランエボの男は、操作をミスってスピン。続く3台もスピンするランエボを避け切れずにスローダウン。ハチロクの勝利!

田路「ま、また勝った・・・!ハチロクのポテンシャルはドライバー次第でここまで上がるのか・・・」

田路は改めて吉田と言うドライバーの凄さについて思い知らされたのだ。

浜崎橋JCT

一台のZ33がゆっくりとC1を走っている。

白田「あー、今日もつまらん相手を撃墜してしまった・・・。ン?」

後ろから一台のハチロクがものすごい勢いでかっ飛ばしているのが見えた。バトルのようで、もう2台いる。

白田「あのハチロク、Non Powersの田路 悠木か?後ろは・・・GC8インプレッサとランサーエボリューションXか。」

この先は汐留S字。ここC1でかなりの難関の一つだ。一番右の車線から、一気に3台はドリフトに入る。
左コーナーでのドリフトなので、後方からは助手席が良く見える。

白田「田路 悠木!?じゃぁ、運転席に座っているのは誰だ?」

右コーナーのドリフトに入る。運転席にいた男は・・・

白田「なッ・・・!?」


俺「Z33が追って来ましたよ。」
田路「あぁ・・・あんた・・・ヤバイのを敵に回してしまった・・・勝てっこない・・・」
俺「あれは・・・」

吉田の目が変わる。田路は頭を抱える。後ろの2台はビビってスピン。あのZ33・・・


首都高7人衆 bO1 白田 京――――ッ!!


銀色の流線型のボディから強者のオーラがほとばしるッ!

俺「良い相手や。俺のプライドにかけて撃墜させてもらうッ!」

ハチロクからまるで妖気のようなオーラが、白田には見えた。

白田「お前ェェ・・・ッ!」

AE86、Z33 銀座区間突入――――ッ!

まずトンネル内のS字コーナー。先頭ハチロクは、相当派手に角度をつけてドリフト。Z33はブロックされて前に出れない。
トンネルを抜け、次のS字に向けての僅かなストレート。

白田「そっちが何馬力か知らねぇが、こっちは600馬力の車だ。25年以上前の車に出せるかァ!そんな馬力!」

一気に前に踊り出るZ33。さっきの仕返しと言わんばかりに、S字コーナーで派手などリフトを繰り出す。

ガツン!

丁度右から左に切り返そうとしたときだった。ハチロクはZ33に渾身のバンパープッシュ。Z33はバランスを崩す!

白田「クッ・・・!どおぉぉぉぉりゃァァァァァ!!!」

白田は何とか体勢を立て直した。だが、大幅に速度を落としてしまう。

白田「今のはねぇぜ・・・。相当上手いやつじゃないと立て直せない。狂気だぜ・・・。」

田路「今のはヘタしたら殺人になるぞ。」
俺「大丈夫ですよ。首都高7人衆の一人なんですよね。だったら・・・と思って。」

銀座区間後半、一つ目の橋げたへッ!

橋げたの左をZ33、右をハチロクが通過。速度はほぼ同じで2つめへ!
2つ目の橋げたも、同じように通過。宝町ストレートの加速競争へ!

白田「お前はC1を選ぶよなァ!俺は新環状線だ!お前の不利な新環状線だ!ついて来れっかァ!?」

そのとき、前方にレガシィ、GD8インプレッサ、ランサーエボリューションX、Yの4台が。

田路「マズイ!この流れだと新環状線だ!戦線離脱してでもC1内回りへ・・・」
俺「田路さん。このハチロク、馬力いくつでしたっけ?」
田路「よ、400馬力。ブーストは1.0キロだったかな。」
俺「スクランブルブーストは?」
田路「一応つけた。450馬力のブースト1・5キロ。」
俺「なら、勝てますね。」
田路「オ、オイ!?」


江戸橋JCTより新環状線入り――――ッ!


田路「何やってるんだ!新環状線の一部は湾岸線だ!今度こそ勝てっこない!」

C1銀座区間付近、レインボーブリッジ、9号線、そして湾岸線。この4つの区間をつなげて新環状線と言う。
銀座区間付近は、これまで登場したようにタイトなコーナーが続くテクニカルコースだ。
レインボーブリッジと9号線はストレートが長くスピードが乗るので、高速域でのテクニックが鍵となる。
そして湾岸線。直線ばかりでコーナーが殆ど無い。特に新環状線で通る部分はひたすらのストレート。ここで鍵となるのは馬力!
日本で唯一、ゴムタイヤとアスファルトの路面に300キロオーバーの領域が許された公道、湾岸線。ただただ馬力がものを言う。

俺「確かに、普通に考えれば勝機はありません。ですが、宝町ストレートで一つの異変が起こりました。」
田路「異変?相手の車にトラブルでもあったのか?」
俺「いえ、4台の乱入です。恐らく、スバリスターズと首都高エボリューションズの車です。」
田路「それがどうしたんだ?」
俺「見てください。乱入した4台とZ33。」

言われるがままに見てみる。先頭からランエボY,X、GD8,レガシィ、Z33、そしてハチロク。
田路は何処かおかしいのに気が付いた。田路はあのZ33と何度かバトルした事がある。そのときに比べて、何処か動きが甘い。

田路「そうか!前にいる4台が邪魔になって、思うように前に出られない!」
俺「そうです。1台2台ならどうって事無いでしょうが、4台ともなるとライン(通り道)が相当制限されます。しかも、前を走っている4台は腕は確かですが、あのZ33よりもヘタです。」
田路「だけど、それだと俺達にも同じことが言えるぞ。どうやって前に出るつもりだ?」
俺「後で良い板金の店教えます、って言えば分かりますか?」
田路「それって・・・まさか・・・!?」

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