ワルワルスクールデイズ


伝説のスーパーロングジャンプさん作

第21章

ドラゴン「・・・あぁ?!」
マーク「お前・・・!」
クロック「・・・どうやら、間に合ったみたいだ」
その場にいた全員がクロックを見つめた。先程まで激しい闘いの音が轟いていたのが嘘のように、この空間は急激に静けさに包まれた。
ドラゴン「てめぇ、どっから湧いて出てきやがった?」
クロック「ちゃんと入り口から入って来たさ」
マーク「・・・お前、何で俺を助けた?」
クロックに下ろされたマークは思わずそう口にしていた。
クロック「その言い方だと、まるで人を助けるのに理由が要るみたいだ」
何か答えを予想していたわけではなかったが、クロックの答えはマークにとって予想外のものだった。
マーク「・・・やっぱり、お前はよそ者だな」
マークの言葉もクロックには予想外だった。
マーク「お前はここに何しに来たんだ」
クロック「・・・確かめに来たんだ。こいつを」
そう言って、ドラゴンを見つめる。ドラゴンもクロックに睨みをきかせている。潰れている右目でもはっきりと、睨んでいる、と分かる。
クロック「案の定、右目が潰れてるな」
ドラゴン「だから何だってんだ」
クロック「今、お前の右目は何処にあると思う?」
ドラゴン「何?」
クロックは、ゆっくりと人差し指を自分の右目に向けてつっつくように指した。
クロック「ここだよ」
クロック以外「!!?」
ナット「お前、一体何者だ!?」
クロック「僕よりこいつの方が先だ。お前はネオ・コルテックスに作られた最初のモンスターなんだろ?」
ドラゴン「ネオ・コルテックスだぁ?あのチンチクリンのことか?」
当然、ニーナはそのドラゴンの言葉にいい気分はしなかった。同時に、クロックに対する不信感も他の誰より高まっていた。
クロック「僕もアイツに作られたんだよ。その時に僕はどういうわけか竜の目を移植された。それは恐らく、お前の目だ」
ドラゴン「・・・んだと!?」
ドラゴンには凶悪な顔つきに更に怒りの表情が浮かび上がっていた。
ニーナ「ちょっと待った!じゃあアンタは・・・」
クロックがコルテックスによって作られた動物兵団にいた覚えはない。ともすれば、彼はそれから逃れた反乱分子にあたる可能性が充分にある。
クロック「そうか、君は・・・弟が世話になってるね」
その弟が誰なのかはすぐに分かった。どこかで見た事があるような顔だと思っていたが、それはニーナが最も憎むべき相手だった。敵の仲間は敵。つまり、クロックは敵だ。
ニーナ「なら覚悟しなさいよ。おじさんの邪魔ばかりして・・・」
しかし、言い終わらないうちにドラゴンがクロックに向かって腕を振り下ろしてきた。クロックはこれをさっと避ける。
ドラゴン「俺の目ェ・・・返せよ!」
ドラゴンは怒りの声を上げながらクロックにたたみかけるように襲いかかる。クロックもそれを余裕の表情で避け続けていった。
ナット「おいニーナ・・・復讐は後にしようぜ」
ニーナ「フン、分かったわよ」
ニーナはドラゴンの腕に向かってヨーヨーを飛ばした。しかし、それは攻撃のためではない。ヨーヨーの鉄の糸をドラゴンの腕に巻きつけて思い切り引っ張ったのだ。
ドラゴン「チッ、小賢しい真似を!」
ドラゴンは物凄い力で腕を引っ張り、ヨーヨーの糸を断ち切ろうとした。
ニーナ「うわっ・・・ちょっ、これ手伝って!」
その場にいたナット達もまたニーナを引っ張り、綱引きのような状態になった。頑丈なレアメタルで作られたヨーヨーの糸は、そのような状態になってもびくともしないが、
問題はいつまでドラゴンとニーナ達の力の均衡状態が続くかだ。ニーナ達は今にも吹き飛ばされそうだ。一方でクロックはその隙に剣を手に取り、ドラゴンに斬りかかった。
しかしドラゴンはもう片方の腕を動かし、刃物同然の爪でクロックの攻撃を防いだ。そうこうしているうちに、ニーナ達の力も限界に近づいていた。ドラゴンがさらに
腕に力を入れようとした時、遠くから銃声が鳴り響いてきた。それとほぼ同時に、一瞬ドラゴンの腕の力が抜ける。

ドラゴンの腕に銃を撃ったのはフラップ・ウルフだった。彼はクロックと共にここへ来ていたらしく、廊下の陰から姿を現した。
フラップ「ほぅ・・・こいつが噂のドラゴンか」
わざとらしい態度でそう言いながらも、彼は自分が撃ったドラゴンの腕を見た。見たところ、そこに外傷はほとんどないようだった。ドラゴンにとっては、銃撃もトゲに
刺さったくらいの痛みだっただろう。
フラップ(やはり拳銃じゃ力不足か・・・なら)
フラップは腰に付けていたショットガンを取り出して、ドラゴンに向けた。
クロック「待てフラップ。まだこいつに聞きたい事がある」
ドラゴン「んだとぉ!!てめぇ、その言い方じゃあ俺がそいつにやられるみてぇじゃねぇか!!」
怒り心頭のドラゴンはついにニーナ達ごとヨーヨーを振り払ってクロックに襲いかかった。
クロック「分かった、悪かったよ。それよりまずは話の整理だ」
クロックは相変わらず余裕でドラゴンの攻撃をかわしながら話し始めた。
クロック「お前は30年前にネオ・コルテックスに作られた。でもそのあまりに凶暴な性格を御しきれなかったコルテックスはお前をここに閉じ込めることにした。そうだろ?」
ドラゴン「うるせぇ!!」
クロック「で、お前はやっぱり抵抗したんだ。それでもコルテックスは何とかお前を鎮めようと闘った。そうだろ?」
ドラゴン「うるせぇって言ってんだよ!!」
クロック「その時に、お前はコルテックスに取られたんだろ?この目を・・・」
その言葉を聞くと、ドラゴンは怒号の雄叫びをあげた。30年前、コルテックス達に目玉を潰された記憶が映像として蘇る。それと同時に、どうしようもなく恨めしい気持ちが
込み上げてきた。まさに、ドラゴンの逆鱗に触れてしまったのだ。
ドラゴン「その眼は・・・俺のモンだあああああ!!」
ドラゴンの攻撃は一層激しくなった。しかし、依然としてクロックはその全ての攻撃をうまくかわしている。その隙にフラップは後ろへ回り込みショットガンを撃った。
ドラゴンは悲痛な叫びこそあげたが、やはり致命傷は与えられなかった。
フラップ「チィッ、どんだけ頑丈なんだよ」
すると、ドラゴンは巨大なしっぽを振りまわして2人を攻撃した。2人は何とかこれを避けたが、クロックの目の前には口の中に炎を溜めこんだドラゴンの顔が迫っていた。
クロック(しまった・・・!)
ドラゴンが今まさに炎を吐きだそうとしたその時、ドラゴンの口の真下から突如ヨーヨーが飛んできた。ヨーヨーは勢いよく口にぶつかって、炎はドラゴンの口内へと
逆流して小爆発を起こした。
ドラゴン「ぐあああああ!!」
炎に悶えるドラゴンの前にはニーナが立っていた。
ドラゴン「ぐ・・・てめぇえええ!!」
ドラゴンは怒りにまかせてニーナに襲いかかる。ニーナはヨーヨーを思い切り飛ばした。しかし、それはドラゴンには当たらなかった。
ドラゴン「ハッ、どこを狙って・・・」
ヨーヨーの先にはバンパーを持ったナットがシドの傀儡に投げ飛ばされる形でジャンプしていた。
ナット「これでもくらえッ!!」
ナットはバンパーを思い切りヨーヨーにぶつけて、ヨーヨーをドラゴンの頭へ弾き飛ばした。バンパーの力で2倍の速度になったヨーヨーは最早弾丸に近いスピードだった。
ドラゴンの後頭部にそれが当たると、鈍い音をたててドラゴンは体勢を崩した。
クロック「あれで意識があるのか・・・やっぱりタフだな。ホントは見せたくなかったけど、仕方ない」
そう言うとクロックは右目に巻いていたバンダナを取り始めた。
クロック「お前にもらったのは実は眼だけじゃない。遺伝子もだ。おかげで・・・」
そう言った頃には、バンダナが完全に取り払われてクロックの竜の右目があらわになった。右目の周りだけドラゴンと同じ紫の乾燥した皮膚になっている。すると、次第に
その皮膚の領域が広がってきて、クロックの身体全体に行きわたる。さらに、背中からは翼が一気に生えだし、爪は刀のように研がれていった。そして、ついにはクロック
自身がドラゴンの姿になってしまった。
クロック「こんな姿ももらったよ」
ドラゴン「ふざけがって・・・そんなもんをやった覚えはねぇんだよ!!」
ドラゴンの攻撃をクロックは正面から受け止める。体格はクロックの方が一回り小さいものの、実力は原型にひけをとらなかった。力はドラゴンの方が数段強いが、
クロックはスピードでドラゴンに勝っていた。2人は激しく攻防を入れ替えながら闘っていた。
シクラメン「クロックさん・・・」
シクラメンは2人の所へ行こうと立ちあがった。
カトリーヌ「やめときなよ。アタシらが割って入ってどうにかなるもんじゃないわアレは」
シクラメン「でも・・・私たちにできる事は」
カトリーヌ「見守ることよ。アンタだって分かってんでしょ」
それからは、ニーナ達はただクロックの闘う姿を見ているしかなかった。あまりに激しいその闘いは、近距離どころか遠距離からの援護攻撃をする隙もなかったのだ。
ドラゴンは口に炎を溜めながらクロックにしっぽを振り回す。クロックはこれを素早く避けたが、ドラゴンはさらに溜めていた炎を弾丸のように一気に吐き出した。
しかし、それに気付いていたクロックは寸前で体勢を低くして火炎弾を避けた。すると、クロックの頭を通り越した火炎弾は、運悪くシドのいた場所に飛んできた。
アテナ「・・・危ない!」
アテナはとっさに扇子の月夜桜を手に取り、思い切りシドに振りかざした。すると、そこから凄まじい勢いの突風が起こりシドを吹き飛ばした。
シド「ほぎゃあああ!」
不意を突かれたシドはひどく驚いた事もあってか5m程吹き飛んだ。そのおかげで何とかシドはドラゴンの火炎弾を避ける事が出来た。
アテナ「ごめんなさい。つい・・・」
シド「アハハ・・・いいんだよ。こういうの慣れてるから」
ナット「むしろナイスフォローだ」
カトリーヌ「それより、いよいよここも危なくなってきたわ。このままじゃ足手まといもいいとこよ」
ナット「うーん・・・でも奴の動きは見てなきゃいけねぇ」
その頃クロックにはある不安がよぎっていた。自分が攻撃を避けることで、周りに被害を与えてしまうのだ。しかし、だからといって攻撃を受け続ければ力で数段劣る
クロックはやがてジリ貧負けになってしまう可能性がある。それでもクロックはドラゴンの攻撃を受け止めることを選んだ。元々クロックがここへやって来たのは、
ニーナ達を守るためでもあったのだ。クロックはドラゴンの攻撃を一撃一撃受け止めていく。それに負けないようにクロックも同じ数だけ、あるいはそれ以上の手数で
ドラゴンに攻撃し続ける。しかし、やはりクロックの方が徐々に押され気味になってきた。一方で、ドラゴンもある事に勘づき始めていた。
ドラゴン(こいつ・・・さては周りの奴らをかばってやがるな?)
試しにドラゴンは、視界に入ったナットに火炎弾を吐きだした。
クロック(・・・!まずい!)
ナット「げっ、マジかよ」
とっさにクロックは火炎弾に手を伸ばし、ナットを炎から守った。火炎弾を受けたクロックの腕には、熱さというよりは最早激痛が走っていた。
ドラゴン(やっぱりな・・・あの炎を手で受けようだなんて大した度胸だぜ)
クロックは左腕としっぽでドラゴンを壁に叩きつけた。ドラゴンに攻撃をかばっている事を悟られては勝負は早めに決めなければ厄介だ。しかし、ドラゴンも全身に力を
入れ身体を大きく動かしてそれを振り払った。その拍子にクロックは若干体勢を崩してしまった。その隙にドラゴンは他の標的を探す。そして、捉えた。
ドラゴンは強力な炎をシクラメンに向けて放つ。
シクラメン「・・・あ!」
クロック「ぐっ・・・!」
クロックは瞬時に翼をはためかせ、猛スピードで炎に突っ込んだ。
クロック「ぐあああああ!!」
シクラメン「!!」
クロックにぶつかった炎はさらに大きな爆発を起こしてクロックを包み込んでしまった。シクラメンの目の前にはどこまでも黒い黒煙が広がっている。ようやくその煙が
薄れてきたかと思えば、その中からは元の姿に戻ったクロックが力なく倒れ込んでいた。
シクラメン「クロックさん・・・」
ドラゴン「へっ、なかなかしぶとい野郎だったぜ・・・俺の目、返してもらおうか」
そう言いながらドラゴンはクロックへゆっくりと近づいていく。
フラップ「くそっ、させっかよ!!」
フラップはドラゴンへ近づき、左目を狙ってショットガンのトリガーを引く。見事弾丸はドラゴンの左目に命中し、ドラゴンは左目を抑えながら痛烈な叫び声を上げる。
ドラゴン「てめぇら・・・よってたかって俺の目ェ潰しやがって・・・許さねぇぇぇえええ!!」
耳をつんざくドラゴンの叫び声は、負の感情の塊のようにも思えた。
シド「来るぞ。あのドラゴンは多分蛇のピット器官も持ってる。目を潰しても僕らの場所は分かってるはずだ」
ニーナ「どうする?」
ナット「・・・よし、地下倉庫から出よう」
ニーナ「はァ?」
ナット「いや、逃げるわけじゃねぇよ。奴をここから出るように誘うんだ」

その時、シクラメンには周囲の音は聞こえていなかった。ニーナ達の会話はおろか、ドラゴンの叫び声さえも。彼女はただ、目の前で倒れているクロックを見つめていた。
一瞬の油断だった。クロックが体勢を崩してしまった時、シクラメンは思わずクロックの方に意識を持って行ってしまったのだ。その結果、彼は今自分の目の前で意識を
失い、命さえも失いかけている。自分がほんの一瞬、油断していたせいで。
シクラメン「・・・ごめんなさい」
知らぬ間に、シクラメンは涙をこぼしていた。もう一度、消え入りそうな声で、ごめんなさい、と言う。さらに涙を流した。涙は、一度こぼれ落ちてくると全く歯止めが
効かなかった。いつの間にか、シクラメンも座り込んで泣き崩れていた。その時、目の前にはドラゴンが迫っていたことに彼女は気付いていない。ドラゴンはクロックを
狙ったのか、あるいはシクラメンを狙ったのか、はたまた手当たり次第に攻撃しようとしていたのか、とにかく腕を振り上げた。そして、ドラゴンが腕を振り下ろした
その瞬間、横からヨーヨーが弾丸のごときスピードで飛んできてドラゴンの腕を弾いた。そこでようやくシクラメンはドラゴンに気付き、顔を上げた。
ニーナ「アンタ、泣いてる暇があんならそいつを運ぶの手伝いなさいよ」
自分は、気付くのが遅すぎる。シクラメンはそう感じた。
次章、ナットの悪戯は起死回生の策となるのか!?

戻る