幻の最高速


ふぇにーちぇさん作

第8話

田路「ヒィィィィ!!」

箱崎JCT手前の4車線左コーナー。まず、Z33にバンパープッシュ。Z33はバランスを崩し、一時的に道が開ける。

白田「のォォッ!またかァ!」

Z33の前に出るハチロク。箱崎JCT右コーナーまでの2車線の直線を、スクランブルブーストで一気に駆け抜ける。
先頭のランエボに並び、右コーナーに突入。吉田はハチロクのリアタイヤ(後輪)を思いっきり滑らせる。
迫り来るハチロクのリアタイヤにビビり、ランエボのドライバーはハンドル操作をミス!壁に激突しながらスピン!

白田「ギヤァァァ!!何やってんだよ下手糞ォ!!」

4台がZ33の進路を塞ぐダムのように立ちはだかる!車が通れるような隙間は無いッ!

白田「ファァァァァック!!」


白田 京 Z33 失速――――


ハチロクは、辰巳パーキングに停車し、エンジンを休めていた。恐らくこの先は、車もドライバーもベストな状態でないと切り抜けることは出来ない。
ということで、ハチロクの車内――――

田路「かんぱーい!!」
俺「イエーイ!!」

車内で二人で宴会。しかも吉田は高校生なのにビールを飲んでいる。

俺「ビールゥ!?だいじょーぶだいじょーぶ!!バレへんバレへん!!」
田路「ハチロク最高ーーー!!」
俺「イエーイ!!!!!!」

30分後・・・

俺「そいじゃぁ、・・・ヒック!・・・行きますね・・・」
田路「ヒック・・・おーけー・・・」
俺「湾岸線で大黒・・・ヒッ・・・埠頭まで行きま・・・ヒッ・・・すね。」

わずか30分で泥酔状態!辰巳PAから大黒ふ頭までは一箇所だけ料金所がある。この先のバトルよりもそっちの方が心配だ。

首都高湾岸線 大黒ふ頭付近 路肩

城嶋「湾岸線に誘い込むまでに、だいぶやられてしまったナ。」
町田「だいぶどころか、全滅だろ。」
城嶋「ここまで来てくれるかな・・・」
町田「来てくれなきゃ困る。(ついでに城嶋ともケリをつけたいしな。)」

30分は待っただろうか。さっきから来るのは乗用車や夜行バスばかり。目標のハチロクは・・・

城嶋「来たァ!」
町田「何ィ!」

城嶋はスバルインプレッサGC8に、町田は三菱ランサーエボリューションWに乗り込み、ハチロクの後を追う。

俺「やはり来ました・・・ヒック・・・」
田路「バトルじゃぁ〜・・・ヒッ・・・」

酔い覚めやらぬままバトルに突入。料金所をどうやって抜けたのかなんて突っ込みはナシで・・・。
吉田は、直線ばかりの湾岸線を直進。いきなり相手の意表をつく。

城嶋「湾岸線・・・?横羽線と似た大黒線を選ぶかと思っていたが、意表を付こうという作戦か?」

酔ってるから、進路を間違えただけです。そんな事行ってる場合でもなく、湾岸線を選んでしまい、いきなり窮地へ落ちる吉田。
ライトアップの美しい横浜ベイブリッジで、馬力の差で余裕で追い抜かれる。
いや、追い抜かれたが、決して引き離されてはいない。スクランブルブーストだ。

町田「いきなりそれ使うかァ!」
城嶋「良いのかな?ハチロクのドライバーさん。この先は直線の多く、コーナーが少ない横浜環状と横羽線だぞ。」

先頭の城嶋は湾岸線から横浜環状線を選択。3車線プラス路肩の広い湾岸線から、2車線路肩無しの横浜環状。
上り勾配の後に、結構キツイ右ロングコーナー。湾岸線で相当速度が乗っているので、かなり手前からブレーキを掛けないと、壁にぶつかる。
3台はギリギリのレイト(遅い)ブレーキでコーナーに突っ込む。

城嶋「ほう・・・コーナーでのテクニックも悪くない。なかなかのハチロク乗りだな。」
町田「だが、車がな・・・。悪いが、そんな車じゃあ横羽線で本当に速いやつにはなれない。現に俺だって、横羽線最強じゃねーんだからな。」

町田の言うとおりだ。ハチロクは今はスクランブルブーストを解除して、400馬力。
対して、城嶋のインプレッサは500馬力強。町田のランエボに至っては600馬力オーバーだ。

田路「そんな馬力差を・・・ヒック・・・ひっくり返すことは・・・ヒッ・・・出来るのか?」
俺「フン。・・・ヒック・・・そんなネガな部分ばかり・・・ヒッ・・・にしか目が行かへんのか?馬力が何や?コースが何や?目前の事ばかりしか見えてへん。」


ずっとその先にあるものが見えてへん――――

同時刻 辰巳PA

白田「大原、お前を呼んだのは他でもない。あの黒いFCに関する事だ。」
大原「ああ、アイツね。どーかしたのか?」
白田「あのFCとバトルした。」
大原「おっ、結果は?」
白田「お前今日は機嫌良いな。C1内回り汐留S字スタートで、9号線箱崎JCT付近でバンパープッシュで決着。」
大原「らしくねーな。お前がそんなの避けられない訳無いだろう。」
白田「首都高エボリューションの奴らとスバリスターズの奴らが乱入してきた。合計6台のバトルになったナ。」
大原「それにしても、一体なんでアイツがいるんだ?」

もちろん、白田は答えることが出来なかった。


首都高横羽線上り 汐入


あの3台のバトルは中盤戦に差し掛かろうとしていた。先頭から、城嶋インプレッサ、町田ランエボ、少し遅れて吉田ハチロク。

城嶋「なかなかやるな。横浜環状でここまで付いてくるとは・・・。」
町田「だが、横羽線の汐入付近は、横羽線の中でもかなりストレートが長く、多い。ここで一気に勝負をつける。」

田路「う〜、結構酔ったナ〜。離されんじゃね〜ゾ〜」
俺「わかってるヨ。直線多いからやばいナ。」

汐入から羽田付近までこのようなロングストレートが続く。その度に離されていく2台との距離。

城嶋「バックミラーから君の走りを見続けているが、ここまで離されているのにミスらない。」
町田「普通のやつなら追いつこうとあがいて、最終的にミスって事故るんだがな。酒でも飲んでんじゃねーのかァ!?」

大正解。まだアルコールが抜けないため酔っている。負けていると言うことは分かっていても、テンションが上がっているため全く動じない。
およそ100メートルほど差が付いた頃だろうか。大師河原付近。下りの車線には料金所がある辺りだ。
ここから横羽線は、微妙ながら表情を変える。長いストレートは少なくなり、緩いコーナーがちょくちょく出現するようになる。

城嶋「振り切れなかったナ・・・計算外だった。ここから先はキツイコーナーが多くなってくるから、なるべく差を広げたかったが・・・。」
町田「それにしてもよく付いてこれたナ!ここから先は3台の接近戦になりそうだゼ!」

多摩川を越え、東京都に入り最初のコーナー。羽田出口コーナーッ。
速度の割にコーナーがきついので、大体は思いっきりブレーキを踏む。
だが、ここで事態は急展開――――ッ
町田のランエボが城嶋のインプレッサに接近ッ!ぶつかる!

城嶋「町田・・・ミスったかァ!?寄るなァァ!!」
町田「フンッ・・・」

ギリギリのところで町田がコントロール!軽くバンパーを押すだけで済んだ。
城嶋のインプレッサは一瞬バランスを崩したが、すぐに立て直すことが出来た。だが、町田のランエボに一気に並ばれるッ!

町田「分かってるよなァ、城嶋。コイツは俺の宣戦布告だってナ―ー――ッ!」

仲間割れッ!2対1の変則マッチから1対1対1の三つ巴バトルにッ!
さらに、ハチロクはコーナーで有利の事を生かし、一気に2台の背後に着く。

城嶋「そうか・・・俺に対する宣戦布告だな・・・。良いだろう。お互い、長年直接対決はしてなかったからな!教えてやろうッ!首都高横羽線で最速なのは、ぽっと出のハチロクでもお前のランエボでもない、俺のインプレッサだってなァ――――ッ!」

そこそこの長いストレート。そして、東京モノレールを右手に、空港西左コーナー。
3台の見事なドリフト。順位は入れ替わらずにトンネルへ。
さらにトンネルを抜け、昭和島JCT、平和島料金所、鈴ヶ森・・・

城嶋「勝負がもつれてきたな。このまま行くと、一番馬力の差が少なくなるC1銀座区間は避けられない。勝負はそこで付くか・・・?」
町田「やるな、城嶋。やはり俺のライバルは峠時代からお前しかいない。だが、それは予想されていたことだ。俺が一番警戒すべきは・・・!」

もしこのバトルが城嶋と町田の2台だけならば、バトルは朝まで続き、バトルどころではなくなるため、タイムアップで引き分けだろう。
だが、今回は珍しい客人がいる。僅か400馬力の吉田操るハチロクだ。単にそこにいるから脅威なのではない。ピタリと食いついているから脅威なのだ!
幼い頃、鬼ごっこなどで逃げる役のときに、鬼に長い間追い掛け回された事はないだろうか。
自分は全力で走っているのに、いくら逃げても鬼は離れない。そうなると、自分より鬼の方が速い様な錯覚に陥る。
それと同じ心理が、城嶋や町田の心にあるのだ。

城嶋「銀座区間は避けられない。俺とハチロクのみのバトルなら、9号線から湾岸線の進路を選ぶだろう。だが、湾岸線では400馬力のハチロクはチギれても600馬力のランエボにチギられる。ならば、江戸橋JCTでC1内回りだッ!」

城嶋と町田は、ハチロクの激しいプレッシャーに耐えつつ、一つ一つのコーナーをクリアしていく。
昭和島JCT付近で別れた東京モノレールが、右側に並んでいる。横羽線はもう僅かッ!!

田路「もうすぐC1銀座区間だな・・・ヒック・・・」
俺「かなりの腕です・・・ヒック、田路さん、ちょっと本気出しますんで、しっかり掴まっててくださ、ヒック、い。」

吉田の目が一気に変わる。とはいえ、まだ酔いは醒めていないのだが・・・。

俺「ほな行くで――――ッ!ヒック・・・!」
田路「台無しだ・・・」

日本航空本社前左コーナー(分かりづらい・・・)。天王洲アイル駅右コーナー、抜ければその先には浜崎橋JCT。

C1内回り 銀座区間――――ッ!!

俺「来た来たァーーーッ!!ここで一気に、ヒック」
田路「あぁ、また・・・」

戻る