パニックコメディ Funny Agony


回転撃さん作

〜Happening〜



「・・・で、そのお話というのは・・・?」
恐る恐るウカウカに聞くコルテックス。ウカウカは少々呆れたような表情をして言った。
「それくらい察しろ。貴様の言う新兵器の事だ。それだけ必死に材料を取り戻そうとしているのなら、その計画自体は確かなものなのだろうな?」
「えぇ、それはもう・・・それこそ世界征服の達成がかかっていると言っても過言ではありません」
「フン・・・それほど言うのであれば貴様のその計画に賭けてやらんでもない」
ウカウカの言葉にコルテックスはうつむき加減だった顔を少しだけ上げた。
「・・・ということは」
「貴様の材料探しに協力してやると言っているのだ」
思わぬ一言にコルテックスは心底驚いた様子だった。普段は命令ばかりで直接ウカウカが動くことなど、ましてやネズミを捕まえるなどという作業をすることはまずもってあり得なかったからだ。
それだけ彼がコルテックスの計画に期待しているということなのだろう。そういう意味では、これはコルテックスにとって実に喜ばしい事だ。
「ほ、本当ですか!?」
「ただしそれで計画をしくじったりしたら分かっているんだろうな!?」
「え、ええ。それは勿論でございます。必ずや世界征服を達成して見せましょう」

その頃、ネズミの捕獲をめぐる賭けに参加しているリラ・ルーは、効率よくネズミを捕まえるために餌になる食べ物を探していた。まず最初に調理場へ向かったのだが、そこにはネズミが食べそうな餌は一切残っていなかった。
そこでリラ・ルーは調理場を出て、隠れ家に戻ろうとコルテックス城の回廊を経由して地下通路を歩いていた。動物兵たちの隠れ家にはささやかながらおやつなどの食べ物を保存しておくための小さな冷蔵庫が置いてある。
そして、リラ・ルーは隠れ家に辿り着くやいなやその冷蔵庫の方へ歩み寄り扉を開けた。見ると、そこには運よくチーズケーキがいくつか入っていた。
「おっ、これはラッキーや。これでネズミもバンバン寄ってくるで〜」
リラ・ルーはチーズケーキを取り、あり合わせの材料で特製の罠を作ると、すぐさま隠れ家を出た。しばらくコルテックス城の回廊を歩いていると、廊下の前方からコモド・モーが現れた。リラ・ルーは反射的にケーキを体の後ろに隠す。
「あ、モーはん。調子はどうでっか?」
「・・・お前はどうなんだな?」
「ワテはまだ0や。ま、そう何匹もいっぺんに現れるもんやないしな」
「そうか、オラもなんだな」
すると、モーはリラ・ルーの持つチーズケーキに気付いたようである。
「・・・それでおびきよせるつもりなんだな?」
「へヘッ、ばれてもうたか。あげへんで?」
リラ・ルーはそう言ってチーズケーキを地面に置いた。その近くにネズミの巣と思しき穴があったからだ。ここで待ち伏せをするつもりらしい。リラ・ルーは念のため曲がり角の死角に隠れつつ様子を窺う。
すると、モーもリラ・ルーについて来て同じようにケーキの様子を窺い始めた。
「その作戦、オラも乗ったんだな」
(・・・そう来ると思ったで。ワテのネズミ横取りする気やな・・・)
こうして2人はあらゆる意味で緊張感に包まれたのだった。

一方、コルテックス城内に戻ってきたタイニーは、相変わらずネズミを探し求めて走りまわっていた。しかし、いくら探してみてもネズミは一向に現れない。さすがのタイニーも徐々に走り疲れてきてしまった。
お腹もすいてきた。ゆっくり立ち止ると腹が鳴った。この瞬間、タイニーの頭からネズミの事が一旦離れ、代わりに食べ物の事が浮かんできた。すると、遠くからかすかに甘い匂いが漂ってきている事にタイニーは気がついた。
タイニーはその匂いに誘われながら回廊を歩いていく。すると、彼の視界には回廊の地面に置かれたチーズケーキが入ってきた。彼にとってはこれ以上ないグッドタイミングだ。
タイニーは本能に従いそのケーキに向かって一直線に走りだす。この時の速度は先程コルテックス城に向かって走った時のものを越える勢いだった。

息をひそめてチーズケーキの様子を見守るリラ・ルーとコモド・モーはネズミの巣穴の方を意識しがちだったが、それとは全く違う方向から全く予想していなかったモノがやってきた。
「ガウーーーッ!」
「!!?・・・タイニー!?」
タイニーは勢いよくリラ・ルーの仕掛けたチーズケーキに喰らいついてしまった。その直後、リラ・ルーの仕掛けた罠が作動してタイニーの口が勢いよく針金で締め付けられてしまった。
「あ〜・・・」
「何でタイニーはんが食うてんねん!?ネズミの罠にひっかかるってどういうことや!」
そう言いながら2人は仕方なくきつい罠をほどいてやった。タイニーはようやく罠から解放されると、何かに気付いたようでいきなり立ち上がった。
「ネズミッ!」
「え?」
タイニーは再び前に向かって走りだす。その先にはネズミがいたのだ。それに気付いたリラ・ルー達もハッとして立ち上がる。
「・・・あッ!」
2人もタイニーの後についていく形でネズミを追い始める。
「タイニーがネズミ捕まえる!!」
「待ってやタイニーはん!ワテがやるで!」
「いいや、オラが捕まえるんだな!」
しかし、タイニーは聞く耳を持たず一気にネズミに接近していき、それこそトラの狩りのように勢いよく飛び込んでネズミに向かって跳び込んでいった。
「!!!」
だが、距離があと一歩足りなかったのかタイニーはネズミに指先をかすめる程度で捕える事はできなかった。その隙にリラ・ルーがタイニーを抜いてネズミを捕えようと手を伸ばす。
こちらはゆっくりとではあるが着実に距離を縮めていく。
(・・・今やッ!)
リラ・ルーは伸ばした手をさらに限界まで伸ばしてネズミに迫る。と、その時彼は身体に強烈な衝撃が伝わって来るのを感じた。
「えっ・・・?!」
何とタイニーがリラ・ルーにネズミを取られまいと彼を思い切り薙ぎ払ったのだ。強烈な一撃にリラ・ルーは壁に叩きつけられた。
「ぐふぉっ・・・」
(ええええええええ・・・!?)
リラ・ルーはそのまま壁に寄りかかるようにして倒れこんでしまった。こうして彼はネズミをめぐる争いにあえなく脱落してしまった。かに思えたが、彼はすぐに動き出した。
「まだや・・・まだチャンスはあるはずや。こちとら金がかかっとんねん!」

その頃、コルテックスはとぼとぼと廊下を歩いていた。
「ったく・・・珍しく協力するだなんて言ったかと思ったらこれか・・・」
ウカウカのネズミ狩り協力宣言にも驚かされたが、その次の言葉もなかなかに不意を突いたものだった。
[さぁ、行ってこい]
[・・・はい?]
[だから、ワシが貴様の代わりにネズミの中身を調べてやるから早くネズミを捕えてくるのだ!]
[え・・・]
[何か文句でもあるか?]
[い、いえ!行ってきま〜すッ!]
そう言って逃げ出すように研究室を出て今に至るのであった。
「何が協力してやるだ。結局大した事やらないんじゃないか・・・」
うだうだと文句を吐き出しながら歩いていると、廊下の奥から機械的な音が響いてきた。よく見てみると、どうやらそれはエヌ・ジンの作った監視ロボットのようだ。
「おお、ロボットだけはちゃんと働いてくれているようだな」
しかし、何やら様子がおかしい。監視ロボがこちらにどんどん近づいてきているのだ。それも目から赤い光を点滅させながら。コルテックスは周りを見回してみるが、標的になりそうなものは何も見当たらなかった。
それでも監視ロボは異常なほど激しく光を点滅させ、おまけに腕から青白い光線弾を溜め込みながら走ってくる。
「まさか・・・いや、そんなはずは・・・」
しかし、そのまさかだった。そのロボは溜めに溜めこんだ光線弾を何の迷いもなくコルテックスに向けて発射してきたのだ。コルテックスはそれを避ける事ができず正面からくらってしまった。
「ぐはぁ!・・・いや、おかしい!ワシはネズミでも敵でもないんだぞ!」
そんな言葉を機械が聞き入れるはずもなく、ロボは右腕からカッターを出して完全に戦闘モードだ。コルテックスは老体にムチを打ってどうにかカッターを避けると光線銃を構えた。
「チッ、仕方ない・・・」

ディンゴからブリオの研究室の場所を聞き出したフレイは、ついにその場所の前まで辿り着いていた。
「ここか・・・」
やけに神妙な顔をしてそうつぶやくと、後ろから何やら騒がしい音が聞こえてきた。
「っしゃあああ!取ったぁぁぁあああ!!」
振り返ると、そこにはたった今ネズミを掴んだコモド・ジョーがいた。後ろから後を追うようにしてコアラコングもやってきている。すると、コングがフレイに気がついたようだ。
「おぅ、フレイじゃねぇか。今時間はどれくらいだ?」
「あ〜・・・10分くらいかな」
フレイは適当な事を言ってやり過ごすことにした。制限時間と言ってもそれはあくまで目安なのだからそれほど問題はないはずだ。
「そうか・・・10分で1匹。もっとペースを上げないとな」
「ススそうとわかりゃこうシしちゃいられねぇ・・・行くぞ!」
「おう!」
2人はそう言ってフレイから離れていった。フレイはしばらくそんな2人を冷ややかな目で見送ってから再びブリオの研究室の扉を見つめた。
「さて・・・と」
フレイは気を取り直してその扉を開いた。すると、部屋の中にいたブリオがひぃっ、と言って肩をびくつかせながらこちらを見つめてきた。
「な、何ですか!入るんならノックぐらいしてくださいよ!」
「わりぃわりぃ。ところでアンタ、ディンゴから少女を預かったんだって?」
「えぇ・・・というか、私に丸投げされた感がするんですが・・・」
「今そいつはどうなってるんだ?」
「とりあえず奥の部屋で寝かせていますよ。状態は一通り回復したので後は彼女をどうするかですね・・・」
すると、フレイは少し考え込むような素振りを見せてからこう言った。
「・・・よし、俺に任せろ!」
「おぉ・・・!」
「とりあえず入るぜ」
フレイはそう言って奥にある扉を開けて中に入った。その部屋の中央には実験台のような平らなベッドに横たわるアテナがいた。フレイは扉を閉めて深呼吸に近いため息をついた。
しばらくアテナを見つめる。
「・・・こっからだな」
フレイは静かにそう言ってアテナに近づく。しかしその時・・・
「・・・う〜ん・・・」
何とアテナの意識が戻り、ゆっくりと目を開けたのだ。
「!!」

「これは・・・どういう事だよ」
その頃、ディンゴは目の前の状況を飲み込めず唖然としていた。自分の小屋が見るも無残に崩壊していたのだ。この小屋を離れてからそれほど時間が経っていないはずだが、この短い時間に一体何が起こったのか。
ディンゴには知る由もない。

コルテックスは光線銃を監視ロボに向けて撃ち放った。しかし、ロボの動きは意外に素早く、コルテックスは光線銃を連射するが大部分は避けられてしまい、当たったとしても致命的なダメージを与えることはできなかった。
さすがはエヌ・ジンが作ったロボだ。かなり頑丈な装甲になっている、などと感心している場合ではない。コルテックスは必死でそのロボの攻撃を避ける。
「ええい、まったく・・・どうなってるんだ!」
ロボがカッターで斬りかかってくるのをどうにか避けると、コルテックスはそのままロボの装甲に直接光線銃を当て、強力な光線弾を放った。これはさすがに効いたようで、ロボは勢いよく吹き飛ばされた。
だが、そのロボはすぐに立ち上がって再びコルテックスに襲いかかってきた。
「くっ・・・まだかッ!」
コルテックスは光線銃を闇雲に撃つが、ロボはその攻撃をいとも簡単に防いでしまう。それに対してコルテックスはロボの素早い攻撃に徐々に体力を削られていった。
コルテックスは疲労がかなり溜まってきたせいか、とうとうロボの相次ぐ攻撃に対応が遅れてしまった。
「くっ・・・!」
その時、突如監視ロボが壁に叩きつけられるように吹き飛んだ。
「・・・!?」
そこに現れたのはウォーラスだった。彼が背後から持っていたフライパンで思い切り監視ロボを殴り飛ばしたのだ。さらに畳み掛けるようにウォーラスはフライパンを往復ビンタの要領で振り回して監視ロボを圧倒した。
そしてとどめは包丁で監視ロボの頭を貫き、そのまま壁に固定してしまった。
「フン、こんなもんか・・・」
「ウォーラス・・・!」

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