ワルワルスクールデイズ


伝説のスーパーロングジャンプさん作

第20章

ニーナ達が計画してから1日が過ぎ、ついに隠し部屋への潜入する日がやってきた。準備を終えた4人は談話室に集まった。
ナット「よし、揃ったな。早速行こうぜ」
ニーナ「ちょっと待った。アイツも連れてくから」
ニーナはそう言って携帯電話を取り出す。電話の相手はやはりパーシーだった。パーシーは訳の分らぬまま当惑した顔で談話室にやってきた。
カトリーヌ「んじゃ、これでOKね」
パーシー「え?何がですか?」
ニーナ「さっさと行くわよ」
パーシー「え・・・えぇ〜・・・?」
こうして5人は図書室の地下倉庫に向かっていった。今日は何故か教師達が校舎を見回るようなことはなかった。
パーシー「あ、あの〜・・・ここってまさか・・・」
ニーナ「地下倉庫だけど。見りゃわかんでしょ」
そう言いながらニーナ達は躊躇なく階段を下りていく。戸惑うパーシーも取り残される不安から慌ててその後を追っていく。

一方、シクラメンとアテナは既に地下倉庫で隠し部屋を探していた。彼女達の中で自分の目的と事件の真相が繋がり始めていた。ワルワルスクールに隠された秘密兵器。
それはこの事件の犯人が使ったモノ、すなわちドラゴンなのではないかと気付き始めていたのだ。その時、図書室から階段を下りてくる足音が聞こえてきた。
2人はそこで動きを止めた。隠れる間もなく階段から人影が見えてきた。一方で、降りてきた人物も2人を見てぴたりと動きを止めていた。
ニーナ「何であんたらがここにいるのよ?!」
2人はただ愛想笑いをするしかなかった。
ナット「まぁまぁ、誰だって答えを出したら確かめたくなるもんだろ」
アテナ「そういうことです」
こうして、ニーナ達はそれぞれ隠し部屋を探すことにした。しかし、さすがに30年もの間発見されなかっただけあって、隠し部屋はなかなか見つからなかった。
シド「何処探しても入り口っぽい場所はなかったよ・・・」
ナット「そりゃ隠されてんだから、それなりの仕掛けがあるんだろ」
ニーナは部屋全体を見渡しながら考えた。それからある場所を見つめて近づく。
ニーナ「・・・きっと皆、隠し部屋って言葉から無意識に入り口は扉だって思ってたのよ。皆、壁に意識がいってたんだわ」
そう言うと、ニーナはゆっくりと床に手を当てた。やはりそこの部分だけ少し出っ張っていた。最初は湿気で木材が膨張しているのかと思ったが、どうやらそうでは
なかったらしい。ニーナはその部分を軽く押してみた。すると、今度は逆にその部分は他の床よりもへこんでしまった。さらに、押した時にはボタンを押した時のような
重量感があった。ただの木材の膨張なら中は空洞で、こんな感覚はしないはずだ。ニーナはその部分を押したまま、横へずらそうとしてみた。すると、案の定その部分は
別の床の下に入っていった。ニーナが隠し部屋のふたとも言える部分を動かすと、そこにはマンホールのような重々しい金属が姿を現した。ドラゴンの大きさはどれ程の
ものか分からないが、これが入り口だとすれば恐らくドラゴンが出入りするには少々きつい大きさだろう。
シクラメン「これが・・・」
その入り口には奇妙な形をした線が刻まれており、その線を覆うように細長い金属が取り付けられていた。恐らくこれがロックの役割を果たしているのだろう。しかし、
その上には透明の板が取り付けられていて直接動かすことはできない。代わりに、その板の下の部分にはいくつかのボタンがあった。これを押せば、あのロックを動かす
ことができるのだろう。ただでさえ入り口のロックを外すのが困難なうえ、どのボタンでどう動くのかを見極めなければならない究極のパズルというわけだ。
ニーナ「さぁ、出番よパーシー」
パーシー「・・・え?」
ニーナ「アンタ機械いじりは得意なんでしょ?」
こうして、ニーナ達はパズルを解きパーシーは機械の仕組みからボタンとロックの法則を解析することになった。

エヌ・ジンの書き残した解き方はあったものの、それは大雑把なヒントが書かれているにすぎなかった。パズルロックは予想以上に難しく、ニーナ達がパズルを解き始めて
から既に1時間以上がたっていた。
シクラメン「ふぅ・・・これはかなり難しいですね」
ナット「設計図のヒントもあてになんねーしよ〜・・・」
ナットが力なく投げた設計図を見て、パーシーが何かに気付いた。
パーシー「ちょっと待って下さい・・・これ・・・」
シド「どうかした?」
パーシーは設計図を見ながら、ボタンを慎重に押していく。その度にガタン、と金属が一気に動く音が響く。徐々にバラバラに位置していたロックが中心に集まっていく。
すると、そのロックは何とドラゴンの模様を描き出した。そして、ドラゴンのしっぽにあたるロックの部分がガシャン、と一際大きな音をたてて一気に線から外れた。
それと同時に入り口のふたも穴の底に落ちるように乱暴に開き、不気味な金属音が部屋中に響いた。唐突な音にパーシーは勿論の事、ニーナ達も跳び上がった。開いた
入り口を見てみると、はしごがかかっているようだが、中は真っ暗で何も見えなかった。
ニーナ「・・・・・・やるじゃん」
中へ入ってみると、薄暗かったが辛うじて周りが見えるほどの灯りはどこかからさしてきているようだった。地下のせいかかなりの湿気がある。奥を見てみると一直線に続く
広い廊下があるようだった。どうやら灯りは廊下の脇につけられていたものらしい。天井が高い(というよりもむしろ地面が低い)廊下の左右につけられた電灯は寂しげに
青白い光を弱弱しく放っている。ニーナ達は部屋の奥にかけてあったはしごを降りて、その廊下を渡った。しばらく歩いていくと、さらに開けた空間が見えてきた。
その中心にぽつりと立つ1人の人影が見えた。ニーナ達ははっと一瞬動きを止める。あれはもしかしたら犯人なのではないか、と直感的に感じたのだ。さらに近づいて
その人物の特定を急ぐ。ある程度近づいたところで、その人物の後ろ姿にピンときたのはナットだった。
ナット「・・・マークか!?」
ナットの声に振り返ったのはまさにマーク・プレジテンドだった。
シド「お前が犯人?!」
確かに、マークならあの手のパズルはノーヒントでも解くことができただろう。
マーク「・・・お前達もここに入れたのか」
アテナ「どうしてこんなことを?」
マーク「お前達・・・何か勘違いしてないか?確かに俺はこの部屋の仕掛けを解いた。だが、それは頼まれてやっただけだ」
ナット「頼まれた・・・だと?」
マーク「ああ、傑作パズルを解いてみないか、とか言われてな。まぁ、実際アレはなかなかのもんだったよ」
ニーナ「それは誰なの?」
マーク「それは言えん。言ったら俺は奴に殺される。アルゴスのようにな」
その言葉にニーナ達はひっかかった。マークの発言は、アルゴスもこの事件に関与していたということを意味していた。
シド「アルゴスのようにって、どういうことだよ?!」
マーク「アイツも奴に協力してたんだよ。あのドラゴンを手懐けるのにな。俺が仕掛けを解いた後で、アルゴスは度々奴に呼び出されていたらしい」
ニーナは、あの日アルゴスは、誰かに呼び出されていたんじゃないかと思う、というケンの言葉を思い出した。確かに、ケンの考えは正しかった。知らないうちに別行動で、
ドラゴンのことを調べていたのではないか、という発言も思い出した。これも、あながち間違いではない。ただそこに、実はアルゴスも共犯者だったという予想外の事実が
加わってきた。共犯者が殺されるというのは、大方口封じか2人の間のトラブルによるものだろうということは想像できたが、ニーナは念のためマークに理由を訊いてみる
ことにした。
ニーナ「それじゃあ、何でアイツは殺されたの?」
マーク「さぁな。詳しい事は分からんが、奴はアルゴスがドラゴンのことを誰かに言おうとしていたことに気付いていたのかもしれない。それで、奴はいつものように
アルゴスを地下倉庫に呼び出して、殺した」
アルゴスがドラゴンの事を伝えようとしていた人物。それは恐らくケンの事だったのだろう。自分が興味を持った新たなネタを彼にも教えてやろうとしていたのかもしれない。
ケンがこのことを知ったら、彼は一体何を思うのだろうか。
ナット「それで、他に協力してた奴とかはいないのか?」
マーク「多分いないな」
すると、ニーナ達のいる空間が突如振動した。それからすぐに、グォォオオ、というあの奇妙な音が響いてきた。ドラゴンが近づいてきているのだ。
パーシー「うわぁっ!?」
マーク「・・・まずい。少し喋りすぎたか」
ナット「ついにおいでなすったな・・・」
全員が部屋の奥を見つめた。すると、奥の壁にはさらに隠し扉があったようで、壁に大きなくぼみができたかと思うと、その部分が沈むように下へ降りていった。そして、
あの薄気味悪い吐息の音を一層大きく響かせながら、ドラゴンはついにニーナ達の前に姿を現した。全長は3m程だろうか。ドラゴンは、開いた入り口をスレスレで
通り抜けると、ニーナ達を1人ずつゆっくりと見渡した。次の瞬間、ドラゴンは予想もしない行動に出た。
ドラゴン「・・・今日は、たくさん殺れそうだなぁオイ」
アテナ「喋った!?」
その声はひどく荒々しく、言葉と共に不快な低音が混じっていたので非常に聞きとりにくいものだった。まだコルテックスが若い時に作られた生物だ。声帯が不完全なの
かもしれない。
カトリーヌ「言葉が通じるんなら話は早いわ。アンタは本当にアルゴスを食べたの?」
ドラゴン「んぁ?あぁ・・・あん時は腹が減って死にそうだったからなァ。食おうと思えば何でも食えるもんだぜ」
ナット「マジかこいつ・・・」
マーク「お前ら死にたくないならさっさと逃げた方がいいぞ?」
ナット「何言ってんだ。俺らはアイツを退治しに来たんだよ」
マーク「・・・お前らモンハンのやりすぎなんだよ。無茶にも程がある」
ナット「な〜に、大丈夫さ。こっちには本格的な武闘派がいるんだからなぁ!」
ニーナ「いやアンタらも闘えぇぇ!何アタイ任せにしようとしてんの!」
ナット「んなこと言ったって俺はイタズラ専門なんだよ。ぶっちゃけ前線で闘えるのはお前しかいねぇ」
ニーナ「情けないこと言ってんじゃないわよ。アンタ男でしょーが!」
シド「おい・・・2人とも危ないッ!」
シドの呼びかけに2人はようやくドラゴンがこちらに攻撃を仕掛けてきている事に気付いた。ドラゴンが勢いよく腕を振り下ろすと、2人は間一髪でそれをかわした。
ドラゴン「俺を殺ろうってんならごちゃごちゃ言ってねぇでかかってこいよ!」
雄叫びを上げるかのような大声でそう言うと、ドラゴンは威嚇するようにたたんでいた大きな翼を広げた。体勢を崩していたニーナは、ポケットからヨーヨーを取り出して
立ちあがった。そして、ドラゴンの腹に向けて思い切りヨーヨーを飛ばす。しかし、それはあっけなくドラゴンの腕に弾かれてしまった。さらに、ドラゴンが弾いた
ヨーヨーの先にはシドがいた。意表を突かれたシドはそれを避けられずに倒れてしまった。ドラゴンはさらにとどめを刺そうとシドに近づいていく。
シクラメン「危ないッ!」
そして、ドラゴンがシドに腕を振ろうとしたその時、シクラメンがどこからか花弁を手に取ってそれに思い切り息を吹きかけた。すると、その花弁は燃え盛る炎となって
ドラゴンに襲いかかった。
ドラゴン「何!?」
ナット「アレは・・・ミス・ワルワルスクールの時のやつか!」
彼女が持っていたのは、二酸化炭素からエネルギーを得て燃焼する珍種のシクラメンだった。息を吹きかけることによって過剰に二酸化炭素からエネルギーを取り込んだ
その花は炎へと姿を変えてしまう。
ドラゴン「フン、まさか人間も炎を吐くとはなァ・・・だが甘ぇ。本物の炎ってのを見せてやるぜ!」
シド「炎を吐く気だ・・・!」
そして、ドラゴンが炎を吐こうとしたまさにその時、シドの前に小柄な人影が飛び込んできた。それはシド達をかばってドラゴンの炎をまともに受けてしまった。
ドラゴン(まず1人目だな・・・)
しかし、そんなドラゴンの思惑とは裏腹にシド達をかばった人物は微動だにせず立ったままだった。肌は溶けてしまったかのようにドロドロとしており、気味が悪いほどに
目を見開いていた。
ドラゴン「馬鹿な!人間があんなもんを喰らって生きていられるはずがねぇ!」
シド「大丈夫・・・こいつはもとから生きちゃいないよ。こいつは人間じゃない」
ドラゴン「何!?」
シド「行け」
シドがそう言うと、さっきまで微動だにしていなかったそれはいきなりドラゴンに向かってとびかかった。実は、それはシドが作り出した傀儡だったのだ。徹底してリアル
に作られたシドの傀儡の実物のとの数少ない違いは、有機物ではなく無機物で作られているという点だ。傀儡は躊躇なくドラゴンに攻撃を繰り出していく。ドラゴンは
それを払いのけようと素早くパンチを繰り出した。しかし、傀儡はそれをいとも簡単にひらりとかわした。昨日の改造でシドが新たに付け加えた人間の行動。それは反射だ。
特定の状況に置かれると、自分の意思とは無関係に、且つ瞬間的にそれに対応するための決まった動作をする行為のことである。シドの傀儡の場合、想定された状況になると
あらかじめプログラムしておいた動作をするように設定したことで、人間の反射の動きを再現している。例えば、誰かがこちらにむけてパンチをしてきた時、それを避けて
さらに反撃する、といった具合にだ。そのため、傀儡はシドの操作なしでも充分にドラゴンと闘う事が出来ていた。傀儡はドラゴンの攻撃を避けては反撃を繰り返し、
ドラゴンとの激闘を繰り広げている。
ナット「シドの奴、いつの間にあんなモン作ったんだ」
シド「僕だってたまにはやるだろ?」
カトリーヌ「うーん・・・というよりはあの傀儡がね」
この隙にニーナはドラゴンの後ろへ回り、後頭部に向かってヨーヨーを飛ばした。今度はしっかりと命中したが、ドラゴンは全く動じずニーナを睨んだ。
ドラゴン「・・・ってぇな」
ニーナ「チッ、頑丈な奴ね」
その時、ニーナはドラゴン越しにナットの姿を見ていた。ナットは部屋の脇にあった段差を昇っており、そこから上に向かって指をさしていた。上へ誘い込め、という
ことなのだろう。ニーナはジャンプすると、上に手を伸ばして壁にあった溝をしっかりと掴んだ。そしてニーナは掴んだ所まで一気に上がっていく。ドラゴンも大きな翼を
勢いよく開いて、飛び立とうとした。ビュン、という激しい風の音が鳴り響くと同時にドラゴンの巨体は素早く上昇した。しかし、天井の半分ほどの高さまで上がった
ところで、突如ドラゴンのいた場所から爆発が起きた。かと思えば、視界にはうっとうしいほどの白煙が立ち込め始める。煙玉だ。しかし、ドラゴンの近くには何も
なかったはずだ。ニーナがそれらしきものを投げつけた様子もない。答えはナットが即興で仕掛けた罠だった。カトリーヌ、パーシー、アテナも協力して不可視光線を
発射する装置を設置していたのだ。4つの光線がある1点でぶつかり合い、科学反応を起こして特殊な爆発を引き起こす。それがドラゴンのいた場所で起きたのだ。
ドラゴン(チッ、仕方ねぇ。殺りやすそうな奴から片付けていくか)
視界は最早白一色だったが、ドラゴンは臭いや熱反応でニーナ達全員の位置を把握した。すると、1人はぐれたように立ち尽くしている人物がいるのが分かった。
ドラゴン「お前、丸腰だぜぇ!!?」
ドラゴンが飛んだ先にいたのは、マーク・プレジテンドだった。ドラゴンを警戒していたマークは前線から離れようとしていたのだが、そのことが裏目に出てしまった。
マークの目の前までドラゴンが迫ると、ドラゴンは口から炎を勢いよく噴射した。
マーク「!!」
しかし、結果としてマークにそれは命中しなかった。気がつくと、ドラゴンの前にはマークを脇に抱えたクロックがしゃがみこんでいた。
次章、彼が明かす物語の全貌とは・・・!?

戻る