DRIFT☆STREET


レッドゾーンさん作

第8話「奇跡の旧車コンビ!」

キーンコーンカーンコーン…
4時限目の終わりのチャイムが鳴った。
今から昼休みである。
瞬佑と涼一は自動車研究部部室に向かった。
どうやらこの部では弁当の合間に情報交換をするらしい。
「何か面白いモンあったか?」
部長である柳斗が質問をした。
一番最初に挙手したのは涼一だ。
「何だ?河野」
「ああ、この前、湾岸ですげぇクルマ見たんだ。
2台いたが、2台とも750馬力はあるぞ」
「750馬力?今じゃ800は当たり前の時代だろ」
「…聞いて驚け…その2台のベースマシンはそれぞれS30とTE27だ!」
それを聞いて部員全員が驚きの表情を見せた。
「S30とTE27…両方とも70年代のクルマじゃねーか…」
「さて…と、河野、この2台のチューンメニューの予想は?」
「まあ、見ただけだからな…ただ、2T−GやL20で750は流石に無理があるだろ…S30は…L28だと完全に某漫画のパクりになる。
多分RB26あたりに載せ換えてある筈だ。
27は…分からん」
「そうか…じゃあ、各自何か発見したら俺に連絡入れてくれ!解散!」
自動車研究部の活動は終わった…っていうか最近妙に活動時間少ないな…

ーPM8:30−
ブロロロロ…
例の30Zが湾岸を軽く流している。
すると、スープラと鉢合わせた。
「?S30Zか…古くせークルマだな…クラッシュさせて潰しちまおう」
するとスープラは幅寄せで側壁にZを挟もうとした…が!
「!?…なんだこのZ!」
Zは一気に加速し、あっというまにスープラをぶっちぎった。
同時刻、瞬佑も湾岸に入った。
ナビシート(助手席)には涼一がいる。
そして27と鉢合わせた。
「27…」
そこで涼一は…
「!!…瞬佑!アレだ!俺が見た27は!」
「そうか…どんなモンか見てみるか」
瞬佑のパッシングでバトルが始まった。
27のドライバーは…
「…このFD…今までのチャラい奴らとは格が違う…!?
最高速にREが不利な事を承知で走っているのか?
何にせよ…こりゃかなわねーかもな…」
2台は同時にアクセルを踏んで全開モードに突入する。
そして、27のドライバーは焦りを感じている。
「…すげぇ…一見、奴はクルマの性能だけに頼っているヘタクソに見えるけど…FDであれだけパワーを出せばハンドル切っただけでどこへ吹っ飛ぶか分かったモンじゃねー暴れ馬になるはずだ…よほどのドラテクがなきゃ乗りこなせっこねぇぜ…あんなクルマ…」
一方、瞬佑は、別にピンチというわけじゃないが、感心している。
「ほ…おぉ…すげえな、ホントに旧車かよ…アレが20年以上昔のクルマだなんて信じらんねー…」
27のドライバーは精神的にかなり追い詰められている。
「クソ…ッ…なんだこりゃあ…クルマの性能に乗せられているだけのヘボを追い回すのが俺らのプロジェクトだろうが!
これじゃあクルマに乗せられてるのは俺のほうじゃねーか!」
そして、27はぶっちぎられて終わった。

そして、数分後、瞬佑たちはZを発見した。
「Zだ…どんなドライバーだ?」
そう言って瞬佑はクルマを横に並べて、コクピットを見てみた。
その瞬間、衝撃が走った。
「さ…桜田ァ!?」
すると涼一が…
「桜田って…まさか桜田 敦(さくらだ あつし)の事か!?
アイツ…4年前に死んだ筈じゃあ!?」
「なんでアイツが…仮にあの大事故で生きていたとしても…なんで生きている事を隠す必要があったんだ!?」
涼一もまだ動揺しているが、瞬佑にこう言った。
「落ち着け瞬佑…まだ桜田本人と決まった訳じゃない!!」
「けど、人相が同じなんだ!顔の傷も、事故の際の出血箇所と一致している!」
すると、瞬佑たちの言う「桜田」らしきドライバーは…
「あのFDに乗っている二人…赤島と河野か…?」
どうやら、2人の予想は当たっていたらしい。
(なんで桜田が…!?
俺は4年前の事故をハッキリと見た…
確実に生存できる筈がない…3日後のニュースでも「死亡」と伝えられていたんだ!)
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その「事故」は4年前…瞬佑らが中2の頃に起きた。
9月頃、瞬佑のクラスに桜田が転入してきた。
桜田はかなりガラの悪い奴で、クラスの連中はみんな恐れをなしていた。
彼は1度、煙草を吸っているところを見つかって補導された。
その事件の影響で桜田は更にクラス内で孤立していった。
元々、不良のいない学校だっただけに、彼の仲間は誰一人いなかった。
瞬佑と涼一は多少気に掛けていたが、話しかけると怒鳴り散らされたのでそれ以来話しかけなかった。

そして、同年度の2月に事故は起きた。
桜田は、その日原チャリを無免運転していた。
そして、信号無視して直進した後、1tトラックにはねられた。
すぐに病院に担ぎ込まれたが、心拍数は残念ながら2日後に0になってしまった。
そして翌日のニュースで、「死亡」と報道された。
だが、その日の夜、公にはされていない事件が起きた。
霊安室から桜田の遺体が消えていたのだ。
盗まれたのか、はたまた実は生きていたのか…病院の職員は不気味がって警察に届け出なかった。
その事件は、この病院の中で7不思議に数えられた。
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「何にせよ色々と聞きださねーと…!!」
瞬佑はアクセルを思い切り踏むが、Zは降りてしまった。
上手いこと逃げられた。
「逃げられた…な…」
「ああ…」
(奴は本当に桜田なのか…?早いうちに捕まえて何があったか聞かなきゃな…4年も行方くらましやがって…)
ビュィィィン…
瞬佑と涼一も帰路に着いた。

ー翌日ー
ーSUPER SPEED KOUNOー
「此処が涼一ん家か…思えば初めて来たな…」
瞬佑は、涼一の家に来ていた。

「そろそろ瞬佑が来る頃かな」
きちんと約束していたようで、涼一も待っていた。
ーそして涼一の部屋ー
「しかし…随分とでかいショップだな…」
「ああ、親父一代でここまででかくしたんだ」
まだ本題には入っていない。
「どうやってここまでやったんだ?」
「聞くか…?それはな…先代が経営破綻させちまって…親父がヤケになって【自主規制】したんだ」
「聞かなきゃ良かった…」
「だろ?」
【自主規制】の中身は各自ご想z(ry
そして、脱線してしまった話を涼一が戻した。
「さてと、本題に入るか…話の主題は分かってるな?」
「ああ、あの27とZだろ?」
そしてまず涼一がこの2台について知っている事を話した。
「お前、あの2台のナンバー見たか?」
「いや?」
瞬佑はナンバーまで見ていないようだ。
「あの2台、関西ナンバーだったんだ」
「関西…Zの奴が本当に桜田だとしたら…4年間ずっと関西で雲隠れしてたって事か…」
「だな…」
次は瞬佑が気づいた事を話した。
「ところで、27のEgなんだが…」
「ああ、音を聞く限り恐らくスープラの2Jに載せ換えてるだろうな」
その後2人は10分ほど情報交換を続けた。
そして…
「やっぱり…たった2人で奴らの情報を掴むのは困難だな…」
「自動車研で議題にすればそこそこ集まるんじゃないのか?」
「ああ…ん?自動車研…あっ!しまった!」
自動車研のワードで瞬佑が何かを思い出したようだ。
「どうした?」
「今日、川島がドライビングスクールの実技訓練すんだけど、今までの実績から不安だから付いてきてくれって…」
「分かった」
「いいのか!?」
「ああ、アイツが免許取ったら首都高に出て情報収集出来るだろ。
それに、これ以上事故起こしたりEgブローさせたりコンビニに突っ込んだり電柱に突っ込まれたりしたら奴がスクール出入り禁止になる事も有り得るからな…兎に角、今の奴には精神的な支えが必要なんだ」
「分かった」

ー某ドライビングスクールー
「おい赤島、遅いぞ」
瞬佑は待ち合わせ時間に5分遅れた。
「うっせーな、下手くそ」
「う゛…下手くそ…(言い返せない」
そして、実技教習が始まるが…
「え?おい川島…ひょっとして一緒に乗れって事か?」
「ああ」
教習を前にして2人はもめていた。
「えーっと…出来れば部外者の方はご遠慮願いたいのですが…」
教官に注意されるも…
「無理です、怖いんで」
情けない事を言っている柳斗…それにシビレを切らした瞬佑は…
「幼稚園児かお前はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!
教習車ぐらい一人で乗れェェェ!!」
「………」
「…(ry」
なんか場が白けてしまった。
とりあえず教習車には柳斗一人で乗ることになった。
なんか「はじめてのおつかい」みたくなっ(ry
「じゃあ、しっかりやれよ、川島」
「分かった!」
瞬佑に後押しされ意気込む柳斗。
キュルルルル…ヴォン!
セルを回しエンジンを掛ける。
そして発し…
プスン…
「ばあかやろ…」
「え?」
教官も瞬佑も拍子抜けしたが柳斗だけは何が起こったのか理解していない。
要するにクラッチを上手く繋げずにエンストさせてしまったのだ。
「あれ?先生…動かないんですけど…」
「いい加減状況を理解しなさい」
まだ分かってないので教官に注意されてしまった。
そして運転席に近づいた瞬佑にも注意されてしまった。
「馬鹿かお前は!
エンストしたんだよ。
あと、エンジン掛ける前にやることあんだろ」
確かに柳斗は安全確認をしていない。
「あっ、安全確認か」
「そーだよ、ホントに大丈夫かお前…」
「えーっと、ミラー良し、ステア良し、ワイパー良し、シート良し」
(ワイパー?シート?)
柳斗のちょっとアレな行動にこりゃ無理かもと思う瞬佑であった。
そして安全確認を済ませて再びエンジンを掛けてクラッチを繋ぐ…が…
教官が焦って言う!
「ちょっと待て君!それバックギア…」
時既に遅し!
バックギアのまま発進した教習車はクルマの後ろにいた瞬佑に向かって一直線!
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!!!!」
瞬佑は何とか教習車をかわすが…
「うげ…っ!」
ガシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!
別の教習車に突っ込んでしまった。
更に2台ほどの教習車が突っ込んできて大惨事。
このドライビングスクールは休校になってしまった。
…という訳で出入り禁止を喰らってしまった柳斗…
その後、暇になった瞬佑は涼一の所に向かった。
「なるほど、結局川島は出入り禁止になったか…」
貴重な情報源を得るチャンスを逃した2人は落胆していた。
瞬佑はしょうがないという感じでこう言った。
「こうなったら『MAXIMUM R』にでも協力してもらうしかねぇな…」
「ああ…」
この後、2分間の沈黙が流れ(ry
「じゃあ木下に連絡するか」
涼一はこう言うが…
「…確か今日は手芸部活動日だったよな…だったら無理だな、アイツ部活中絶対に携帯の電源入れないから」
瞬佑にこう返され…
「そうか…」
2人は考えた末に出した答えは、
「剛さんのトコ行くか」
ー剛のガレージー
「30Zと27トレノ?
ああ、最近首都高で話題になってる奴らか…
たしか30がRB26で27が2JZだったな」
どうやら剛もこの2台の噂を聞きつけているようだ。
「知ってるんですか?」
「ああ、すげぇよ奴らは…プロのチューナーには一切頼らず自分達だけで組んでるんだ」
「そりゃすげぇ…」
新たな事実に2人は驚いた。
剛に聞いてみたのは正解だったようだ。
「ところで、そこのクルマ…何ですか?」
涼一は奥のクルマが気になったので聞いてみた。
以前は無かったクルマだ。
「ああ、コレは…此処の新しいデモ車の34Rだ。
今は大体825馬力ってトコだな」
「はっぴゃ…」
825馬力…涼一の家のショップでもそんなクルマは作った事が無い。
「FDよりも45馬力上か…流石にRB26は化け物Egだな…」
瞬佑はこのEgに驚いているが…
「Egだけじゃないぜ、ボディの方も、総カーボン製だからな、ロールケージにもカーボンを採用してるおかげでウエイトは1・2tってトコだ」
その言葉に涼一はまた驚いた。
「1・2t…Rとしては相当ヤバイレベルにウエイトダウンしてる…」
パワーウエイトレシオは2kg/ps未満だ。(ノーマルだと大体5kg/ps前後)
恐らくZとトレノが完成した暁には剛もRを完成させてバトルに臨むのだろう。

ーPM9:30、市川PA−
ウォォン…
Zが来た。
「おお、桜田か」
桜田がZから降りてきた。
「久しぶりだな、祐介」
「ああ、ところで、そのZ、大分出来てきたようだな」
「…現在は805psってトコだな」
「ほお…」
「そっちの27は?」
「862psだ」
「お互い、すげぇクルマ作ったモンだな」
「ああ」

ー翌日ー
「ヤベェ!遅れる!」
瞬佑はまたもや遅刻のピンチに陥っている。
しかも肝心な時に原チャリはガス欠ときてる。
持久走並に頑張って走って…
何とか間に合った。
着席したのはチャイムが鳴り終わる寸前だった。
そして、授業が終わり、部活に行った。
「今日も例の27とZについて話し合いをしたいと思う」
お前情報収集してたのかという声も上がったが、聞き込みである程度の情報は掴んだようだ。
「聞くところには、あの2台はPM9:00〜PM10:00の間に市川PAに来ているらしい」
「ほう…」
その後数分間柳斗が知っている情報を話し、部活が終わった。
「…あの2台もかなりのトコまで煮詰めてるみたいだな…」
涼一が深刻な表情で言った。
「ああ…剛さんも相当なところまで行ってるみたいだからな…とんでもないバトルになるぞ…今度は…」

ー同日、夜ー
(27の出力は当初の予定より10ps以上上がった…けど…あのFDを相手にするにはパワーはいくらあっても足りないだろうな…
パワーじゃなく…パワートレイン、ボディ強化を行う必要があるな…
さあてどうするか…俺の勘では今週中にバトルになる…それまでに仕上げねーと…)
(…最近湾岸で34Rを見かけるようになったな…相当なレベルになっている筈だ…赤島のFDもそうだし、急ピッチでZのチューンを進めないとな…)
ー瞬佑の家の前ー
ピンポーン…
「…涼一か?」
そう言って玄関のドアを開けると、玄関前に立っていたのは剛だった。
「よお」
「つ…剛さん!?なんでこんな所に!?」
「俺のR、ほぼ仕上がったんだ。
お前に見てもらいたくてな、今から時間あるか?」
「…明日はバイトも学校も無いから暇ですけど…」
そして2人を乗せたRは湾岸へと向かっていった。
ー翌日、AM8:05ー
瞬佑は、朝早くから涼一と箱根でFDのセッティングを進めていた。
ギャギャギャギャァァァァァァ!!!
ヴォン!
「…ダメだ、理想どおりのコーナリングラインが描けない…」
あの3台に勝つためには理想どおりのクルマが完成しなくてはならない。
だが、その理想どおりのクルマが中々完成せずに瞬佑は苛立ちを感じていた。
瞬佑がカリカリしているのを察した涼一はこう言った。
「瞬佑…セットアップ初めて3時間以上経ってるぜ…そんな急いだっていい結果は得られないぞ、少し休憩したらどうだ?」
瞬佑は少しの間黙っていたが、2分程した後、口を開いた。
「…そうだな、昨日あんなモン見せられたからって焦ってたのかもな…」
2人はランエボに乗って箱根を下った。
「そんなに凄かったのか?剛さんのR…」
少し興味があったので涼一は質問してみた。
「スゲーなんてモンじゃねぇよ、アレは…」
剛のRは、スペックは825psのまま変わっていないが、あたかも1000ps以上出ているような錯覚を引き起こすほどのパワー感があった。
その完成されたクルマが瞬佑に与えたショックは計り知れなかった。
瞬佑が焦ったのも無理はないだろう。
2人は、箱根を降りてから、近くのコンビニで飲み物を買って車内に戻り、休憩した。
休憩中に何かを確信した様子の涼一は瞬佑にこう聞いた。
「チューンの期限はどんくらいにするか?逢うタイミングを逃したらバトルできねーぞ」
「3日だ」
3日…短すぎる期限に涼一は驚いた。
「み…3日ァ!?正気かお前!?クルマが完成しなかったらそれこそ…」
涼一は反論するが…
「何となくなんだが…4日後にバトルがある気がするんだ…」
「?」
勘という不確かなものに不信感を得るが、期限内にチューンを終わらせる事を約束した。
ー翌日ー
教師側の都合で今日は学校は半日。部活も無かった。
「あ゛〜、かったり〜」
やる気なさそうな言葉を発しながら瞬佑は校門を出た。
「瞬佑!」
背後から声がした。
振り向くとそこには涼一がいた。
「涼一か、何だ?」
「FDのチューンだけど、Egはこれ以上イジる必要無しと判断して、パワーよりもトータルバランスを意識して作ってる」
「…分かった、サンキューな、あと2日よろしく頼む」
「おう、じゃあ急いで家帰ってチューンの続きするわ」
「ああ、じゃあまた明日」
こうして2人は分かれて帰った。
(…いよいよ気が重たくなってきたな…)
そのまま帰ろうとすると…背後から気配を感じて…
「誰だ?…って優里か…」
瞬佑が見た通り、後ろから来たのは優里だった。
「あ?バレた?」
「どうせくだらねー事しようとしたんだろ?だったらもう少し気配を断って近づけ」
そういう瞬佑に優里は…
「気配って…あんたどこの武士よ…」
「どんな喩えだ」
そんな会話を続けながら、2人が近所のコンビニを通り過ぎた時…
「ん?」
「どしたの?」
瞬佑は店頭の新聞に気になる見出しを見つけ、その新聞を購入した。
「新聞?」
「ああ、気になる見出しを見つけたんだ」
「へぇ…よく分かるわね」
そして買った新聞を見ると…
『首都高湾岸線で事故』
「湾岸で?」
聞いてみる優里をとりあえず無視し、続きを読んだ。
『昨日11月9日、首都高湾岸線で事故発生。
自家用車2台とトラックが衝突した模様。』
「27トレノと…30Z!?…まさか!」
新聞に載っている写真を見てみると、27は衝突の後側壁にフロントをヒットしたらしい。
27はそのまま湾岸を降りたらしいが、Zは衝突で吹っ飛ばされ、側壁を越えて下の道路に落下したようだ。
そしてクルマは爆発炎上。
桜田はまだ見つかっていない…跡形も無く燃え尽きてしまったのか、それともまた隠れているのか…
警察は死亡したと見て捜査を進めているらしい。
「瞬佑…コレって…」
「ああ…桜田が本当に死んだのかは今んとこ誰にも分かんねーけど…ただ1つ分かることは…」
「…何?」
「これだけの事故が起きた。『MAXIMUM R』とバトルした時の事故もあるし…湾岸どころかもう首都高は走れねーだろうな…」
瞬佑のその言葉を最後に2人の口が開かれることは無かった。
そして沈黙のまま2人は帰路に着いた。

(あのZの残骸…俺もいつかこうなる可能性だってある…
俺ら走り屋のやっていることは…純然たる違法ストリートレースなんだからな…)

ー翌日ー
瞬佑は、事故現場に向かった。
Zは廃棄されたようだ。
もう残骸は無くなっているが、アスファルトに焼け跡がしっかりと残っている。
そしてその場にいたのは、27のドライバーと涼一だった。
「…瞬佑……桜田は…」
涼一は途中まで言ったが言葉を切った。
「何だよ」
「いや、なんでもない」
そして会話が途切れた時、27のドライバーが口を開いた。
「あんた、この前のFDのドライバーか?」
「…ああ」
一瞬間を開けた後、返事をした。
そして再び27のドライバーが話す。
「そうか…この前からずっと会って見たかったんだ。
俺は『伊東 祐介(いとう ゆうすけ)』だ。そっちは?」
「赤島 瞬佑だ」
「そうか…」
2人名を名乗ると、バトルの日取りの話を始める。
「バトルは…」
祐介がそう言うと…
「首都高はまず無理だな…峠か?」
瞬佑はそう言うが、
「…高速道路は首都高だけじゃねーぜ?俺が住んでいるところはクルマのナンバー見りゃ分かるだろ?」
「まさか…大阪環状線!?」
「いや、環状だけじゃない、湾岸線と堺線も走る。今週の土曜空いてるか?」
「午後8時以降ならかまわねーけど…」
「そうか、だったら土曜の10時に四つ橋JCT前で合流だ。
それ以上の詳細は現地で説明する、じゃあ、俺は都合あるから帰るな」
そういって祐介は帰っていった。
そして瞬佑と涼一はその場に残り数10分間の沈黙が流れた。
やっと話し出したと思った瞬佑が語った本心は…
「…涼一……」
「なんだ?」
「決めたよ、俺…今週の土曜日、阪神高速道路でのバトル…それが俺の最後のバトルだ!」
最後のバトル…それはイコール走り屋を辞めるという事である。
「降りるのか?この世界から…」
「ああ、ずっと吹っ切れない感じだったけど…やっと決心がついた。
いくら奇麗事で着飾っても所詮俺らのやっていることは単なる暴走行為だ。
こんな事続けてたらいつムショ暮らしになってもおかしくない…
それどころか下手したら桜田みたいになっちまうかもしれねー…
FDも手放す…
走り屋辞めてもFDがあったらまた同じ過ちを繰り返すかも知れねーからな…
今度のバトルで俺自身キッチリとケジメ付ける!」
瞬佑の決心に涼一は…
「分かったよ…そこまで本気なら…お前の人生だ、俺はウダウダ口出ししたりしねーよ…
次で最後なら俺は今までで最高の仕事をしてみせる!」
「頼んだぜ、涼一!」
「ああ!」
そしてこの会話が終わると2人は家に帰った。
瞬佑の最後のバトルまであと4日…
それぞれの思いを胸に、最終調整に入る。

ー翌日ー
この日は普通授業だ。
そして授業と授業の合間に瞬佑は柳斗を呼び出した。
「なんだよ、俺に用って…」
柳斗が質問すると、瞬佑が話を始めた。
*******************************
「!?…じゃあ…部活辞めんのか!?」
「ああ、またバカやんねーようにな…」
「そんな…勿体無いぜ、確かにストリートレースの世界から遠ざかるのは結構だけど…お前あんなすげぇドラテク持ってんじゃねーか!
プロレーサーを目指すとかは…」
「悪ぃけどさ川島…もう決めた事なんだ…
誰が何と言おうと…土曜日のバトルが最後だ、その先は無い…」
柳斗は少し黙り込んだが…
「分かったよ…勝ってくれよな、土曜のバトル」
「ああ、せめて最後くらいはカッコ良く締めくくってやるさ!」
キーンコーンカーンコーン…
チャイムが鳴り、2人は教室に戻った。

ー木曜日ー
「最後のバトルは目前だ!絶対に悔いは残さねーぞ!!」
FDのセッティングも大詰めだ。
箱根での実走セットも今日で終わり。
明日は実際に阪神高速に行きコースの下見も兼ねたセッティングをする予定だ。
ウォォォォォォ…ン!
バシュ!
快調に走っていく瞬佑…だが次の瞬間!
ピシュ!
ギャァァァァァァァァァァァ!!
どうって事の無い左ヘアピンでFDは突然スピンしてしまった。
「うわああああああああああああ!?」
必死にステア+アクセル&ブレーキ操作、更にシフトダウンをする瞬佑…そして…

「ふう…間一髪だった…」
FDはガードレールギリギリのところで停止した。
操作を始めるのがほんの少しでも遅れれば瞬佑はFDもろともガケ下行きだっただろう。
こういう世界なのだと瞬佑は改めて思い知った。
ハザードを点けて路肩で一休みする瞬佑…すると、Eg音が聞こえてくる。
「?クルマが1台…チューンされたEgの音だ…このサウンド…RB26か…」
ヴォォォン!
上がってきたのは優里のRだった。
「やっほー瞬佑〜」
「なんだお前かよ…」
「なんだは無いでしょ?折角こんなトコまで来てやったのに」
「ま、それもそうだな、ゴメン」
「いいよ別に♪」
(結局ご機嫌じゃねーか…)
口には出さなかったが正直そんなこと言いたかった瞬佑であった。
「頂上行くか?」
「頂上?別に構わないけど…」
こうして2台は頂上に向かった。
ー頂上ー
「星…綺麗だね」
普段滅多に来ない箱根の頂上…当然ここからの景色も滅多に見ない。
「そうだな…今時こんなハッキリ星が見えんのは珍しいよな」
その後少し会話が途切れたが、瞬佑は優里に聞きたかった事があったので聞いてみた。
「なあ優里…一つ聞きたい事があんだけど」
「何?」
「箱根まで来たのって何か訳があったんだろ?
俺が箱根でセットアップしてるのは涼一しか知らねー事だし…何か訳が無けりゃこんなとこまでこねーだろ…」
まさかそんなこと聞かれるとは思っていなかった優里は一瞬返答に困ったが…
「瞬佑が此処でクルマ仕上げてる事は涼一に聞いたの、電話で…」
「そんなもん言われなくたってわーってるよ…」
「その電話でもう一つ教えてもらったわ…瞬佑…走り屋辞めるの?」
瞬佑はそのことを聞かれるのは予想済みだったので返答に困る事は無かった。
「ああ、辞めるよ…こんなバカな事すんのはもう止めにしようと思ってな…その思いを決定的にしたのは…お前も知っているだろ?
…桜田の事故だ。
俺らがアイツみたいになる可能性は0じゃない…それどころかそうなる確立の方が高い…分かるか?」
「…うん…」
ヒュゥゥゥ…
風が一瞬強くなった。
そして、それっきり会話も無いまま、2人は自分のクルマの中で寝た。

…午前2時、瞬佑が起きた。
優里は熟睡している。
そして、何かを取り出した。
「何も無しに行くのは流石に可哀相だからな…」

ー朝ー
6時に優里が目覚めた。
「…ん〜…あっ!?FDが無い!逃げられた〜!」
優里は少し落ち込んだが…
「ん?なんだろこの紙…」
クルマから出てきた優里は、ワイパーに挟んであった紙を開いた。
「瞬佑の字だ…」
どうやら2時に瞬佑が残した書置きのようだ。
「!?瞬佑…」
『土曜日のバトル、コースは阪神高速道路に決まった。
俺の他にも、涼一と剛さんがあっちに行く。
その時のバトルにお前も来るか?
バトルまで時間が無い。
俺は今日、涼一と阪神に行く。今日中に決めてくれ。  赤島 瞬佑』

ー学校ー
瞬佑は屋上の給水塔に居た。
購買部で買った雑誌を読んでいる。
「…いよいよ明日で終わり…か…川島にも言われたからな…絶対に悔いだけは残さねーように…!!」
キーンコーンカーンコーン…
「…台無しだ……」
瞬佑は急いで教室に戻ったが、無論間に合わなかった。

キーンコーンカーンコーン…
授業終了のチャイムが鳴った。
授業に遅れた瞬佑は当然先生にコッテリ絞られた。
「あっはっは!よりによって小テストん時に遅れるたぁ災難だったな!」
「全くだコノヤロー笑ってんじゃねー(怒)」
**********************************
「ところでさ涼一」
「何だ?」
「今日部活あったか?」
「いや、川島が免許取り行くとかで今日は休みだ」
「懲りねーな、アイツも(笑)」
「だよな〜」
少し呑気な会話をする2人。
「…そういえばさ…卒業した後ってどうすんだろな」
瞬佑はやぶからぼうに聞いてみた。
「そうか…今11月だから…もう4ヶ月もねーよな…学校来るのって…冬休みもやることねーし…
卒業後か…進学は考えてねーけど」
「やっぱ進学はねーよな」
「俺はショップを継ぐつもりだ」
「俺は…今バイトしてるファミレスで正式に働く事にするよ」
その後は沈黙が終わらぬうちに昼休みが終わった。
授業が終わり、1度家に帰り、そしてすぐクルマに乗って関西に向かった。
ヒュィィィィィィ…
「なあ、まだか?」
通話状態にした携帯で瞬佑は涼一に聞いた。
「そろそろ着くぞ」

阪神高速に到着した。
2人は1度高速を降り、バトル開始の4つ橋JCTから再び入った。
「…此処が大阪環状か…同じ『環状線』でもC1(C2)とは全然違うな…」
瞬佑は慣れない道路に正直な感想を言った。
首都高環状が狭くツイスティな道路であるのに対し、大阪環状はロングストレート→直角コーナーの繰り返し(厳密に言えば直角でないコーナーもあるが)で、道幅も広い。
「…ロングストレートで速度が乗るだけに此処のコーナーへの進入はちょっとした難所だな…地元は慣れてるからそーでも無いんだろうけどな…」
涼一もこの慣れないコースに苦戦しているようだ。
そして高速を降り休憩。
「難しいコースだな…」
涼一に言うが…
「難しいっつーか慣れの問題だろ?そんな事言ったらこっちの人にとっちゃC1も難しいんじゃねーの?」
こう返された。
「ま、それもそうか」
もう夜になっていた。
12時を回ればもう決戦当日である。
ゴォォォォォォ…
大通りに流れるエンジン音…
クルマから降りればかなり速い速度で走っているように見えるが、自分達はいつもこの3倍以上の速度で走っている。
「やっぱ俺ら…スゲー事してんだな」
「ああ…」
こんな会話を続ける2人だが重要な事を思い出した。
「そういえばさ…俺ら今夜どーすんの?」
涼一に問いかける瞬佑…
「どーするって…キャンプ的な事とか…野外で食料を調達したりとか…」
「…要するに野宿って事か…?」
「まあ簡単に言えば…な…」
『失敗したー!!!!!!!!!!!!金くらいガソリン代以外にも持ってくるんだったー!!!!!!!!!!!!!!!!』
自分達の大失敗に大声で叫ぶ2人であった。

ー第9話に続くー

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