パニックコメディ Funny Agony


回転撃さん作

〜Ending〜



ところで、新兵器の材料を飲み込んでしまったネズミは今どうなっているのだろうか。実をいうと、現在ウォーラスに追いかけられている真っ最中であった。ネズミは懸命に廊下を駆け抜ける。
負けじとウォーラスも大きな足音を響かせながらネズミに迫っていく。しかし、ネズミには勝算があった。この先には巣へと繋がる穴があるのだ。そこに入ってしまえばさすがのウォーラスでも追ってはこれまい。
ネズミはそこへ向けて全速力で走っていく。すると、前方から非常に騒がしい音が聞こえてきた。そこからはリラ・ルーが必死の形相で走ってきていたのだ。その後に続くタイニーとコモド・モーもまた迫力のある表情だ。
その様子を見たネズミは本能的に自分の命の危機を感じ取ったのか、一瞬だけ走っていた足を止めた。一方、その時タイニー達から逃げようと走っていたリラ・ルーの視界にそのネズミが入っていた。
(あ、ネズミ・・・!2匹目ゲットのチャンスやッ!)
リラ・ルーはタイニー達から逃げながらもネズミを捕まえようと体勢を低くしてネズミに掴みかかる。すると、タイニーやモーもそのネズミの存在に気がついた。
「あっ・・・!」
しかしネズミはリラ・ルーの手を容易く避けて前進する。すると今度はタイニーとモーがネズミに襲いかかってきた。後ろからはウォーラスも迫ってくる。そこで、敢えてネズミは近づいてくるタイニーの手に向かって飛び込んで見事に彼の腕に着地した。
「何ッ!?」
ネズミはタイニーの腕をつたって肩まで登り、そこから廊下の地面へ大きくダイブする。リラ・ルーはそんなネズミを捕まえようと手を伸ばす。さすがにあのネズミでも空中では自由がきかないはずだ。
しかし、リラ・ルーは右手を伸ばしている間に左手に大きな違和感を覚えた。コモド・モーが隙を見て彼の左手からネズミを奪い取ったのだ。リラ・ルーはすぐに振り向きその事に気付く。
(・・・し、しもたァーーーーーッ!!)
その間にもネズミは地面に着地し、凄まじい勢いで走っていく。ウォーラスはタイニーやモーを押しのけてそれを追っていく。これによってタイニーの怒りのボルテージはますます高まってしまった。
「・・・!ウォーラス!!そのネズミ、タイニーが捕まえるーッ!!」
そう叫びながらウォーラスを凄まじい勢いで追う。勿論モーやリラ・ルーもネズミを捕えようとその後に続く。ネズミにとっては追われる者が増えてしまったが、それでも何とか逃げ切れるとふんでいた。
もう少し走れば、その先には誰も手の届くはずのない巣穴が待っているのだ。ネズミは懸命に廊下を駆け抜ける。

コルテックスはエヌ・ジンの言葉に驚きを隠す事ができず、しばらく口を大きく開いたまま言葉を発する事ができずにいた。監視ロボが何者かによって意図的に改造された。
それはすなわちこの城内に部外者の侵入を許してしまったという大失態を意味していた。やっとの思いでコルテックスは口から声を吐きだす。
「一体・・・一体何者なのだ!?お前のメカを改造するなど・・・」
エヌ・ジンもかなり動揺しているらしくコルテックスの言葉にもしばらく黙ったままだった。そして、エヌ・ジンもようやく口を開く。
「1人・・・ただ1人だけ、思い当たる者がおります・・・しかし、だとしたらかなりまずいことになっているかもしれませぬ」
正直に言うと、コルテックスにも心当たりはあったのだが、エヌ・ジンの言葉を聞いてその不安はより一層高まってきた。冷や汗が次々と出てきた。もしこの城で万が一の事態でも起ころうものならウカウカが黙っているはずがない。
是が非でもウカウカに知れる前にこの事態を処理しなければならない。エヌ・ジンも同じ事を考えていたらしかった。
「コルテックス殿、早急に侵入者を探しだしましょう」
「ああ」

その頃、コモド・ジョーとコアラコングはちょうどコルテックスから受け取った袋の中のネズミの数を数え終わったところだった。
「ふぅ、やっと終わったぜェ・・・」
「全部で43匹か・・・よくこんなに捕まえたもんだぜ。つーかよくこんなに入ったな・・・」
コングはさりげなくネズミの数を確認したが、実はこの数は正確なものではなかった。コングはネズミを数えている最中に、1匹のネズミをこっそりズボンのポケットに隠したのである。
これでネズミの数を3人で振り分けても、その後でこのネズミを混ぜれば自分だけ1匹多くネズミを捕まえた事になるという目論みだ。
「俺達が捕まえたのと合わススせて44匹・・・あとはモーシシ次第だな」
「ああ、そろそろ時間だしモーと合流するか」
こうしてジョー達は立ち上がり、初めに作戦会議をした場所へ向かうことにした。

一方、ブリオの研究所を調べていたクラッシュ達だったが、どうやらこの部屋にもアテナはいないようだった。
「一通り調べてみたが、やっぱりここにはアテナはいないようじゃな・・・」
「じゃあ早くここを出ましょ。ブリオが起きたら厄介だわ。お兄ちゃんのチョップで記憶が飛んでたらいいけど・・・」
「念押しで俺もやっとくか?」
クランチは真顔で言ったが、さすがにそれは可哀そうすぎる。クラッシュ達はすぐにここを出ていくことにした。すると、クラッシュが部屋を出ようと歩き出した時、誤ってブリオを踏みつけてしまった。
「おわっ・・・!?」
その勢いでクラッシュは大きく体勢を崩してしまった。そんなクラッシュの前方には、ブリオが作ったであろう怪しげな液体の入ったフラスコが所狭しとつまった棚があった。

ウォーラス達に追われるネズミの眼前にはいよいよ自らの巣へと繋がる小穴が見えてきていた。あそこへ飛び込んでしまえばもうこちらのものだ。ウォーラス達との距離も追いつかれる心配はまずないものだった。
ネズミはラストスパートをかけて一気に穴に向かって進んでいく。もう穴まではあと2,3歩というところだ。しかし、ここにきて突如ネズミはおろかウォーラス達にとっても予期せぬ事態が起こった。
ネズミが目指す暗闇の先から、正確にはその穴があいている壁の向こうから何故か爆発が起こったのだ。激しい爆音が聞こえてきたので、ウォーラス達にもそのことが分かった。
「!!何だ・・・!?」
「向こうの部屋で爆発が起こったみたいなんだな!」
ウォーラス達はあまりの爆音に思わず足を止めてしまっていたが、ようやく自分達の目の前でネズミが気絶している事に気付く。
「・・・あっ!!」
4人は我先にネズミを取ろうと一斉に手を伸ばして走り出す。

クラッシュの様子を見たココ達は予期せぬ事態に唖然としていた。クラッシュが転んだ先にあった大量のフラスコの中にはブリオが作った爆薬が入っていたのだ。そこへ突っ込んでしまったクラッシュは大爆発を起こしてしまったのである。
「クラッシュ!!」
「お兄ちゃん、大丈夫・・・!?」
ココ達はごちゃごちゃになってしまった棚の残骸に近寄り、クラッシュの様子を窺う。すると、その中からクラッシュがせき込みながら顔を出した。
「クラッシュ、何ともないのか?」
「うん・・・アクアクが守ってくれたみたい」
そう言うクラッシュの手の中からはアクアクの羽が何枚かひらひらと舞い落ちてきた。それを見るとクラッシュ達は少し悲しそうな表情をした。
「アクアクがいなくなっちゃったわね・・・もうここからはヘマしちゃだめよ?」
ココがそう言うと、クラッシュは深くうなずいた。すると、壁の向こう側から誰かの声が聞こえてきた。さっきの爆発で気付かれてしまったようだ。
「まずいッ!早く逃げねぇと・・・!!」

爆発音を聞いたのはウォーラス達だけではなかった。コルテックス城に入り廊下を歩いていたディンゴは、ちょうどブリオの研究所の真下付近にいたのである。
「何だ?この音、ブリオの所からか・・・」
彼の研究所からした爆発音ならそれほど不自然なことでもないが、ディンゴの脳裏にはあることが引っかかっていた。自分が彼の所へ運んでいった少女の事だ。心配とまではいかないが、もし今の爆発が彼女に関わっていたとしたら厄介な事になりそうな気がしたのだ。
そんなわけで、ディンゴは小屋の事は一旦置いておいてブリオの研究所の様子を見に行くことにした。

その頃、ウォーラス達4人の手はほぼ同時にネズミの所で重なっていた。問題は誰がネズミを掴んでいるかだが、これでは一見しただけでは状況が分かりづらい。そんな中でもタイニーは確かなネズミの感触を感じ取っていた。
よく見れば、タイニーの手は4人の中で一番下にある。どうやらわずかにタイニーが速くネズミに届いたようだ。それが分かるとタイニーはにやりと笑い、自分の手の上に乗っていた3人の手を豪快に振り払った。
「タイニーネズミ捕まえたーーー!」
「フン、まぁいい。そいつはお前にくれてやる」
ウォーラスは潔く負けを認めたが、モーとリラ・ルーはまだあきらめてはいないようだった。リラ・ルーが念押しでタイニーに話しかける。
「タイニーはん、そのネズミ、ワテが代わりにコルテックスはんのとこへ持ってってもええでっせ?」
「やだ!これはタイニーが捕まえたネズミ!!」
タイニーの意志は固いようだ。しかし、リラ・ルーはそれでもあきらめずに無理に話を進める。
「ええねんええねん!ワテに任しときッ!」
そう言ってタイニーのネズミを無理やり掴もうとした。当然、タイニーはそれに抵抗し、結局はまたしてもネズミの取り合いになってしまった。モーは敢えてその争いには参加せず、虎視耽々とネズミを奪う機会を見計らった。
しかし、リラ・ルー1人ではタイニーの力には及ばず、リラ・ルーは再び廊下の壁に勢いよく叩きつけられてしまった。
「ぐふぉっ・・・!」
そのままタイニーはコルテックスの研究所へ向かって走っていってしまった。これを見て、モーもさすがにあきらめた。どちらにせよタイニーのネズミがリラ・ルーに盗られるという事はもうあるまい。
ここはジョー達を信じて、確実にこのネズミを彼らのもとへ届けるべきだと考えたのだ。恐らくもうそろそろ制限時間が近づいているはずだ。モーはジョー達と合流しようと、初めに作戦会議をした場所へ戻ることにした。

目の前から物凄い勢いでタイニーがこちらに向かって走ってきていた。その表情には不思議なほど必死さがあり、成程、彼は今もより多くのネズミを捕まえようと奮闘しているのか、などと考えた。
ディンゴはそんなタイニーが全速力で通りすぎていくのを思わず振り返って眺めていた。
「アイツ、かなり必死だな・・・」
そう声を漏らしてから再び前を向くと、その奥でリラ・ルーが壁によりかかるようにして倒れているのが見えた。
「・・・!!?おい!」
ディンゴは何事かと思いリラ・ルーのもとまで小走りで駆け寄る。
「リラ・ルー、お前こんなとこで何やってんだよ?何があった?」
そう言うと、リラ・ルーはディンゴに気付いたようで唸り声を上げながらディンゴを見た。
「ディンゴはん・・・実は、タイニーはんにネズミを奪われたんや・・・だから、頼んます。タイニーはんからネズミを取り返してくれまへんか・・・?」
リラ・ルーはやけにシリアスな表情をして言うが、それを聞いたディンゴはハッキリ言って拍子抜けした。
「・・・あっそ」
「・・・・・・え?今何て・・・え?やってくれまへんか?」
「誰がそんなことすっかボケ!だいたい誰かが捕まえたネズミを取ったって意味ねぇだろうが!」
「いやぁ、こっちにも色々と事情があるんですわ」
「知るかんなもん。もうオレっちは行くぞ」
ディンゴはそう吐き捨ててブリオの研究所に入っていってしまった。リラ・ルーもさすがにあきらめてゆっくりと立ち上がる。
「ハァ、結構シリアスに頼んだんやけどなぁ〜。けどこれはホンマにまずいで・・・」
残り時間もあと数分というところでまだ1匹もネズミを持っていないというこの状況はリラ・ルーにとってはかなり深刻だった。今から正攻法でネズミを集めていたらどう考えても間に合わない。
リラ・ルーは考えた。何か、何か策は残っていないか・・・・・・残っている、という言葉でリラ・ルーははたと思いだした。
(・・・せや!あそこに行けばッ・・・!!)
リラ・ルーはその場所を目指して勢いよく走りだした。

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