狼の死後「異常な日常」


フレインさん作

第2話 〜eat apples〜

向こうに、かすかに何者かの姿が見えた。
と、思ったら1秒後にはもう目の前にいた。
アーネスト「やあ、クラッシュ。今日はどうしたんだ?」
あの一件以来、アーネスト・エミューはすっかり元の優しい、穏やかな性格に戻っていた。
もう空は飛ばないし、まして炎は出さない。
クラッシュ「りんごよこせよ」
アーネスト「ああ、リンゴね」
前よりもさらに優しくなったかもしれない。
こんなぶしつけすぎる言い方でも快く聞き入れてくれた。
クラッシュ「ホレトットトシロ」
アーネスト「はいはい」
アーネストは市場がないとき、地下倉庫に保存していた。
倉庫の扉を開ける。
横には文字通りぴったりとくっついているクラッシュ。
アーネスト「ほ…」
倉庫のリンゴを一目見てアーネストは口をつぐんだ。
横から覗き込んだクラッシュは、怒り心頭だ。
クラッシュ「ちょ!ちょっと!なんだよこれ!?」
倉庫の中は、ハエが飛び交い…。
悪臭が立ち込め…。
真っ黒な物体がぞろりと並んでいた。
腐っている。
完全に。
申し分なく…というかありすぎ。
クラッシュ「ドジーー!!役立たずーー!!こんな雨の中保存できるわけないじゃん!!!」
りんごを一方的に搾取しようとしながらドジ役立たずとは何事か。
と突っ込むのはやめておいた。
アーネスト「だっ大丈夫!箱詰めして冷蔵庫に保管したものがあるから!」
クラッシュ「もってこいよ今すぐ」
アーネスト「はいはい」
クラッシュ「ホレトットトシロ」
アーネスト「はいはい」
ラージサイズのリンゴ専用冷蔵庫。
ゆうに200個は入るだろうか。
もちろん最近は取れなかったから100個くらいだろう。
アーネスト「ほ…」
扉を開けて言いかけ、再び閉じた。
腐っていたわけではない。
しゃりしゃり。
ぱくぱく。
もぐもぐ。
クラッシュ「ふめ〜!」
もうすでにひとの冷蔵庫に手を入れ食べているクラッシュ。
クラッシュの辞書には、遠慮という言葉はない。
そもそも頭の中に辞書がない。
クラッシュ「はあはーへふほ。ほおひへはうははほひはひゃはふへはんはひはひほへはんはんはほふ?」
「なあアーネスト。どうしてタウナはおいらじゃなくてあんなイタチなんかを選んだんだろう?」
翻訳:アーネスト・エミュー。
クラッシュとはだてに友達をやっていない。
何年前の話だよと突っ込むのはやはりやめておいた。
要するにそれだけクラッシュの心に傷を残した、ということ。
アーネスト「さあ。クラッシュのあまりのかっこよさについていけなくなったんじゃない?」
無理のありすぎる精一杯のお世辞。
クラッシュ「そうか!あいつ、あいらのカッコよさを知った上で…。なるほど、ありがとうアーネスト!」
手をひらひらさせながら去っていった。
来たときの10分の1の速さで。
それはクラッシュが満足した証拠。
そしてさっきの話を本当に今まで覚えていなかった証拠。
タウナの話は何回目だろう。
人並みの速さで走っていくクラッシュを見送りながら思った。


クラッシュは小走りで家へ向かった。
すでに暴走中の記憶はない。
クラッシュ「りんご♪リンゴ♪リンゴはうまいよりんごはよ♪A・P・P・L・Eり・ん・ご♪A・P…」
家がある場所に近づき、異変に気づいた。
家がない。
クランチ「よお、クラッシュ」
クラッシュ「ど、どうしたんだよこれ!?家は!?」
クランチ「お前がやったんだろ」
ココ「いやクランチがやったんでしょ」
クラッシュは暴走中の記憶をきれいさっぱり忘れる。
クランチ「そ、それより、りんごはもらえたのか?」
クラッシュは満面の笑みでうなずいた。
クランチ「そうか、よかった…。本当によかった…。で、りんごは?」
クラッシュ「食べちゃったよ」
どうしてそんなことを聞くのかとでも言いたげな口調。
クランチ「は?お、俺たちの分は?」
クラッシュ「だって3人分ももらったらアーネストがかわいそうじゃん」
クランチ「…っ…。で、お前は何個ぐらい食べたんだ?」
クラッシュ「100個くらいかな」
さらっと、当然のように言う。
クラッシュが珍しくまともなことを言った、と思ったほうが間違いだった。
充分アーネストのリンゴを食いつぶしているではないか。
クランチ「お…お前という奴は…」
わなわなと震えるクランチ。
クランチ「罰として家の再建を全部やれ!」
クラッシュ「じょうだ…」
クランチ「とっととやれ!貧弱坊主!」
クラッシュ「は、ハイイイイィィィィィ!」
クラッシュはあたふたと作業に取り掛かった。

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