クラッシュバンディクー トレインレーサーズ 1st STEAGE
ふぇにーちぇさん作
第19話
翌日 AM1:00
2回戦と同じように、4つの列車が並ぶ。103、HK100、大鑓のE3、千里丘の681系。クラッシュが運転台に座り、列車の調子をチェックしていたら、ふぇにーちぇがやってきた。クラッシュに話があるらしい。
ふぇにーちぇ「いいかい、クラッシュ君。」
クラッシュ「いいよ。」
ふぇにーちぇ「相手は俺の知っている限り、相当の強敵だ。今までのイメージは捨てるんだ。それと・・・」
ふぇにーちぇは運転台に押し入り、持って来た工具を取り出すと、あるボタンをいじり出した。柄沢が押せなくてぶち切れたあのボタンだ。どうやら今度はボタンが2つに増えたようだ。
ふぇにーちぇ「いま、この列車の封印を解いた。今までの2倍以上の戦力があるだろう。このタイミングでやるのは本来良くないそうなんだが、ここであいつらと当たるなら仕方がない。うまく使えよ。
それから・・・裏切られるんじゃないぞ。」
正直言ってもっと具体的なアドバイスが欲しかったのだが、戦力がアップしたのでお相子だ。ココにでも聞いてみよう。
ココ「お兄ちゃん!」
クラッシュ「うわぁ!!いつの間に!?」
ココ「あいつら、すごく強いわよ。『白銀の龍』の大鑓と、『闇夜の暗殺者』の千里丘よ。どちらもすごいチューニングで、未だに負けたことがないんだって。」
アクアク「なにか、このコースの攻略とか、相手の癖とかはないのかのう。」
ココ「ごめん。その人たちのデータが少なすぎて、弱点が分からないの。」
これは困った。勝てないかもしれない。ココとアクアクが落胆しているが、クラッシュは、そうでもないんじゃない。と言う表情しか出来なかった。
赤渕「いよいよですね。大鑓先輩。」
大鑓「言っとくけど、あんましいい結果期待しないでよ。」
赤渕「何故ですか?681系はともかく、103とHK100ですよ。どう考えても・・・」
大鑓「お前には見えんのか。特に103から・・・勇気の塊みたいなオーラが!」
千里丘(予選のときには分からなかったが、この103、速い。俺にはないような何かがあいつにはある!!)
最終決戦に向けて、ふぇにーちぇがカウントを取る。
ふぇにーちぇ「それではいいですか?カウント行きます!5,4,3,2,1、GO!!」
4両は一斉にスタートした。HK100,103、E3,681,と続く。クラッシュは103系の加速に違和感を感じていた。今まではスタートでかなりの遅れをとっていた。しかし、今はスタートで頭を取っている。
クラッシュ「変だな。今までどおりの加速なのに、相手がオイラより遅れている。何で?」
ココ「相手は一歩引いて、こちらの様子を見ようってわけね。そんな余裕、すぐに消して見せるわ!」
ココは操作パネルの赤いスイッチを押した。液晶画面に
『ハイブースト ON』
と言う文字が現れた。
ココ「この列車のハイブーストを甘く見ないでよ。なんてったって、5分それが続くんだから。」
HK100は加速度が増し、一気に3両を突き放した。東神奈川までで一気に150キロを記録。その後、コーナーを複線ドリフトでクリア。後ろに車両は見えなくなっていた。
大鑓「ほお。ようやるな。あの子。いきなりハイブーストか。ちんたらしてられんな。」
大鑓はマスコンのノッチをフルに入れて、103と681から離れた。一気に150キロをオーバーし、新幹線の真骨頂、200キロオーバーのスピードに持っていく。距離の長いS字をやはり複線ドリフトでクリア。
実況「ここで早くも2両が本気モードに!後ろの2両は・・・おっと、681が前に出た。さすがに新幹線相手にするには本気モードじゃないときついかぁ!」
千里丘「少しついていくのに速度が必要になっただけだ。」
千里丘は品川からの低速区間で勝負に出る予定のようだ。
E3系は、とっくにココのHK100系を射程距離に捕らえていた。2両ともあらゆるコーナーを複線ドリフトでクリアしている。
大鑓「逃がさんぞ。鉄道の世界では、どんな路線でも新幹線が速いって事を見せてやるよ。」
ココ「くっ・・・。さすがに新幹線の速さは伊達じゃない!抜かれる!!」
新子安から鶴見でのストレートで、E3系が前に出た。最高速度でのバトルになると、HK100は断然不利だ。200キロオーバーの速度に対応できるようには出来ていないからだ。
もしそんな速度に放り込んだら、間違いなくボディがゆがむ。ゆがんだボディは不規則に動き、乗り手を裏切ったかのように逆らう。最悪の場合、脱線してドカン。だ。
にもかかわらず、ココはHK100をその速度に持っていく。そうでもしないと追いつくことすら出来ないからだ。
ココの後ろにさらに列車が追いついてきた。681系だ。設計最高速度200キロ。在来線最強の列車だ。別名『鉄路のGT−R』!
681にも抜かれ、ココの精神は追い詰められていた。
千里丘(無駄だ。そんな車両でこの高速区間は走れない。2回戦でよくそこまでやれたとほめたいくらいだ。だがお前はもう終わりだ。あきらめろ。)
追い詰められた精神はミスを生む。ミスによりさらに追い詰められてまたミスる。ココはドリフトに失敗。上手く線路に引っ掛けられずに、バラストと呼ばれる砂利に車輪がはまり大きく減速。さらに差は開く。
千里丘(まだやるのか。馬鹿なやつだ。何故そこまで熱くなる。それ以上やるとお前は事故るぞ。)
再び加速したHK100。加速では681に勝っている。そのまま追いつき、そして抜いた。そして鶴見駅を通過。
ココ「やった!後はあの新幹線だけね!」
鶴見川鉄橋のコーナーをドリフトでクリア。そのまま差を広げるかと思ったその矢先、681が再び追い上げてきた。ハイブーストを掛けている。
千里丘(俺はわざとお前を前に行かせたんだ。ここでもう一度追い抜いてこれ以上は危険だとわからせてやらないと・・・)
川崎まで続く長いストレートで、再び681は前に出た。
千里丘(これ以上は危険すぎるんだ。そのボディから聞こえる悲鳴が聞こえないのか。)
――お前は死んではならない。この先の戦いのためにも。――
ココ「また抜かれた!!これ以上飛ばしたらボディが持たない!」
ココはゆっくりとマスコンを戻し、ハイブーストをきった。
ココ・バンディクー HK100系 失速――
ココ《お兄ちゃん、今無線で連絡してるんだけど聞こえる?私はもうリタイアしたわ。お兄ちゃん。後は頼んだわよ。》
クラッシュはその言葉を聴いて、ふぇにーちぇが取り付けた赤いボタンを押した。近くの赤いランプが点灯した。『スーパーチャージャー作動』と書かれている。クラッシュの103は加速度が一気に増した。
クラッシュ「よーし。これで追いつけるぞ!ココの分までやってやるぜ!」
先頭はE3系が独走。その後ろに681、さらに後ろに103と続く。200キロに突入した103系。クラッシュはさらに、もう一つの赤いボタンを押した。『0系モーター作動』と書かれている。200キロで止まっていた加速はそこから息を吹き返し、210,215と見たこともないスピード領域に入っていった。
千里丘(追いついてきた。まさかまだやる気か?違う。HK100ではない。じゃあ何だ。あの103か?)
車種を確認しようと、サイドミラーを覗こうとしたが、千里丘はすぐに前を向いた。ノッチを全開にしたまま、ハイブーストのスイッチを入れた。パンタグラフと架線の間に大量の火花が散る。前から後ろにものすごいGが掛かる。速度計は220キロを示している。何とそれでもクラッシュの103はやすやすと681を抜いた。
千里丘(馬鹿な!このスピードより速いスピードで走っているのか!?ふ。良いだろう。あのE3系よりも興味深い。そして、俺の求めているものだ。お前は。)
千里丘はハイブーストのボタンをすばやく2回押した。ビー、という警報音が鳴り、スクランブルブーストが入った。緑と白の閃光が多摩川を通過、左コーナーを複線ドリフトでクリア。蒲田、大森と続くストレートで最高速を記録する!!
230・・・235・・・240・・・
数キロに渡るストレート。火花を通り越し、炎を上げるパンタグラフ。切り裂かれる空気。
250・・・255・・・258・・・
両車両ともに加速がたれてきた。もう限界か。沸き立つ観衆、悲鳴を上げるモーター・ボディ、計り知れないGに耐えるドライバー。
260・・・263・・・265・・・
E3系が見えてきた。モーターを温存する走りをしていたようだが、そんな生温い走りは今は許されない。3両が250キロオーバーで蒲田駅を通過。
268・・・270・・・272・・・・・・
品川駅で怪しい列車が3両止まっている。コルテックス達の物のようだ。
コルテックス「ほう。こんな途方もないスピードを出しておるのか。怖い怖い。」
エヌジン「コルテックス殿。3両のメンテが終わりました。ドライバーは誰にするのですか。」
コルテックス「ふむ。そうだな。リパールー、それからタイニー。あとは、コアラコングだ。まずは、お手並み拝見と行こうかね。クラッシュ。」
285・・・287・・・289・・・
その加速の中で、すべては止まる。
291・・・293・・・295・・・
流れ行く景色は、色を混ぜ合わせた絵の具のように、一色しかなくなった。
297・・・299・・・300!!
ガッシャーーン!!!!!!
681のモーターがクラッシュした。炎を上げ、どす黒い煙を上げながら、その車両は最期を告げる。
千里丘(ちっ。ここで終わりか。俺をミスらせて殺してくれるくらいすごいバトルだった。だが、俺は死ねなかった。)
――俺に死ぬなといっているのか――
千里丘 四条 681系 リタイア――
大森を通過したのは103系とE3系の2両だ。大森直後の左コーナー。このスピードだとこのコーナーはドリフトしてもきつそうだ。
両車両、ぎりぎりまで踏み込み、一気に非常ブレーキを掛ける。
クラッシュはやはり複線ドリフト。対するE3系は・・・
実況「おーっと!E3系、右コーナーなのに左に向いている!」
大鑓は、ふっ、とため息をつき、一気に車体を右に向けた。
実況「そうきたか!これは『フェイントモーション』です!」
解説「振り子の原理を利用して、わざと右に向ける。その状態で左に向ければ、普通の複線ドリフトよりも速くコーナーには入れるんです。大鑓選手はプロのドライバーですから、こういうことは朝飯前でしょう。」
クラッシュの103系は突込みが早すぎて、上手く内側の線路に車輪が引っかからない。バラストを砕き、大きく減速!
実況「あーっ!クラッシュ選手、『アンダーステア』です・・・!」
解説「これは、やってしまいましたね。この速度でアンダーを出してしまうと、回復がすごく難しいんですよ。コーナーを立ち上がったときに、大きく減速して、その先のストレートで加速がもたつくんです。」
大鑓「残念だ。君は経験不足だ。最近やっと複線ドリフトを覚えたばかりだろう。そんな薄っぺらい経験じゃあプロには勝てない。君は確かにすごい。才能があるなんていうやつもいる。でもな・・・」
――努力と経験をひっくり返してしまうようなものはこの世にはない。――
大鑓「結局は努力と経験だ。それに勝る上達方法などありはしない。」
E3と103系との差はどんどん広がっていった。品川までコーナーらしいコーナーはほとんどない。差は広がる一方かと思われた。
急に観客が沸いてきた。
大鑓(一体なんだ?あの103にそこまでの加速性能があるとは思えない。)
E3系のバックミラーに一点の光が見えた。間違いない。103系だ。スクランブルブーストを掛け最期の追い込みに入っているのか。
大鑓(そうきたか。ならこっちだって、スクランブルブーストが残ってるんだ。使えば品川までに350キロオーバーにまで持ち込める!
その先は低速区間といっているが、正直言うと品川から田町まではストレートに近い。コーナーらしいコーナーはない。一気に突き放すぜ!)
E3系はスクランブルブーストを掛けた。103との距離が一気に離れる。
大井町を通過。品川手前のコーナーまで2キロはある。E3は加速がへたれる様子を見せない。ここまでか・・・
E3系が品川手前のコーナーに入る。時速360キロ。一気に非常ブレーキでドリフトに入る。そのとき!!!!
大鑓「!!!」
一羽のカラスが線路上に舞い降りた。危険を回避するため、大鑓は車体を元に戻した。その結果、オーバースピードで突っ込んだ車体は大きく減速。103系に道を譲ってしまった。同時にスクランブルブースとは解除。
大鑓「嘘・・・だろ・・・。」
こういった大きな勝負は偶然で決まり、そしてあっけなく終わってしまう。運も実力の内。という言葉の通りに。
――あの子らにはそういう運を手にする何かがあったんだ――
大鑓「努力と経験だけじゃあどうしようもない時があるのか。負けた時の方が得るものが多いって本当だな。追いつけそうにない。」
大鑓 銀 E3系 失速――
実況「だぁーーーー!!!E3系失速!!クラッシュ選手の103系が勝・・・あれ?」
品川駅から発車する1両の列車。灰色をした特急型列車。787系だ。ドライバーはコアラコング。懐かしい!
実況「乱入者だ!!このタイミングで乱入です!クラッシュ選手は・・・!」
クラッシュは速度を緩めない。バトルする意思を示した。
実況「クラッシュ選手、減速せず!!バトルは続行です!!」
クラッシュはスクランブルブーストをとめた。ここからはコーナーの多い山手線。スピードが無駄に乗ると、コーナーで曲がれなくなる。0系モーターもオフにした。
ここからは103系モーター・スーパーチャージャー装備の状態で戦う。
品川駅で、ひっそりとコルテックスが無線で誰かとやり取りしている。
コルテックス「リパールー、タイニー。今おぬしらはどこだ。」
タイニー《東京駅。言われたとおり、ここで待機してる。》
リパールー《アチキは御茶ノ水駅だにょ〜ん。》
コルテックス「いいか、わしが合図をするまでそこを動いてはならん。いいな。」
タイニー《了解!タイニーがんばる!》
リパールー《りょ〜かいだにょ〜》
コルテックスが無線を切った。コルテックスはエヌジンのほうを向いて言った。
コルテックス「しかしエヌジン。考えたな。3両で時間差でバトルをするとは。」
エヌジン「さすがに長い距離を全開で走っていると、ドライバー、車両共にかなりの負担が掛かります。そこを突いたわけです。このコンピューターの計算だと、コアラコングに続く、タイニーの辺りで十分勝てます。」
コルテックス「東京の辺りで、クラッシュに勝てるのか?」
エヌジン「ええ。間違いなく。」
バトルはクラッシュのほうが勝っていた。クラッシュに比べ、実践での鉄道バトルの経験が少ないコアラコング。ライバルが居るのと居ないのとでは、見える景色、プレッシャーの掛かり方などが違う。それらが作用し、時として成功に、時として失敗に、時として奇跡を生み出す。
経験不足なコアラコングは、離れて行く103系とのプレッシャーに押し潰され、ミスを繰り返す。
有楽町駅
ディンゴダイル「コルテックスの旦那。こちらディンゴダイル。来ましたぜ。103系が頭です!」
コルテックス《分かった。タイニーに合図を出す。》
合図を受けたタイニーは東京駅を出発。60キロで走り、クラッシュが追いつくのを待つ。
東京駅に到着したクラッシュ。しかし、前にはさらに別の車両。タイニーの名鉄8500系だ。
クラッシュ「げ!まだあるの!?」
実況「おーーーーっと!!!また待ち伏せです。787系は失速!!次は名鉄の8500系です!」
解説「これ以上は無理です。車輪が線路に食いつかない。一歩間違えれば即、脱線ですよ!」
もう止められない。火のついたクラッシュの闘争心。タイニーの8500に追いつき、そして抜く。
コルテックス「エヌジン。もうあれは作動しているのか?」
エヌジン「はい。クラッシュはそのまま中央線へ。クラッシュの初見のコースです。まともに走れるわけがありません。」
コルテックスたちの目論見どおり、列車は中央線に入った。だらだらと続く左コーナーその先は御茶ノ水駅。そう、リパールーが待ち構えている。
コルテックス「タイニー。今お前はどこだ。」
タイニー《タイニー、今、中央線に入ったとこ。》
コルテックスは無線でリパールーに合図を出した。リパールーの列車は60キロまで加速し、クラッシュを迎え撃つ準備をした。
実況「列車は中央線に迷い込んでしまいました。ん?今、情報が入りました。御茶ノ水駅にて不審な車両が出発したとの事です。」
解説「3両、時間差で相手を追い詰めるというやり方ですね。昔、とあるチームが使っていた戦法です。クラッシュ選手の103系、非常にマズイ展開ですよ。あちこちに不調が出始めているはずです。」
クラッシュは、103系の挙動に不調が出始めているのを感じ取っていた。車輪が線路に食いつかず、ところどころで脱線を繰り返している。さらに、モーターが熱ダレを起こして、加速がもたついてきている。最悪の状況だ。
旧万世橋駅、交通博物館というのがあったあのコーナーを通過し、御茶ノ水駅を通過。その先に一両の列車。京急2100系。リパールーの車両だ。
リパールー「アチキの速さについて来れるかにょ〜。」
クラッシュ「くぅ・・・!汚いぞ!コルテックスたちめ!」
御茶ノ水直後の左コーナー。クラッシュは速度をつけすぎ、アンダーステアを発生。線路に車輪を引っ掛けられず失速。2両に大きく突き離される。
続く右コーナーに差し掛かったとき、クラッシュは0系モーターを再びオンにし、スクランブルブーストを掛け、最期の賭けに出る。
落ちた速度はたちまち回復し、大きく離れた車間は見る見る縮まってきた。
右コーナーが終わり、その先は1キロほどのロングストレート。103系は速度が乗ってきた。わずかな距離で150キロをオーバー。あっという間に2両を追い抜いた。
追い抜いてすぐに、中央線で一番きつい左コーナーが現れた。クラッシュは早いタイミングで車体をコーナーの内側へ向けた。見事に車輪は引っかかり、鮮やかな複線ドリフトを見せ付けた。
あまりの速さに圧倒され、タイニーはドリフトをすることを忘れてしまった。外側に脱線した車両はリパールーの車両を巻き込み、共倒れの状況となってしまった。
タイニータイガー 名鉄8500系
リパールー 京急2100系 共に脱線――
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