ワルワルスクールデイズ


伝説のスーパーロングジャンプさん作

第17章

ニーナ達が薬剤科クラスの寮に辿り着き、談話室の中へ入るとそこには1人の少女がソファに腰掛けていた。イデア・メルシュムだ。ニーナは彼女に話しかけることにした。
ニーナ「ちょっとアンタ。アンタに話があるんだけど」
イデア「何かしら?」
ニーナ達はイデアにケンを目覚めさせる計画を説明する。聞いている間、彼女もその話には興味を示しているようだった。
イデア「いいわよ、協力するわ。それにちょうどいい薬があるのよ」
彼女はそう言って不敵な笑みを浮かべた。イデアは一旦自分の寮部屋へ行き、いくつかの錠剤が入った瓶を2つ持って戻ってきた。そしてそれをニーナ達に見せつける。
イデア「こっちがケンって人を目覚めさせる薬よ。まぁ興奮剤みたいなもんだわ。で、こっちは目的地まで辿り着くためのアイテム」
シクラメン「どういうことですか・・・?」
イデア「校舎では今先生達が見張りをしているの。見つかったらまずいでしょ?」
ニーナ「で、どんな薬なのそれ」
イデア「飲むと10分間だけ透明になるのよ。調度皆の分があるから使うといいわ」
ナット「成程な」
ニーナ達は1つずつ透明化する薬を受け取って、寮を出ようとした。校舎へ繋がる渡り廊下を通ろうとすると、そのど真ん中にアンバリー校長が立っていた。生徒達を
校舎へ行かせないように門番を勝手出ているのだろう。それを見たニーナ達は早速イデアから貰った薬を飲み込んだ。すると、みるみる体が透けていくのが分かった。
イデア「いい?透明になったからってあんまり大きい声を出したらダメよ?」
ナット「分かってっけどこれホントに相手に見えてねぇんだろうな?うっすらお前が見えてるんだけど・・・」
イデア「同じ薬を飲んでる人には見えるようにしたのよ。お互いが見えなかったら何かと不便でしょ?」
ニーナ「いいからさっさと行きましょうよ。10分しかないんだから」
そして、ニーナ達はアンバリー校長を素通りして校舎へと向かっていった。

クロック達は寮の3階から窓を通して校舎を眺めていた。クロックは鉤爪のついたロープをヒュンヒュンと回している。そして、それを校舎上階のベランダの柵に向けて
勢いよく投げ込んで引っかけた。
クロック「よし、こんな風にやるんだ」
フラップ「こんな風にと言われてもなァ・・・」
クロック「これでならお前にもできるだろ」
そう言ってクロックはおもむろにライフルのようなものを取り出した。
フラップ「あああッ!!それッ、俺のライフルじゃねぇか!!お前勝手に改造すんなコラァァア!!」
クロック「じゃ、もう行くぞ」
フラップ「あ、オイ待てよ!お前絶対後で直せよコレ!」
そう言いながらフラップはクロックを狙うようにしてライフルの引き金を引いた。ライフルからは鉤爪付きのロープが発射され、見事にクロックが引っかけた場所の隣に
ロープを引っかける。2人はロープに掴まり校舎の2階のベランダに着地した。
クロック「彼が居るのは恐らく生物科学室の奥にあるクレア先生の部屋だ。急ごう」
2人はゆっくりと校舎内に入りクレアの部屋を目指した。

一方、校舎内の廊下を歩いているニーナ達は奥にセドリックがいるのを発見した。彼はキョロキョロと首を回して異常なまでに周りを警戒している。その様子を見ていると、
むしろ彼の方が怪しく見える。ニーナ達は彼にぶつからないようにだけ気を配り堂々と進んでいった。すると、その瞬間セドリックは激しく驚いた様子でニーナ達の方を
向いて震える声で叫んだ。
セドリック「だ、だ、誰だ!?」
足音が聞こえたのだろうか。と、ニーナ達は気付きそこから忍び足に切り替えた。しかし、セドリックは小走りでこちらに走って来る。ニーナ達はこれを避けて
彼の方を見ると、その先には見山が立っていた。
セドリック「なんだ・・・見山さんじゃないですか。良かった・・・」
見山「いやぁ、驚かせてしまってすまない」
ナット「・・・早く行こうぜ」
小声でナットが言うと、7人は一斉に歩き出した。すると、シドが廊下の脇に転がり落ちていたバケツに足を取られ、大きく体勢を崩してしまった。
ニーナ&ナット&カトリーヌ(げっ・・・まずい!)
案の定シドは思い切りロッカーにぶつかり、ロッカーは重々しい音をたてて倒れこんでしまった。
セドリック「な、何だ今の!?」
見山「調べてみましょう!」
そう言って2人は全力でこちらに走ってくる。
ナット(バッカ野郎お前何してくれてんだー!!)
ナットは転んだシドを持ち上げながら囁きながらも叫んだ。そして、ニーナ達は慌ててその場から離れていった。

クロック達は階段を下りて、1階にやって来たところだった。クレアの部屋の場所を確認すると、そこへと続く道を選んで進んでいく。すると、クロックはいきなり足を
止めた。向こうからかすかに声がしたのだ。
フラップ「・・・どうした?」
クロック「しっ、向こうに誰かいる」
そこにいたのは、マルクとムートだった。2人は少しギクシャクした会話を途切れ途切れに交わしながら校舎を見回っていた。するとムートは、はたと立ち止る。
マルク「・・・どうしたんだね?」
ムート「い、いえ、ちょっとこっちの道が怪しいのではないかな〜と思いまして・・・!」
マルク「ふむ・・・そうか」
ムートは直感的にクロックがこの近くにいるのではないかと感じていた。そのため、彼はできるだけクロックからマルクを遠ざけるように誘導したのだ。それを知ってか
知らずかクロックは、マルク達が別の道に曲がっていったのを感じ取った。
クロック「・・・よし、行こう」

ニーナ達はこの校舎のジャンクションとも言える円状の小部屋に入っていた。ようやく全員がそこに入ると、ニーナは即座に扉を閉めた。自分達が透明化している今、
扉を開くという行為ははたから見れば怪奇現象のようにとられてしまう。先程の1件もあり、その場面を教師達に目撃されるのは極力避けたかった。しかし、イデアが
クレアの部屋へと続く扉を開けようとした瞬間、横から扉が開く音がした。マルクとムートがこの小部屋に入って来たのだ。7人はこの2人が部屋を出ていくのをただ待つ
しかなかった。しかし、ここでまたもやシドが後退しすぎて壁にぶつかり、そこに掛けられていた絵画を落としてしまった。
ムート「む!や、やはりこのあたりが怪しいですな!」
マルク「調べてみるか・・・」
そう言いながらマルクはシドに掴みかかるように手を伸ばす。シドは間一髪でそれを避けた。マルクの手はそのまま絵画へと伸びていき、それを掴むと元の位置にかけ直した。
マルク「うーむ・・・特に変わったところはないな。他を回ろう。君は別の道を頼む」
ムート「は、はい」
そう言うと2人はゆっくりと歩き出した。すると、マルクがよりにもよってニーナ達が向かおうとしている方向の扉に向かってきた。ニーナ達は急いでマルクにぶつからない
ように避けた。そして、マルクは扉を開けてその廊下を歩いていった。ムートもいつの間にか小部屋から出たようで、姿が見当たらない。それを確認すると、ニーナ達は
ようやく扉を開けた。

クロック達はロッカーの裏に身を隠し、奥の様子を窺っていた。一本道の廊下の奥には、セドリックがいたからだ。先程のロッカーの件は見山に任せ、見回りを再開して
いたのだ。彼はやはり首をせわしなく動かしながら辺りを見ている。非常にゆっくりとした速度ではあるが、確実にクロック達に近づいていた。しかも、一本道のために
クロック達の逃げ場はない。セドリックの足音は着実に大きくなってくる。すると、突如セドリックの背後からネズミの声が響いてきた。セドリックはそれにも
ビクついて、素早く後ろを振り返った。彼はネズミにもおびえた様子で様子を窺っている。しかし、ようやくそれが無害なネズミであると分かると、安堵のため息をつき
再び廊下を歩き始めた。安堵したとは言っても、セドリックは尚も警戒を解いてはいなかった。再び辺りを見回しながらゆっくりと歩いている。そして、ついに
クロックが隠れているロッカーを通過する。しかし、ロッカーの後ろには既に誰もいなかった。フラップの姿も見当たらない。セドリックはそのまま廊下を通り過ぎていく。
フラップ「・・・行ったか」
クロック「ああ、もう大丈夫だろう」
そう言うと、向かいあったロッカーの扉が同時に開いた。2人はセドリックが後ろを向いた隙にロッカーの中に隠れていたのだ。
クロック「あそこでネズミが鳴いてなかったら危なかったな」
フラップ「ああ、まさかただのネズミに助けられるとはな・・・」
2人は再びクレアの部屋を目指して歩き出す。しばらくすると、またクロックの動きが止まった。
フラップ「今度は何だ?」
クロック「何か人の気配が・・・」
そう言って2人は耳をそばだてる。神経を集中させると、後ろからかすかに足音のような物が聞こえてくる。2人はゆっくりと後ろに振り向く。後ろには他の廊下と
合流する場所があった。その音はクロック達が来た所とは別の廊下から聞こえてきていた。その音は徐々に大きくなってくる。こちらに近づいてきている。1人ではない。
そりなりの大人数だ。そして、ついにその気配はクロック達のすぐ近くまでやって来た。しかし、予想に反してその廊下からは誰も来なかった。にもかかわらず、気配は
未だすぐそばに感じていた。とうとうその気配だけがクロック達を素通りし、やがては消えてしまっていた。
フラップ「・・・誰もいねぇじゃねぇか」
クロック「おかしいな・・・確かに誰かがここを通っていく気配がしたんだけどな・・・」

クロック達を素通りしたニーナ達は急いでいた。マルクとムートに思わぬ足止めを喰らい、薬が持つ時間がなくなってきていたのだ。
イデア「まずいわね・・・そろそろ10分よ。急がなきゃ」
シド「っていうか、何でクロックは校舎に来てるんだろう?」
シクラメン「クロックさんを知ってるんですか?」
シド「うん、保健室で休んでた時にクロックが運ばれてきたんだ。結構ひどいなりだったから、彼が目を覚ました時に話しかけてみたら、割と気が合ってね」
ニーナ「アンタの話はどうでもいいよ。速く走って」
しばらく駆け足で廊下を進むと、いよいよ生物科学室が見えてきた。ニーナ達は一安心して教室の扉を開ける。調度そのタイミングで、ニーナ達の姿が元に戻った。
いつもならこの時間帯は授業中で生徒達が集まって実験をしているのだが、今日は誰1人おらずがらりとしている。ニーナはさらにその奥へ向かい、扉に手をかける。

クロック達が廊下を進んでいると、その道の奥に生物科学室があるのが分かった。
クロック「あそこか・・・」
一度立ち止まって奥の様子を眺めていると、さらにその奥の廊下に何かが居ることに気付いた。
クロック「・・・!待て、隠れろ!」
小声でフラップに言うとすぐさま脇の道にそれて壁から様子を窺う。そこには、マルクが歩いていた。マルクは生物科学室から何者かがうごめいている音を感じ取っていた。
それを怪しんだマルクは生物科学室に入ろうとしていたのだ。マルクが生物科学室まであと数歩というところで、奥の廊下から物音が聞こえてきた。そこに隠れていた
フラップが、ロッカーに足をぶつけた音だった。
マルク「んん?そこか?」
クロック&フラップ(まずいッ・・・!!)
クロック「逃げるぞ」
そう言って2人は、やむなく一旦生物科学室から離れることにした。マルクもその足音を追うようにして生物科学室から遠ざかっていく。

その頃、ニーナ達はいよいよクレアの部屋の扉を開けた。中には大量の生物の標本が保管されており、それらに監視されているような気分になった。ケンはその奥の窓際の
ベッドに横たわっていた。この部屋で唯一光が差してくる領域を独占しているかのようで、そういう意味では穏やかな顔つきをしていた。しかし、太陽が雲に隠れると
途端にケンの顔は死んでいるかのように見えてしまう。口元には配気管のついたマスクが着いており、胸から腰のあたりまでに包帯が巻かれていた。
ニーナ「こいつ・・・本当に生きてんの?」
カトリーヌ「そのはずよ。自分から呼吸できてはいないけれど、ちゃんと空気は送られてるようだし」
イデア「この薬を飲めば、自分の意思で呼吸するようになるはずだわ。生命活動を活発化させる薬だから。この人を起こす事も出来る」
そう言って彼女は、自慢げにポケットからその薬を取り出して見せた。
アテナ「でも意識ない人に錠剤飲ませて大丈夫なんですか?」
イデア「大丈夫。あぶるから」
そう言ってライターでその錠剤をあぶり、そこからでた煙を配気管を通してケンの口元に送り込んだ。しばらくするとケンの胸が上下し始め、若干手足を痙攣させると、
ゆっくりと目を開き始めた。
シド「お、目を覚ましたみたいだよ」
ケン「・・・・・・ここは」
ニーナ「アンタ運がいいわね。倒れてた所をすぐに発見されてなかったら、今頃地獄行きだったわよ」
ケン「・・・僕は生きてるってことですか?」
ニーナ「ええ」
ケンはその時、複雑な表情をしていたのかもしれない。ただ、ニーナ達にはその顔は無表情に近いものに見えた。
ナット「何だよ、せっかく死の淵から戻って来たんだからもっと嬉しそうにしろや」
シド「いや・・・無茶言うなよナット」
カトリーヌ「で、起きて早速なんだけど、アンタは犯人を見たんじゃないの?」
ナット「要するに、そん時の状況を詳しく聞かせろってことだ」
ケン「犯人・・・ですか」
ケンは遠くを見つめるようにそうつぶやいた。その時の状況を思い出そうとしているのかもしれない。しばらくの間、薄暗い部屋に沈黙が流れる。そして、ようやくケンは
口を静かに開いた。
ケン「あの時は・・・確か、僕は自分で事件を調べようと思って、アルゴスが死んだ地下倉庫に入ったんだ・・・」
その口調は相手に語りかけていると同時に、自分に言い聞かせているようでもあった。
次章、いよいよ真相が語られる!!?

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