そこに居るはずの事実


ふぇにーちぇさん作

35年前。520人の命が消えた。
34年前。消えた命はとうとう無になる。
33年前。その事故は忘れ去られた。

そして今。その事故は蘇る。
――同じ過ちを繰り返さぬうちに――

ここは二酒の部屋。4人の男がパソコンをいじったり、なにやら地図を見たりしている。
二酒「何人集まった?」
千里丘「4000人だ。そろそろいい頃だろう。」
二酒「ああ。もう計画も決まってきている。後は人数だ。」
六貝「爆破地点と時間、決まったよ。」
舘「ちゃんと爆破できるか?」
六貝「僕たち4人がミスらなければね。」

怪しげな会話。国に対して怒りを抱く彼らは、35年間のときを経て、その怒りに終止符を打つ。

35年前。怒りの原因はその年にあった。
『日本インター航空321便墜落事故』
当時、単独の航空機事故では世界最大といわれ、生存者は524人中4人。
ダラダラと先延ばしにする救助、墜落場所を特定するまでまったく動こうとしない重すぎる腰。
それさえなければどれだけの命が救えたか。命を粗末にする人々に4人は牙を剥く。

二酒・・・
父親をその事故で亡くした。その父親はその飛行機の機長だった。
メディアは当然、機長の家族を取材する。家族は当然、いわれの無いバッシングをいつも聞く羽目になる。
電話に掛かってくるのは取材の電話かバッシング。残されたもの達は心が大きく磨耗し、母親はとうとうストレスで死んでしまった。

その1年後。
ピタリと止んだ電話のベル。磨り減った心はようやく落ち着きを取り戻した。しかしそれは、一つの大きな物を失ってしまったことを意味する。

――この事故は忘れ去られた――

怒りをぶつけるだけぶつけ、その挙句一瞬で忘れてしまうとは・・・。二酒は、正確には、国に対してではなく、この国の全国民に対して怒っていると言ったほうが良いだろう。

――この国の国民を全員殺す!!――

二酒の決意は35年間、一瞬たりとも揺らぐことは無かった。

千里丘・・・
その飛行機には唯一無二の友人が居た。心を許しあえるのは、この地球上でそいつしか居ない。そう思っていた。
それが死んだ。こんなにもあっけなく。
当然悲しんだ。人知れず涙を流した。問題はその後だ。

日本インターは、その事故で人を殺したことになった。そのため、遺族達に、多額の賠償金を払うことになる。
その友人には身内は一人も居なかった。その友人を含めて、全員同じ事故で死んだ。
その友人の分は、俺に渡った。他の身内は、その知り合いたちに渡ることになった。
日本インターの社員が、賠償金について説明に来てもらうことになった。なんと言ったか覚えていないが、そのときのこのセリフが気に入らなかった。

「これでも結構高いほうなんですよ。この賠償金。」

ふざけるな。と思った。俺はそのせりふを聞いて、顔色が変わったのを覚えている。俺の顔色を伺い、さらに社員は付け足す。

「ご、ご満足いただけませんでしたか・・・?それでは・・・・これでどうでしょう・・・。」

電卓を差し出して、さっきよりも高い金額を持ち出した。俺はその電卓を叩き割った。ペットだとか、奴隷だとかと変わらないじゃないか。命と金を交換する。天命を果たすことなく消えた命でさえも・・・

――金と命を同じ土俵に置くな――

千里丘は、日本インターを陥れるため、35年間こつこつと準備をした。

舘・・・
当時、日本インターの整備員だった。飛行機が好きだった。豪快に飛び、真っ直ぐな澄んだ音を出すあの機械が好きだった。
あの時、墜落した飛行機の整備を担当したのは俺だった。不思議なことに、責められたのは機長。俺は名前すら出てこなかった。
だが、それが気休めになるわけではなかった。むしろ、俺が責められるはずなのに、全く責任の無いものが責められているのは胸糞悪い。
罪悪感に追い回され、皆、それに気づかない。
舘は決意した。

――俺が本当のことを教えてやる――

六貝・・・
あの事故。調査をしたのは僕だ。班の皆で原因を突き止めているうちに、僕達は重大な事実に出くわした。
あの事故は、本当は自衛隊のミスなんだ。
自衛隊が対北朝鮮用のミサイルの実験で、とあるミサイルを試験的に使用した。試験の時刻は夕方のため、オレンジ色の的を飛ばした。夕焼けの色に同化して、見にくいからである。
ミサイルは、予定どうりに発射された。予定どうりに的に当たる筈だった。
ミサイルが当たったのは日本インター321便。ミサイルを打つ隊員が見間違えてしまったのだ。
当時、日本インターの旅客機は、下半分に塗装が無く、銀色の地肌をさらけ出していた。
銀という色は周囲の色と簡単に同化してしまう。夕焼けの色を飲み込んだ旅客機は、オレンジ色の的と間違えられた。

そのことを発表した。だが、
「そんなことが発覚すれば、自衛隊の存続が危ぶまれる。」
と言う理由で、書き換えられてしまった。結果、整備ミス。(ちなみに、舘はこの話を信じていない。いまだに整備ミスが原因だと思っている)
今、本当の原因は、「ゼロファイル」と言うものに収められているらしい。
僕達に大量の口止め料が与えられた。正直いらなかった。汚らしすぎる。ナメてんのかあいつら。
僕がこうやってテロ行為をしているのは、舘と同じ理由だ。
本当の原因を教える。
ただそれだけの為だ。

8月12日
俺達の計画が決行される。
澄んだ空。今日は一日中晴れるそうだ。
今日、舘は集まった4000人の仲間の何人かに、爆破地点を車で教えていた。爆破地点は首都高環状線の内堀通りに一番近い地点だ。
「ゼロファイル」は、内堀どおりの真下にある。他にも、国の闇がその場所に葬られているのだと言う。
C1、地下鉄線等、地下を通るものは通常道路の真下に作られる。
しかし、この内堀どおりの一部は、地下鉄や高速道路が、そこを避けるように通っている。
六貝の話によれば、その部分に国の闇が葬られているようだ。
それだけに、防御はかなり硬い。何重もの防壁が、小さなその部屋を覆っている。ちょっとやそっとの衝撃では壊れない。
だが、核シェルターほどではないらしい。防壁を壊せるそれなりの衝撃を作ってやればいいのだ。それはその時が来たら説明しよう。

六貝のパソコンにメールが来た。

『HND 計画を実行する』

六貝以下、4人はベランダから東京湾のほうを見つめた。ちょうど羽田空港の辺りが赤く光っている。爆破されたのだ。

二酒「始まったな。」

数分後、再びパソコンにメールが来た。

『HDN 制圧完了』

羽田空港は、こちらが集めた約4000人の者たちによって、制圧された。空港につながる首都高湾岸線の両側の空港トンネルを爆破。
さらに、京急線、東京モノレールも、トンネル部分で爆破した。
これにより、空港は船かヘリでしか来れなくなった。
この後、約4000人の者は旅客機をハイジャックし、自爆テロを行う。その前にこちらでやるべきことがある。
残りの少数のもの達の居場所の確認だ。二酒たち4人は携帯電話を取り出し、残りのものの位置を確認した。

二酒「二宮だ。(念のため偽名を使っている)位置を教えろ。」
相手「首都高環状線内回り、谷町ジャンクション付近です。」

環状線に二人、地下鉄線に一人を置いて、それぞれ自爆させる。位置はあの「ゼロファイル」が眠っている場所。内堀通りだ。
ハイジャックした旅客機と、その3人で同時に自爆を引き起こし、何十にもなっている防壁を破る。たとえ出来なくても、その防壁さえ丸見えにさせてしまえば、そこに何かがあると嫌でもばれてしまう。
再びパソコンにメールが入る。

『HND ハイジャックに成功。一分以内に一機目の離陸を開始する』

上出来だ。ここまで十分しか立っていない。首都高の方も地下鉄の方も今のところベストな位置に居る。後は指定された地点をうまく爆破するだけだ。
一機目が離陸したのがベランダから見えた。間を空けずに二機、三機と離陸していく。
ゆっくりと放物線を描き、目標の地点へと落下していく。

ドガァァァァァァン!!!

舘「おいおいマジかよ。こうも簡単に成功しちまうもんなのか。」
二酒「この世に絶望し、自殺をしようとするものだけを集めた。成功だ。」

千里丘はパソコンでさらに指示を出す。

『HDNへ 最後の飛行機は国会議事堂に落とせ。』

すぐに了解の返事が来た。羽田空港に30機ほどあった旅客機は、もう数機しか居らず、閑散としていた。
最後の飛行機が飛び立ち、数分後、予定通りに国会議事堂に墜落した。ほんの15,6分の出来事だった。
自衛隊や、米軍の飛行機が東京上空に着いたのはそれから更に10分立っていた。

二酒「いまさら来たっておせーよ。ホントのろまだな。この国の奴等は。」
千里丘「人を助けるのでさえ、他人の許可を得なければならない。そんなゴミのようなシステムがこの遅さを作り出している。35年、いや、それより前からこのシステムのせいで人は死んだ。一体何時になったら気付くんだ。」

――そんなゴミみたいな国は死んだ方がいい――

六貝「同感だな。どんなに進歩しても、この国は発展途上国だったんだ。」
舘「計画終わって安心したら便所行きたくなったな。ちょっと行ってくるわ。」
六貝「あ、俺も。テレビ点けといてよ。どんな形で報道されているのか楽しみだな。」

二人はトイレに行かず、六貝の部屋に行った。部屋の引き出しから、銃を2つ取り出した。

六貝「失敗だ。二人をとめることが出来なかった。」
舘「ああ。出来なかった。」

――悪人のまま死なせるのは――

六貝「どんな手を使ってでも、あの二人を悪人のまま死なせるわけにはいかない。自分達が悪人になっても・・・」
舘「でもどうする?」
六貝「脅す。『ゼロファイル』の存在を証明した後、自分達がこのテロを行ったと言うように説得してみる。」
舘「出来るのか?」
六貝「やってみるしかない。」

二人は走って、元の部屋に戻った。

六貝「動くな!!!」

テレビを見ていた二人は、ハッとして振り返った。最初は銃を自分達に向ける二人に驚いていたが、少しして、普通の表情に戻った。

二酒「おいおい。銃が震えているぞ。しかも軽く逃げ腰だし。お前ら何なんだ。」
舘「頼みごとがある。」
二酒「人に物を頼むときの態度ってもんがあるだろう。銃向けられちゃぁ、怖くて何もできねぇっての。」
六貝「ゼロファイルの存在を証明した直後、自分達がこのテロをしたと公表するんだ。」
二酒「千里丘、何とかいってやれよ。この馬鹿共に。」
舘「ふざけんなぁ!!!」
二酒「怖い怖い。これじゃあこっちが悪人みたいじゃねえかよ。汚い手だけど、間違ったことはしていないと言ってやってたことだろう。何を今更・・・」
六貝「この野郎ぉぉぉぉぉ」

バァァァン!!!

弾は心臓の近くに命中した。二酒がグラリと倒れる。

六貝「あ・・・ぁぁぁ・・・」
舘「二酒ぁぁ!!」

何とか息をしているようだ。しかし、これではもう長くは持つまい。数分もせぬ内に息絶えてしまうだろう。
六貝はショックで倒れこんでしまった。

二酒「はぁ・・・ぐぅ・・・てめえらぁぁぁ!!!ふざけんなぁぁぁ!!!」

二酒は苦しみのあまり、言葉が途切れ途切れになっている。

二酒「間違っ・・・たこと・・・をやっているわけじゃ・・・ないって、ゲホッ・・・お前らも言っていただろうがぁぁぁ!!!」
千里丘「この行動が正しいとか、間違っているとか、そうじゃないだろう。」

千里丘は冷たく言い放つ。最後を迎える二酒にもう一言付け加える。

――この行動でお前は何かを伝えたかったんじゃないのか――

二酒「!!・・・」

二酒は一瞬、何かに気付かされたような表情をした。そして、ゆっくりと目を瞑り、何かをつぶやいた。ハッキリとは聞こえなかった。
そしてそのまま、息絶えてしまった。
最後の表情は、この35年間、見せることの無かった優しげな表情だった。

二酒が息絶えるのを確認すると、千里丘は全部のパソコンをつけ、一つ一つをいじり始めた。

千里丘「もうお前らも十分だろう。これっきり、あの事故のことは忘れよう。」
六貝「な・・・なんで・・・だよ・・・」

千里丘「国の奴等はゼロファイルを狙った犯行だと嫌でも気付くだろう。一週間、いや、数日と立たないうちにゼロファイルは何らかの形で処分されるだろう。」

――事実ってのは脆いんだ。人の命のように。――

――呆気なく、崩れ去ってしまう。――

千里丘「この部屋のパソコン全部のデータを削除する。いいな。」
六貝「・・・」
舘「・・・ああ」
千里丘「出来ることならこれっきり、この事故には関わらないようにしよう。」

すべてのデータが削除されたのを確認し、3人はその部屋を出て行った。

数日後、ゼロファイルは焼却処分された。3人は自首し、終身刑となった。

――その行動が
  正しいとか
  正しくないとか
  
  そういうのじゃない

  その行動で
  何を伝えられたか
  何を教えられたか

  そういうことを
  分かろう
  分かり合おうとしていきたい

  すべてが分かり合えば
  再び立ち上がれる――


これにて、「ここに居るはずの事実」を終わります。

いかがでしたか。またしても、重苦しい話題を書いてしまってすいません。次は、明るい話を書きたいと思います。
最後までお付き合いいただいて、有難うございます。

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