ワルワルスクールデイズ


伝説のスーパーロングジャンプさん作

第12章

クロックは死体に近づいていった。死体は木造の床に血を染み込ませながら、仰向けに倒れていた。胴体には深い切り傷が×印のように刻み込まれており、何とも痛々しい。
クロック「とりあえず、先生達に報告するんだ」
アテナ「私が行ってくる」
アテナは小走りでもと来た道を戻っていく。シクラメンは困惑気味に死体とクロックを交互に見つめる。クロックはいたって冷静に死体の様子を観察している。まず
クロックが思ったことは、本当に死んでいるのか?ということだった。確かに切り傷は相当深かったが、心臓を狙っていたわけではないようだった。ただ、両の肺の位置
にはしっかりと命中しており、あばら骨ごと切り裂かれている感じがした。相当に鋭い刃物で切り裂かれたに違いない。この状態では呼吸はままならない。が、かといって
もう既に死んでいるとは断定しがたい。もしさっき聞こえた音がこの生徒の被害に関係しているとすれば、この傷を負ったのはつい先ほどの事で、意識こそないがむしろ
まだ生きている可能性の方が高いはずだ。だが、かなり危険な状況であることには変わりない。クロック達は何の道具も持ち合わせていないし、時間もない。
シクラメン「これって・・・」
まずシクラメンが思ったことは、犯人はまだこの近くにいるのではないか?ということだった。もしあの音がニーナの言っていた音だとすれば、この生徒を殺したのは
同一人物で、無差別に殺人の対象を決めている可能性が高いはずだ。シクラメンは辺りを見回してみる。あの音はもう聞こえてこないし、人の気配も特に感じられ
なかった。

やがて、教師達を連れてきたアテナが図書室に戻ってきた。やって来たのは校長とクレア、マルクの3人だった。
アンバリー「様子はどう?」
クレアはその生徒を見て愕然とした。何とその生徒は、生物科学6年生のケンだったのだ。
クレア「・・・この子、まだ死んでないわ!」
アンバリー「何ですって!?」
クロック「やっぱりか・・・」
クレア「とにかく、急いで手術をしないと」
こうして、ケンはクレアの実験室まで運ばれた。あとは、ここの医療技術で彼が息を吹き返すことを祈るばかりだ。
マルク「君達ももう寮に戻りなさい。ここは危険だ」
アンバリー「これは・・・最も恐れていたシナリオかもしれないわ」
いつになく深刻な表情を浮かべる校長の様子からも、クロック達は嫌な予感を感じ取れた。
アンバリー「マルク先生、今から緊急教員会議を開くわ。学校関係者をできるだけ集めてちょうだい。今すぐよ」
午後6時、いつもなら見回りを始めるマルク・ミノワールもこの日ばかりは会議に出席していた。ケンの手術を行っているクレアや保健室の教員以外はほとんどが揃って
いる。そこへ、アンバリー校長が神妙な面持ちで会議室に入ってきた。普段の会議ではやたらと陽気な「ごきげんよう」の挨拶と同時に入ってくるので、教師達は
その時点で動揺し始めている。
アンバリー「さて、皆さんを呼んだのは他でもありません。例の殺人事件についてです」
動揺が更に広がる。教師達の嫌な予感ははちきれんばかりだ。
アンバリー「実は、先ほど図書室で被害にあったと思われる生徒を発見しました」
その場にいる者達は誰一人として返す言葉が見つからない。ただアンバリーの話を聞いていることしかできなかった。
アンバリー「幸い彼はまだ一命を取り留める可能性が残っており、クレアちゃんが今手術に当たっているわ」
その時、突然会議室の扉が開いた。
ワット「すいませーん。遅れましたー」
全く緊張感のない挨拶をしながら入ってきたのは、ボイラー室管理人ワット・サぺルだった。こんな状況でも平気で遅れてくるワットに対して、教員達は一斉にため息を
つき、手で両眼を覆う者までいた。校長はよくもこんな人を採用したものだと、感心してしまうほどだ。ワットはそんな雰囲気をやはりものともせずに堂々と空席に
腰かけた。流石の校長も一度ため息をついてから説明を続けた。
アンバリー「とにかく、一昨日に殺人が起きてから今日になって2人目の被害者が現れた。正直、私もこうも早く2人目の被害者が出てくるとは思わなかったわ」
マルク「これでまず間違いなく犯人は愉快犯だ。そうなると、今後も犠牲者が増えていく可能性が高い」
アンバリー「それは恐れていた事態ではあるけれど、想定していた事でもあるわ。問題はそれだけじゃないのよ」
教師達は、まだ厄介な事があるのか、と顔色を青ざめさせている。
アンバリー「1人目の殺害現場は立ち入り禁止の地下倉庫内だった。そして、今回の殺害現場は図書室なのよ」
ムート「それは・・・何を意味しているんですか?」
比較的アンバリーの近くの席にいたムートが尋ねた。
アンバリー「最近、生徒達の間で地下倉庫の噂が流行っているのは知ってるでしょ?だから、次も地下倉庫で事件が起きるのかと思っていたのよ。ところが、その外の
図書室でそれは起きた。犯人の犯行現場が広がっている気がするのよ」
セドリック「あの噂とは、関係なかったってことですか・・・?」
アンバリー「どうかしらね・・・ただ、もう一つ気になる噂があるんだけど、それと関係している可能性が出てきたわ」
ワット「もう一つの噂?何ですかそれ」
アンバリー「30年前に起きた連続殺人事件のことよ」
アンバリーからきついお仕置きを受けたナットは、保健室で軽く手当てを受けた後に寮に戻った。しばらくベッドで寝込んでいると、保健室に電話が鳴り響き、それを
受けてその場にいた教員たちは慌てた様子で保健室を後にしたのだ。その隙を見て、ナットはベッドから起き上がった。まだアンバリーの電撃の影響が少し残っている
のか、手足が痺れて動きづらかったが、それでも歩くのに少々違和感を感じる程度だ。正座で校長スピーチを聞かされた直後に歩くよりはよほどマシに思えた。いつも
より時間はかかったものの、談話室には思っていたより早く着いた。時計を見ると、あと数分で午後6時というところだった。あまり気は進まなかったが、特に何も
することがなかったので、おそらく皆が集まっているであろうニーナの部屋に行くことにした。扉を開けてみると、案の定ニーナ、シド、カトリーヌの3人がにやけながら
こちらを見つめてくる。
ニーナ「お、ついに来たね」
シド「いいやられっぷりだったよナット」
ナット「お前ら見てやがったか」
その時、カトリーヌがふと微笑を浮かべながら唐突に言いだした。
カトリーヌ「お、たった今大スクープが入って来たわ。図書室で第2の犠牲者が現れたみたいよ」
カトリーヌ以外「え!?」
その内容もさることながら、カトリーヌの情報の早さにニーナ達は驚いた。どうやってこの場を離れずにそんな情報を手に入れたのか、ニーナ達には想像がつかなかった。
彼女の情報網には何らかの秘密があるとしか思えない。
カトリーヌ「先生達が大慌てで会議室に向かっていたようだわ。きっと今頃は会議が始まってるわね」
ナット「お前はそこを盗聴でもしてるんじゃねぇのか?」
カトリーヌ「それいいわね。やってみようかしら」
彼女は冗談めかしてそう答えたが、彼女ならそれを本当にやってのけてもおかしくないと思えた。
ニーナ「それで、死体の状態とかは?」
カトリーヌ「それがね、何と胴体にクロスした深い切り傷があったらしいのよ。クレア先生と保健室の先生がクレア先生の部屋に運んだわ」
ナット「ああ」
納得したような相槌をうったナット。あの時保健室の教員たちがそそくさと部屋を出ていったのは、そういうことか、と思い返す。同時に、彼女たちについていっていれば
よかったな、という若干の後悔も感じる。
シド「それって・・・今朝クレア先生が言ってた、30年前の噂と同じじゃないか!」
確かに彼(彼女?)は、バラバラ死体の数日後に切り刻まれた死体が現れた、と言っていた。
シド「やっぱり、この事件はその噂をなぞってるんだよ!」
ニーナ「でも、だからってそれに何の意味があるのよ」
シド「噂どおりの展開になっていくんなら、これからどんなことが起きてくるかが分かってくるんじゃないかな」
カトリーヌ「でもあの噂、それ以降の展開は結構雑だったよね・・・」
シド「う・・・確かに」
クレアの話では、3人目以降の死に方や場所などは曖昧なもので、死んだという事実しか語られていなかった。
ニーナ「これじゃ先の展開を読もうにも、誰かが死ぬってことしか分からないじゃない」
シド「・・・でも、噂っていうのは人から人へ伝わっていくものだ。誰かその場面の詳しい話を知っている人がいるかもしれないよ」
ニーナ「でも、誰が?」
シド「それは・・・うーん」
しばらくシドが唸っているだけで、ニーナの部屋が静けさに包まれたが、考え込んでいた様子のナットがふとひらめいたようで突然口を開いた。
ナット「・・・そうだ。シドの言う通りかもしれない」
ナット以外「え?」
ナット「当時の事件の状況を知ってる可能性がある奴、いたわ」

ワット「つまり、その30年前の事件をなぞってる可能性があるってことっすか?」
彼はどう見ても40代のおっさんであるにも関わらず、その口調は礼儀を知らない若者のようだった。
アンバリー「そうよ。もしそうだとしたら、事は最悪のシナリオに進んでいる」
ムート「そうなると、少なくともその噂を知っている人物が犯人の可能性が高いですな・・・最悪、今回もその事件の犯人と同一人物というのも考えられる」
マルク「個人的には噂の最後の部分が気になるな。犯人が残したモノが何なのか・・・」
アンバリー「あの部分に関しては、本当の事件についた尾ひれのようなものだから真偽は定かじゃないわ」
見山「ただ、それが事実だった場合、犯人はそのモノを使って殺人を行った可能性がある。死体の状況が不可解なのも、そのせいなのかもしれない・・・」
セドリック「そ、そういえば、生徒の被害状況はどうなっているんでしょうか・・・?」
アンバリー「発見された時は2つの大きな切り傷があったわ。腹部のあたりで交差していて、左右の肺も切られていた」
見山「深刻な事態だ!その生徒は大丈夫なんでしょうか?」
アンバリー「きっと大丈夫よ。クレアちゃんを信じましょう」
ワット「バラバラに切り傷・・・刃物か何かですかねぇ?」
マルク「・・・成程、この学校を破壊しかねないモノとは、校舎をも切れる刃物という意味か。面白い解釈だな」
ワット「いや、それかどうかは知りませんけど」
アンバリー「とにかくこれからも良くない事が続いていく可能性は高いわ。それを防ぐためにも、我々は先手を打って対策しなければならないわよ」
見山「そうですな。生徒達を命の危機にさらすわけにはいくまい」
ムート「具体的には何を・・・?」
アンバリー「そうね・・・まず、殺害された推定時刻は2人とも午後5時頃なのよ。だから、その時間帯に生徒だけで校舎を出歩かせるのは危険だわ」
つまりアンバリーの考える対策とは、一日の授業が終わったらすぐに寮に移動し、それ以降は一切の校舎への進入を禁止する、というものだった。
ムート「図書室への進入禁止だけではダメなんですか?」
アンバリー「さっき言ったように、私は犯人の行動範囲は徐々に広がっていると思うの。校舎にいる時間はできるだけ短い方がいいわ」
ムート「なるほど・・・」
アンバリー「マルク先生には大変だろうけど、生徒が寮に移動したら見回りをお願いしたいわね」
マルク「問題ないですよ」
実際、マルクにとって毎日の見回りは、最早日常の習慣で日課のようなものになっていた。1時間や2時間それが増えたところで、あまり影響が出てくるようには思え
なかった。
アンバリー「それと念のために、最後の授業を担当した先生方は、生徒達を寮へ先導するようにしてください」
マダム・アンバリーは教師達の了解を得ると、次の提案に移っていった。
アンバリー「それからもう一つ、対策として考えたものがあるんだけど」
アンバリーはそこで何故か不敵な笑みを浮かべた。少し間を溜めている所からも、先程の提案とは比べ物にならないほど軽いノリであることがうかがえる。
アンバリー「万が一のために、授業で生徒達に護身術を身につけさせる、というのはどうかしら?」
成程、確かにそのアイデア自体は悪くはない。この提案には教師達も納得したが、問題があるとすればその内容だ。
アンバリー「名付けて、決闘会よ」
教師「決闘・・・会?」
アンバリー「そう、決闘会。やっぱり、今時の悪の科学者は実戦もできなくちゃだめなのよ」
ムート「それって、つまり・・・?」
アンバリー「シンプルに生徒同士で決闘させるのよ」
アンバリーはけろっとそれを口にし、教師達は、ああ・・・やっぱり、とでも言いたそうな表情で彼女を見つめていた。要するに、アンバリー校長は新たな行事を考え
出したという訳だ。他の行事もこのようなノリで始められたのだろうか。
アンバリー「日程はそうねぇ・・・どうせなら早い方がいいわ。10日後の5時間目に開催しようかしら」
マルク「それはまた急な・・・」
アンバリー「いいのよ。被害者が出てからじゃ遅いでしょ?」
それなら、既に2名の被害者が出ていますよ、とは誰も言う事が出来ない。そもそも、アンバリーは一度事を決めたら強引にでも必ずそれを実行する節がある。彼女が
この行事を提案した時点で、他の誰が何を言おうと無駄なことは教師たちにも分かっていた。
アンバリー「さて、そうと決まれば明日の朝には生徒を大広間に集めて集会を開かなくっちゃ。2人目の被害者が出たことと、決闘会のことを説明しなければならないわ」
教師「はぁ・・・」
限りなくため息に近い相槌を教師達が打つと、アンバリーはそれを気にすることなく会議を締めくくろうとした。その時、アンバリーの背後で会議室の扉が開く音がした。
クレア・チャーリーがケンの手術を終えて、アンバリーに報告にやって来たのだ。
アンバリー「あら、クレアちゃん・・・どうだったの?」
クレア「何とか一命は取り留めました・・・しかし、まだしばらくは意識を取り戻しそうにないです」
アンバリー「そう・・・」
クレア「彼はしばらく保健室で安静にしておいた方がいいでしょう」
アンバリー「・・・そのことも含めて、明日の集会で生徒達に報告しましょう」
次章、生徒達の学校生活への影響は・・・?!

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