我が家が一番


回転撃さん作

第4日 翌日

目が覚めた。起き上って周りを見てみると、そこには見慣れない光景が広がっており、ようやく一は晴喜の家で眠った事を思いだした。するとその直後、寝室のふすまが開いた。開いたのは晴喜だ。
「おはよー。昨夜はよく寝れた?」
「・・・っていうか、カナはどこだ?」
果菜は一と同じこの寝室で寝ていたはずだが、彼女どころか布団もそこにはなかった。
「・・・アレ、本当だ。いないな・・・とりあえず家の中を探してみよう」
こうして寝室を出た2人だったが、彼女はすぐに見つかった。果菜はキッチンで1人朝食を作っていたのだ。
「あ、2人ともおはよー」
「もしかして、朝ごはん作ってくれたの?」
「ええ、居候させてもらってるからこれくらいは・・・」
「おお!ありがとう」
晴喜がそう言うと、果菜は振り返って彼女が作った朝食を持ってきた。
「さ、出来たわよ。食べて食べて」
果菜が料理をリビングテーブルに並べると、2人は置かれた場所の前座った。3人が朝食を食べ始めると、しばらくして一が晴喜に話しかけた。
「つーかよォ、お前本当に俺達をここに居候させる気なのか?」
「え?今更何言ってんだよ。俺がいいって言ってるんだからいいんだよ」
「お前がよくてもなァ、お前の親とかはどうなんだよ?つーかお前の親は何処いってんだ?」
思いもよらぬ一言に晴喜は心底驚いたような表情をした。まさに、鳩が豆鉄砲をくらったといった表情だ。それを見て一や果菜は少し不安になる。どうにも『・・・そうだった!』などと言いだす気がしてならなかった。
「・・・ま、大丈夫だって」
さっきの驚きの表情は何だったのか、晴喜は軽い口調でそう言った。

朝食を食べ終えると、晴喜は立ちあがって軽く背伸びをした。ふと窓の外を見てみると、そこから心地よい陽の光がさしてきていた。
「う〜ん、今日は天気もいいし散歩でもしてみるか」
そうつぶやくと、早速玄関の扉を開けて外へ出た。すると、扉を開けたすぐ横に何故か人影が見えた。
「ん・・・?」
晴喜は首を横に向けてその正体を確かめようとした。それでもやはり、それは人だった。晴喜に近い年代の青年が壁に寄り掛かるようにして爆睡していたのだ。
「な〜んだやっぱり人か・・・って、ええええええ!?」
晴喜は大声を出しながらその青年を二度見した。その青年の身なりをよく見ると、頭はボサボサで服装も若干ボロボロだった。だいぶ春が近づいてきているとはいえ、こんな恰好でよくここまで眠れるものだ。
すると、晴喜の大声を聞きつけて一達も玄関からこちらに出てきた。
「なんだよ朝からうるせぇな〜」
「見てこの人!」
晴喜はそう言って謎の青年を指差す。それを見た一達はいぶかしげな表情を見せた。
「なんだそいつ・・・何でこんなとこで寝てんだよ?」
「俺も分かんない」
すると、今まで全く起きる気配のなかった青年が突然唸り声を出しながら目を開けた。
「う〜ん・・・」
「うぉっ、起きた・・・」
目を覚ました青年は、いぶかしげに彼を見つめる晴喜達をしばらく見つめて口を開いた。
「・・・親父?」
「・・・は?」
「お〜親父、何だこんな所にいたのか。つーかここは何処だ?」
「ちょっ、待って・・・俺は君の親父さんじゃ・・・」
「・・・なんだただの猫か」
「どういうこと!?」
目を覚ましたことでさらに謎が深まる青年に戸惑う晴喜に、果菜もまた戸惑い気味に言った。
「この人もしかして寝ぼけてるんじゃ・・・;」
それを聞いて晴喜はその青年の肩をしっかりと掴んで前後に思い切り揺らし始めた。
「お〜い!しっかりするんだ〜!」
「・・・うるせぇッ!」
青年はそう言いながら振られた勢いで晴喜の頭に思い切り頭突きを繰り出した。
「ぐへっ!何でッ・・・?!」
「で、何でこんな所で寝てたんだよお前は?」
晴喜が地面に伏して痛みに耐えている間に一が青年に話しかけた。先程の晴喜のおかげなのかどうかは分からないが、青年もようやく完全に意識を取り戻したようだった。ただし、それでも何となく気だるそうな目をしていた。
「分からん。眠たかったから寝ただけだ」
あまりに堂々とそんなことを言ってきたので、一は思わず呆れてしまった。一方、果菜はさらに青年に訊いてみることにした。
「じゃあ、どうしてこの家に入ってきたんですか?」
「う〜ん・・・ここの芝生が寝るのに調度よさそうだと思ったんじゃね?」
青年のいい加減な言葉に一は呆れながら言い返した。
「お前酒でも飲んでたんじゃねーのか・・・?」
「バカ言え。酒なんてもん最近じゃそうそうありつけるもんじゃねーぞ・・・まぁ、昨日はたまたま酒瓶見つけたんだけどな」
「飲んだんじゃねーかよ!しかも拾った奴!?」
一がそう突っ込んだ直後、不意に後ろから晴喜の声が聞こえてきた。
「う〜ん成程、これがその酒か〜。結構辛口」
振り返ると、晴喜は近くの芝生の上に落ちていたのか酒瓶を持っていた。
「そこにあったのかよ!?つーか何お前も飲んでんだ!?」
「これ店の裏に捨てられてる奴の余り?」
「勿論」
青年は何故か誇らしげな表情でそう返してきた。なんでも町中の路地裏に捨てられていた物を1つの瓶に集めて飲んでいたらしい。
「えらくみみっちい飲み方してんな・・・ってか、いつまでここにいるつもりだ。もう家にでも帰れよ」
「家なんてあるわけねぇだろ」
「え・・・?」
晴喜達が小さくそう言った後、しばらくの間沈黙が流れた。

青年の名前は桂木來斗(かつらぎ らいと)。彼の話では、小さい頃からずっと路地裏や河原などを転々として生活してきたらしい。確かに彼のみすぼらしい身なりを見れば、そんな話もあながち嘘とは思えなかった。
「どこで寝るかはいつも決まってないからな。眠たくなった時に寝れそうなとこで寝る。んで昨夜はたまたまここの芝生が目に着いたってことだな、うん」
「そうだったんですか・・・」
果菜の言葉を最後に再び沈黙が流れた。しかし今度は一がすぐにそれを破った。
「お前は何で家が無くなったんだ?」
「無くなったっつーか、気がついたら知らん場所にいた」
「・・・は?」
「俺もその時の事はよく覚えてないが、朝起きたら森の中にいたんだ。さすがにあの時森の中で寝てた覚えなんてないんだけどな。そっからどうにかここの街に出て」
「その前はどんな暮らしをしてたか覚えてないんですか?」
果菜が來斗にそう訊いたが、彼は一切表情を変えずに言った。
「もうだいぶ前の事だからな・・・何も覚えてないな」
しかし、彼は哀しげな表情を浮かべたり自身に何があったのか気にしている様子は全くなかった。そんな事を考えているほどの余裕がなかったのかもしれない。すると晴喜が急に笑顔になって口を開いた。
「・・・それならさ、今日から家に住む?」
「ハァ!?」
晴喜のまさかの発言に一達は心底驚かされた。自分達も同じ事を言われたとはいえ、あまりにも唐突だったので不意を突かれた気分だ。
「ちょっと待てよ!お前それ本気か?!」
「勿論」
晴喜が笑顔で答えると、來斗は特に迷った様子もなくすぐに答えを出した。
「マジで?じゃよろしく頼むわ」
「そんでお前もあっさりと受け入れんなよ!」
「まぁいいじゃん。人数は多い方が楽しいって」
晴喜は能天気にそう言ったが、一はそれに全く納得できなかった。
「それじゃお前はこれから身寄りのねぇ奴をいちいちこの家に住ませんのかよ?」
「お兄ちゃん、私達も助けてもらった身なんだからそういうこと言わないの」
「何だよカナまで・・・」
こうなると、もう一が何を言おうと來斗はここに居候することになりそうだ。すると、來斗が一に微笑みながら話しかけてきた。
「ま、そういうことだ。仲良くしようぜ」
「お前は何で早くも溶け込んだ感じになってんだ!?」
「何言ってんだ。ライトも今日から家族の一員なんだぞ」
晴喜が2人の間に割り込みながらそう言うと、來斗に向かって手を伸ばした。
「ってことで、これからよろしくな」
「ああ」
來斗も手を伸ばして2人は握手をしようとした。しかしその瞬間、晴喜の身体に突如として激しい衝撃が走った。
「ぎゃあ〜〜〜ッ!?」
「・・・どうした!?」
あまりの痛みに晴喜はその場に膝から倒れ込んでしまった。その様子を見た一達は驚きを隠せない。そんな中來斗は、あ、と思いだしたような表情をしながら晴喜に言った。
「・・・そう言えば俺ってすっげえ静電気溜めやすい体質だったんだ」
「え・・・ってことは、今のって静電気なんですか?!」
晴喜をよく見てみると、彼の体がかすかに痙攣しているのが分かった。一体彼にどれだけの電圧がかかったのだろうか。その様子を見た限りでは静電気のレベルを明らかに越えていた。
「あの・・・そんな大事なこと忘れないでくれる・・・?死ぬかと思った・・・;」
晴喜は倒れたまま半泣きの表情で小さくそう言った。
(こんなんで本当に大丈夫なのか・・・?)
これからの生活にますます不安を覚える一なのであった。

続く

登場人物紹介

山名家メンバーC
桂木來斗(かつらぎ らいと)/17
昔から路上生活を続けてきたホームレスの青年。非常に能天気で楽観的。人の意表を突く言動をすることが多い。何故か静電気が異常に発生しやすい。

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