ワルワルスクールデイズ


伝説のスーパーロングジャンプさん作

第19章

ニーナがワープした先は薄暗い不気味な場所だった。日の光が差し込む余地は全くなく、灯りはネオン電灯に取って代わられている。周りには何やら大がかりな機械が
ニーナを歓迎するかのように乱立しているが、はっきり言って邪魔だ。そして、ニーナはある人物を探す。最近はずっとこの研究室にこもっているらしいので、少し探せば
すぐに見つかるはずだ。すると、奥からぶつぶつと独り言のような声が聞こえてきた。ニーナはその声の主が自分の探している人物であることを悟り一気に近づいた。
ニーナ「おじさん!」
コルテックス「うわぁっ!・・・何だニーナか、おどかさないでくれぇ。一体どうしたんだ?」
ニーナ「ちょっとおじさんに聞きたい事があって」
コルテックス「ほほぅ、何だい?おじさんに何でも言ってごらん?」
ニーナ「30年前の事なんだけど、ワルワルスクールで連続変死事件が起きたの知ってる?」
その言葉を聞いた瞬間、コルテックスの表情が一瞬にして凍りついた。さっきまでの表情とは最も遠い位置にある表情だ。
コルテックス「な、何でそんなことをニーナが知っているんだ?」
ニーナ「ちょっと色々あってね」
皮肉交じりにそう言うと、コルテックスは事態を察したのかさらに表情を凍りつかせた。その表情からニーナは自分の考えが正しい事をほぼ確信していた。ここに来て
回りくどい方法を取るのはニーナは好きではなかったので率直に訊くことにした。
ニーナ「地下倉庫にはドラゴンがいる。そしてそのドラゴンはおじさんが作った。そうでしょ?」
追い詰められた殺人犯はきっと、皆一様にこういう表情をするのだろう。呑気にそう考えるニーナに対して、コルテックスは今にも倒れこんでしまいたい気分だった。
ニーナ「答えてよ。そうなんでしょ?」
コルテックス「・・・あぁ、ああ、そうだ」
消え入りそうな声でそう言うコルテックスは自然と肩を落としていた。
ニーナ「どういうことか説明してくれる?」
コルテックス「あぁ・・・分かった。話せば長くなるがな・・・」
ニーナ「できれば簡潔にまとめて」
コルテックス「わ、分かった・・・ワシはあの時最上級生じゃったから、卒業レポートを出すために屈強の生物兵器を作りだそうとしていたのだ」
ニーナ「それがドラゴン?」
コルテックス「そうだ。そして、実験には成功した。だが・・・1つ問題あった」
ニーナ「何?」
コルテックス「その・・・奴の性格が凶暴すぎたんだよ。奴はワシの部屋から逃げ出し、好き放題やってくれたわ」
ニーナ「じゃあ、あの殺人はドラゴンの暴走でおじさんが意図してやったわけではなかったの?」
コルテックス「あぁ、むしろ想定外の事だった。そこでワシは何とか奴を阻止しようと考えた・・・それで地下倉庫に閉じ込めようとしたのだ。あそこは進入禁止になって
いて色々と都合が良かったからな」
ニーナ「ナットはあそこに隠し部屋があるんじゃないかって言ってたわ」
コルテックス「むぅ・・・その通りだ。だが、アレは簡単には開かないように仕掛けが施されている」
ニーナ「じゃあ、その仕掛けを破られて見つかったのね」
コルテックス「え、何ーーー!?」
ニーナ「あぁ、もう言っちゃうけど今そのドラゴンがまた好き放題やってくれちゃってんのよ。誰かが隠し部屋を見つけたみたいでね」
コルテックス「そんな馬鹿な・・・まさかアレの存在が露呈してしまったのか」
ニーナ「いや、まだほんの一部だとは思うけど・・・」
コルテックス「そうか・・・いや、しかし元凶がワシだと知れたら2度と校長とは顔を合わせられないぞ・・・」
どうやらコルテックスが最も恐れていたのはそのことだったらしい。心底おびえた表情で言っていた。
ニーナ「とにかく、隠し部屋の入り方を教えて。このまま放っといたら厄介だわ」
コルテックス「ちょっと待ってくれ。あの時の設計図は確かエヌ・ジンが持っていたはずだ」

エヌ・ジンの研究所に入った2人は、すぐにエヌ・ジンにこの話を持ちかけた。
エヌ・ジン「な、何!?当時の拙者の機械技術の集大成ともいえるあの仕掛けが破られたと!?まことにショックなり!」
ニーナ「いいから・・・設計図はどこなのよ?」
エヌ・ジン「うむ、ここにある」
そう言って近くにあった机の引き出しをあさり、しばらくすると黄ばんだ紙切れを引っ張り出してきて、それをニーナに見せた。確かにその設計は、一見すると非常に複雑な
構造をしていた。仕掛けの解き方が書き記されているのを確認すると、ニーナはそれをぶんどるように受け取り振り返った。しかし、何かを思い出したのかすぐに
コルテックスの方に向き直した。
ニーナ「そうだ、おじさん。おこづかいちょーだい。アタイ今すっからかんなんだ」
コルテックス「おぉ、そうか。そういうことならホレ」
そう言ってコルテックスは手持ちの紙幣をニーナに渡した。
ニーナ「アハ☆アリガト。じゃーね」
コルテックス「気をつけるんだよー」
エヌ・ジン(この人は・・・)

再び腕のワープボタンを押すと、ニーナはワルワルスクールの自分の寮部屋に戻っていた。ふと時計を見ると、時間はいつの間か午後3時になっていた。いつもであれば
その日最後の授業が始まる時間帯だ。
ニーナ「ハァ・・・何か今日は疲れたわ」
そう言ってニーナはおもむろにベッドに飛び込んだ。しばらくそこで横たわっていると、部屋の扉が割と大きな音をたてて開いた。扉を開けたのはナット達だった。
ナット「よぅ。何か分かったか?」
ニーナ「アンタらねぇ・・・ノックぐらいしなさいよ。こっちは休憩してるってのに」
ナット「まぁいいじゃねぇか。結果報告ぐらい休みながらでもできんだろ」
ニーナ「・・・ったくしょうがないわねぇ」
ニーナはコルテックスから聞いた話を更にかいつまんで話し、隠し部屋の設計図を手に入れた事を告げた。そしてそれを乱暴にナット達の前に広げる。
シド「うわぁ・・・これはすごいね」
ナット「成程・・・このロックの部分がパズルになってるのか」
カトリーヌ「じゃあ、そこはいつ調べる?」
ナット「やるなら早いうちがいいだろ。思い立ったが吉日だ」
カトリーヌ「でも、相手はドラゴンなんだからそれなりに準備はしとかないとね」
ナット「そうか・・・じゃあ、明日にしよう」
シド「どんだけせっかちなんだよ・・・」
ナット「大丈夫だ。明日までなら俺は準備できるぜ」
シド「お前だけ準備できてもしょうがないんだよ」
ナット「お前の準備が整うのなんか待ってたら一生あそこに行けねぇんだよ」
ナット&シド「・・・・・・」
カトリーヌ「ハイハイくだらない喧嘩はその辺にしといてさっさと計画立てましょ」
ナット「・・・じゃあさ、具体的に何時に突入するかだけ決めようぜ。後は各自で必要なモンを揃える」
3人「異議な〜し」
そして4人が話し合った結果、地下倉庫の隠し部屋へは明日の午後4時に行くことになった。そして4人は解散しそれぞれの準備を始める。

ニーナは3人を追い出すかのように手を払って部屋を出ていくのを見届けると、またしてもベッドに飛び込んだ。準備と言ってもはっきり言ってすることはあまりない。
ドラゴンとのバトル展開になる事を想定して武器を用意するにしても、昨日の決闘会で使ったヨーヨーで充分だろう。何より、ニーナは疲れていた。今ニーナが唯一すべき
準備と言えば、この疲れをとることくらいなものだろう。そんなわけで、ニーナは静かに目を閉じた。間もなく、意識は瞬く間に消えていった。

ナットは自分の部屋へ戻り、早速装置を作り始めた。これまで数々の悪戯装置を発明してきたナットは即興罠づくりの発想力が神がかり的に冴えていた。頭の中で設計図を
一気に作っていきながら、それを追いかけるようにして実際に作業を進めていく。その手際は奇妙なほど良いものだった。作業を続けること約2時間、ついにその装置は
完成した。後はこれを目的の場所に仕掛けるだけだ。ナットは部屋にあった時計を見て今の時刻を確認する。気がつけば、もう既に午後5時半になっていた。ようやく
ナットは窓の外が夕焼けで赤く染められていた事に気付く。
ナット「今の時間はさすがに危険か・・・」
そうつぶやくとナットは、部屋を出ていった。
シドは自分の部屋へ戻ってきたものの、何を準備したらよいか分からずに途方に暮れていた。とりあえず、決闘会に備えて一応作った道具を取り出してみた。シドが作った
のは精巧な作りをした傀儡だった。生物に関しては博識のあるシドは筋肉から関節まで非常に徹底してリアルな構造を作ったのだ。人間の脳に当たる部分に電源があり、
そこから電流を流して身体を動かす仕組みだ。それ故人間としての不自然な動きは全くなく、大きさがもう一回りあれば本物の人間のようにも見えてくる。ただ、この傀儡
にはまだ再現できない人間の動きがあった。
シド「・・・よし、やってみよう」
シドはその動きを再現できるように傀儡に更なる改造を施すことにした。作業は非常にに困難なものだったが、それでも何とか集中して作業を続けていった。そして、
ついにシドはその傀儡の改造を終えた。傀儡は窓から差し込む赤い光に照らされ、シドは外が既に夕方になっていることに気がついた。時計に目を移すと、もう時刻は
午後5時半を回っていた。
シド「うわ、もうこんな時間か・・・」
ふと隣の部屋からガチャッ、というドアが開く音が聞こえた。ナットの部屋からだ。ナットは今まで何をしていて、これから何をするつもりなのだろうかと想像してみる。
気を抜くとそんな事を考えたままその日を終えてしまいそうな勢いだった。
シド「ハァ、もう疲れたな・・・寝よう」
そう言ってシドは自分のベッドに飛び込んだ。静かに目を閉じると、思っていたよりも早く睡魔がやってきた。瞬く間にシドの意識は消えていった。

カトリーヌはニーナの部屋から出ると、再び校舎と寮を繋ぐ渡り廊下に来ていた。そこには依然としてアンバリー校長が堂々と立ちはだかっていた。しかし、カトリーヌも
逃げも隠れもせず堂々と廊下の真ん中をぶれることなく歩いていく。まるでファッションショーのモデルのようだった。そして、アンバリー校長の目の前まで着くと
彼女は余裕の表情でアンバリー校長の顔を見つめた。校長の表情にも余裕があるようだった。
アンバリー「こんな所に何の用かしらカトリーヌちゃん?」
カトリーヌ「ちょっと先生に話したいここだけの話があるんですよ」
アンバリー「まぁ、あなたのここだけの話なんて楽しみだわ」
校長がわざとらしくそう言うと、カトリーヌもわざとらしい愛想笑いをした。
カトリーヌ「私、事件の犯人分かっちゃったんですよ」
アンバリー「まぁ」
2人の会話はやはりわざとらしかった。カトリーヌはわざとらしい口調のまま話を続ける。
カトリーヌ「これまで生徒達を殺していたのは、何とドラゴンの仕業だったんですよ」
アンバリー「成程、どうりで奇妙な点が多いはずだわ。それじゃ、そのドラゴンを退治しなくっちゃね。できるだけ生徒達に被害が出ないようにしないと・・・」
カトリーヌ「ハイ、お願いします」
そう言うとカトリーヌは軽くお辞儀をしてから振り返り、またモデルのように来た道を戻っていった。アンバリーはそれを怪しげに微笑みながら見届ける。しかし、実は
この時彼女を見届けていたのはアンバリーだけではなかった。
デス(殺人犯の正体はドラゴンか・・・こいつは面白いモンを聞いた!)
何故か渡り廊下の天井裏に潜んでいたデス・クラッシュは2人の会話をしっかりと耳にしていた。
自分の部屋へ戻ったカトリーヌは、蚊の形をしたカメラを部屋に終結させた。この方法が破られた以上、今後も同じ方法で情報を集めるわけにはいかない。(少なくとも
犯人や二酒に)情報の収集法が露呈してしまっては、何らかの対策を打たれてしまう可能性があるからだ。こうなれば、情報屋は別の方法で情報収集をするしかない。
カトリーヌ「さて、どうしたもんかな〜・・・」
ふと窓を見ると、外の景色は徐々に赤く染められつつあった。カトリーヌはそんな風景をしばらく茫然と眺めていた。すると、突如背後から扉の開く音がした。
カトリーヌは現実世界に一気に引き戻されたような感覚がして、一瞬肩をビクつかせてから振り返った。扉を開けたのはナットだった。
カトリーヌ「・・・ニーナの言った通りね。やっぱアンタにはデリカシーってもんがないわ」
ナット「何だよカトリーヌまで・・・いいじゃねぇかよ別に」
カトリーヌ「で、何の用?」
ナット「お前、イデアの部屋の場所知ってんだろ?教えてくれないか?」
カトリーヌ「成程ねぇ・・・何なら携帯番号も知ってるけど?」
ナット「そういう事じゃねぇよ!いいからさっさと教えろ」
カトリーヌ「ハイハイ、薬剤科の寮の2階を10番目に進んだ右側の方の部屋がそうよ」
ナット「そうか、分かった。んじゃ、ありがとな」
そう言ってナットはそそくさとカトリーヌの部屋を出ていった。

ナットはイデアの部屋の扉の前に立っていた。一気にドアノブに手をかけようとするが、先程カトリーヌに言われた言葉が頭の中で再生された。
「アンタにはデリカシーってもんがないわ」
ナット「・・・チッ」
ナットは取ってつけたようにドアをノックしてからドアを開いた。イデアの部屋は他の部屋と比べて文字通りの異彩を放っていた。壁には黒とピンクが交互に並んでおり、
家具もいわゆるゴスロリと呼ばれるタイプのものが大半だった。こんな部屋で落ち着くのか?というのがナットの第一印象だった。
イデア「あら?あなたは・・・」
ナット「ナットだ。お前に頼みたい事があってな」
イデア「何かしら?」
ナット「ケンを起こしに行った時に使った薬あっただろ?体が透明になる奴。あれが欲しいんだ」
イデア「別にいいけど・・・一体何に使うつもり?」
ナット「何でもいいだろ。とにかく今はそいつが必要なんだ」
イデア「・・・分かったわ」
そう言ってイデアはデスクの引き出しを掴んで中にある薬を取り出した。
イデア「ハイ、これよ」
イデアは少し訝しげな表情だったが薬はすんなりと渡してくれた。
ナット「あぁ、助かった」
ナットは薬が数粒入った瓶を受け取ると、カトリーヌの時と同じ要領で部屋を去っていった。
次章、四散した物語はついに1つの結末へと動き出す!!

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