狼の死後「全力前進」


フレインさん作

第3話 〜元凶〜

ウカウカ「会議を続けるぞ」
何事も無かったかのようにウカウカが言った。
そういえばあの忌まわしき作戦会議のとき、珍しくウカウカがまったくしゃべっていなかった気がする。
ウカウカにとって、エドウィンは、自分の部下を許可無く好きに使い、自分の立場を無視したただの小生意気なオジサンだったのかもしれない。
ウカウカ「ワシの次のボスがいなくなった」
先ほどの言葉を要約したようなセリフ。
なぜか胃がむかついた。
ウカウカ「そこで…」
ガタン!
言いかけたウカウカを、再び音が待ったをかけた。
さっきのノックの音とは違う。
それに、たった一つの扉は今は粉々だ。
上の時計へ、窓へ、機械へと視線をめぐらす。
ふと、自分の向かいの席の人がいないことに気づいた。
その席は誰だっただろう。
まったく思い出せなかった。
嫌な予感がする。
次の瞬間、思いついた。
叔父さんがいないではないか。
拍子抜けしたが、笑う気分にはならなかった。


――――――もちろん、違うことくらいわかっていた。
叔父さんは自分の右隣の席。
そして、彼を一番慕っていた人物がいないことくらい。


口より先に体が動く。
一番先にエヌ・ジンのもとに駆け寄った。
もっとも、その他はまったく動かなかったが。
薄情だ。
こいつらは、何も思わないのだろうか。
そう思っていた。
思っていた自分も、その姿を見ると、ぴくりとも動けなくなった。
悲しげに剥かれた白目。
戦慄。


すべてはあのときに始まった。
あいつが扉を叩く。
自分が応対する。
怪しいセールスマンよろしく作戦を持ちかける。
ココが何をやったか知らないが、ココが余計なことをしなければ。
そして大統領とやらが暗殺を企てなければ。
あいつが来なければ。


気が付くと、全速力で走っていた。
壊れた扉を抜け…。
階段を猛然と駆け下り…。
ラボの入り口を頭をぶつけながらくぐり…。
あの男が這い上がろうとしているところへ一直線。

ニーナ「最後にひとつだけ答えなさい」
自分の声が耳の奥でキンキン響く。
エドウィンは答えなかった。
ただブルブル震えている。
鍛えられた特殊部隊とやらでも、南極の水は些かきついようだ。
ニーナ「どうしてあんな動物一匹を暗殺するために、世界でひとつしか作れない貴重なものを使ったの?」
どうしてこんなどうでもいいことを聞いているんだろう。
エドウィン「そ…それだ…だけ…コ…ココ…が…こ…国家…の…あん…安全…を…おび…や…かして…い…る…と…いう…こ……」
エドウィンは歯をこれでもかという程鳴らしている。
ガチガチガチガチうっとうしい。
人類はみな平等とか言ったやつは何処のどいつだ。
なぜ自分を気取ってるだとか、サル顔よばわりするネズミの行動の所為で、自分達関係の無い国が危険だ、という所為で…。
ザクッ。
不快な音が聞こえ、不快な感触が手に残る。
目の前のその男は消えていた。
赤く染まった水、氷――――――――そして、自分の手の中で鈍く光るもの。

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