ワルワルスクールデイズ


伝説のスーパーロングジャンプさん作

最終章

一瞬、真っ暗な空間に迷い込んだかと思うと、すぐに別の景色が迫ってきた。ニーナ達が出たのは学校がある孤島から少し離れた無人島だった。日は既に沈みかけており
周りは薄暗かったが、岩山の谷になっている場所であることは分かった。間もなくドラゴンも歪んだ空間からここへ出てきた。
カトリーヌ「・・・聞こえる?とりあえず移動は完了したようね」
ニーナ「で、こっからどうすんの?」
ドラゴンが吐き出してくる炎を避けながらニーナが聞いた。
カトリーヌ「そこの谷に沿って行けば開けた平地に出るわ。まずはそこに誘導して」
ニーナ「分かったわ」
ニーナ達は崖の間を縫うように先に進んでいった。ドラゴンは、デスの剣で翼を傷付けられたせいか乱雑な飛び方になっていた。時々、入り組んだ谷の崖にぶつかることが
あったが、執念でニーナ達を追っていく。一方のニーナ達も、ドラゴンの炎や入り組んだ崖などを避けるのに苦労していた。後ろを見れば、ドラゴンの炎が迫って来ていた
かと思えば、前には崖の出っ張っている岩が立ちはだかる。メドロは慌てて下へ進むと、炎にぶつかった岩の破片がメドロ目がけて落ちてくる。
メドロ「うわっ!」
そう言いつつもメドロは腕で岩の破片を振り払った。
メドロ「危ないなぁ・・・」
ナット「メドロまだだ!」
気付いた時にはドラゴンは既にメドロに攻撃が届く距離にあった。ドラゴンは腕を思い切り振りおろし、メドロを谷底へ叩き落としてしまった。息つく暇もなくドラゴンは
次にニーナ達に向かってきた。
ナット「うっへぇ〜、こりゃ早いとこ目的地に着かなきゃやべぇな」
しかし、ドラゴンとニーナ達の距離は徐々に縮まっていく。ドラゴンは今にも炎を吐きだそうとしている。
ナット「オイ、もっとスピード上がんねぇのか!?」
ニーナ「これが最高よ!」
そして、ドラゴンが炎を吐きだそうと首を動かした瞬間、ドラゴンの頭を何かが踏みつけた。その拍子にドラゴンの口から出た炎は谷底へと落ちていく。頭を踏みつけたのは
エアバイクに乗ったメドロだった。
ナット「何だよ、割と早かったじゃねぇか」
メドロ「幸いエアバイクの外傷も少なかったからね」
ドラゴン「この野郎!さっきから俺をコケにしやがって!!」
そう叫んでドラゴンはさらにスピードを上げる。しかし、ニーナ達の目の前には地面だけが広がる平地が見えていた。
ニーナ「来たわよ」
カトリーヌ「そしたら、地面に×印が書いてある場所があるでしょ?」
見ると、確かに地面に塗られている赤い塗料がエアバイクのライトに反射して×印のように輝いているのが分かった。
カトリーヌ「そこにドラゴンを立たせるのよ。そうしたらアンタ達はすぐに逃げてね」
カトリーヌの後半の言葉がニーナには少し気にかかったが、今はそれを気にしている暇はなさそうだった。ドラゴンも谷を抜けて平地にやってきたのだ。ニーナ達は、
ドラゴンの攻撃を避けながら徐々に印の方向へ近づけていく。そして、ニーナは何故かメドロに向けてヨーヨーを飛ばした。実は、メドロは先程ナットからバンパーを
受け取っていた。メドロはバンパーを使いヨーヨーを真下に思い切り弾き飛ばす。その先にはドラゴンが飛んでおり、さらにその下の地面は×印が描かれた場所だった。
ヨーヨーは目にもとまらぬ速さでドラゴンの頭を直撃し、ドラゴンは勢いよく地面へと落ちていく。その間にニーナ達はできるだけスピードを出してその場から離れた。
そして、ドラゴンが地面の調度×印の交差した部分にぶつかると、一瞬にして山のような高さまで砂煙が舞い上がった。それはただドラゴンが地面に落ちた衝撃だけではなく
地面に埋め込まれていた爆弾によるものだった。その熱風は、すぐさまその場から離れたニーナ達にまで感じられるほどだった。爆発が終わっても、砂煙はしばらく辺りを
さまよったままだった。

見山「やりましたな、セドリック先生!」
セドリック「え、えぇ・・・間に合ってよかった・・・」
2人はあの場所に爆弾を仕掛けておくように校長から指示を出されていた。セドリックによって作られた強力な爆薬を見山が特定の条件下で発動できるような装置を作って
地面の中に埋め込んでおいたのだ。2人は山の崖から爆発の様子を見つめていた。
見山「あれ程の爆発だ。いくら化け物でも耐えられないだろう」
すると、砂ぼこりに混じって地面からまばゆい光がこぼれてきた。
セドリック「あれは何だ・・・!?」
その光は一瞬大きくなったかと思うと、風船がしぼんでしまうように徐々に地面の中に消えていってしまった。一方、ニーナ達にもその光は見えていた。
ニーナ「一体なんだったの?」
メドロ「とりあえず、様子を見に行こうよ」
ニーナ達は砂煙がなくなったのを見計らって爆発後の場所へ戻ってみた。爆発した場所には大きなクレーターができており、かなり深くまで地面がえぐられていた。さらに
近づいてみると、エアバイクのライトに反射して煌めく物があるようだった。ニーナ達は大穴の最深部まで近寄ってみる。底にあったのは何と怪しく煌めく宝石だった。
元々この地面の奥深くに埋もれていたらしく、それがセドリック達の爆弾によって掘り起こされたらしい。
ニーナ「ウハッ、ラッキー!いいもん拾ったわ」
ナット「しっかしあの爆発でよく粉々にならなかったな・・・」
メドロ「何か不思議な力を持った宝石なのかもしれないね」
ドラゴン「うぅ・・・くそぅ、やられた・・・」
3人「!!?」
ニーナ達はドラゴンの声を聞き、すぐに辺りを見回した。しかし、その姿はどこにも見当たらない。だが、気のせいにするにはあまりにはっきりと聞こえすぎた。
ドラゴン「俺の体まで消しやがって・・・」
その言葉はすぐ近くから聞こえてきた。ニーナ達はゆっくりとそこへ視線を向ける。ドラゴンの声は明らかに宝石から聞こえてきていたのだ。
ドラゴン「お前ら一体・・・どこまで俺のモンを奪えば気が済むんだ!」
ニーナ「・・・え〜っと、これはどういうこと?」
真っ暗だった視界が、中心から少しずつ開けていった。その時に見えたのは、妙に顔を近づけているフラップとムートだった。
クロック「・・・何やってんのお前ら」
フラップ「なっ、べっ、別にお前の心配なんかしてねぇんだからな!」
クロック「分かったから・・・近いッ、顔近いって・・・」
ムート「ったく、今回のお前は見ててヒヤヒヤの連続だったぞ。あまり無茶をするな」
クロック「・・・悪かったよ」
シクラメン「あの・・・私のせいで、こんな怪我を負わせてしまって・・・ごめんなさい」
クロック「あぁ、大丈夫だよ。そんなことより、君が無事でよかった」
シクラメン「クロックさん・・・」
カトリーヌ「・・・あの〜、お取り込み中悪いんだけど、どうやら向こうでは面白い事になったみたいよ」
しばらくすると、ニーナ達が保健室にやってきた。ニーナはクロックが目を覚ましているのを見ると、ややしかめ面をしながら迫った。
ニーナ「これ、アンタが探してたモノなんじゃないの?」
そう言いながら、クロックに無人島で拾った宝石を見せる。
クロック「これは・・・」
ドラゴン「おい、てめぇ。こっち見てんじゃねぇよ」
パーシー「しゃ、喋った!?」
クロックは少し驚いたような表情をしたが、その後静かに笑いだした。
クロック「そうか・・・この宝石は魂を吸い取る呪いの宝石と言われているんだ。まさかドラゴンの魂を取り込むなんてね」
ニーナ「よく言うわね。アンタの思惑通りの展開でしょ」
クロック「思惑だなんて人聞きが悪いよ。ただ、こいつは僕が面倒を見るべきだと思ったんだ」
ドラゴン「誰がてめぇの言う事なんか聞くか!調子に乗んなよ!」
そう叫んではいるが、クロックは構わずにニーナから宝石を受け取った。
クロック「どうも、ありがとう」
ニーナ「フン、そのうちアンタもブッ倒してやるんだから」
その時、勢いよく扉を開けて見山が保健室にやってきた。
見山「おお、目を覚ましたかクロック。校長がお呼びだ。悪いが今から校長室へ行ってくれないか」
クロック「・・・ええ、分かりました」
そう言うとクロックはベッドから降り見山に連れられ校長室へと向かった。クロックが保健室から出ていくと、ニーナは軽くため息をついてからカトリーヌに耳打ちを
して言った。
ニーナ「ねぇ、・・・・・・ってどこにあるの?」

一方、ナットとシドは保健室を出るとクレアの部屋に向かった。シドがそこへ行こうと言いだしたのだ。生物科学室を越えてクレアの部屋の扉を開くと、そこにはケンと
クレアがいた。2人は何やら会話をしていたようだが、すぐにこちらに気付いた。
クレア「あら、ナット君にシド君。あなた達でしょ、ケン君を目覚めさせたのは。あまり勝手な真似をされちゃ困るわ」
ナット「まぁいいじゃねぇか。死んだわけじゃないんだし」
ケン「・・・今、どうなってるんですか?」
シド「大丈夫、もう心配いらないよ。それより、僕らは君に伝えるべき事があるんだ」
ケンはその言葉に唾を飲み込んだ。何も言わずに、静かにシドの口から事実が語られるのを待つ。そして、シドがまず最初に言った言葉は、ケンの予想を越えるものだった。
シド「実は・・・犯人には協力者がいたんだ。その人はドラゴンを手懐けるために犯人に呼び出されていたらしくて・・・でも、その人はその事を親友に話そうとして、
犯人に始末されてしまったんだ・・・」
ケン「!・・・それが、アルゴス・・・?」
シドは静かにうなずいた。ケンの脳内には再び過去の映像が流れ出した。自分がアルゴスに事件の事を聞いた時、本当は彼はその事件に関与していた事を伝えたくて仕方が
なかったのかもしれない。だがその結果、彼は殺されてしまった。もし自分がこの事に気づいていれば、彼の死を防ぐ事ができたのだろうか。例えば、自分も犯人に協力
すると宣言すれば、犯人が口封じに彼を殺すことはなかったかもしれない。そんなことを考えたが、全てはもう手遅れであることにケンは気付く。
ナット「で、問題の犯人だけど・・・どの道分かっちまうだろうから言うぜ?」

その頃、ニーナはボイラー管理室の扉を開けていた。室内は狭く、ボイラー室内を映し出しているモニターが壁いっぱいに並んでいる。そんな部屋の隅にいびきをかいて
居眠りをしている人物がいた。ボイラー室管理人のワット・サぺルだ。
ニーナ「ちょっとアンタ、起きなさいよ」
そう言いながら身体を激しくゆすってみるが、いっこうに起きる気配がない。
ニーナ「・・・どんだけ爆睡してんだァアア!ちゃんと管理しろォオオ!!」
そう叫んで思い切りワットの頭を殴って、ようやく彼は悲痛な叫びと共に目を覚ました。
ワット「いったぁ・・・何だいいきなり入ってきて・・・」
ニーナ「何だじゃないわよ。アンタが主犯なんでしょ!」
ワット「・・・普通そういうのってタメて言うもんなんじゃないの?」
ニーナ「うっさいわねぇ、頭きたからその気がなくなったのよ。アンタはあのドラゴンを見つけて、あの部屋とボイラー室を繋げたんでしょ。地下からアイツの声が聞こえて
きてうるさくて仕方なかったわ」
ワット「・・・そっちの方が色々と都合が良かったからねぇ。実際、ボイラー室や僕の存在を知らずにここを出ていく奴も多い」
ニーナ「何であんな面倒くさい真似をしたわけ?」
ワット「噂を作りたかったのさ。30年前、かのネオ・コルテックス博士がそれを作ったようにね」
ニーナ「アンタはおじさんがアレを作ったのを知ってたの?」
ワット「ああ」
ニーナ「しかし噂を作るために人を殺すなんてアンタも随分しょーもない奴ね」
ワット「ここは悪の学校だよ。悪い事をして何が悪い?」
ニーナ「さぁね。アタイの知った事じゃないわ」
ナット「俺らが言う事はこれで全部だ。後はお前の好きなようにすりゃあいい」
ケン「・・・分かりました」
犯人の名を聞いても、やはりその人物に対する憎悪の念は出てこなかった。実際にその人に会った事がないからなのかもしれない。純粋に、その人はどんな人なのだろうか、
と疑問に思った。
ケン「あの、ボイラー管理室って何処に行けばあるんですか?」
シド「え、うーん・・・カトリーヌだったら知ってるんじゃないかな」
ケン「じゃあ、聞きに行ってきます」
クレア「あ、ちょっと。あまり無理しないでね」
ケン「はい」
クレアの心配をよそにケンは徐々に走り始める。その足取りは病み上がりとは思えないほど軽やかなものだった。アルゴスを追う事ができなくなってしまった今、
ケンは彼を抜き去る事を決意した。自分のしたいことは自分で探していくしかない。とりあえず、あらぬ方向へ走りまわってみようと思い立ったのだ。最初の目的地は、
ボイラー管理室だ。

シクラメンとアテナの2人は、これからについて茫然と考えていた。2人はワルワルスクールに隠された秘密兵器を明らかにするという目的を達成したどころか、その
秘密兵器であるドラゴンが倒されてしまったのだ。2人は既にここに居る理由がなくなっていて、むしろ一刻も早くここから去った方がよいくらいだった。結局、2人は
校長室へ退学届を出すことにした。だが、その前に2人はお互いに伝えておきたい事があった。それは、自分が善からのスパイ的存在であったことだ。2人は寮部屋に戻り、
話を始めた。
アテナ「ねぇ、シクラメンにどうしても言っておきたい事があるの」
シクラメン「実は、私も言いたい事があったの」
アテナ「・・・じゃあ、私から言うわね。実は私、スパイをしてたの。でも、シクラメンにだけは隠し事したくなかったから・・・」
その言葉に、シクラメンは心底驚いたようだった。なぜなら、自分もアテナと全く同じ事をしていたからである。
シクラメン「え、本当に!?実は、私もおんなじことしてたの」
アテナ「えぇ・・・!?」
2人はようやく互いの正体を知り、思わず吹き出してしまった。初めて会った日の夜も、確か笑い合っていた気がする。2人は、一緒に退学届を書き始めた。
クロックは校長室の大きな扉を開け、中へ入った。あまり趣味がいいとは言えない美術品がそこかしこに飾られており、薄気味悪かったがいかにも校長らしいとも思った。
アンバリー校長は、窓の外を見つめて立っていた。クロックが声をかけると、アンバリーは振り返ることなく返事をした。
アンバリー「もう用事は済んだのかしら?」
クロック「ええ、お陰さまで」
アンバリー「そう、それはよかったわ・・・私はてっきりここを潰しにやって来たのかと思っていたけれど・・・」
クロック「そう思った上で、僕をワルワルスクールの生徒にしたんですか」
アンバリー「だって、その方が面白いでしょ?」
クロック「・・・本当にあなたは器の大きい人だ」
苦笑しながらそう言うと、アンバリーも不敵な笑い声を出した。
クロック「僕はただ、自分の事を知りたかっただけですから」
アンバリー「それにしても本当に惜しいわねぇ・・・あなたは悪の科学者としての素質も充分にあるのに」
クロック「買い被りですよ」
アンバリー「どう?もう少し、ここに残ってみる気はない?」
そう言われてクロックは、これまでのワルワルスクールでの生活を振り返ってみた。そして、これからの学校生活も想像してみる。頭の中には、フラップやムートらと共に
慌ただしい授業を繰り広げ、ニーナに狙われ逃げ回る自分の姿が浮かんできた。クロックは、再び苦笑してから口を開いた。

ニーナ達は、生物科クラス寮の談話室に戻っていた。ようやく取り戻した日常を満喫するべく、4人は取りとめのない話を始める。
ニーナ「ハァ〜、今日はもう1日で1週間分くらいのエネルギー使った気がする・・・」
シド「もうおなか減ったよ〜・・・食堂に行こうよ」
ニーナ「いや、もうあたい動く気しないからアイツに任せる」
そう言って携帯電話を取り出し、パーシーに電話をする。
ニーナ「あ、パーシー?今すぐ夕食買ってきて。メニューは適当でいいから」
ナット「いや、俺はステーキ弁当で。そこは譲れねぇ」
シド「あ、僕もそれがいいな」
ニーナ「・・・じゃ、そういうことで」
パーシーの返事を聞かないうちにニーナは通話を切った。
カトリーヌ「そういえば、あのクロックって人は目的を果たしたけどもう帰っちゃうのかな。校長はもう少しここに居させたいらしいけどね」
ニーナ「冗談じゃないわよ。あんな毛玉野郎なんかがここに居ると思っただけで腹が立つわ・・・」
そう言いながらも、ニーナはクロックを狙い追いかけまわす慌ただしい学校生活を想像してみる。不思議と悪くはない、それなりに充実した生活のように感じられた。

こうして、ワルワルスクールは数々の因縁を生みながら、生徒達に居場所を与えていく。

ワルワルスクール―――悪人の悪人による悪人のための学校





※この物語はフィクション(作者の妄想)であり、作中でのワルワルスクール及び登場人物などの設定は非公式なものです。

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