ワルワルスクールデイズ


伝説のスーパーロングジャンプさん作

第8章

見山「なぁ、ここは・・・どうだ、楽しいか?」
二酒は相も変わらず見山を無視し続けていた。見山は彼の心を開こうと必死に言葉を探している。ドアを隔ててはたから聞いているパーシーには、それが滑稽にも思える。
見山「なぁ、どうして話そうとしてくれないんだ?」
その言葉に二酒は、その眼をより一層冷たくして見山を睨んできた。その気になれば容易く反論できるのだと言いたげだ。
見山「・・・確かに、もうお前とは関係はないのかもしれない。けど、同じ日本人じゃないか。そうだろ?こんな場所で会えたのは、きっと何かの縁だと思わないか?」
二酒の思考を察したのか、見山はそんなことを言った。見山は、以前は二酒のいたクラスの授業を担当していた。彼は4〜8年生の機械科学クラス担当だったため、必然
と言えば必然だった。そして、必然的に担当教師はまた変わる。それから1年以上の月日が流れても、見山は二酒のことを気にかけていた。
二酒「・・・だからだ」
二酒は小さくそう言った。彼の中で何かを堪え切れなくなったのか、ついその言葉を口にしてしまった、という感じだ。
二酒「俺はあそこが嫌いなんだヨ・・・」
彼は顔をしかめながら、さらに目を冷たくして言った。見山はしばらく二酒を見つめたかと思うと、突然二酒に大股で歩み寄る。
見山「バカヤロオオオオオ!!」
そう叫んで、二酒の頬を思い切り殴った。
パーシー(えーーーーーッ!?)
見山「日本が嫌いだから俺が嫌いだとでも言いたいのか?!そんなもん、何の関係もないだろう!!」
さっき、同じ日本人だろうと言ったのは見山の方ではないか。そんな思いが二酒の頭を駆け巡る。こういう熱血故の向こう見ずな一面も二酒は気に入らなかった。
二酒「話にならないネ。帰らせてもらうヨ」
その言葉にパーシーは慌ててドアから耳を離した。その途端、目の前のドアが乱暴に開く。二酒は目の前にいるパーシーで前に進めず、一瞬足をとめた。今しかない、と
パーシーは決意した。
パーシー「あの、二酒さんですよね・・・ちょっとお話を・・・」
言い終わらないうちに、二酒はもううんざりだ、といった表情でパーシーを素通りした。パーシーは一瞬、彼の跡を追おうとしたが、すぐに諦めた。とても話を聞いて
貰えるとは思えなかったのだ。パーシーは、このことをニーナにどう説明すべきか、そればかりを考えていた。

午後1時、朝降っていた小雨は止み、雲の隙間から眩しい光が差し込んできていた。シクラメンとアテナはプール施設に来ていた。二階堂に水泳対決を申し込まれたからだ。
ワルワルスクールのプールは室内にあり年中プールに入ることができる。すると、そこには二階堂が仁王立ちで構えるように立っていた。
二階堂「来たわね・・・それじゃ説明しておくわ。種目はフリー(自由形)の50メートルで勝負よ。1レーンはアテナ、2レーンはシクラメン、私は3レーンで泳ぐ」
そして3人は準備を整え、スタート台に立った。スタートの合図は部の生徒がするらしい。彼は手を挙げ、よーい、と声を張り上げた。3人とも身体をぐっと前屈させる。
次に、部員からスタートの合図が聞こえたか聞こえないかくらいの瞬間に、一斉にスタート台を蹴って勢いよく水面に飛び込んだ。二階堂はそこから水面に浮き上がるまで
ドルフィンキックをしてから、頭が水面から出ると同時にバタ足に切り替え一気に加速した。彼女はその時、これまでの恨み辛み妬みなどを全身にぶつけていたに違い
なかった。そういう意味では、彼女にとって50メートルという距離は都合のいい種目だったのかもしれない。二階堂は力強くプールの壁を叩いた。25秒73、という声が耳に
入ってくる。悪くないタイムだ、と思った。遅れてシクラメン、アテナの順でゴール。圧倒的に離されたものの、タイムは決して悪いものではなかった。
アテナ「ふぅ・・・あなためちゃくちゃ速いわね・・・」
二階堂「なめてもらっちゃ困るわ」
そう言った二階堂は誇りに満ちた顔つきをしていた。彼女は勝ちたかったのだ。自分の妬みや憧れの対象に勝つことで、自分に自信をつけたかったのかもしれない。人は
いつだって自分が輝けるモノを探し求めている。水泳対決が終わり、シクラメンとアテナは更衣室で取りとめのない話をしていた。
アテナ「あ、そういえば明日までの課外が終わってなかったわ。先に失礼していいかしら?」
シクラメン「ええ、いいわよ」
こうして、アテナは急いでその場を去っていった。

その頃、クロックは校内の散策をしていた。といっても特別何かを注視していたわけではない。考え事に耽っていたのだ。クロックは今朝聞いた例の事件と自分が来た時に
流行っていた噂が引っかかっていた。何故かそれが自分の求めているモノと関係があるように思えたのだ。より深く考えようとするが、昨夜からの痛みがクロックの思考を
邪魔してくる。クロックが保健室で目を覚ました時、マークの他にも3人ほどがベッドに寝転がっていたのを覚えている。1人は酒に酔った生徒に殴られたとかで、残りの
2人は誰かが仕掛けた罠にひっかかったとのことだ。クロックは、ワルワルスクールでは一度に5人もベッドに横たわっているのが当り前の光景なのか、と苦笑した。
しかも、その中の1人がムート・ドッグであったことにさらに苦笑した。クロックはふと思い出し笑いをしてしまった。その後、気を取り直すかのようにつぶやいた。
クロック「とにかく、あの事件について調べてみよう・・・」
気がつくと、クロックは狭い階段を降りていた。人が2〜3人並んで歩くのが限界に思える。クロックはその階段のど真ん中を歩いていた。ふと、ここはどこに繋がって
いるのだろうと気になってきた。少し進んでいくと、奥に扉が見えてきた。クロックがそれに近づくと、突然その扉が開いた。中からは女子生徒が出てきた。髪が微妙に
濡れている。とても艶やかな黒髪だ。
クロック「あ、すいません・・・」
そう言って右へ避けようとするが、相手も同じ方向にずれてきた。慌てて左へそれるが、またしても方向がかぶってしまった。今度は右・・・と見せかけてそのまま左に
行こうとするが、やはり相手も同じことをしてしまう。なかなか抜け出せない。それを繰り返しているうちに、とうとう2人とも吹き出してしまった。
シクラメン「何だか・・・やけに気が合いますね」
クロック「そうだね・・・この奥には、何が?」
シクラメン「何って、プールですけど」
成程、それでこの人の髪は濡れているんだ、とクロックは納得した。
クロック「あ、いや僕はここに来たばかりなんでね・・・」
シクラメン「あ!もしかして、あなた噂の転校生ですか?」
クロック「まぁ・・・そういうことになるかな・・・」
シクラメン「そうなんですか。名前は何て言うんですか?」
クロック「僕の名前はクロック・バンディクー。とりあえずよろしく」
シクラメン「私はシクラメン・バンディクーって言います。よろしく」

パーシー「いだだだだだだだだ!!ギブですッ!もう勘弁いだぁッ!!」
ニーナ「何言ってんのよ。アンタがヘマしたからいけないんでしょ!」
パーシーは案の定、ニーナによる罰を喰らっていた。腕や脚を本来は曲がらない方向に限界まで曲げた状態で身体を施錠されていたのだ。その奇妙な姿は、哀れとしか
言いようがない。
ニーナ「あたいの研究によると、ネズミは約35時間で骨が折れたわ。アンタは何時間で骨がちぎれるのかしら?」
その言葉に、パーシーどころか傍観していたナットやシドもぞっとした。
カトリーヌ「でも、確かに二酒から情報を訊きだすのは至難の業だわ」
珍しくカトリーヌがパーシーをかばうようなことを言った。いや、彼女はただ事実を言っただけなのかもしれない。二酒は気を許した人にしか話さないのである。
ナット「何だ、そんなら訊いても時間の無駄じゃねぇか」
カトリーヌ「とにかく、もう1回パーシーに行かせましょうよ」
パーシー(え〜〜〜〜〜!?)
シド「・・・カトリーヌは、二酒がパーシーに心を開くと信じているんだね?」
カトリーヌ「信じているんではないわ。ただ、この中で一番可能性はある」
彼女の言葉はやはり曖昧ではあるが、確信めいている。ニーナもどうやらそれを悟ったようだった。
ニーナ「しょうがないわねぇ・・・じゃあ、もう1回だけチャンスをあげる。ただし、今度失敗したら・・・分かってるでしょうね?」
パーシー「(いや、チャンスっていうかもう既に罰ゲーム受けてるんですけど・・・)は、はい・・・」

その夜、パーシーは寮の地下6階に足を進めていた。最後まで階段を降り切ると、扉を見つけた。その上には10年生と書かれた札が掛けられている。カトリーヌによれば
二酒の部屋は一番奥の右側の部屋らしい。パーシーは一度呼吸を整えてから扉を開けた。廊下は、それぞれの扉の近くに小さな灯りが並んでいて、奥へと無限に続いている
かのような錯覚を覚える。パーシーはひたすら前へと進んでいく。すると突然、廊下に激しいブザーのような音が鳴り響いた。
パーシー「うわああ!!何?!」
激しく動揺するパーシーは思わず床に転んでしまった。ふと上を見上げると、何と天井にはレーザー光線装置が取り付けられていた。特有の機械音を出して、明らかに
パーシーを狙っている動きをしている。これを見てパーシーの顔はますます青ざめる。そして、ついにその機械からレーザー光線が撃ち放たれた。
パーシー「ひいいぃぃ!!何でこんな目に・・・」
慌てふためきながらレーザーを避けるパーシーの前に、突如1人の少女が現れた。
リサ「あら?」
彼女はパーシーを見て、状況を把握したのか手元にあったスイッチを押した。すると、すぐに機械のレーザー攻撃が終わった。
パーシー「ふぅ・・・よく分からないけど・・・ありがとうございます」
リサ「ごめんね。これ、アタシの部屋のセキュリティなの。う〜ん少し感度が良すぎたみたい・・・」
パーシー「へぇ〜そうなんで・・・ええええええ!?」
愕然とするパーシーを差し置いて、リサは思った疑問をそのまま口にする。
リサ「ところで、あなた見ない顔だけど何処の人?ここには何の用で来たの?」
パーシー「えと、僕は機械科学5年のパーシー・リグレットです・・・実は、二酒弦って人に訊きたいことがあって・・・」
リサ「あ〜弦ちゃんね・・・分かった、アタシも行くッ!(何か面白そう・・・)」
パーシー「弦ちゃん!?え?・・・な、仲いいんですか?」
リサ「さぁ?」
こうして、どうも会話が噛み合わないままリサと共に二酒の部屋へ向かうことになった。そして、ついに二酒の部屋の前までたどり着いた。また呼吸を整える。そして
ノックをしてからゆっくりと扉を開いた。扉のきしむ音が部屋に響き渡る。中は薄暗く、机上のスタンド電気でその周りだけが照らされていて、辛うじてそこに
向かい合ったソファがあるのが分かった。二酒はそこに座っていた。どうやら何かの本を読んでいるようだ。
リサ「お〜い弦ちゃ〜ん!お話したい子がいるんだって〜」
パーシー「ど、どうも・・・」
二酒「・・・疑っているネ?」
パーシー「え?」
二酒の言葉は全てを見透かしているかのようだった。不意を突かれたパーシーは口をパクパクと動かすだけで言葉が出てこない。
二酒「いや、疑う事は決して悪いことではない・・・俺は人を疑うヨ。疑って、疑って、骨の髄まで疑って、そうして証明されたものが信頼なんだ」
パーシー「は、はぁ・・・」
リサ「ま、とりあえず座ったら?」
リサは何の遠慮もなしに平然とソファに座る。まるでここを自分の部屋であるかのように扱っている。それを見て二酒はあからさまに顔をしかめた。どうやら彼はリサ
のことを快くは思っていないらしい。口は開かなかったが、いつお前が入ってきていいなどと言った?と言っているような気がした。
パーシー「ではお訊きします・・・あなたは昨日の夜、何処に居ましたか?」
二酒「そうだネ・・・昨夜はこの部屋で本を読んでいたヨ。宴などつまらないからネ」
パーシー「・・・それは本当ですか?」
パーシーはそんな事を言ってみた。何となく二酒に試されている気がしたからだ。すると、二酒が奇妙な笑みを見せた。口は綻んでいるのだが、目は冷たいままだ。
二酒「大したもんだヨ。今のは、ちゃんと疑う事を忘れていなかった」
そう言って二酒はひじをひざの上に乗せ、猫背の背中をさらに丸くして下を向いた。そして次に、こう言った。
二酒「ではこちらも1つ訊くがネ・・・いや、訊くというよりは当てて見せよう」
その時の二酒の顔は自信に満ちた表情ではなかった。どちらかといえば、新聞記事に書いてある確定した事実を読み上げるような、そういう表情だ。
二酒「君はあの事件のことについて調べているんだろう。いや、正確には調べさせられている。ここへも誰かに命令されてやって来た。そうだナ?」
やはり、二酒は全てを見通していた。パーシーはそう感じた。すると、二酒の口だけがまた綻ぶ。
二酒「君の顔にそう書いてあるヨ?しかし、単に恐怖だけでここへ来てはいないナ。使命感のようなものもある。君も君であの事件に興味があるのかナ?」
パーシー「え、えぇ・・・まぁ・・・」
嘘だ。嘘をついたというよりは、動揺して本当の事が言えなかった、と言った方が正しいのかもしれない。そして、それを二酒が見破らないわけがなかった。
二酒「それとも、命令した人が関係しているのか?」
パーシーはさらに動揺する。二酒の言葉はパーシーには、お前の過去を曝け出せ、と言っているように聞こえた。パーシーは一瞬戸惑ったが、それを話さないことには
自分の訊きたいことは話してくれないと感じていた。
パーシー「それは・・・」

その頃、ニーナ達は談話室でトランプをしながら事件の話をしていた。
ナット「はぁ、パーシーの結果待ちって他になんかやることないのかよ?・・・3枚レイズ」
カトリーヌ「情報の整理。私は降りよ」
ナット「けっ、退屈だ。見ろ、フラッシュだ」
ニーナ「残〜念。フルハウスよ」
ナット「・・・俺、フラッシュよりフルハウスが上なのって納得いかねぇんだよな」
ニーナ「何その負け惜しみ」
ナット「だってそうだろ?実際、フラッシュよりよっぽどフルハウスの方が出てる。最初にペアがあった場合、フラッシュはそいつを捨てなきゃならないリスクがある。
でもフルハウスはツーペアから揃ってない1枚を変えるだけで成立できちまう。その上フルハウスの方が強いだなんてフェアじゃねぇよ」
ニーナ「ハイハイ分かったから事件の事でも考えましょ〜」
ナット「チッ、退屈だ」
その時、テーブルを囲んでいる4人に近づいてきている生徒がいた。その生徒は、ある程度近づくと小さく声をかけた。
ケン「あの、すいません」
シド「ん?何?」
ケン「僕も混ぜてくれませんか?」
ナット「別にいいけど、コインは自前で用意しろよ?」
ケン「いえ、そっちじゃなくて事件の調査の方に」
4人「?!」
次章、ニーナ達のポーカー・・・じゃなくて調査の行方は?!

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