パニックコメディ Funny Agony


回転撃さん作

〜Happening〜



「おーい、ブリオいるかぁ?」
ディンゴは二トラス・ブリオの研究所まで足を運んでいた。扉の前でしばらく返事を待っていると、ゆっくりと扉が開き始めた。
「おや、これはディンゴさん。私に何のご用で・・・」
ブリオは扉を半分ほど開いて顔を出しディンゴに話しかけた。しかし、身長差の関係もありブリオの目に真っ先に入ってきたのはディンゴではなくアテナだった。
「・・・これは?」
「オレっちもよく分からねぇんだよ。海辺で倒れてた」
「そうですか・・・では一旦容態を見てみましょうか」
「ああ、というか後は頼んだ」
「えぇ・・・もしかして厄介払いするために私の所に来たんですか?」
「うるせぇな。どのみちオレっちにはどうしようもねぇだろうが」
ディンゴはそう言ってアテナをブリオに預けると、ブリオに背を向け歩き出した。
「とにかく後は任せるぜ。じゃあな」

実質2匹目のネズミを捕まえたコルテックスは、ネズミの中身を調べるため彼の研究所を目指して通路を歩いていた。気付かぬうちにだいぶ離れた所まで来てしまったらしい。
自然と速足になっていくコルテックスの目の前に複数の人影が見えた。動物兵団の隠れ家からやってきたフレイ達だ。
「お前ら!今まで一体どこに行ってたんだ」
「どこにいたっていいだろうが。それより、何かあったのか?フレイがここに戻ってこいとか言ってたんだが・・・」
コアラコングがそう聞くと、コルテックスは何故か少々呆れた表情になった。
「何だお前ら放送を聞いてなかったのか?この辺をうろついてるネズミを片っ端から生け捕りにしてワシの研究所に持ってこいと言ったんだ」
全く聞いていなかった。隠れ家にも一応放送用のスピーカーが置いてあったはずだが、どうやらトランプに集中しすぎていて聞き逃してしまったらしい。
「何でまたそないな事せなあかんのです?」
リラ・ルーが即座にそう言った。その場にいる全員が思った事だ。
「ネズミの中に新兵器の材料が入ってしまったんだよ。どっかの誰かが材料を落としたせいでな」
コルテックスが皮肉ぶった口調でそう言うと、フレイが人ごとのように棒読みで答えた。
「ふ〜ん、そいつは相当間抜けな奴だな」
「何すっとぼけてんだ!お前が落としたんだろうが!」
「え?ああ、そうだっけか?」
「こいつ・・・どこまでしらを切るつもりだ。まぁいい、とにかくお前らもさっさとネズミを献上しろ」
コルテックスはそう言うと再び研究所に向かって歩き出した。コルテックスの姿が見えなくなったところで、コモド・モーが口を開いた。
「・・・どうするんだな?」
「というか、こんな事させるために呼んだんじゃねぇだろうな、フレイ?」
コングが呆れた顔でフレイを睨みつける。しかしフレイはそれをものともせずに呑気な表情で答える。
「ヘッへへ、まぁそう言うな」
「・・・あ、いい事思いついたぜぇ!」
ここで突如コモド・ジョーが大声を上げて言った。
「あ?何だよ?」
「賭けの続きだ。これから30分以内に多くのネズミを捕まえた奴が賭け金をスス総取りできるってのはどうだ?面シシ白ススそうだろ!?」
突然の提案に訝るコング達だったが、リラ・ルーだけは余裕の反応を見せた。
「成程〜それええでんな〜」
「何でそんなことしなきゃならねぇんだよ?」
コングがそう言うと、ジョーはコングとモーをリラ・ルーから少し離れた場所に集めて小声で言った。
「だぁから、このシシ勝負でアイツに取られた金取り戻スすんだよ!今度は俺らがアイツをはめる番だ」
それを聞くと、2人は即座に納得した。
「よ〜しいいだろう。その勝負乗ったぜ!」
「おらもなんだな!」
「決まったな!フレイ、お前がタイムキーパーをやれ!」
「・・・ハァ!?ちょっ、何勝手に・・・」
「ススそれじゃスス早速スススタートだァッ!!」
その掛け声をきっかけに4人は一斉に走り出した。取り残されたフレイは茫然と4人の姿を見つめていた。
「・・・何なのあの人達」

リラ・ルーが別の通路へ走っていったのを確認すると、ジョー達は立ち止って作戦会議を開いた。
「・・・で、具体的にどうやって奴をはめるんだ?」
コングがジョーにそう聞くと、ジョーは少しの間声を唸らせてから口を開いた。
「ススそうだなぁ・・・とりあえず奴にネズミが渡らねぇように常に誰かがマークシシしておくべきだ」
「その役。おらがやるんだな兄貴!」
モーが妨害役を買って出たのには理由があった。ジョーもその事を考えていたのか深くうなずいた。
「あぁ、お前なら安シ心シシして任ススせられるぜぇ」
「じゃあ俺達は協力してネズミを捕まえりゃいいってわけか」
「ススそういう事だ。シシ終了5分前になったらまたここへ集合してネズミの数を分ける。それで取り分を山分けってスス寸法だ」
「成程、そいつは名案だ。そうと決まれば早速分かれるぞ」
「おお!」
そう言ってモーはリラ・ルーの後を追い、ジョーとコングは別の通路を進んでいった。ところで、この作戦においてジョーやモーにはある大きな不安要素があった。
だからこそモーはリラ・ルーの妨害役を買って出たわけだが、どうやらその不安は的中しているらしかった。
(取り分山分けか・・・フン、このコアラコング様がそれに納得するとでも思ったか!隙を見てコモド野郎のネズミもまとめて横取りしてやるぜ!)

とりあえずフレイは近くにあった時計を見てみることにした。気がつけばもうすぐ夕方になる時間帯だ。しかし、バラバラに行動しているであろう4人に30分経った事をどうやって伝えるのだろう。
「・・・ま、いいか」
最終的にはその役割を放棄することにした。そもそもフレイにそれを果たす義務があるとは思えなかった。今の自分にはそんなことよりもしなければならない事がある。
すると、向こうの通路からディンゴがやって来ているのに気がついた。ディンゴもこちらに気付いたようでフレイに話しかけてきた。
「フレイじゃねぇか。散歩はもう終わったのかよ」
「ああ・・・ところでディンゴ、お前確か誰かを運んでなかったか?」
「あぁ?何でそんな事知ってんだよ?」
そう言いながらディンゴははたと思いついた。そういえば、その時フレイは空中を飛び回っていた。空から自分が少女を運んでいる姿を見ていたのかもしれない。
「・・・いや、空から見てやがったのか」
「なぁ、そいつをどこに運んだんだ?」
どうやらフレイもそれなりに気にかかっているらしい。
「ブリオの研究所だ。ま、後はアイツが処理してくれんだろ」
「そうか・・・じゃあな」
そう言ってフレイは再び歩き出したが、少しすると決まりが悪そうにディンゴのもとに戻ってきた。
「で、ブリオの研究所ってどこにあるんだっけ?」
「・・・だぁっ!」
ディンゴは思わずコケてしまった。

一方、クラッシュ達はコルテックス城内の潜入に成功していた。ディンゴの小屋の残骸を調べていると、クラッシュが地下への道を発見したのだ。地下通路の途中には家具などが散らかった部屋があったが、運よくそこには誰も居らず比較的簡単に潜入する事ができた。
曲がり角に差し掛かると、クランチがゆっくりと顔を出して先の様子を見る。
「・・・大丈夫みたいだ。行くぞ」
そう言うと、クラッシュ、ココ、アクアクも続いて回廊を進んでいく。しばらくそんな事を繰り返していると、クランチは急に足を止めた。
「・・・どうしたの?」
クラッシュが呑気な口調でそう聞くと、クランチは静かに言った。
「・・・誰か来る」
「え?!」
よく耳を澄ましてみると、確かにどこかからガシャン、ガシャンという機械めいた音が聞こえてくる。あたりを見回してみるが、隠れられそうな場所はどこにもなかった。
(チッ、どうする・・・?!)
曲がり角からやってきたのは、エヌ・ジンが作りだした監視ロボットだった。しかし、監視ロボットの視界にクラッシュ達が入る事はなかった。実はこの廊下、横幅が少し狭めの構造となっている。
そこでクランチが天井近くで手足を壁につけて、彼の体の上にクラッシュとココが乗ることで監視ロボットの頭上に留まっているのであった。だが、廊下の幅が狭いとは言ってもクランチが腕を精一杯に伸ばしてギリギリ届くくらいだ。
3人の鼓動が速くなっていく。監視ロボットがちょうどクランチの真下を通過していくのを3人は固唾をのんで見守る。しかし、緊張感が最後までもたなかったクラッシュは鼻をひくひくと動かし始めた。
「ハッ・・・ハッ・・・ハ〜ックション!」
勢いよくくしゃみをしたクラッシュはその拍子にクランチの頭に強烈な頭突きをかましてしまった。思わぬ攻撃を受けたクランチは腕の力が瞬間的に抜けてしまい、一気に壁からずり落ちてしまった。
勿論、クラッシュがくしゃみをした時点でロボットはその音を拾っていて、ロボットが後ろを振り返ったその瞬間にクランチ達は地面に不時着していた。監視ロボットは目の部分からチカチカと赤い光を点滅させクランチ達を見下ろしている。
(み・・・見つかったーーーッ!!)
監視ロボットは容赦なく腕からカッターを出してクランチに斬りかかった。クラッシュ達はそれを避けるが、倒れていたクランチは間に合いそうにない。
「危ないッ!」
その時、天井近くを浮かんでいたアクアクがクランチの目の前に飛び込んできた。そして彼はクランチをかばいどうにかダメージを防いだ。
「くっ・・・!」
「大丈夫かアクアク!?」
「あぁ・・・まだいけるぞよ」
アクアクはそう言うが、今の一撃を防ぐのにかなりの体力を消耗したようだ。
(チッ、まさかこんなに早くアクアクを使っちまう事になるとは・・・)
「オイラがやるッ!」
クラッシュはそう言いながら監視ロボットに突っ込んでいった。彼は勢いよくスピンアタックをして監視ロボットを吹き飛ばす。
「ちょっと!あんまり派手にやっつけても誰かに気付かれるかもよ!?」
ココがそう注意すると、クラッシュは少し困ったような表情で振り向いた。
「・・・じゃあどうすればいいの?」
「私に任せて」
ココはそう言うと、懐からスパナを取り出した。ちょうどその時、監視ロボットが起き上りこちらに向かってきた。ココはそのロボの足元を集中して見つめた。
「・・・ええいッ!!」
そう言ってスパナを持った右手を素早く動かすと、何とロボットの足部はバラバラに分解されてしまった。ココの機械技術と格闘技仕込みの動体視力がなせる業だ。
「ヒュ〜、さすがココだな」
クランチが感心した様子で言った。
「さ、行きましょ」
ココが言うとクラッシュ達は廊下を再び進み始めた。が、少し進むとココが急に足を止めた。
「あ、ちょっと待った。いい事思いついたわ」

その頃、崩壊したディンゴの小屋の中で長らく意識を失っていたタイニーがようやく目を覚ました。タイニーはゆっくりと起き上ると、捕まえたはずのネズミがいなくなっている事に気がついた。
「!!?」
タイニーは慌てて周りを見渡しネズミを探すが、ネズミはとうに逃げ去ってしまっている。それに、タイニーが気絶しているうちに他の誰かが多くのネズミを捕まえてしまっているかもしれない。
激しく焦りだしたタイニーは、傍から見れば発狂したかのようにいきなり全速力でコルテックス城に向かって走りだした。

一方その頃、コルテックスはようやく自身の研究所の前まで辿り着いた。
「ふぅ、やっと着いた・・・というか放送してから誰もネズミを持ってきていないとはどういうことだ・・・」
コルテックスはため息をつきながら研究所に入ると、そこからどすのきいた低い声が聞こえてきた。
「フン、やっと戻ってきよったか」
そこにいたのはウカウカだった。彼はコルテックスが研究所を出てからもずっとこの場に留まっていたのだ。
「うげっ!(まだいたのか・・・!?)ウカウカ様、ひょっとして私を待っておられましたので・・・?」
「そうだ、まだ話は終わっておらん。というか貴様今うげっって言ったろ!?」
(ひ、ひぇ〜〜〜〜〜〜ッ!!)

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