ワルワルスクールデイズ


伝説のスーパーロングジャンプさん作

第13章

翌朝、一昨日の全校集会からわずか2日で、生徒達は再び大広間に集められていた。まるで、漫画などによくある毎日同じ日を繰り返す怪奇現象に巻き込まれた主人公の
ような気分だった。ニーナはあくびをしながら適当な席に腰かける。カトリーヌの情報網が功を奏し、ニーナ達は人一倍落ち着いていた。他の生徒達は、様々な憶測を
話しあってざわついていたが、やはりその内容は例の噂や殺人事件だ。そうこうしているうちに、アンバリー校長が登壇し話を始めた。
アンバリー「さて、アルゴス・クランケットちゃんが死んでしまってからわずか3日。にもかかわらず、またしても被害に遭った生徒が出てしまいました」
冒頭にしてはあまりにも簡潔な台詞に生徒達は不意をつかれてキョトンとしてしまった。普通こういう重い話をする時は、それなりの前置きというものがあるのではないか、
と訝しげな表情を浮かべる。
アンバリー「被害者はやはり立ち入り禁止の地下倉庫付近の図書室で被害に遭っています。幸い被害を受けた生徒は先生方の手術により一命を取り留めたものの、未だ意識
は不明でいつ目覚めるか分からない状態です」
ニーナ「な〜んだ・・・死んでないんだ」
ニーナは何を期待していたのか、落胆した様子でそうつぶやいた。しかし、そう思っていたのはニーナだけではないらしく、心なしか舌打ちの音が聞こえてきた。
アンバリー「2人の犠牲者を出してしまった以上、これ以上生徒達に被害を与えるわけにはいきません」
最初に感じた疑念は、ここでいよいよ嫌な予感へと変わる。2人目の犠牲者の出現という事実が、あんなにあっさり発表されたのは、他に何か伝えることがあったからだ。
考えてみれば、2人目の犠牲者が出た時点で学校側が何の措置も執らないわけがなかった。
アンバリー「そこで、今日からは授業が終わり次第速やかに寮に移動し、それ以降の校舎への立ち入りは一切禁止します。尚、生徒の移動の際は担当の先生方の先導に
従って移動するようにしてください」
生徒達はどよめいた。あちこちから文句を言う声が聞こえてくる。悪童にとって、行動を制限されるのは最も嫌いなものの候補に入るものだろう。
アンバリー「いいですね皆さん!」
一際どすのきいた大声を出して、全校生徒を一瞬で制した。アンバリー校長への畏怖は、こうして生まれるのである。
アンバリー「・・・それからもう一つ」
生徒達は、え〜、と言いそうになったのをギリギリで堪えた。どう考えても面倒くさい対策を打ち出してくるとしか思えない。
アンバリー「万が一の状況を想定して、皆さんには自分で自分の身を守る術を身につけてもらいたいと思っています。これを機に、皆さんには護身用の発明品を開発して
もらい、10日後の5時限目に決闘会を開催したいと思います!」
生徒達はまたどよめいた。この行事は生徒達にとって喜ばしい事なのか、そうでないのかは判然としない。加えて10日後という急な日程がますます困惑を呼ぶ。
アンバリー「というわけで、来週の金曜日の午後3時にまたこの大広間に集まってください」

2人目の犠牲者、校舎への進入禁止、決闘会の開催。無理矢理繋げられた全く関係のない情報をこうも次々流し込まれると、何を考えたらいいのか分からなくなってしまう。
とりあえず、事件の真相を探るニーナ達にとっては、まず2人目の犠牲者の事について考えるべきだろう。
ニーナ「今回の被害者は別に死んだわけじゃなかったんだね」
ナット「それなら、そいつにその時の状況を聞けば話は早い」
シド「無茶言うなよ・・・いつ意識が戻るか分からないんだろ?」
ニーナ「とりあえず、その被害者は誰だったのかってことくらいは知っておいた方がいいんじゃないの?」
カトリーヌ「あぁ、6年生生物科のケンよ」
あまりにもあっさりとカトリーヌが答えを出してしまったため、しばらく沈黙が流れる。その被害者が自分達の会ったことがある人物である、ということに気付くには割と
時間がかかった。
シド「・・・それって、一昨日の夜に僕らに話しかけてきた子じゃないか!」
カトリーヌ「最初の犠牲者の親友でもあるわ」
シド「どうしてそれをあの時言わなかったの?」
カトリーヌ「どうしてって、別に聞かれなかったし」
多くの情報を把握し、聞かれた事以外は他人に口外しないのが情報屋だ。うっかり余計なことまで教えてしまえば、面倒な事件が起きた時に責任はとれない。そんな情報屋
としての自覚が、カトリーヌには既に備わっていた。
ニーナ「あいつもあいつなりに調べようとしてたのねきっと」
ナット「そんで図書室に行ってみたら、まさかの犯人登場ってわけか・・・」
シド「これって偶然なのかな?」
カトリーヌ「さぁ?」
そんな4人の思考を遮るように、授業開始のチャイムが鳴る。

ワルワルスクールの秘密を探るクロックにとっては、校舎への進入禁止時間の繰り上げは非常に厄介なものだった。それまでその時間を利用して校舎中を歩き回っていた
だけに、調査の時間は大幅に減少することになる。どうしたものかとぼんやり考えていると、突然目の前にムートがやってきた。
ムート「おい・・・さっさと実験を始めろよ」
そう言われて、ようやくムートがワルワルスクールの教師であった事を思い出す。幼馴染にものを教わるというのは何とも奇妙な感覚で、何度授業を受けてみても慣れない。
クロック「どうにも慣れないなこの状況・・・というより、慣れたくない」
ムート「失礼だな。そこは便宜上仕方ないだろ」
フラップ「こんなクラス神様の悪戯としか思えないな」
だらだらと取り留めのない会話をしながらクロック達が実験を始めると、ムートはようやく納得した様子で教室を歩き回り始めた。クロック達が手際よく液状の薬を精製
すると、全員がそれを終えていたようでムートが黒板の前に立った。
ムート「さて、全員薬を精製したな・・・それじゃ早速効果のほどを試してみるか」
そう言って、生徒達に実験台のネズミが入った籠を渡し始めた。籠の中に閉じ込められたネズミはかなり弱っていた。それもそのはず、今回の実験は強力な栄養剤を精製
するというもので、その効果を試すためのネズミだからだ。クロックをはじめとする生徒達は、そのネズミに先程作りだした薬を数滴飲ませる。するとネズミの体は
たちまち肥えだし、それどころかどんどん体が大きくなっていく。その勢いはまるで風船に空気が入れられて一気に膨らんでいるようで、その様子は滑稽でもある。
とうとうネズミは籠いっぱいまで膨れあがり、ついに巨大化は止まった。
ムート「よし・・・皆成功しているようだな」
その様子を見渡してムートは満足気に頷いている。ムートは教室の時計で時間を確認する。授業は残り半分ほどの時間がある。
ムート「さて、その太りすぎたネズミを元に戻すには、当然脂肪を燃焼させる薬が必要になる」
そう言って大きな黒板の上下を入れ替え再び薬の精製法について説明を始める。するとここで女子生徒が質問をした。
生徒「伯爵ー、それは何ですか?」
ムートをよく見ると、白衣のポケットから何かがはみ出ているのが分かった。
ムート「あ、これ?これは、えーと、カメラだ」
授業中に一体何を撮影しているのだ、とクロックは内心思ったが敢えてスルーすることにした。
ムート「・・・いや、これはあれだぞ?実験の様子を写真に記録しておくためのアレで決して怪しい事には・・・」
クロック「授業をしろッ!」
いきなりクロックが金属製のハリセンを取り出してムートに近づき勢いよく頭を叩いた。ムートは何とも哀れなうめき声を上げながら教室の端まで吹き飛ばされた。
ムート「ちょっと待てー!何処から出したんだそのハリセン・・・金属製じゃねぇか!」
クロック「これは前に手に入れたレアメタルを加工して作ったんだ。案外軽くて扱いやすいぞ?」
ムート「お前・・・また妙な武器作りやがって!決闘会やる気満々か!」
クロック「いや、それはたまたまだ」

恐ろしく好戦的なデス・クラッシュにとっては、決闘会の開催は絶好のチャンスに思えた。すなわち公然と日ごろの憂さ晴らしができるのだ。これまでに数々の喧嘩道具を
開発してきた彼ならば、武器の準備には困らない。しかし、デスは大会に向けてこれまで以上に強力な武器の開発を試みていた。どんな武器を作ってやろうかと、授業も
受けずに思考を巡らせながら廊下を歩いていると、すぐ脇の教室から妙に迫力のある音が聞こえてきた。バチーン、と何かを叩くような音だったが、そこに固い金属に
ぶつかったような鈍い音も加わっていた。何の音かとその教室を扉の窓から覗いてみると、そこには倒れているムートが見えた。その向こうにはハリセンのようなものを
持った生徒が立っていた。よく見るとそのハリセンは金属でできており、紙製のハリセンのようにしなやかに曲がることからその金属はマガリウムというレアメタルで
あることが分かった。成程、確かにハリセンはマガリウムの特性を十分に活かせる武器と言えるかもしれない。
デス「特性を活かしきる・・・か」
ここで、デスの頭の中で何かが光った。決闘会用の武器をひらめいたのだ。早速、自分の寮へ向かい足を進める。すると、廊下の曲がり角から突如人影が現れた。授業中
であるはずのこの時間に人が現れることなど想定していなかったデスは、正面からぶつかってしまった。
デス「ってぇな!」
そう言って相手を睨むと、何とその相手はダークネス・ダークだった。さっさと寮部屋へ行って材料を確認したいのに、よりによって自分の一番嫌いな人物とぶつかって
しまった。デスのイライラは一気に高まっていく。
デス「何でお前がこんな所にいるんだ!?」
ダークネス「そんなものは俺の勝手だろう。決闘会に向けて強力な銃を作ってやろうと考えていたのさ」
デスはこのダークネスの言い草が気に入らなかった。しかも、自分と同じような事を考えて同じような行動に出ている事がますます腹立たしい。
ダークネス「お前の武器も一瞬で打ち壊してやるさ」
この一言で、デスの頭の中の何かが切れた。考えるよりも先にダークネスの顔面にパンチを繰り出していた。
デス「ほぅ・・・やれるもんならやってみろ。ここで死ななければなぁ!」
ダークネス「ぐほっ!フン、そうやって強がってられるのも今のうちだぞ。その時が来たら貴様の命はないと思え」
本当にこいつはどこまで人を怒らせれば気がすむのだろうか、と半ば呆れながらダークネスを殴り続けた。ある程度ストレスが発散された所で、ダークネスにまた
腹立たしい発言をされないうちに足早に寮に戻ることにした。廊下を歩いているうちに、後ろからダークネスがうめくような声で何かを言った気がしたが、聞かない事にした。
しばらくして、ようやく機械科クラスの寮に辿り着き、1階の寮部屋へと続く扉を乱暴に開ける。すぐさま自分の部屋の扉を開け、見山の研究室からかっさらってきた
材料を詰め込んである収納スペースを開ける。それを一通り眺めて、あるレアメタルの存在に気付く。
デス「よし、これだ」

無事に一日の授業が終わり、クレアの先導によって生物科クラスの寮に戻ったニーナ達は、談話室でこれからの行動について話し合った。ここから校舎への侵入が禁止
されるのは、ニーナ達にとってもやはり煩わしいものだった。
ニーナ「とにかく、早いとここの事件を解決させないとますます面倒なことになりそうね」
ナット「ああ、この時間は校舎に罠を仕掛けるのに貴重な時間なんだ」
シド「それはナットだけの都合でしょ・・・」
カトリーヌ「とりあえず、今からできる範囲で行動しましょう」
ニーナ「そうね。で、昨日のアレは一体誰なの?」
ナット「何だよそれ」
ニーナ「アンタが言ってたんでしょ?30年前の噂を知ってるかもしれない奴がいるって。もったいぶってないでさっさと教えなさいよ」
ナット「あぁ、あれね。今からそいつの所へ聞き込みに行こうと?」
ニーナ「だから誰よ?」
ナット「答えはズバリ、ダーク・サファイアさ」
ナット以外「えぇ・・・アイツ?」
ナット「そういう反応すると思ったんだよ・・・アイツは何百年もずっとこの学校に居座ってるんだろ?30年前の事なんざ、つい最近の事のように思ってるはずさ」
シド「そりゃ理屈は分かるけども・・・」
こうなると、ニーナ達の心配はその信ぴょう性よりも彼の人間性の方が大きくなっていた。彼に関わればろくなことが起きない。進んで関わりたくないタイプの人間だ。
シド「そもそもあいつは僕らの話を聞くのかな?」
ナット「それは訊きに行ってみれば分かるさ」
4人「・・・・・・」
ナット「なぁ、じゃんけんしないか?」
ニーナ「何でよ!?」
カトリーヌ「まぁ、4人揃ってぞろぞろと訊きに行くのもアレだしね」
ナット「負けた奴が今からダーク・サファイアの部屋に行って噂の詳細を訊いてくる。恨みっこなしの一発勝負だ。恨むならダークを恨め」
また、瞬間的に沈黙が流れる。心なしか皆拳を握りしめているようにも見えた。
ニーナ「分かったわよ・・・やればいいんでしょやれば」
ナッツ「じゃあ行くぞ!せーの・・・」
4人「じゃん、けん、ぽんッ!」
4人が一斉に右腕を前に突き出す。

結論を言ってしまえば、結局はニーナ、ナット、シドの3人が行くことになった。まさかのカトリーヌの1人勝ちで、見事に1発で勝負が決まったのだ。負けた3人は
その結果を見るなり不満の声を漏らし、逆にカトリーヌは不敵な笑みを漏らしていた。
ニーナ「何でアタイがあんな奴に会いに行かなくちゃならないのよ・・・」
カトリーヌ「ホーホッホ!もう決まった事なのよ。さぁ、行きなさい下僕たち」
3人「誰が下僕じゃあああ!!」
そんな取り留めのないやりとりで時間を稼ぎながらも、3人はついに薬剤科クラスの寮に辿り着いてしまった。カトリーヌの情報からダーク・サファイアの寮部屋を
割り出す。そのために2年生の寮部屋がある地下2階に入ってしまうと、彼の部屋を見つけ出すのには恐ろしいほど時間がかからなかった。そして3人は彼の部屋の扉の
前に立ち、お互いが顔を見合わせて、というよりもほとんど睨みあって成り行きでシドがノックをする役割を担う事になった。そして、半ばやけになりながらしぶしぶ
ダークの扉をノックする。ダークが自ら扉を開けてくれるとも思えないので、ナットが雑に扉を開ける。そうして、いよいよニーナ達はダーク・サファイアの部屋に
入っていくのだった。
次章、30年前の噂の真相とは!?

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