ツンデレラ


空鈴さん作

昔々とあるお国にそれはそれはもう可愛らしい女の子がおりました。

彼女の名は「ニーナ」。

心優しくて素直なニーナはとても優しい両親の愛情をいっぱいに受け、また裕福な家でとても幸せに暮らしておりました。

彼女自身も「自分はきっと世界で一番幸せな女の子なんだろう」と思っておりました。

しかし、幸せというものはいつまでも長く続くものとは限りません。

両親が彼女の幼少の頃から我が子可愛さのあまり望む物をあまりにも与えすぎてしまったせいか、成長するにつれて自分の家がとても裕福な家だと自覚していったニーナは家の財産を湯水の如く使っていき挙句の果てには破産、仕舞いには彼女の叔父である「コルテックス」の影響を強く受け悪の道こそ「ゴーイングマイウェイ」我が進む道という観念を抱くようになってしまいました。

素直だった性格はいつしか自分の感情を素直に表すことの出来ない、暇さえあれば世界を破滅に叩き込む計画を考えるといった非行に走るどころの騒ぎではないとんでもない性格になってしまい、心優しかった両親は泣きながら(勿論悲しみの涙ではなく「もう勘弁してくれ」の意味の涙)彼女を叔父であるコルテックスの所へ託すことになったのです。

当然、可愛かった我が子を預けるとき両親は娘を豹変させた張本人であるコルテックスをフルボッコにしたということは言うまでもありません。

しかし、コルテックスの家はニーナのいた家と比べて裕福な家ではなくむしろ貧乏な家でした。

家主のコルテックスが家の財産を全て研究資金やら大好きなメグミちゃんグッズへと変えていったからです(割合で言うと研究資金が2に対してメグミちゃんグッズが8)。

いつしかニーナは「灰被り」という意味の「シンデレラ」と彼女の素直じゃない性格(俗に「ツンデレ」という)をかけて「ツンデレラ」と呼ばれるようになっておりました(主に彼女が苛めて泣かせた相手から)。

さてさてニーナもといツンデレラは今日も元気に何やら悪巧みをしております。


「あーあ。今日も世界が平和でつまらなーい。早く来たるハルマゲドンが起きて世界が暗黒と絶望と憎しみで染まればいいのにー」


最早救いようのない絶望的な性格になっていました。


「おぉ…可愛い可愛いめっちゃ可愛いギガントカワユステラモエハァハァなワシのニーナ」


流石ニーナの今の性格の元凶となった人物だけあってコルテックスも絶望的な性格でした。

「キモいよジジィ。あたいの崇高なる名前を気安く呼んでんじゃねーよ。用件あるならさっさと言いやがれ馬鹿」

「あぁん、そんな悪いこと言ったら…オ★シ★オ★キ★しちゃう・ゾ〜??」


と、言いつつコルテックスは恍惚とした笑みを浮かべながらニーナの頬を「ツン★」と人差し指で軽くつつきました。

実を言うとコルテックスは可愛いニーナに対してはこれまでかと言わんばかりのMっ気になるという困った性癖の持ち主でした。

当然、ニーナからはゴキブリを見るような目で見下され「死ね!!!!」とまで言われフルボッコにされていました。

三途の川を渡りそうになりながらも嬉しそうに微笑みながら殴られ続ける様は流石でした。


「あれ…、叔父さん何を言おうとしてたんだろ。言おうとする前に息の根を止めちゃったから」

「ぁ、ニーナ殿」


すると後から機械の混じったような独特の声が聞こえてきました。

呼ばれた方向に首を向けるとそこにはコルテックスの助手である「エヌ・ジン」が立っていました。

エヌ・ジンは頭にミサイルが突き刺さっており顔の半分が機械になっていると言う奇怪な風貌でしたが(駄洒落ではありません)コルテックスの変態さに比べれば全ッッッ然マシなのでニーナは特に気にしておりません。


「…なに?用があるなら手短に済ませてくんない?あたいはアンタに貴重な時間をくれてやる程暇じゃないんだから。四十文字以内に述べないとアンタのミサイル引っこ抜いて一回りでかくて滅茶苦茶先が尖った別のミサイルぶっ刺すよ」


相変わらず生意気なクソガキです。

しかし、エヌ・ジンは特に怒るわけでもなく淡々と述べました。

「王子の花嫁選びの舞踏会の招待状が来ておりご出席をとのことです…ぁ、やべぇ一文字多かった」

「『ぁ、やべぇ一文字多かった』も入れると十四文字オーバーな。さらばだ」


必要な処置だけを済ませてニーナはエヌ・ジンに別れを言うとさっさと自室に行ってしまいました。

一国の王子の花嫁になればまた以前のような…否それ以上の贅沢三昧の生活ができると考えましたがニーナは「人を愛する」と言う気持ちを忘れてしまったためあまり乗り気ではありませんでしたが金欲が先走っていそいそと身支度をしようとしましたが肝心のドレスがありません。

以前お気に入りのクローゼットの中に大切に仕舞ってあったはずなのですがドレスは忽然と消えています。

叔父であるコルテックスがこっそり持ち出してちゃっかり着ているということなどニーナは知らずに「きっと飽きたから捨てちゃったんだ」と思いましたがドレスがなくては肝心の舞踏会に行けません。

豪華と名高い洋服屋へ行き店主を脅して一着盗んでこようかしらという悪い考えを思いつき、ニーナは外へと出ました。

扉を開けて外へ出たとき、眩い光が辺り一帯を照らし出しました。

驚いたニーナは咄嗟に腕で顔を隠しました。

暫く経って光が消えたとき、ニーナは恐る恐る腕をどけました。

するといつの間に現れたのでしょうか赤い邪悪な光を帯びた黒い仮面が浮いていたのです。


「可愛そうなツンデレラ。この私が貴方に最高級のドレスを差し上げましょう」

「けっ警察ですかストーカーです!!見知らぬ不細工な仮面がいきなりおしかけてきて…あたいがさっき何をしたかも把握してるんです!!怖い!(『青春ばくはつ劇場』より)」

「せち辛い世の中になったもんだ」

「てかテメェ今あたいのこと『ツンデレラ』っつったな」

「く…苦しい苦しい。お願いだから仮面を握り潰さないで」

「はン、テメェさっさと用件済ませよ。少しくらい時間をくれてやる。べ…別にドレスを貰えるからって嬉しいわけじゃないんだからね!!?」

「(デレた…)可愛い可愛いツンデr…じゃなくてニーナ。貴方に暗黒と絶望と憎しみの力により生み出したこの『呪われた漆黒のドレス』を授けますシャランラ〜★」

「ちっとも嬉しくねぇ!!…でもなかなかいいドレスじゃない。これで城の財sゲフンゲフン王子のハァトはあたいのモンだ!!待ってろ王子ィィィ!!!」


がはははと威勢の良い笑い声をその場に残しながらニーナは勇ましく城へと走っていきました。

魔法使いもとい不細工な仮面は「十二時になったら魔法が解けるヨ…って言おうと思ったけどムカツククソガキだから言わんでいいや」と頭の隅で考えながら消えてしまいました。

その頃城ではこの国の王子様である「クラッシュ・バンディクー」が「何故なんだああ」と泣き喚いていました。

一国の王子が何故バンディクーなのかと言う疑問はここでしてはいけません。


「国中の年頃のピチピチのネェちゃんたちに招待状を出したのに…何で不細工しか来ないんだよ畜生!!!」

「王子…そんな堂々と言うのはちょっと」

「うっ、うっ、おいらの『カワイコちゃんに囲まれてハーレム三昧』計画があ」

側近のアクアクは呆れ返ってしまって出る言葉もありません。

否、呆れ返ってこの国の滅亡を想像してしまいました。


「あ、王子少しはまともな少女がこちらに向かって猛ダッシュしております!」

「な、なんだか色々と聞こえちゃまずい破壊音も聞こえるんだけど」


ニーナが王子の下へと大暴走した後には無残になった城の柱やインテリアの残骸が残されておりました。

猛直進する彼女の様子は最早求婚者ではなく破壊神の化身でした。


「(…はっ、何あのもこもこの可愛い物体!?すっげぇ好み!!)べ…別にアンタの花嫁になりたくてわざわざこんな所に来たわけじゃないんだからね!!」


ニーナの好みは人と随分とずれておりました。


「じゃあ何でそんな格好してこんな所にいるんだよ!や…、やめろこっちに来るな!!お前何だか怖いよ!!」

「一国の王子にして超大金持ち…最高級のもこふわ…イーヒヒヒアンタはあたいの花婿になる運命なのだあああ!!!」


この時、王子の目にはニーナがマウンテンゴリラのように見えました。


「きゃああああっっ!!!アクアク助けて!!!ゴリラみたいな女の子が襲い掛かってくるううう!!!」

「さようなら王子お元気で」

「ちょ…何あっさり見捨てようとしちゃってんの!?いたいけな主人公が襲われているときにその身を呈して守るのがアンタの役目だろーが!!!宿命から背を逸らしてんじゃねーよ!!!…ぐえええええ!!!肺が…肺が潰れる…っ」

「ンもうっvその鶏の首を絞め殺したような声も可愛すぎっっ!!決めた!!あたいアンタのお嫁さんになるまで絶対に離れない〜vv」

「分かった…分かったから離してぇぇ!!!」


結局、時が十二時を刻む前にニーナは王子と結ばれ(一方的に)その日の内から城に住み込むようになりました(一方的に)。

そのためガラスの靴やら何やらも必要なくなりニーナは王子の寄生虫の如く今日も彼の背中にへばりついています。

一方、十二時になると魔法が解けることを敢えて言わなかった魔法使いは憎たらしいニーナがその時刻になって「キャア、魔法が解けちゃったイヤン★」とニーナが恥をかくと言うのを想像してほくそ笑んでいたため、予想外の展開に地団太を踏んでいたというのはまた別の話。

また、ニーナに叔父さんのことを訊いても「なあにそれ?おいしいの?」と汚れのない純粋な目で返されるそうです。

非行に走り世界の破滅ばかりを考えていた邪悪な少女を救った魔法――それ即ち「愛」という魔法。

しかしその魔法はそれなりの代償が必要とされており王子は彼女に命を蝕まれ日に日に痩せ細っていっているそうな。

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