ワルワルスクールデイズ


伝説のスーパーロングジャンプさん作

第7章

朝が来た。外では小雨が降っているのが寮部屋の窓から分かる。今朝はほとんどの者が寝ていない。昨日の興奮が冷めやらぬ中、ある者は夜中まで踊り狂い、またある者は
寮部屋で朝までゲーム大会やら飲み会やら雑談やらが行われていた。ニーナ達の夜は・・・雑談に入るだろうか。この時、昨日の事件を把握していたのはニーナ達だけ
だった。皆夢中で宴に興じていたため、ほとんどの生徒は図書室付近などには近寄らなかったのである。教師達が研究室で推理をしていた時、ニーナ達もまたナットの部屋に
集まって推理をしていたのである。そんな中、突然寮全体に放送が流れた。時計を見るとちょうど午前7時だった。スピーカーから聞こえてきたのはアンバリー校長のあの
甲高い声だった。
アンバリー「皆さん、おはようございます。実は、今日は皆さんに大事なお知らせがあるので午前8時から全校集会を開きます。どんな格好でもいいので必ず全員が集まる
ように・・・以上です」
今言えよ・・・ニーナ達を除いて全員がそう思った。ニーナ達には集会の内容は想像がついたので納得できた。むしろあんなことをスピーカーから聞かされる方が納得が
いかない。とはいえ、本来今日は休日のはずだった。ワルワルスクールにも一応、毎週日曜日には休みがある。(寮制なので結局はワルワルスクールで過ごすが)
ミス・ワルワルスクールも、二日酔いの生徒が出てくることを想定して土曜日に開催されたのだが、8時からとなると普段授業が始まる時間よりも若干早い。このことからも
生徒達は、何か余程の事でもあったのだろうかと感づく者も多かった。
シド「・・・とりあえず、食堂行く?」
ニーナ「いや、今日は食べる気しないわ」
実際、皆顔がげっそりしていた。徹夜でお菓子をつまみながらあんな話をしていれば無理もない。ナットに至っては缶ビールを3本ほど空にしている。結局、ニーナ達は
このままぼんやりと集会の時間になるまで待つことにした。

そして、午前8時。記憶に新しい大広間に再び全校生徒が集まる。やはり、ほとんどの生徒はげっそりしている。朦朧とした意識の中、寮、学年ごとに適当に席に腰かける。
ようやく全員が座ると、アンバリー校長が登壇した。
アンバリー「皆さん、おはようございます」
さっき聞いた。皆そんなことを言いたげに顔をしかめている。
アンバリー「今回皆さんに休日にも関わらず集まってもらったのは他でもありません。昨日午後5時半ごろ、一人の生徒が死んでいました。それも立ち入り禁止のはずの
地下倉庫で・・・」
この発言で生徒達の酔いは一気に冷めた。誰もがあの噂を思い浮かべたのだ。さすがにざわつく気力は残っていなかったようだが、生徒達の動揺は見て取れた。
アンバリー「死んだ生徒は6年生生物科のアルゴス・クランケット・・・」
この台詞に一際目を丸めた生徒がいた。同じ6年生生物クラスのケンだ。彼は決して友人が少ないわけではないが、心から親友と言えるような人物はアルゴスくらいなもの
だったろう。ケンの性格はアルゴスと似たところがあった。授業中はいつも寝ている怠け者だったが、一度関心を持ったことには最後までやり尽くす。前にアルゴスの異様な
までの執着には呆れかえる者がほとんどだと書いたが、ケンは唯一彼と共に限界に挑んだものだった。ただ、彼がアルゴスと決定的に違っていた所は、彼は自分の将来に
ついて悩みを抱えていることだった。アルゴスは自分を認め、生きることに目標は必要ないと割り切って生きていたのに対し、彼は大事なことに興味を持てない自分に不安
を感じていた。このまま何の目標も夢も持たず、ただ目の前にある興味を消費していったとして、自分の人生はこれからそれで満たされていくのだろうか?と。だが、
悩んだところで本質的なことに興味をもてるわけではなかった。それならばいっそ、アルゴスのように割り切ってしまおうか・・・そう思い悩んでいた矢先の出来事だった。
アルゴスが死んだ―――
その後の事は頭に入ってこなかった。

30分程、説明や注意の話が続いて集会は終わった。立ち入り禁止の場所には近寄らないように。要約すると、6割程度はそんな内容だった。
ニーナ「何か・・・結局説教ばっかで情報は少なかったわね」
ナット「これだから集会は嫌いなんだよな」
シド「こうなると、カトリーヌの情報だけが頼りだね」
カトリーヌ「任せなさ〜い!早速かなりの有力情報をゲットしたわ」
シド「いつの間に!?」
考えてみれば、ここはあらゆる謎の宝庫だ。カトリーヌは昨日の夜からずっとニーナ達と一緒にいたし、情報を探っているような素振りも見せなかった。一体彼女はどういう
経緯で情報を手に入れているのだろうか?
カトリーヌ「どうやら、昨日先生達も制服から何か見つからないかと検査していたみたい」
どうやら、みたい。彼女はそんな言い方をしたが、かなり確信を持っている。
カトリーヌ「そしたら、制服のところどころから唾液が検出されたそうよ」
シド「だ、唾液?」
ニーナ「汚いわねぇ・・・」
ナット「その唾液が誰のものかは分からなかったのか?」
カトリーヌ「さぁ」
ナット「一番大事なとこだろがそこ・・・」
ニーナ「そういえば、あの制服だいぶボロボロだったわよ。もとからあんなにボロボロだとは思えないわ。結構あそこでもめてたんじゃない?」
シド「ってことは、犯人はその場にいたってこと?」
ナット「そうなるな。何かの仕掛けを設置して殺したってわけじゃなさそうだ」
シド「だとすると、結構容疑者は絞り込めるんじゃないのかな」
あの日はほとんどの者が大広間にいた。地下倉庫どころか図書室付近に近寄った者さえそうそういない。
カトリーヌ「成程ね、つまりあの日大広間以外の場所にいた人が容疑者ってわけね」
そう言ったカトリーヌには、何かあてがあるようだった。

一方、寮へと通じる廊下を2人が歩いていた。その周りだけ、何故か華やかな雰囲気が漂っている。シクラメン・バンディクーとアテナ・バンディクーだ。すっかり意気
投合した2人は、ミス・ワルワルスクールが終わった後も同じ寮部屋で深夜まで話をしていた。ようやく親友を見つけた。そんな様子にも見えた。
シクラメン「ねぇ、さっきのこと、どう思う?」
既に敬語は外れていた。夜遅くまで話し込んでいるうちに、敬語をつけているのが馬鹿らしく思えてきたのだ。堪え切れなくなってお互い吹き出してしまった。それが
きっかけだ。
アテナ「・・・何か嫌な予感がするわ。あの事件には、何か裏がありそうな気がする・・・」
シクラメン「それって、あの噂の事?」
アテナ「それもあるのかも・・・」
実際、シクラメンも同じことを思っていた。これはただの事件ではない、まして普通の殺人事件でもない、決して他人事にはできない何か大きな問題があると感じていた。
それはこの2人が持っていた、ある目的を果たすための使命感のようなものが影響していたのかもしれない。2人の会話が止まろうとしていたその時、目の前に1人の少女
が現れた。というより、2人の前に立ち塞がった、という感じだろうか。何故か不服そうな顔をしてこちらを睨んでいる。
シクラメン「・・・どうしたの?」
二階堂「あなた達、ミス・ワルワルスクールに選ばれたからって調子に乗るんじゃないわよ」
シクラメン&アテナ「え?」
この少女は二階堂可憐(にかいどう かれん)という5年生の生徒である。彼女はあの日、観客席から出場者達を見つめていた。彼女にはあの場に立つ自信はなかったのだ。
それは身長が低いという体型的なコンプレックスもあったのだが、過去のトラウマも少なからず関係していたのかもしれない。彼女は此処に来る以前、日本の中学校に
留学生という形で通っていた。彼女はそこで誰とも交友関係を築けなかった。イジメを受けていたのである。"お前に生きる価値などない"。その言葉は、今もその小さな
胸に傷跡を残している。だからこそ、彼女は恨めしかった。周囲の人間から好かれていて、大事にされているあの2人が。もしかしたら、羨ましさもあったのかもしれない。
二階堂のその眼には、嫌悪と悲しみの色が浮かんでいるように見えた。人は自分に足りないモノを恨み、羨むものなのだろう。そして、その足りないモノに勝る何かが自分
の中にあるということを確認しようとする。
二階堂「私と勝負しなさい」
シクラメン&アテナ「・・・はい?」
二階堂「私と水泳で勝負するのよ!今日の午後1時に水泳部の活動場に来なさい。いいわね?」
2人は突然の展開に困惑した様子で顔を見合わせた。結局、二階堂はそれだけ言ってその場を立ち去ろうとした。
アテナ「あ、じゃあ。外出るときは気をつけてね」
二階堂「・・・私は18よ!」
振り返ってそう叫ぶと、彼女は一目散に走りさっていった。アテナとシクラメンは再び顔を見合わせた。

その頃、違う廊下ではある男が歩いていた。猫背で歩いているため、まるで何かに落ち込んでうなだれている少年のようだ。その姿はどこか不気味な雰囲気さえ漂っている。
その時、その青年に突然声がかかってきた。はきはきとした随分と威勢のいい声だった。
見山「おお、二酒じゃないか。・・・ちょっと話をしないか?」
二酒というその青年はおっくうそうにゆっくりと顔を上げ、見山を見た。彼の眼は冷たかった。呼びかけられたことにかなり不満げな様子だ。
見山「・・・とりあえず、立ち話もなんだ・・・俺の部屋にでもよっていけ」
見山はそれをなだめるように言ったが、彼は無視してその場を過ぎ去ろうとした。見山はそんな二酒の腕を掴んでむりやりその場に留めた。
見山「なに、ちょっとお前と話がしたいだけだ」
そう言って二酒の腕を強引に引っ張って見山の部屋に連れて行こうとする。二酒は離せと言わんばかりに顔をしかめながら抵抗した。しかし、見山の腕力は強かった。
見る見るうちに二酒は見山に引っ張られていく。下手をすれば生徒への虐待とも捉えられかねない光景だ。しかし見山は相変わらず陽気な声を出して二酒を引っ張っていく。
こうして、二酒は見山の部屋に強引に引きずり込まれていった。

カトリーヌ「二酒弦(にのさか げん)。機械科学科10年生。こいつは昨夜は大広間には居なかったわ。おまけに兄は日本でテロを企ててるって噂の本格派よ」
生物科学クラスの談話室では、ニーナ達4人が今後の調査について話し合っていた。
ナット「つーかよぉ、疑問なんだがお前そんだけ情報持ってんのに何で犯人のことは分からねえんだよ」
カトリーヌ「私は神様じゃないのよ。全部が全部知ってるわけじゃないの」
ナット「それにしたって都合が良すぎるだろ・・・」
カトリーヌ「確かに、私の情報網をすり抜けてこんな大胆なことしでかしたのは正直びっくりだわ。かなり計画的な犯行なのかもしれない」
ニーナ「それで、そいつのことについて何かもっと詳しい情報はないの?」
カトリーヌ「二酒弦は冷酷な性格でね。ああいう行事には興味がないからあの時から既に別の場所にいたわ」
シド「それがどこかは分かってないの?」
カトリーヌ「少なくとも、1か所には留まっていなかったわ。人目につかない場所を歩き回っていたみたいよ」
ニーナ「それは怪しいわね・・・」
カトリーヌでも犯人の決定的な情報を持っていないことと、彼女が二酒の具体的な行方を言わなかったことがますます怪しかった。つまり、二酒は人目につかない場所を
歩き回ることで、やがてはカトリーヌの情報網をもすり抜けて、その間に犯行に及んだ可能性があるのだ。
カトリーヌ「事件を調べるなら、まずは彼に聞き込みをする必要があるわ」
ナット「それで、その二酒ってのは今どこにいるんだ?」
カトリーヌ「ついさっき見山の部屋に連れてかれたみたいだけど?」
ニーナ「げっ、あたいあいつの相手苦手なのよね・・・」
カトリーヌ「・・・じゃあ、あいつに行かせてみれば?」

パーシー「ふぅ〜・・・もうすぐで完成だぞ」
時を同じくして機械科学クラスのある寮部屋では、パーシー・リグレットが何やら大がかりな機械をいじっていた。彼が最後の調整を行おうとしたまさにその瞬間、彼の
携帯電話が鳴り響いた。彼はその音に激しく動揺した。見ると、サブディスプレイに映っていたのは、予想通りニーナ・コルテックスの文字だった。意を決して携帯電話を
手に取るパーシー。どうして携帯電話に出るのにこれほどの勇気が必要なのだろうか?と疑念を抱きながら電話に出る。
パーシー「も、もしもし・・・パーシーですけど・・・」
ニーナ「知ってるわよ。あのさぁ、あんたに調べてもらいたいことがあるんだけど」
ニーナは事件についてのことをパーシーに話し、今すぐ二酒の所へ行って聞き込みをしてくるように言った。
パーシー「え、二酒って・・・む、無理ですよ〜僕10年生なんてそんな上級生の人と喋ったことないんですよ!?」
ニーナ「知らないわよそんなの。同じ機械科でしょ?どうにかなる!」
パーシー「そ、そんなぁ〜・・・」
ニーナ「いい?まずあの夜どこにいて何をしていたのかは絶対訊きだすのよ。でないとアンタを骨が折れる寸前の体勢で身体を固定してやるからね!」
パーシー「ひ、ひぃ〜罰が具体的過ぎですよ・・・」
ニーナはこういう具体的な罰を挙げた時は、必ずと言っていいほど実行する。実際、過去にパーシーは何度もその実験的な拷問具の餌食となってきた。この発言も恐らく、
最近考え出した実験のひとつなのだろう。パーシーは、自分が実際にその実験の被験者となっている光景が目に浮かんだ。考えただけでも背筋が凍る。
パーシー「分かりましたよ・・・やってみます」
ニーナ「よく言った」

こうして、見山の部屋へ向かうことになったパーシーは、うなだれながらとぼとぼと廊下を歩いていた。皮肉にもその姿は、さっきこの廊下を歩いていた二酒の体勢とよく
似ていた。パーシーの足取りは重い。それでも、10分もたてば見山の部屋がある機械科学室についてしまった。彼は静かに教室の戸を開ける。まるでろくな下見もせずに
入りこんできた空き巣のようだ。教室には誰1人いない。休日なのだから当然だ。休みの日に好き好んで教室に入る者などそうそういない。教室のさらに奥の部屋から見山
の大きな声が聞こえてくる。パーシーはそのドアに耳をあて、しばらく様子を窺う事にした。
次章、パーシーは無事情報を得ることができるのか!?

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