パニックコメディ Funny Agony


回転撃さん作

〜Opening〜



どこかで爆発音がしているような気がした。エヌ・ジンがメカの製作に失敗したのか、それともウカウカが癇癪を起して暴れ回っているのか、とにかくここコルテックス城では爆発音を聞く機会が割と多い。
ただ、どうもこの音はここよりも遥かに遠い場所からうっすらと聞こえてくる程度のものだった。爆心地がこの付近でないとするならば、一体何が原因なのだろう。一瞬そんな事を考えたが、
コルテックスの意識はすぐに目の前の発明品に向けられた。もうすぐだ。もうすぐでこれまでにないほどの威力を誇る新兵器が完成する。これさえあれば、あのバンディクー達をも容易く退ける事が出来るだろう。
それが遠からず現実のものになろうとしていると思うと、自然と胸が高鳴った。後は部下に取って来るように頼んだ材料を待つのみだ。すると、コルテックスの研究室の扉が開いた。
「よぉコルテックス、持って来たぜ。例のブツ」
研究室に入って来たのはディンゴダイルとフレイホークだった。見ると、材料である小さな鉱石はフレイが手にしていた。
「おぉ、よくやった!」
「結構苦労したんだぜ?これ手に入れるの」
そう言ったフレイにはどこか自慢げな表情が滲み出ていた。確かにフレイはそれなりにダメージを負っているようにも見えたが、それほど大変な任務だったのだろうか。
「まったくだぜ。オレっちの可愛い火炎放射器を1機お釈迦にしたんだからよ」
ディンゴもしみじみと自分を称賛する。そんな2人をよそにコルテックスは、早くよこせと急かしている。
「しっかし親父も物好きだなぁ、こんなもん何に使うんだか・・・」
フレイはそう言って、持っている材料を軽く真上に投げ始めた。
「ああコラ!何やってんだ!それは大事な材料なんだぞ!?何かあったらどうするんだ!」
すると、フレイは手を滑らせ材料を掴み損ねてしまった。
「あ・・・;」
「ホラ言わんこっちゃなあああい!!」
その時、フレイの足元には1匹のネズミがいた。ネズミは自分の頭上に鉱石が落ちてきている事に気付き、口をばっくりと開けて驚いた。すると、何と鉱石は開ききったネズミの口にすっぽりと入りこんでしまった。
更に驚いたネズミは口に入ってきた鉱石をゴクリと飲み込んだ。コルテックスの研究室に沈黙が流れる。

「・・・・・・」
「え・・・ぇぇぇえええええ!?」
「そ、そのネズミを捕えろーーー!!」
コルテックスの急激な大声に危険を感じたのか、ネズミはすかさず素早い動きで研究室を後にした。コルテックス達も急いでその後を追う。
「だから言ったではないかアホーッ!!どうしてくれるんだ!?」
「分かった分かった・・・要するにあのネズミをとっつかまえりゃいいんだろ?」
しかし、あのネズミは意外に素早かった。こちらも全力で走らなければすぐに見失ってしまいそうだ。
「あのネズミは百戦錬磨だな・・・これまでここで数々の修羅場を潜り抜けてきたに違えねぇ」
ディンゴが冷静にそんなことを言ったが、ネズミの中の材料に新兵器の完成ひいては世界征服がかかっているコルテックスがその言葉を真摯に受け止めることはなかった。
「たかがネズミだろうが!さっさと捕まえろ!」
しかし、そんな事を言っているうちにネズミは廊下の壁のわずかな隙間に入り込んでしまった。こうなってはコルテックス達がネズミを追うことはままならない。
「だぁっ・・・しまった!」
「どうすんだよ?」
「もうさ、この壁ブッ壊して野郎の巣まで攻め入った方が早いんじゃねーの」
フレイが面倒くさそうにそう言って空気銃を構えた。
「なっ、それはダメだ!この辺りは基地の中でも大黒柱に当たる箇所なんだぞ!迂闊に壊せばこの基地ごと崩壊しかねん」
「何でそんなとこをネズミに巣食われてんだよ!?欠陥住宅か!」
「そ、そんなことよりもっといい方法があるだろう。例えば餌でおびき出すとか・・・」
「何かえらく古典的な罠だな・・・まぁ、今のオレっち達にできることと言えばそれぐらいか・・・」
こうしてコルテックス達はネズミをおびき出すための餌を取りに調理場へ向かうことにした。

調理場の扉を開けると、そこにはとりつかれたようにひたすら包丁で食材を切り刻んでいるウォーラスがいた。凄まじい速さで包丁を動かすその姿からは、何となく邪悪なオーラが滲み出ているようで、怖い。
すると、彼は急に素早い動きをピタリと止めてコルテックス達を睨みつけた。
「・・・んん、何か用か?」
「い、いやぁ・・・ちょっとチーズでも食べたい気分になってな・・・」
「フン、チーズか・・・そっちの冷蔵庫に腐るほどあるぞ」
そう言って彼は持っていた包丁を冷蔵庫の方に向けた。
「そ、そうか・・・(何でそんなナーバスなんだこいつ・・・?)」
コルテックスは銀色の冷蔵庫をゆっくりと開けた。しかし、その中にはチーズどころか食べ物の1つも入っていなかった。
「・・・何だ、何も入っていないではないか」
「何?」
その言葉にウォーラスは敏感に反応した。何とも迫力のある歩き方でコルテックス達に近寄り、冷蔵庫の中身を覗きこむ。
「・・・誰だ此処の材料かっさらった奴はァァアアア!!」
ウォーラスはそう叫んで包丁を持ったまま暴れ始めた。
「お、落ち着け!危ないッ・・・おい、そいつを抑えろ!」
ディンゴとフレイの2人がかりで何とかウォーラスを抑えると、ようやく本人も落ち着きを取り戻したのか軽くため息をついて肩を落とした。
「・・・やれやれ、大人しくなったか」
「すまねぇ、取り乱しちまったな・・・」
「つか何でそんなカリカリしてたんだよ?」
「それが、タイニーの野郎が第1冷蔵庫をブッ壊しやがってよぉ・・・」
要するに、彼はタイニーに対する怒りを紛らわすためにひたすら食材を切り刻んでいたという事だ。どうりで怖いはずである。
「それで、そこの冷蔵庫に無理矢理食材をブッ込んでたはずなんだが・・・」
「それも全部なくなっちまってると・・・」
「こうなるとおびき寄せ作戦も使えなくなっちまったな」
フレイが腕を組んで気だるそうにそう言うと、ふいにディンゴが手をコルテックスの肩に乗せてきた。
「仕方ねぇな。諦めろ」
「・・・いや、ならん!それはならあああん!アレにはマジで世界征服がかかってたんだぞ!?っていうか、だいたいお前らがまいた種だろうが!責任とって取り戻さんか!それとももう一度材料を取りに行くか!?」
「それは確かに嫌だが・・・」
「だぁから、それも含めて諦めろって。面倒くせぇ」
「何をッ!?」
その時、地面から何やら高い音が聞こえてきた。よく聞いてみると、チュー、チューと明らかにネズミの鳴き声がしたのだ。
「・・・まさかッ!?」
調理場をくまなく探してみると、いた。ネズミは調理台の陰に潜んでチーズをむさぼり食っていた。おそらくは冷蔵庫にあったものだろう。つまりは、冷蔵庫にあった食材を奪ったのはこのネズミというわけだ。
「いたぁぁぁあああッ!!」
コルテックスは全力でそのネズミを鷲掴みにしようととびかかったが、ネズミはいとも簡単にそれを避けて逃げていってしまった。
「何やってんだよ親父・・・」
「ええい、くそ!奴を捕まえろ!」
「だが、アイツの中に材料があるとも限らねぇぞ?」
確かにディンゴの言うとおりである。あのネズミを捕まえたとしても、それが先程材料を飲み込んだネズミとも限らない。むしろ、その可能性は低いはずである。
「だからだ!片っ端からネズミを捕まえて中身を調べればいい!」
「うへぇ!そこまですんのかよ!?」
フレイはオーバーに身体を動かし心底呆れた顔でコルテックスを見る。しかし、どうやらその意見に共感した者もいたらしい。
「ほぅ、あのネズミどもが俺様の食材を奪ったってわけか・・・いいだろう。ここにいるネズミ1匹残らずみじん切りにしてやろうじゃねぇか!」
先ほどよりもおぞましい表情でそう言うウォーラスには、さすがのコルテックスものけぞっていた。
「お、おぉ、そうか・・・助かる」
そんなわけで、コルテックス達は逃げていったネズミを追いかけることにした。

調理場を抜けてしばらく回廊を歩いていると、その道のど真ん中にネズミがいた。それが先程チーズを食べていたネズミなのか、あるいは新兵器の材料を飲み込んだネズミなのかはこの際どうでもいい。
コルテックス達はしらみつぶしにネズミを狩っていくことに決めたのだ。コルテックス達(特にコルテックスとウォーラス)はネズミを発見するや否や、全速力でネズミを追いかけた。
その時、血眼になってネズミを追いかけている2人の後ろでディンゴがフレイに話しかけた。
「なぁ、4人で1匹のネズミを捕まえんのは効率が悪い。俺達ゃ別の所を回ろうぜ」
「あぁ、そうだな」
そう言って2人はだんだんとスピードを緩め、最後には立ち止って無心で走っていくコルテックス達を見送った。
「ホンットアホだなぁあの2人・・・」
フレイはため息交じりに軽蔑するような眼差しでそう言った。
「とりあえず、オレっち達はこっちの道を行ってみるか・・・」
そう言ってディンゴは身体を90度右に回転させてその方向へ伸びていく通路を見つめた。それにつられて、フレイも首だけを右に動かし通路を見る。この先には、確かエヌ・ジンの研究所があったはずだ。
彼は普段から大がかりな機械を製作しているため、コルテックス城の中でも特Aクラスの危険区域でありディンゴ達はあまり出入りした事がない。それ故か、2人は彼の研究所が少なからず気にかかっていた。
「・・・成程な。ちっとは探索してみるか」
2人は再び通路を歩き出し、エヌ・ジンの研究所の中に入っていった。
エヌ・ジンの研究所は、ディンゴ達が想像していた以上に奇妙な場所だった。通路の天井にはいくつもの金属製のパイプが場所を取り合っているかのようにしきつめられており、
そこに収まりきれなかったチューブが垂れ下っている箇所もある。そんな不気味な通路を進んでいくと、2人は左右に扉があることに気がついた。両方の扉を開けてみると、そこにはおびただしい量の金属片が棚に収納されていた。
どうやら材料の倉庫らしい。他にも彼がこれまでに作ったであろうメカが壁に寄り掛かるように置かれている。生き物のような形態をしたメカが暗い倉庫の中にしまわれている様子は、死骸のようで何とも不気味だ。
いつの間にかお化け屋敷に入っているよな感覚に陥ってしまった2人は、知らぬ間にかなり奥まで入り込んでいた。せわしなく首を左右に振りながら、あまりに凄味のあるその光景に驚嘆していると、通路の奥で何かが動いているのが見えた。
「オイ、アレは何だ?」
ディンゴが訝しげな表情でそう言うと、向こうの何かもこちらに気付いたようで身体の瞳に当たる部分から紅い光をチカチカと点滅させ始めた。同時に、騒がしい足音をたてながらこちらに向かって走りだしてきた。
「こっちに来てるぞ!」
ガシャン、ガシャンという足音をたててディンゴ達に近づいたかと思うと、いきなり腕から鋭いカッターのようなものを伸ばしてフレイに襲いかかった。
「なっ!?」
幸いフレイは何とかその攻撃を避け、幾枚かの羽毛を散らすだけで済んだ。
「何!?」

その頃、コルテックスとウォーラスの2人はしつこくネズミを追いかけまわしていた。
「待てぇぇぇえええ!そのどぶくさい体かっさばいてやらァ!!」
意外にも物凄い速さでネズミに迫るウォーラスは、包丁をネズミに向けて振り回し始めた。ネズミもこれを機敏な動きで避けつつもしっかりと前進して逃げ続けている。
「待てぇぇぇえええ!ウォーラスもちょっと待ってくれぇ;」
遅れてコルテックスも少しお疲れの様子で声を振り絞る。その時、コルテックスは遥か奥の廊下の壁にわずかな隙間を発見した。
「ハッ!まずい・・・!」
すると、案の定ネズミはその隙間に向かって走っていった。ウォーラスの包丁がその軌道を捻じ曲げてくれてはいるものの、それはほんの時間稼ぎでしかない。ならばその時間を利用しない手はない。
コルテックスは急いで懐から光線銃を取り出し、壁の隙間に向かって光線銃を撃った。そして、光線銃が隙間の手前にやって来た時にはちょうどネズミが隙間の穴の中に入ろうとしている所だった。
間一髪、光線銃はネズミに見事命中し、ネズミは数秒間痙攣した後意識を失った。
「・・・よし、まずは1匹目だ」

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