ワルワルスクールデイズ


伝説のスーパーロングジャンプさん作

第4章

授業終わりの寮にて、どこからか興奮気味に宣伝をする野次馬生徒の威勢のいい声が聞こえてくる。
「大スクープ大スクープ!本日のワルワルスクール新聞は上ネタ揃いだよー!」
今、ワルワルスクールではいくつかの話題で騒がれている。1つは転校生がこの学校に入学してきたという噂だ。(この学校の制度から考えると転校という概念があるのか
どうかは微妙なところだが)しかも、何の試験もなしにいきなり6年生に入ったということまで流れている。そんなことはワルワルスクールでは異例の事であり、生徒達は
当然この噂について様々な反応を示し、何らかの事情でアンバリー校長に優遇されているとの憶測やそれらについての批判なども起こる始末であった。そんな噂が、ある男
の耳にも入って来た。男の名はマーク・プレジテンド。通称『悪魔の男』。その異名通り、かなり危険な男である。4年前、この学校に入学してきてわずか3年で12年生
まで上り詰めたが、去年、ある理由で1年生まで落第してしまった堕ちた天才だ。そんな彼の荒んだ心は今、新聞の写真に写った転校生に向かおうとしていた。
マーク「気にいらねェ・・・こいつ・・・気にいらねぇぜ・・・」

ナット「むか〜し昔、図書室の地下の進入禁止になっている場所が気になった少女が、夜中に地下の階段に進入してしまいました。扉を開けるとその部屋には、あらゆる
研究資材が非常〜に雑に転がり落ちていて、不気味にも程がある雰囲気の部屋でした。少女は持っていた懐中電灯をつけ、その部屋をさらに探検してみることにしました。
すると、並んでいる棚の奥から・・・ガシャン・・・ガシャンと不気味な音がするではありませんか!少女は音がした方に懐中電灯を向け、様子をうかがいました。
ガシャン・・・ガシャン。次第にその音は大きくなっていきます。その音に合わせて今度は床から振動が伝わってきました。何かがこっちに近づいている・・・
そう思った少女は最早恐怖で足を動かすことができませんでした。そして・・・ドタン!突然大きな棚が倒れてしまい、その奥に見えたのは・・・・・・
グォォォオオオオオ!!!」
皆「ギャアアアアア!!」
突然の叫び声が談話室にこだました。
ナット「それ以来、その少女の姿を見た者は1人もいないそうな・・・」
現在、どこの談話室でもこのような怪談が語られている。これが今、ワルワルスクールで話題になっている噂の2つ目だ。いつ誰がこの噂を広めたのかは謎だが、それは
怪談にしてはあまりにも具体的でリアルな話であったために、これは事実なのではないかという憶測まで飛び交っている。
シド「何だよそれ怖すぎるよ!」
ニーナ「っていうか、ナットの喋りが上手すぎるのよ!」
談話室の灯りがついた後も、ほとんどの者が身震いしていた。
ナット「な〜に、地下倉庫にはおっそろしい化け物がいたっていうただそれだけの話だよ」
どうせこの話も時がたつにつれて忘れられていくのであろう。これまでワルワルスクールで流行ってきたいくつもの噂話のように。この時、ナットはそう思っていた。
そして、3つ目に話題になっている事は勿論、4年に1度だけ行われるという例の行事。ミス・ワルワルスクールの話題だ。今、学校中の男子を中心に誰が選ばれるのか
という話題が頻繁に飛び交っている。中でも、この人なのではないかといういわゆる優勝候補に、現在2人の名が挙げられている。シクラメン・バンディクーと
アテナ・バンディクーである。不気味で異様な雰囲気のワルワルスクールには全く似つかわしくない程美人とのことで、心優しくおしとやかなのだそうだ。やがて、
一部の男子生徒の間では大きくシクラメン派とアテナ派の派閥に分かれて熱い論争が繰り広げられるようになるほどであった。ここまで話題をさらっておいて、当の本人達は
今更ミス・ワルワルスクールに出場しないという訳にはいかなくなってしまった。(勿論、既に他人に名前を投書されてはいるのだが)そして、ミス・ワルワルスクール当日
まであと1週間となり、いよいよこの話題は一層盛り上がりを見せていた。そんな中、ニーナ達は次の授業の教室へ行くために廊下を歩いていると奥ではやけにピリピリした
空気になっていた。デス・クラッシュとダークネス・ダークがいたからである。
ニーナ「あ、おもしろそーなの発見」
見ると、2人は何やら(いつものことだが)言い争いをしているようだ。
ダークネス「お前は全然アテナの良さが分かってないな」
デス「知るかそんなもん。シクラメンのが断然上だ」
この会話から察するに、この仲の悪い2人は見事にシクラメン派とアテナ派に分かれ、言い争っているらしい。因みに、どちらも本人との面識はない。
ナット「ブフッ!いつにもましてくだらねぇー!」
ダークネス「誰だ今くだらないとか言った奴は!?」
ナット「やべー聞こえてた・・・」
ニーナ「・・・あたい知〜らない」
そう言って颯爽とナットから離れて様子を窺った。ナットは、何気にシドとカトリーヌもニーナについて様子を窺っていたところに何となく腹が立った。
デス「分かった、お前俺に喧嘩売ってるんだな?」
そう言ってナットまで歩み寄り、顔面に思い切り殴りかかろうとした。ナットはそれをかわそうとしたが、間に合わずにナットの頬に命中してしまった。
ナット「ぐっ、くそ!」
ダークネス「俺の攻撃は避けられるかな?」
続いてダークネスがナットに殴りかかって来た。が、
ナット「お前はうっせぇ!」
ダークネスは簡単に弾かれてしまった。そして、弾き飛ばされたダークネスはデスにぶつかり、デスのボルテージをさらに刺激してしまった。
デス「お前はホントにうるせぇ!!」
そうして、デスはダークネスの関節を固めてこれでもかというほど顔面を殴り続けた。
ダークネス「ぶっ・・・お前、次会ったらブッ!・・・会ったらいのブッ!ちょっ・・・まっブホォ!」
ナット(よし、今のうちだ・・・)
ナットはこの間に何とかこの危機を脱することに成功した。そこへ、その様子を見ていたニーナ達がやって来た。
ニーナ「ちょっと、面白かったんだからもうちょっとぐらい引っ張りなさいよ」
ナット「バカ言うなよお前・・・」
シド「それにしても、これだけ話題になるなんてその人一体どんな人なんだろうね」
カトリーヌ「じゃ、見に行きますか♪」
ナット「・・・またこのパターンか」
男子「アテナさん、是非僕と付き合ってくれませんか?!」
アテナ「あの・・・ごめんなさい。私、あんまりそういうの受け入れられないんです」
カトリーヌ「ありゃ〜見事に玉砕。まさに高嶺の花ね」
人気のない廊下で、ニーナ達はアテナを観察していた。と、ここでカトリーヌが彼女の基本情報をニーナ達に教えだした。
カトリーヌ「自然科学クラスの6年生、19歳。和風な物が大好きでいつも扇子の月夜桜を持ち運んでいるそうよ。見た目については見ての通りで、入学してから計774回男子に
告られたけど、1回もOKしたことがないという伝説を持っているわ。まぁ、今ので775回になったけどね」
ニーナ「というか、そんだけ前例あるんなら結果は見えてんでしょあいつ・・・」
カトリーヌ「男ってのはバカな生き物なのよ」
すると、ナットは携帯電話を取り出しパーシーに合図のメールを送った。
パーシー「・・・これホントにやるんですか〜?」
ニーナ達とは別の場所に隠れていたパーシーは、気弱にぼやきながら恐る恐る仕掛けを作動させる。すると、先ほど告白した男子の頭上から大量の水が落ちてきた。
10秒もの間その男子はその滝に打たれ、やっと水がなくなったかと思うと、間もなく巨大なタライが男子の頭を直撃した。そのタライにはよくみると、
"残念でした〜バ〜カ!"という文字が書かれていた。少しの間、場の空気が固まり男子の哀愁が辺りに蔓延した。その沈黙を破るようにナットがマイクを持って男子に
歩み寄る。
ナット「いや〜ざんね〜ん!ごめんなさいの即答でした〜。ここまでキッパリ断られたら逆に清々しいですね〜。どうですか今の心境は?」
男子「・・・・・・」
カトリーヌ「ホラ、あそこにもバカが一人・・・」
次の瞬間、アテナの目の前に鋼鉄の腕が横切った。その腕はナットの頬に見事に命中。しかも、それはさっきの喧嘩でデスのパンチを受けた頬だった。この強烈なパンチを
放ったのは、勿論ニーナだ。ニーナはとうとう隠れていた場所から出てきた。
ニーナ「ハイ、おふざけはそこらでおしまいよ」
ナット「ちょっ・・・お前、1回自分で自分を殴ってみろ。その腕のパンチがどんだけ痛ぇか分かってねェだろ!?」
アテナ「あの・・・あなたたちは一体何なんですか?」
ナット「あぁ・・・俺はナット・プランク。アンタがミス・ワルワルスクールの優勝候補だって聞いたんで、どんな奴かと思ってね」
アテナ「そうなんですか・・・そちらの人は?」
ニーナ「アタイ?アタイはニーナ。ニーナ・コルテックスって言うのよ」
アテナ「(コルテックス・・・?)そうですか。私はアテナ・バンディクーです。とりあえずよろしく」
ニーナ「(バンディクー・・・?)えぇ、こいつのせいで変な出会い方になっちゃったけど、よろしく」
お互い何か引っかかる所があったようだが、とりあえず挨拶を済ませてその場を去っていった。

そして1週間後。この日は待ちに待ったミス・ワルワルスクール当日だ。皆のテンションもかなりハイになっている。ミス・ワルワルスクールは午後から始まるが、午前中の
授業はほとんどの者が上の空だ。そして午後の授業が終わって昼休みになり、いよいよ本番が近付いてくる。
「さぁ今年は誰が優勝する!?優勝者を当てれば一攫千金も夢じゃないよー!現在の一番人気はシクラメン・バンディクーで倍率1,2倍だー!」
午後1時ごろ、ミス・ワルワルスクールが開催される1時間前から大広間にはほとんどの者で埋め尽くされ、賭けごとで儲けようと企む者も出てきた。ここ大広間は、
ワルワルスクールの中で最も広い部屋で全校生徒や教師が余裕で入るほどの広さで、主に大きな行事や全校集会を開くときに使われる。出場者であるニーナ達は、
その奥の控え室にいた。
ニーナ「しっかし意外と人多いわね〜」
ミス・ワルワルスクールには毎回50人程の出場者が出るが、今年は63人と割と多めの人数だったため、控え室が窮屈に感じられた。その時、偶然にも優勝候補である
シクラメンとアテナは隣り合った椅子に腰かけた。この時、2人は初めてお互いの顔を合わせた。
シクラメン「あら?あなたはひょっとして・・・」
アテナ「え?もしかして、あなたは噂のシクラメンさん・・・」
こうして2人は、噂と容姿を頼りに互いが互いを認識した。すると、2人は見る見るうちに打ち解けていった。
シクラメン「え!自然科学クラスだったんですか?私もですー!」
アテナ「学年が1つ違ってたけれど、もしかしたら寮で既に会ってたかもしれなかったんですね!」
そんな会話をしていると、控え室にマダム・アンバリーが入って来た。
アンバリー「皆さーん!いよいよ始まりますよー!準備しててちょーだい!」
そう伝えると、今度は大広間の台に立って全校生徒に向けて挨拶をし始めた。
アンバリー「皆さん、ごきげんよう。今日は皆さんが待ちに待っていたミス・ワルワルスクール開催日です。4年に1度のこの時を存分に楽しんでねェ〜!」
校長の挨拶が終わり、次に司会者からミス・ワルワルスクールの説明が始まった。
司会「まず、エントリーNo順に出場者による1分間のアピールタイムが行われます。出場者はアピールタイムにおいて何をするかは基本的に自由であり、各々の個性を
遺憾なく発揮してもらいます。全員のアピールタイムが終了した所で、全校生徒は配布される番号ボタンで最も魅力を感じた出場者のエントリーNoを入力して投票して
もらいます。そして最もその票を集めた出場者が、ミス・ワルワルスクール優勝者とさせていただきます」
何とも滑舌のよい司会者の説明が終わり、いよいよミス・ワルワルスクールが始まった。トップバッターは、まだあどけなさが残る10歳の少女、リサだった。そのため彼女は
"面白そうだから"という非常に軽いノリでこの行事に参加したのだが、それゆえ彼女にはトップバッターとしてのプレッシャー、緊張感などは一切見られなかった。
リサ「ホントに何やってもいいんだね?」
彼女は舞台袖から一気に舞台の中心まで駆け出した。その様子はまさに無邪気にはしゃいで遊んでいる幼い子供そのものだった。リサは持ち出したバッグの中から小さい大砲
のようなものをいくつも出した。そして手元のボタンを押すと、自動発火装置が作動したらしく並べた大砲から一気に激しい光が飛び出してきた。その光は花火のように
火花を散らして光り輝き、白い煙の尾を引きずりながら大広間を所狭しと駆け巡る。その姿はまるで亡霊の魂が辺りを彷徨っているかのようにも見える。リサは無数の光が
舞う中で、その光と共にいかにも楽しげに踊っていた。皆はその幻想的な景色に圧倒され、見とれていた。恐らく生徒達のほとんどはシクラメンかアテナが優勝すると
確信しているだろう。だが、彼女が少なくとも皆の心に癒しと快楽を与えていたことは確かな事実だった。最後に、生きているかのように宙を舞っていた光が、命の散り際に
一際大きな花を咲かせる線香花火のように、最後の力を振り絞るように弾けて飛び散った。その時、ちょうど1分が経過していた。リサは深く一礼をして舞台を去った。
観衆は調子のいい拍手や口笛で、会場をより一層盛り上げた。続いて、舞台に出てきたのは5年生のイデア・メルシュムだった。イデアは懐から管のような物を取り出した。
イデア「さぁ、出てきてちょーだい!」
すると管がカタカタと動き出し、瞬間、管から一杯に光が溢れだしてきた。かと思うと、中からイデアの身長の半分程の生物が飛び出してきた。その姿を見て、舞台を
見ていたシドはハッとした。
シド「あれは・・・インプ(小悪魔)!?」
インプの容姿は一見可愛らしいが、時折粗暴な一面を見せることからそう呼ばれている。そんなものを出して一体何をするつもりなのだろう?と、インプが小さな翼を
はためかせた。イデアはインプの背中に乗って、舞台から浮き上がる。そのままイデアは、インプと共に大広間の中を飛び回った。
ムート「見ろ!シャッターチャンス到来だぞッ!」
カメラを構えていたムートが思わず叫んだ。それを聞いてクロックは瞬時に嫌な予感を察知した。
クロック「待て!お前何を撮る気だ!?」
偶然傍にいたクロックによってムートの野望は食い止められた。そんなクロックの小さな活躍を知る由もないイデアは、さらに懐から粉薬の入った試験管を取り出し、それを
空中に振りまいた。その粉は空中で細かく分裂し、大広間を埋めつくさんばかりの粉が銀色に煌めきながら宙を舞った。その景色は、さながらダイヤモンドダストのような
絶景だった。舞台をぼんやり眺めていたクロックも、この景色には見とれていた。元々女嫌いだったクロックは、この行事にはあまり乗り気ではなかったが、まさかこの
ワルワルスクールでこれほど癒される景色が見れるとは夢にも思っていなかった。やがて、粉は空気中の分子と結合して瞬く間に消えてしまった。まるでそれが幻であった
かのように。その後も、出場者の割と派手な演出が続いていく。それを眺めていたクロックは、ふと隣に座っていたフラップにこんなことを訊いた。
クロック「なぁ、確かこれが終わったらダンスパーティがあったんだよな?」
フラップはその言葉の真意を測っていた。クロックがそういうことに興味を示すとは珍しい。
フラップ「あぁ、5時から夜中まで。今夜限りは夜更かしもOKだ」
そう、今日は宴の日だ。夕食はいつも以上に豪華になり、大広間では生徒や教師達が我を忘れて踊り狂う。そういう日では、校則も多少(かなり)緩くなるものだ。
クロック「そうか・・・(よし、動くなら今夜だな)」
一方、控え室で準備をしているニーナはかなり緊張した面持ちだった。刻一刻と自分の出番が迫ってくる。そして、前の出場者の1分間があっという間に過ぎていよいよ
ニーナの出番がやってきた。ニーナは意を決して舞台に向かっていった。
次章、とんでもないハプニングが勃発する!?

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