幻の最高速
ふぇにーちぇさん作
第9話
車線が3つに増え、周囲のビルの高さも高くなってきた。
まずは、銀座区間の入口ともいえる汐留S字コーナー。ここまで幾度と無く通ってきたコーナーなので、ほぼベストなライン(通り道)でクリアできた。
田路「ヒイィィィィィィ!!」
酔っ払っている田路には申し訳ないが、耐えてもらうしかない。
短いトンネル内の結構急なS字コーナー。さっきの汐留S字に続いてベストラインでクリア。
町田はトンネル内S字の二つ目でミス!
町田「しまった、『アンダーステア』だッ!」
城嶋「コーナーの半径に対して、進入速度が速すぎたな。それが原因でズルズルと外側の壁に車が滑っていく。それがアンダーステアだ。(たぶん)対処方法は、速度を相当落とすしかない。だがその間に、ホラ、抜かれてしまう。」
吉田のハチロクが、町田のランエボの隙を突いて、コーナーの内側から抜いた!
城嶋「馬力を上げすぎだ。町田。その溢れる様な馬力は、こういうタイトなコーナーで裏目に出る。さっきのようにナ。峠時代から言っているだろう。馬力だけが速さじゃないとナァ!!」
町田「ちょっとミスっちまった・・・だが、このままってワケには行かない。この溢れるような馬力をしっかり制御し切れてこそ、俺は真の上級者になれると考えている。峠時代から言っているだろう。リスクから目を離してはならないとナァ!!」
俺「弱いナ・・・ヒック、あんなつまらんミスするなんて。たぶん、後方からの、ヒック、プレッシャーに負けてそないなミスする、ヒック、んやろう。ヒック、こういう勝負は精神力や!性能、ドライバーの腕はあって当然。それと+αの揺るぎの無い精神力が、最後の最後で勝敗を分けるんヤ!!」
浜崎橋JCTから数えて3つ目のS字コーナー。3台ともほぼ同じラインでクリア。僅かなストレートを挟み、いよいよ一つ目の橋げたへ。
一つ目の橋げたの前に、緩い左コーナーが存在する。城嶋インプレッサ、吉田ハチロクはアクセルを少し緩める程度で難なくクリア。
だが、町田ランエボは、またしてもアンダーステアを発生。大幅な減速を強いられる。
町田「ッ・・・!タイヤが熱ダレを起こし始めた!何としてでも前に出て、コーナーの少ない湾岸線に持ち込まねーとナ。」
一つ目の橋げたをインプレッサ、ハチロク、ランエボの順に通過し、最難関にして銀座区間最後の部分、二つ目の橋げたへ。
二つ目の橋げたの前には、山なりの勾配の付いたS字コーナーがある。最初の左は上りの左コーナーなので、ある程度スピードを乗せてクリア出来るが、次の右・下りは手前のコーナーでスピードを乗せすぎると、外側の壁にぶつかる。
俺「んな事最初の方に言うてなかったか?まぁ、ええけど・・・」
城嶋「もらったァ!このコーナーはこれほどスピードを乗せてしまったら、次の橋げたは外側を抜けるしか選択肢は無くなる。減速して無理矢理内側に飛び込んでも、馬力の差で一気に突き放せる!」
この橋げたをクリアすれば、C1内回りでかなり長いストレート、宝町ストレートが待っている。城嶋はここで一気に突き放す作戦しか頭に無かった。
俺「悪ぃナ。インプレッサのアンタ。次のストレートで突き放すのはこの俺や――――ッ!」
左・上りコーナーでインプレッサに強烈なバンパープッシュ!一気にバランスを失い、かなり減速してしまった。
その間に、ハチロクは余裕で追い抜いた。スクランブルブーストで450馬力に上がったハチロクは、最新鋭戦闘機のような2台を(最新じゃないけど)一気に突き放す・・・ハズが――――ッ!?
俺「嘘やろォ――――ッ!!」
ランエボとインプレッサが怒涛の大追撃!!その2台もスクランブルブーストを使ってきたのだ!!
ランエボは800馬力に、インプレッサは700馬力にハネ上がり、450馬力のハチロクの加速は全くの役立たずッ!!
だがそこで、『一人』の不確定要素が動き出す!!
ハチロクの車内で、風を切る音ば突然激しくなる。助手席側の窓が開いている。田路だ――――ッ!!
田路「おえぇぇぇぇ・・・」
田路は窓からゲr・・・嘔吐物を発射。すぐ後ろのインプレッサの窓にかかる!しつこいながらも、田路はまだ酔いが醒めていないことを補足しておきます。
城嶋「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??これアリィ!?」
前方が見えなくなり、パニックになった城嶋はハンドル操作をミスり、トラックと接触!!
町田はトラックと接触したインプレッサを避けきれずに、スピン(車が回転すること)で自車への被害を最小限に食い止めようとする。
俺「・・・なんか微妙な勝ち方やな・・・」
もう後ろから追って来る事はなさそうなので、俺のFCを置いてある大黒ふ頭PAで下ろすことにした。
俺「田路さん、着きましたよ。」
田路「うぅぅぅ〜・・・」
どうしようもないので、このまま放置して家に帰ることにした。
FCに乗り、PAの出口に向う途中に、誰かがこちらを見ているような気がした。「車が走ってるナ〜」なんていう目じゃない。もっと別の・・・
大原「やはり、アイツのFCだったか。」
辰巳PA――――
城嶋「クッ・・・ダメだったか・・・」
町田「チームのメンツ丸潰れじゃねーかァ!クソッタレ!!」
町田がランエボのホイールを思いっきり蹴飛ばした。蹴飛ばしても何にもならないんだが・・・
城嶋「それにしても、あのハチロクに乗っていたドライバーは何者なんだ?」
町田「知るかよ!!クッソ、絶対ェー勝てると思ったのに!!」
?「そういう考えはいけない。」
二人の話を他所で聞いているものが居た。二人とも、その男は顔も名前も知っている。
城嶋「首都高7人衆 浅原 昌一――――ッ!!」
浅原「絶対勝てる?アマいナ。この場所はそもそも勝ち負けの世界じゃねェ。なんて言うかナ・・・」
ケンカのための場所なんだよ――――
浅原「俺の表現力や語彙が豊かじゃないからかもしれないが、とにかく、言葉じゃ言い表せない世界。勝ち負けじゃなく、言うとするなら撃墜(オト)す。そういうことに気付かないからお前らは撃墜(オト)されたんだ。」
お前らは目の前しか見えちゃいない
目の前の出来事に潜むものが見えていない
お前ら自身が見ようとしないからだ――――
言葉を失った。目の前しか見えていなかったと後悔した。
そのとき、3人は何かが近づいてくる気配がした。城嶋と町田は、どこかで感じたことのある気配だった。
辰巳PAの横の9号線を黒いFCが通っていった。
城嶋「あいつは・・・」
町田「間違いねぇ!アイツがさっきのハチロクのドライバーです!」
浅原「――――ッ!」
午前4時。城嶋と町田は帰ったが、浅原だけはまだそこに居た。
浅原(俺の幻覚か・・・?あのFC、あの男・・・)
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