パニックコメディ Funny Agony


回転撃さん作

〜Happening〜



「待てぇぇぇえええ!!」
タイニーとウォーラスは、物凄い形相でネズミを追っていた。この2人に全力で追われているのだからネズミの恐怖心といったら相当なものだろう。ネズミもまた生き延びようと必死に走る。
すると、通路の奥にある扉が突如開いた。無心でネズミを追っていたタイニーはそれに気付かず、通路に入ってきたエヌ・トロピーと正面からぶつかってしまった。
「アウチッ!」
2人はお互い地面に倒れこんでしまい、ネズミはその隙にエヌ・トロピーが開けた扉を通って外に出ていった。頭を押さえながらもそれを見逃さなかったタイニーは、ネズミを追おうと立ち上がる。
「タイニー、気をつけたま・・・」
しかし今のタイニーはネズミの事しか頭にないようで、通路をふさいでいたエヌ・トロピーを乱暴に薙ぎ払ってしまった。エヌ・トロピーは張り付くように勢いよく壁にぶつかった。
「ゴフッ!!・・・私が一体、何をしたというんだ・・・」
力なくそう言い残して、彼はゆっくりと地面に倒れ意識を失っていった。ウォーラスはそんなエヌ・トロピーを憐みの眼差しで見つめながらも、すぐにタイニーの後を追った。
扉を抜けてコルテックス城外部の階段に出ると、上の方でタイニーがネズミを追っているのが見えた。しばらくネズミを追っていると、ネズミはバルコニーに上ったようだった。
タイニーも素早くバルコニーに上り、ネズミを捕まえようと一気に跳び込んだ。意を決したネズミもタイニーから逃げ去るように跳ぶ。そして、タイニーは掴みかかろうと伸ばした右手に確かな手ごたえを感じた。
「捕まえたぁっ!!」
確かに、タイニーの右手にはしっかりとネズミが握られていた。しかし、ふと下を見てみると、そこには足場などなく遥か真下にかすんだ大地が見えるだけだ。
実は、ネズミはタイニーから逃れるためにバルコニーから空中に跳び込んだのだ。それに気付かなかったタイニーは、ただネズミを捕まえる為にバルコニーの柵を跳び越えてしまったのである。
勿論タイニーは勢いよく地面に向かって落ちていく。
「あああああああ!!」
「タイニー!」
後ろから様子を見ていたウォーラスが柵から身を乗りだして下を覗きこんだ。
「・・・ったくあの馬鹿」

その頃、エヌ・トランスは回廊の出口を目指して懸命に走っていた。というのも、エヌ・トロピーから大至急実験の道具を揃えるように言いつけられていたからだ。
実験の道具となる材料は、コルテックス城から少し離れた場所に建っている巨大倉庫に保管されている。今エヌ・トランスの目の前にある扉を開ければ、その巨大倉庫まではもうすぐだ。
彼は目的地の近くまで来た安堵からか勢いよく扉を開けると、そこからはゆっくりと歩き出した。するとその時、ふいにどこからか誰かの叫び声が聞こえてきた。
どうやらこの声は上の方から聞こえてきているようだが、その声は徐々に大きくなってくる。エヌ・トランスは反射的に上を見た。何とその先にはタイニーが物凄い速さでこちらに落ちてきていたのだ。
「うわあああああ!!」
「なっ、なああああああ!?」
エヌ・トランスはどうすることもできないまま頭にタイニーのボディプレスを喰らってしまった。すると、彼の頭がちょうどトランポリンのような役割を果たしたのかタイニーは大きくリバウンドした。
一方のエヌ・トランスもタイニーの重みに体勢を崩し、そのままリバウンドしたタイニーによる2回目のボディプレスを喰らってしまう。勢い余って2人は地面を転がりだし、海辺に出る坂道へまっしぐらに進んでいく。
「え〜っちょっ、あ〜〜〜っ!!」
見る見るうちにエヌ・トランスは目的地である巨大倉庫から遠ざかっていく。しかし、激しい回転で意識が朦朧とし始めた2人にはどうすることもできず、ただひたすらに坂を転がっていくだけだった。
そんな2人の転がる先には何とディンゴの小屋が待ち構えていたかのようにそびえ立っていた。しかし、2人にそんな景色は見えているはずもない。2人はそのままディンゴの家に激突し、その家は豪快に破壊の音をたてるのであった。

(アテナァァァ!!)
崖を降りて陰からディンゴの小屋の様子を見ていたクラッシュ達は、思わずそこまで駆けだしてしまった。ディンゴの小屋は原型を留めないまでに崩壊しており中にいたアテナの状態が心配で仕方ない。
幸い転がって来たタイニーとエヌ・トランスは完全にのびていて、しばらく気付かれる心配はない。クラッシュ達は山積みになった木材を必死に動かしてアテナを捜索した。
しかし、いくら探してみてもアテナどころかディンゴの姿すら見当たらなかった。
「・・・どういうことだ?確かにアテナはディンゴに運ばれてこの中にいたはずだ」
クランチが手を止めてそう言うと、ココが静かに答えた。
「私達が見えない所から出ていったのかもしれない。例えばこの地下がどこかに繋がっているとか・・・」
そんな中、クラッシュが相変わらず懸命に木材をどかそうと奮闘していると、その木材の上に何かが乗ってきた。タイニーの手から飛び出してきたネズミだ。タイニーは何故ネズミを掴んでいたのだろうか。
まぁ、タイニーの事だから特に深い意味はないのだろうが、そのネズミを見ていると何故か不敵な笑みを浮かべているような表情に思えた。すると、そのネズミが木材から下りてさらに奥の隙間の中へ落ちるように入っていった。
(・・・この下、何かあるのかな?)
クラッシュはさらに必死でそこの木材をどかそうと試みる。

一向に目覚める気配のないアテナに困り果てたディンゴは、地下通路を経由してとある場所を目指していた。しばらく地下通路を歩いていると、少し広めの空間に出た。
椅子や机が少し散らかり気味のこの部屋はディンゴら動物兵団達の隠れ家だ。そこではコモド兄弟、コアラコング、リラ・ルーの4人がトランプをしていた。
「っしゃあああ!スススストレートだぁ!」
コモド・ジョーが威勢よくテーブルに自分の手札を叩きつけるように見せつけた。しかし、リラ・ルーだけは余裕の表情で手札を出した。
「残念やな〜、ワテはフォーカードやで〜」
「な、何ィッ!?」
ジョーを始めコモド・モーやコアラコングも舌打ちをしながらあれやこれやと不満を口にする。
「ありがたくもろておきまっせ〜」
リラ・ルーはこれでもかという程満面の笑みで皆が賭けた現金を取っていく。すると、彼はディンゴの存在に気がついたようで気さくに話しかけた。
「あ、ディンゴはん。ディンゴはんもどうでっか?(おほっ、金づるもう1匹追加や〜)」
「今それどころじゃねぇのが見て分からねぇのか。それよりお前んとこのあの野郎はどこにいんだよ?」
見ると、確かにディンゴは見知らぬ少女を抱えておりポーカーどころではなさそうだった。思わず舌打ちしそうになってしまう。
「あぁ、ブリオはんやったら多分研究所で実験してはると思いますよ」
「そうか」
ディンゴはブリオの研究所を目指して隠れ家を出た。

「バカもーーーん!!ネズミごときに後れを取るなど呆れてものも言えぬわ!」
コルテックスの研究所にウカウカの怒鳴り声が耳をつんざくほど響いた。これまでの事情を知ったウカウカは、恐ろしい勢いで機嫌を悪くしていく。
「ですからウカウカ様、今しがたそれを奪い返しますのでもうしばしお待ちを・・・」
「フン、アホらしい!勝手にやっていろ!」
その時、コルテックスの視界に1匹のネズミがひょいと飛び込んできた。
「あ!ネズミだ!待てぇぇぇえええ!!」
そう叫びながらネズミを追いかけ研究室を出ていくコルテックスに半ばあっけにとられるウカウカであった。
「・・・ふぅ、まったく。本当にアホらしいわ」

「うほっ、フルハウスや!」
「何ィィイ!?」
一方、4人のポーカーの戦況は相変わらずリラ・ルーの1人勝ちだった。
「お前さっきから手札が強すぎるんだな!まさかイカサマしてるんじゃないのか?!」
コモド・モーが珍しく凄まじい剣幕の表情で指摘する。すると、リラ・ルーはすまし顔で答えた。
「おや、今頃気づいたんでっか?あんさんら鈍いでんな〜」
「な、何だと!?」
「てめぇ、はめやがったなぁ!?」
「だまされる方が悪いんでっせ〜。ほな、今日はがっぽり稼がせてもらいましたわ」
「ふざけんなぁああ!!オイ、こいつ袋叩きにすんぞ!!」
コアラコングの咆哮にも似たこの一言でコモド兄弟も勢いよく立ちあがる。これにはリラ・ルーもうろたえたようで2、3歩後ずさりして軽く両手を上げた。しかし、そんな事もお構いなしに3人はリラ・ルーに近寄っていく。
その時、突如ディンゴの家に繋がる通路からこちらに話しかけてくる声が聞こえてきた。
「おーい、何してんだよお前ら」
そこからやってきたのは何故かフレイホークだった。
「あ、フレイはん。助けてくれまへんか?この3人がわてに襲いかかってきてまんねん」
「何被害者面してんだ!お前がイカサマしたからだろうが!」
コアラコングが激しい剣幕でそう言った。しかし、リラ・ルーは未だ食い下がろうと必死な表情でさらにフレイに話しかけた。
「フレイはん、あんさんはどっちに味方するんや」
「あー・・・どうでもいいけど。お前ら今すぐここから出てってくれねぇか?」
「あぁ?何言ってんだお前」
コングがいぶかしげな表情で言った。前半はもっともな反応だが、その後の言葉が不可解だ。
「だからさ、お前らこんな所で喧嘩してる場合じゃねぇってことだよ。今すぐコルテックス城に戻るんだ」
「・・・どういうことだよ?」
ジョーがそう聞くと、フレイは何故か言葉を詰まらせた。
「それは・・・行けば分かるさ」
4人は互いに顔を見合わせ、フレイの言葉の真意を測った。しかし、最終的にはコルテックス城の様子が気にかかり仕方なく隠れ家を出ることにした。

その頃、コルテックスは必死にネズミを追いかけ城内を奔走していた。最早ネズミを追うばかりで今どこにいるのかを気にする余裕は全くなかった。自分の足だけでは簡単に逃げられてしまうので、光線銃を撃ってネズミの進路を塞ぎながら追いかける。
それでようやく彼の視界の内に留めておくことができる程度だ。そのうえ、そろそろ光線銃の残り弾数が心配になってくる頃だ。コルテックスはここで一気に勝負をかけなければそのうちネズミに逃げられてしまうだろう。
(どうする・・・?奴を捕える為には・・・どうする?!)
その時、ふとコルテックスの視界に非常シャッター装置の電源が目に入った。
(・・・!これだッ!!)
コルテックスは残りわずかな光線弾を非常シャッター装置の電源めがけて打ちこんだ。すると、目の前の通路の天井から重々しい金属製のシャッターが素早く下りてきて、瞬く間にネズミの進路を完全に封鎖した。
「ふっふっふ、これで追い詰めたぞ・・・さぁ、大人しく捕まるのだ!」
そう言って勢いよくネズミの方へ飛び込んだ。しかし、ネズミは瞬時に地面を蹴ってコルテックスの頭上を跳び越え、見事に窮地を脱出した。
「なっ・・・!?」
ネズミは綺麗に地面に着地すると、ここぞとばかりに猛ダッシュでコルテックスから離れていく。
「しまったぁぁぁあああ!!」
しかし、ネズミが走る先には新たなるモノが立ちはだかった。ガシャン、という足音をたてて(ネズミから見れば)巨大な機械がやってきたのだ。そのメカは瞬時に腕からカッターを出して、機械とは思えないほどの素早い動きでネズミを攻撃した。
想定外に次ぐ想定外の出来事に流石のネズミも立ち往生して、とうとうメカのカッターがネズミの体を貫いた。勿論コルテックスも何が何だか分からないまま茫然とその様子を見ていた。
「我々も協力しますぞ、コルテックス殿」
聞きなれたその声に、ようやく状況を理解したコルテックスは立ちあがって奥から出てきたエヌ・ジンに近寄った。
「エヌ・ジンか!わざわざネズミを狩るためのメカを作ってくれたのか」
「ええ、早速役に立てたようで何よりです。他にも何機か捜索に出させておりますので」
「おお、助かる」
ここからコルテックス達の怒涛の反撃が始まる・・・かに思えた。

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