パニックコメディ Funny Agony


回転撃さん作

〜Opening〜



どこかで物が豪快に壊れる音がしているような気がした。少しの音なら我慢するつもりだったが、いよいよその音は激しさを増していき、同時に嫌な予感もしてきた。
もしや、この音は自分の発明品が壊れている音なのではないか。音が大きくなるにつれて、その不安もどんどん膨れ上がってくる。
自分の発明品が暴走しているとはあまり考えたくないが、他の何者かによってそれが壊されているとしたら放っておくわけにはいかない。
長らく開発室で新しいメカの製作を試みていたエヌ・ジンは、ようやくその部屋の扉を開けて音のする方へ進んでいく。

フレイが空気銃の引き金を引くと、銃口からは真空波のようなものが飛び出した。真空波は奇妙な姿をしたロボットの腹に当たる部分をかまいたちのごとく切り裂き貫いた。
頑丈なはずの金属が砕ける音が響き渡る。ロボットは膝をついて床に倒れ込み、それからは動かなくなった。しかし、息つく間もなく同じようなロボットが次々とディンゴ達の所にやって来た。
フレイは空気銃を連射し、火炎放射器を持ち合わせていないディンゴは大きな尻尾を振りまわして応戦するが、それでもロボットたちの数は一向に減る気配がない。
あっという間に取り囲まれてしまい、ディンゴとフレイは背中合わせに立っていた。
「チィッ、火炎放射器さえあればこんな奴ら・・・」
「ほざけよ。俺の空気銃だけで充分だぜ」
「だったらさっさとこいつら片付けろってんだよ」
「っせぇな、今からそうすんだよ!」
そう叫んでフレイは再び空気銃を連射する。ディンゴは尻尾を思い切り振り回してロボットをフレイの所へ吹き飛ばし、それをフレイの空気銃で一気に貫く。
バラバラになったロボットの部品が四方に飛び散った。それに交じってロボットのカッターがフレイに向かってくる。気づくのが遅れたフレイは、左腕でそれを受けるのが精いっぱいだった。
「チッ・・・」
さらに後ろから襲いかかって来た複数のロボットに、フレイは即座に空気銃を向け引き金を引いた。すると、その銃口から今度は突風が巻き起こった。
突風によって後ろのロボットが吹き飛ばされている間に正面のロボットがもう一度カッターを振ってきたが、今度はしゃがんで避ける事ができた。
その直後、正面のロボットが突如横に勢いよく吹き飛ばされた。ディンゴが背後から攻撃したのだ。
「何やってんだよ」
「・・・オイ、伏せろ!」
ディンゴの背後には、今まさにディンゴに斬りかかろうとしているロボットがいた。フレイはディンゴの体すれすれのところで空気弾を放ち、ロボットを打ち砕いた。
その奥からは、さらにもう1体のロボットがこちらに迫って来ている。フレイは立ちあがって空気銃を構えるが、その瞬間急にロボットの様子がおかしくなった。
目の前のロボットだけではない。フレイ達を囲む全てのロボットが直立不動となり、目の赤い光も次第に消えていった。
「そこまでだ」
聞き覚えのある、というよりも一度聞いたら忘れられない半分ロボのような反響した声がその場に響いた。
「おぬしら、拙者のメカをよくもここまでバラバラにしてくれたものだな」
「エヌ・ジン!」
「つーか、こいつらが先に襲ってきたんだっつーの。一体何なんだよこりゃ?」
「不審者を捕捉するための監視ロボットだ。コルテックス殿に頼まれていてな」
「俺っち達を不審者扱いするなんざ失礼なロボットだな」
「まぁ、拙者のメカが暴走したわけではないようだからその点では安心した」
エヌ・ジンはそう言うが、フレイ達にとってみれば充分暴走しているように思える。そもそも、一味を不審者と誤認してしまうのは暴走以前の問題なのではないだろうか。
「時におぬしら、何故拙者の研究所に入っているのだ?」
その言葉にディンゴ達はようやく自分たちの本来の目的を思い出した。思えば、2人はエヌ・ジンの研究所に入った時点でネズミの件をすっかり忘れていた。

その頃、コルテックスは自身の研究所に戻っていた。捕まえたネズミの中に例の材料があるかどうか確かめるためだ。コルテックスはネズミに特殊な光線を当てながら言った。
「ウォーラス、ある程度ネズミをとっ捕まえたらここまで持ってきてくれ」
「分かった。じゃあ、早速殺ってくる」
「あんまり八つ裂きにしすぎるなよ・・・?材料が・・・」
殺気に満ち溢れたウォーラスの後ろ姿を見送りながら、ようやくコルテックスはディンゴ達がいなくなっている事に気がついた。
「そういえば、アイツらいつの間にいなくなったんだ・・・くそ、逃げよったな」

「成程な・・・それで拙者の研究所に探しに来たと」
エヌ・ジンはディンゴ達からこれまでの事情を聞くと、少し間をおいてから答えた。
「分かった、拙者も協力しよう。このロボの標的にネズミを登録すれば仕事が楽になるだろう。まぁ最も、どこぞのフクロネズミは既に登録済みだがな」
「味方を標的から外すのも忘れずにな」
フレイが皮肉ぶった口調で言うと、エヌ・ジンは何故か少し顔をしかめた。その後、エヌ・ジンはメカの調整のため再び開発室に戻り、ディンゴ達はこの研究所を出ることにした。
エヌ・ジンの研究所を出る扉を開けてコルテックス城に帰還したところで、フレイは軽くため息をついてから言った。
「・・・飽きた」
「・・・ハァ!?」
「エヌ・ジンの旦那のメカがあれば俺らがネズミを狩る必要なんてねぇだろ。ぶっちゃけネズミ狩りとか面倒くせぇし・・・俺は空中散歩でもしてくるぜ」
「オイ、待て」
しかし、フレイは振り返りもせずにどこへとなく消え去ってしまった。ディンゴは呆れた様子で頭を抑えた。
「ハァ〜、ったくアイツはよぉ・・・」
ディンゴは言いながら、ゆっくりと回廊を歩き出した。
「俺っちまでやる気しなくなっちまったじゃねぇか・・・」
ディンゴが自身の小屋に戻ろうと回廊を歩いていると、そこにあったスピーカーからキーン、という不快な電子音が漏れてきた。次にそこから聞こえてきたのはコルテックスの声で、これまた不快だ。
「全動物兵に告ぐ。この城にいるネズミを大至急生け捕りにし、ワシの研究所まで持ってくるのだ!」
「・・・オイオイ、かなり大げさな話になってないか?」
しかし、ディンゴは構わずに自分の小屋を目指した。コルテックスには火炎放射器を取りに行っていたと言えばどうにかごまかせるだろう。とにかく今のディンゴには、ネズミを狩るのが馬鹿らしく感じられた。
すると、向こうからはタイニーが歩いてきているのに気が付いた。よく見ると、彼の手にはネズミが握られているのが分かった。かなりの力で握られているらしく、ネズミは見るからに苦しそうだ。
「よぅタイニー、お前もうネズミなんか捕まえたのか」
「タイニー一番乗り〜!」
正確には彼が一番乗りではないのだが、まぁ彼がそう思っているのならそういうことにしておこう。
「タイニーネズミいっぱい取るぞー!」
「ま、せいぜい頑張りな」
ディンゴはそう言って左手を軽く上げタイニーと別れた。

その頃、コルテックスは自身の研究所で誰かがネズミを持ってくるのを待っていた。すると、研究所の扉が開いた。コルテックスは期待してそこを見たが、部屋に入って来たのは何とウカウカだった。
「こ、これはウカウカ様。ご機嫌麗しゅう・・・」
「フン、それよりコルテックス。さっきの放送は一体どういうつもりなのだ?」
「それは・・・最近基地にネズミが大量発生してうっとうしいので、この際一気に狩ってしまおうかと思いまして・・・」
「そんな事をしている暇があったらさっさと世界征服をせんか!」
「それは重々承知しております!しかしその・・・」
「何だというのだ?」
「実は・・・」
最終的にコルテックスは、大目玉を食らう覚悟でウカウカに事情を説明することにした。

コルテックスの研究所がそんな修羅場と化している事を知る由もないタイニーは、まっすぐそこを目指していた。すると、その通路の奥からは何やら殺気だった空気が感じられた。
そこにいたのはウォーラスだった。その姿を見て、タイニーは驚愕した。彼は両手に数匹のネズミを掴んでおり、包丁は口にくわえられている。その様子はまるで戦場を後にする戦闘狂の戦士のようだ。
しかし、タイニーはそのことよりも彼が自分より多くのネズミを捕えていることに衝撃を受けた。その時、タイニーの内に何故か悔しさが込み上げてきた。
一方のウォーラスも前方からタイニーがやってきているのに気がついた。ただでさえ冷蔵庫の一件があるうえ、今のウォーラスは怒りのやり場を手当たり次第に探している状況だ。
ウォーラスにとって、タイニーを目の前にして自分に歯止めをかける義理は微塵もなかった。
「タイニー、てめぇ・・・よくも冷蔵庫ブッ壊しやがったなぁ!?」
そう叫んで襲いかかってくるウォーラスに対してタイニーも闘志を燃やし始めていた。タイニーはいつの間にか、誰よりもネズミを集めたいという欲望にかられていたのだ。
「ガルルル、タイニー負けない!」
タイニーはより多くのネズミを手に入れるため、ウォーラスからネズミを奪おうとした。ウォーラスはネズミを握ったまま思い切りタイニーに殴りかかる。結果、タイニーはウォーラスの拳を受け止めることになった。
「チィッ!」
ウォーラスは肩を使ってタイニーの腹に体当たりをして体勢を崩した。たたみかけるように殴りかかるが、タイニーはそれをがっちりと掴んだ。タイニーの怪力で掴まれたウォーラスの手からは掴んでいたネズミが落ちた。
それを見たタイニーは笑みを浮かべて素早く地面に落ちたネズミを拾い取った。すると、2人はその廊下の先にもう1匹のネズミがいることに気がついた。
「あ!タイニーネズミ捕まえる!」
タイニーはそのネズミに向かって一直線に走っていく。
「あ、待てこの野郎!」
ウォーラスもその後を追って走りだす。

その頃、フレイはコルテックス城のバルコニーに出ていた。ここからはコルテックス城を取り囲むようにそびえる山々を一望する事が出来る。今日はそこそこ強い風が吹いているので、空気銃なしでも飛び立つ事が出来そうだ。
フレイはバルコニーの柵に足をかけ、両手の翼を広げて一気に柵の外へ飛び込んだ。翼は風をしっかりと捉え、フレイは悠然と空を飛んだ。空中散歩はフレイの日課のようなものだった。
彼にとって、気晴らしには空を飛ぶのが一番なのである。何もかもを忘れて、フレイはひたすら空を飛び続ける。
「ひゃっほううう!!」
いつの間にかフレイはコルテックス城付近の山を越え、その奥の森の上まで飛んできていた。その時、フレイは森を抜けた崖に何かがいる事に気がついた。
「ん?何だありゃ・・・?」
それが何なのかが気になったフレイは、その崖に降りて様子を見てみることにした。

一方、ディンゴは回廊を抜けてコルテックス城から出ていた。ディンゴが普段暮らしている小屋はコルテックス城から少し離れた場所にあり、この島の海沿いに建っている。
そこへ出るにはコルテックス城の正面口からまっすぐ進んだ先にある坂を下りる必要がある。ディンゴはその道をゆったり進んでいると、どこからかともなく叫び声が聞こえてきた。
おそらく空中散歩でテンションが上がったフレイによるものだろう。ディンゴはこれまでにも何度かその絶叫を遠くから聞いた事があったのだ。
「・・・ったく、調子のいい野郎だ」
そんな事をつぶやいていると、前方にディンゴの小屋が姿を現し始めた。それと同時に、ディンゴの視界には砂浜の上に倒れている少女の姿も映った。
「何だ?!」
ディンゴは少女の方へ歩み寄っていく。見たところ怪我をしているようで、服なども多少ボロボロになっている。一体この少女は何があってこんな所に倒れているのだろうか。
不思議に思いつつも、ディンゴはとりあえず自分の小屋へ少女を運ぶことにした。

「あ!今アテナがディンゴに連れて行かれちゃったよ!」
崖の上からディンゴがいた砂浜を見ていたクラッシュは、その様子を見るなり大声でそう叫んだ。
「何!?」
「むぅ、間に合わなかったか・・・」
クラッシュの声でクランチとアクアクもそのことに気付いた。
「どうするんだ?」
「そんなの、決まってるでしょ」
ココが神妙な顔つきで静かにそう言った。
「待っててアテナ、今助けに行くからね・・・」

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